土門拳賞受賞 大竹英洋さん 夢に導かれノースウッズへ

21/12/25まで

石丸謙二郎の山カフェ

放送日:2021/12/18

#インタビュー#登山#ネイチャー#写真

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登山を趣味とし、山を愛する石丸謙二郎さんが「山」をテーマに、さまざまな企画をお届けする<石丸謙二郎の山カフェ>。今回は、北米大陸の「ノースウッズ」をテーマにした写真集で土門拳賞を受賞した大竹英洋さんをお迎え。旅するきっかけとなったワンダーフォーゲル部でのお話やノースウッズでの撮影秘話を伺っていきます。

【出演者】
石丸:石丸謙二郎(俳優・ナレーター)
山本:山本志保(NHKアナウンサー)
大竹:大竹英洋(写真家)

20年間撮りためた写真集

♪カランコロン

石丸: いらっしゃいませ! <山カフェ>へようこそ。お待ちしておりました。
大竹: おはようございます。きょうは楽しみにしていました。
山本: チェックのシャツでアウトドアが似合う、すてきな装いですね。
大竹: ウールのシャツですね。
山本: 知的な感じがしますね。
石丸: 僕この間、絵本屋さんに入ったときに、写真集の動物がこちらを見てるんですよ。手にとってパラパラとめくったとたんに、心臓をわしづかみされて涙がスッと出るぐらい驚きだったんですよ。それが写真絵本『もりはみている』。表紙を見たら「大竹英洋」と書いてあった。「この方にお会いしたい!」「どうしたらこんなものができるのか!」と思ったんですよ。
大竹: うれしいですね。
石丸: その大竹さんが目の前におられるのがまだ信じられないぐらい。
きょうは本当によく来てくださいました。
大竹: 呼んでくださってありがとうございます。
石丸: 大竹さんと言えば「ノースウッズ」。
「ノースウッズ」ということばを知っている人はあまり多くないと思う。
山本: 「ノースウッズ」に滞在されたときのお話を伺う前に、ここで大竹英洋さんのプロフィールをご紹介しましょう。
1975年、京都の生まれ、東京育ちでいらっしゃいます。一橋大学ワンダーフォーゲル部に所属されていました。大学卒業後1999年から北米大陸にある「ノースウッズ」をフィールドにして、野生の生き物、人々の生活、旅の模様を撮り続けています。去年2月に発売された写真集『ノースウッズ-生命を与える大地-』がことし3月第40回土門拳賞を受賞しました。
石丸: 土門拳賞。写真界の賞としては非常に名誉のある賞ですが、受賞はどこで知ったんですか?
大竹: 電話だったんですけど、僕は北海道にいて、ウポポイというアイヌの文化を伝える場所があって、外を歩いていたんですね。2月だったので湖も凍っていて、雪も積もっていて、ノースウッズみたいな景色だったんですが、外を歩いてたら着信履歴があって、折り返したら受賞の知らせでした。
石丸: 「ひょっとしたら来るかな?」という感じだったんですか?
大竹: いやそれはまったく分からなくて……。その一報で知ったという感じですね。
石丸: 自分が撮った写真に似たところにいたというのが、偶然だけれども、ある意味いい感じの受賞の瞬間でしたね。
大竹: 北の大地を旅しているときは何かいいことがあるような気がしていて、風も冷たかったんですけど風が吹き抜けていくような感じがして……すがすがしいと同時に身が引き締まる感じもありましたね。
山本: うれしかったですか?
大竹: これまでの地道な努力が、社会的に意義のあるものだということを認めてもらえた感じがして、すごくうれしかったですね。
山本: 「ノースウッズ」という場所なんですが、改めてご紹介しますとアメリカとカナダの国境付近から北極圏にかけて広がる湖水地方です。大竹さんはこのノースウッズを訪ね歩いて豊かな生態系と人との関わりなどを20年かけて記録してきました。人と自然の物語が紡がれてきた、大地の厳しさや美しさが収められている作品。その点が土門拳賞の評価のポイントとなっています。
山本: その写真集を持っているんですけど、片手で持つとずっしりと重い。大きさが25センチで厚さは2センチぐらいあります。1ページずつ開くたびに、どれぐらいの年月が収められているんだろう……という重みがありますね。
大竹: 20年の集大成ですね。
山本: 何枚くらい撮ったんですか?
大竹: 最初の10年間はフィルムでしたが、途中でデジタルに変えてからは年間何万枚となるので、枚数自体はかなりの量だと思います。ただ作品として発表できる写真はなかなか撮れるものではないので、20年かかってやっと最初の写真集ができました。
石丸: ノースウッズの上空から撮った写真、これは飛行機の上からですね。これを見ても広さが果てしない。

