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登山を趣味とし、山を愛する石丸謙二郎さんが「山」をテーマに、さまざまな企画をお届けする<石丸謙二郎の山カフェ>。今回は、この夏、ヒマラヤの7,000メートル級の山で、世界で誰も登ったことのない大岩壁の初登はんに成功した、アルパインクライマーの平出和也さんと中島健郎さんがご来店。日本を代表するトップクライマーのお二人に、どんな挑戦だったのかうかがいました。
【出演者】
石丸:石丸謙二郎さん(俳優・ナレーター)
山本:山本志保アナウンサー
平出:平出和也さん(アルパインクライマー 山岳カメラマン)
中島:中島健郎さん(アルパインクライマー 山岳カメラマン)
未知なる世界にあふれている「ティリチミール」
山本:
まず、「アルパインクライミング」という言葉をご紹介しましょう。「アルパインクライミング」というのは、“少人数で岩壁や雪壁などを登り、頂上を目指していく”登山スタイルのことです。お二人は「山の頂上にかぎらず、誰も登ったことのない壁に挑む」というスタイルです。
石丸:
僕は、未踏ルートはもうないような気がしていたんですよ。それを見つけて、温めていたんですって?
平出:
自分たちが登っている山は、突然行きたくなって行くわけではなくて、多くの山を登りながら、多くの旅をしながら見てきた山なんですね。僕は20代前半のころに、「ティリチミール」に出会って、あのころはインターネットもなかったので、帰ってきて地図を見たり、文献を読んで、“未踏”で残されているのを知りました。まだまだ未熟だったので、頭の片隅にはあったけれど「いつか登りたい」ということで、ずっと温めてきました。
山本:
それは何年前ですか?
平出:
22年前ぐらいですかね。
石丸:
その山の名前が、「ティリチミール」。僕は初めて知りました。
山本:
「ティリチミール」は、パキスタンとアフガニスタンの国境に近い山なんですよね。
中島:
アフガニスタンからパキスタンにまたがる、ヒンドゥークシュ山脈というところがあるのですが、そこの最高峰。
山本:
標高7,708メートル。
最初にノルウェー隊が登ったのが、1950年と聞きました。登頂したのはノルウェー隊なのですが、北壁は未踏のままだったということですよね。
平出:
地形的な問題なのか、気が付いていた人はいるのかもしれないけれど、難しい壁として残されていた。それに気が付くことができて、今回挑戦することになりました。
山本:
遠征の概要としては、どのように設計したのですか?
中島:
前回、「山カフェ」に出演させていただいた直後の6月19日にパキスタンに入って、そこから(高所)順応しながら、4,600メートルにベースキャンプを設営しました。4,600メートルは、ふだん僕らが設置しているベースキャンプに比べるとちょっと高いところだったのですが、最初考えていた、低いところからのアプローチが、アイスフォールで難しいので、第2プランのちょっと高いところにベースキャンプを設置しました。そこから高所順応とか偵察で、北壁の取りつきまでのルート工作をしながら、アタックまでそれにかけたという感じです。
石丸:
何日くらいかけましたか?
中島:
なんだかんだで2週間くらい。仮設キャンプに入ってからアタックまではかかりました。
石丸:
こういうのは2~3週間ぐらいかかるもの? 人による?
中島:
人によりますね。
平出:
ケンローは、今回、調子良かったよね。
中島:
僕は、最初のベースキャンプへ入るまでが大変だったんです。4,000メートルあたりで泊まったときに、吐いたりとか、すごく苦しい一晩を過ごして、丸一日動けなかったんですけれど、それを越えたらなんとか持ちました。
石丸:
僕は、2人をスーパーマンだと思っているわけですが、風邪もひいたんですって?
中島:
アタックの直前にひいてしまって……。
石丸:
その話を聞くと「普通の人じゃん」って(笑)。
中島:
残念ながらそうなんですよね。普通の人です。平出さんは、高所に強いですけれどね。
石丸:
平出さんがおっしゃっていたけど、「ケンローは、登り出すとすごいんだよ」って。やっぱり何か違うんだろうな……。
「ティリチミール」の魅力は何だったのですか?