大竹: 日本が8つ入るぐらいの大きさで、300万平方キロメートルの広さの原生林が広がっています。
石丸: その中にカヌーを浮かべて、動物、植物、瞬間的な気象現象など、あらゆるものを撮り続けてきた。ノースウッズってそもそもご存じでした?
大竹: まったく。行くまでは全然知らない場所で、日本人もほとんど聞いたことがないと思います。情報の空白地帯みたいな所で。
石丸: 寒い・暑いで言うと、もちろん寒いでしょうけど、どれぐらい?
大竹: マイナス30℃くらいになるのが普通で、北海道よりもはるかに北のほうで、しかも大陸の真ん中なのでかなり寒くなりますね。
石丸: ノースウッズの紀行文や冒険ものの本とかありましたか?
大竹: 海外にはあるんですけど、なかなか日本に紹介されてなくて……。だから人が憧れようもない場所なんですよね。

部活、夢、そして旅に出る

山本: 私もマスターもあまり知らないし、日本人もあまり詳しい人はいないんじゃないか、ということですが、そもそもなぜノースウッズに24歳のときに行こうと思われたんですか?
大竹: 僕は大学時代ワンダーフォーゲル部に入って自然が好きになりました。この自然をどう伝えようかと思ったときに、それまで写真部にいたこともないんですけど、カメラを手にして卒業後は写真家として自然が豊かな所を旅したいな、と思っていたんですね。ただ、世界にはいろんな自然の豊かな所があるので、調べても「ここだ」という場所がなかなか決まらなくて……そうこうしてるうちにある日、自分の部屋で夢を見たんです。

夢の中で起きると、小屋の中にいたんです。山小屋かなと思ったんですけど、窓が開いていてそこから光が入って来たので外を見ると、針葉樹の森でした。雪が降っていて、大きな犬のような生き物がスッと入ってきて、こちら見たんですね。見つめ合った瞬間に、「オオカミだ」って思ったんですよ。そのオオカミはすぐに森の奥に消えてしまったんですけど、見つめ合った顔が起きてからもしっかり残っていて、「そういえば、オオカミについて調べたことないな……」と思って、図書館に行ってそこでオオカミの写真集と出会うんですね。それが撮られたのがミネソタ州の北のほうで、「そこに行ってみたい」、そして「その写真を撮った人に弟子入りしたい」と思ったのが最初です。その先にノースウッズが広がっていることは知らずに行きました。