平出:
世界で誰も取りついたことがない、触れたことはない、見たことがない世界がまだそこにある。未知なる世界にあふれているところ、それが大きな魅力でしたね。
石丸:
なぜ、みんな気が付かなかったんでしょうね?
平出:
なぜでしょうね? そこまで調べなかったのか。
山本:
情報がほとんどないというのは、「北壁そのものが見づらかった」と聞いたのですが。
平出:
もちろん地図は存在しているんですよね。ただ北壁は、里から見ることもできないし、近づいていって、ベースキャンプに行っても、全容が見られないんですよ。ほぼ9割ぐらいは、手前の尾根で隠されているんですよね。
石丸:
日本(の山)に例えると?
平出:
(北アルプスの)雲の平のような、里から見えず、手前の一山を越えて行かないとたどり着けないし、見えない感じ。
山本:
山奥深くにある壁をどう攻めるかは、現地に着いてから、どうやって作戦を立てたのですか?
中島:
今は衛星画像があるので、おおまかな計画を何通りか考えていました。最初に考えていた最短ルートは通れないことがわかって、6,200メートルの峠を越えて、また何百メートル下りてからようやく取りつけることになりました。
石丸:
最後に2,000メートルの絶壁があるんですよね。それが北壁ですよね。それに取りつきに行くまでが、6,200メートルを越える……!
山本:
手前の山を越える、最初の試練のときに、2人に大変なピンチがあったということで、そのときの音声がありますので、お聴きください。
♪登はん中の現場の音声
石丸:
「ラク!!!!」と言ったのは、「落石があった」と言ったんですかね? そのあとに「ザザザザー」と音がしましたが、あれは石ですよね?
平出:
小さな石だったらまだ良かったのですが、大きな雪の塊と大きな石が、上から突然落ちてきたんですね。僕がケンローよりも50メートルくらい上にいたんですよ。なので、僕に先に襲いかかってくるんですけれど、僕の視界の端のほうで、ゆっくり何かが動いたんですよね。そしたら突然、落石・落氷がやってきて、私は幸い目の前に大きな石があったので、そこに隠れるようにしたのですが、50メートル下にいるケンローは、すべての物が集まるような溝にいて、僕よりもケンローのほうが心配で、「今回の遠征、これで終わったかな。もしかしたら大きなけがをケンローがして、今回の遠征終わりかな」と思うぐらいの大きな出来事でしたね。
石丸:
仮に当たると、どうなるのだろう?
山本:
どれぐらいの大きさのものが?
中島:
大きいものだとテレビ台くらいのものが。
平出:
でもケンローは当たっているんだよね。
中島:
小さいのはひざにちょこっと。あとで気が付きましたが、血がにじんでいたので。一瞬、「痛い」と思ってはいましたが。
平出:
今回は偶然大丈夫でしたけど、出発があと15分でも遅かったら直撃していましたね。
石丸:
それは何の差ですか?
平出:
何でしょうね……。
石丸:
気温差とか?
平出:
それもありますね。朝の時点で、気温がいつもより高かったんですよね。落石・落氷は、雪がとけるわけですから、そういう心配があるなというのもあったので。少し早めに出たというのは、不幸中の幸いだったのかなという気がしますね。
石丸:
たった15分。山は勘の世界もある、ということですよね。
平出:
もし15分遅れて直撃していたとしても、そこでできる最大限の対処を取ります。下りながら、自分たちも何かあったときに、すぐ逃げられる場所を一歩一歩確認しながら下りているので、運だけでは言えないところもあって、常にしっかり考えているから、結果的に、けがをせずに帰ってきたということでしょうね。
石丸:
「“無謀”という言葉を使わないでくれ」ということですよね。決して無謀ではない、そういうこともあるということが、今までの経験上もあって織り込み済みだ、と。
平出:
1分・1秒変わるごとにリスクは変化していくので、そのリスクをしっかり気が付いて、自分たちも「今起きたらどうしようか」というのを常に考えていますね。
石丸:
「ラク!!!!」は、登山する人たちも慣れていないと声を出しにくいんですよ。練習したほうがいいですよね。山の上で大きい声を出すのそれぐらいしかないから。
山本:
感激しました。万が一に備えて、一歩一歩、状況を見極めるのが一流の人なんだと。
平出:
体も疲れますが、頭も疲れるんですよ。
山本:
状況をそのつど見ていくんですね。
石丸:
山登りって長い時間かけるから、ゆっくりものを考えているみたいに見えるけれど、実はそんなことはない。僕も落石の経験あるけれど、とてつもなく速いですよね。
平出:
速いですが、今自分が置かれているところが、傾斜が違ったりだとか、角度が変わったり、面があるわけですから、はじかれて飛んでくるかもしれないし、落石の気持ちにもなって、「どう動くのかな」というのも考える。
山本:
緊張もあり、水の補給がなかなかできなかったときもあったそうで。
平出:
緊張感から、のどがカラカラで、水筒が空っぽになっちゃったんです。水が流れているのですが、ペットボトルを出して、キャップを開けて、水を注いでまた戻す、という作業の時間も危ない。「1秒でも早く下りよう」ということで、のどがカラカラな状態で下りました。
石丸:
「下りていく」というのは、一つの峠を越えて向かっていくので、山を下りているわけではないんですよね。
山本:
北壁にたどり着くため、もう一山越えると。
自然に同じところを見ているのは、パートナーだからこそ
山本:
尾根を越えて、やっと北壁の全容がわかるところにたどり着いたお二人なんですが、そこの場に立ったときはいかがでしたか?
中島:
「ようやく見られた」という感じですね。衛星画像などで見て、何となくイメージはしていたのですが、間近で見上げることができて、「ようやく、この壁に取りつけるのだな」と思って、一山越えた達成感がすでにありましたね。
石丸:
大きさはどれくらい?
中島:
取りつきまで行ってしまうと、大きくて全容はまだ見えないんですよね。峠が一番良く見渡せる場所なんですけれど、「自分たちならいけるんじゃないか」という気持ちにはなりましたね。
石丸:
よく手前まで来ると「怖い」とか、「何で来ちゃったんだろう」とか言う人もいるけれど。僕もそのタイプなんだけどね(笑)。
中島:
今回に関しては、そういう感じはなかったですね。むしろ下りてしまうと、このあとどうなるのか、一回下りると登れずに敗退したとき、また登り返さないといけないという心配があったので、何とか登り切りたいな、という気持ちは強くありました。
石丸:
今、ケンローさんが言っているのは、ティリチミールの頂上まで行った場合は、下山道は来たルートと違うところ。ノーマルルートというのはないけど、もっと優しいところから下りられる。
中島:
そうですね。比較的優しい方のルートから下りることができたので。
石丸:
「落石のあった道を通る必要もなくなる」ということですね。
山本:
事前に壁を見られるような環境だったら、「どういうルートで行こうか」と、作戦を練ることもできると思いますが、今回は根元に立ってから初めて見上げる。どうやって作戦を立てたのですか?
中島:
事前に衛星画像で、なんとなくの目星をつけてはいたので、特に話し合いはそんなにしていないですね。「行けるところは決まっている」というか、二人が目指す登はんルートは、ほぼ同じなんですよ。
石丸:
7年もパートナーだとわかる。
中島:
そんなむちゃくちゃなルートを選ばないというか、一番安全に登れそうなルートを選ぶ。
平出:
自然に同じところを見ているんですよね。自然に同じほうに歩みを進めていて、自然にそれが重なっているので、それがたぶん一緒に登り続けていられる理由なのかもしれないですね。
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【放送】
2023/09/02 「石丸謙二郎の山カフェ」
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