大竹さんが撮影した雪原のオオカミ

石丸: 写真を撮った方の名前は?
大竹: ジム・ブランデンバーグという人で、アメリカのナショナルジオグラフィックで活躍されている写真家ですね。
石丸: その人に会いにわざわざ日本から……。いきなり行ったんですか?
大竹: 一応手紙は書いたんですよ。「オオカミの夢を見て、あなたの写真集と出会って、あなたのような写真家になりたい。アシスタントとして雇ってもらえないか?」と、弟子入りさせてくださいという手紙を書いたんですけど、返事が来ることなく大学を卒業しちゃったんですね。卒業して時間はたっぷりあるから、「この返事を聞きに行こう」と思いました。どこに住んでいるか分からないんですけど(笑)。その写真集がミネソタ州の北のほうで撮られていて、ほかの著作を見るとエリーという町が近くにあるということがわかっていたので、そこまで行けば何か分かるんじゃないかと思って。
石丸: すごくぼんやりした情報! 砂漠の砂を拾うような……。
大竹: 手がかりがないんですよ(笑)。でも情報がないから逆に「どんな所なんだろう」と。写真集の写真は、すばらしい自然が広がっているし、しかもオオカミが住んでいるってことは分かるんですけど、一体どんな所でどうやっていけばいいのか分からない。でもそこにたどり着けば写真のような世界が広がっていると思って、情報がないからこそ、逆に憧れをかき立てられた所がありますね。
山本: すごいガッツですね。
石丸: ことばはペラペラとしゃべれたんですか?
大竹: 英語もそんなには。その前に何回か海外旅行でネパールに行ったり、パタゴニアに行ったりしたことがあって、ちょっとは使ったことがあったんですけど、そんなにはしゃべれなかったですね。
石丸: 最終的にお会いできて「弟子にしてください」って申し込んだわけですね。
大竹: そこで打ち明けて、「アシスタントとして雇ってもらいたい」ということを、実は涙ながらに訴えたんですけど、残念ながらアシスタントは自分の近くに置いてなくて、本人も誰かのアシスタントになったことはないと。でも、「いい仕事・いい写真が撮れるようになるには時間がかかるから、写真家になりたいんだったら、もうすぐに撮り始めなさい。そこに泊まって撮影を始めればいいよ。たまに写真の話しよう」と言ってくれたんですよね。
石丸: いい人だな~!
大竹: ふだん忙しい人だと思うんですけど、たまたま森で時間を過ごされてるタイミングだったみたいで、近くで撮影してもいいということになりました。
山本: ご家族の反応は?
大竹: 反対されたことはないですね。父親はあまり心配するタイプではないので、僕がアメリカ行くときも「グッドラック」しか言わない感じですね。母親は非常に心配性なので、たぶん止めたかったとは思います。「後ろで泣いていた」というのは最近分かったことですけど、自分の前にワクワクする道があったので、振り返りもせず成田空港から飛び立ちましたね。
山本: この初めての旅の模様は、著書『そして、ぼくは旅に出た』にて、克明に書かれていらっしゃいます。この本は2018年、第7回 梅棹忠夫(うめさお ただお)・山と探検文学賞を受賞しています。
そういう暮らしをするにあたっては、アウトドアの技術や体力がいると思うんですけど、大学時代はワンダーフォーゲル部だったんですよね?
大竹: 大学生になってワンダーフォーゲル部に入りました。それまでキャンプに行く家庭でもなかったので、山登りもしたことなかったですし、アウトドアには触れてこなかったんですよね。小さいときには自然の中で秘密基地を作ったりするのは楽しかったですが、そのあとはあまり触れてなかったんです。
なので大学に入って「新しい世界を見てみたいな」という気持ちがありました。ワンダーフォーゲルをまったく知らなくて、「何の部活なんだろう?」と思って、部活紹介の所に行ったら、日に焼けた先輩が、山の写真や合宿の写真のアルバムを見せてくれて、「ワンダーフォーゲルというのはドイツ語で“渡り鳥”って意味なんだよ」と教えてくれて……渡り鳥っていいじゃないですか?(笑)。どこかに連れてってくれそうな感じがして、それで入部を決めました。
石丸: いいですね(笑)。
山本: 大学時代はどんな経験があったんですか?
大竹: 僕らは沢登りをやっていました。山を縦走するパーティーもありましたが、多くは沢登りをやっていて、冬は山スキーをやる場合もありました。それが東京で育って自然と触れてこなかった僕の目を自然に開かせてくれました。
石丸: 山本さん、僕らはだいたい尾根をたどって頂上に行くでしょ? 沢登りは“沢”つまり“川”をたどって行けば、いずれどこかで頂上に行けるんですよ。そういう水をたどって行くのが沢登りですね。
大竹: 渓流で滝を登ったり、滝つぼの横を通ったりして……それが自然の階段みたいになっていて。
石丸: 結構危ないんですよ。
大竹: 岩登りの技術はちょっと必要になりますね。
山本: そのときの経験がノースウッズでの暮らしに役立ちましたか?
大竹: そうなんですよ。でも最終的に僕がたどりついた場所(ノースウッズ)に山頂はなかったですね。山のない所なんです。ただ沢登りをしていたときも、途中でイワナを釣って、たき火であぶって食べて、星空の下で眠る……といった暮らしをしていました。沢登りは自分たちメンバーだけで登る静かな活動なので、どっぷりと自然と向き合うのが好きになりました。たどりついたノースウッズに山がなくても、星空はきれいですしオーロラも出ます。だから僕の好みは大学時代にかなりできあがっていたのかなと思います。

先住民たちの知恵で撮影したヘラジカ

石丸: ノースウッズの写真集も開いてみよう!
山本: たくさんの写真の中には、躍動感あふれる大きな動物が疾走している写真もありますね。

大竹: それは世界最大のシカです。
石丸: これ、ヘラジカだ!
ヘラジカはツノがヘラのように、ものすごく大きいでしょ? ツノも1メートルくらいあるんじゃないですか?
大竹: 端から端まで1メートル80センチくらいあります。
山本: 大人と同じぐらいの大きさですね。
石丸: とがった所があって、あんなのに襲われたらたまんないね。それが走っている?
大竹: 目の前をゆっくり横に向かって「のしのし」と移動している所を、流し撮りで撮った瞬間ですね。
山本: いかがでしたか? めったに会えないんですか?
大竹: 森の中は見通しが利かないし、警戒心が強くポツンポツンとしか暮らしていないのでなかなか会えず、どうやったらツノが立派なヘラジカのオスを撮影できるかなと思っていたんです。そうしたら地元の人に「ヘラジカのオスは恋の季節である9月の終わりにメスの鳴きマネで呼び寄せるんだよ」と教えてもらいました。それを聞いて、一緒に連れていってもらったり、学者の人に生態を教えてもらったりして撮影したものです。なので、このヘラジカは実際に僕が呼んだものです。
石丸: どうやって呼ぶんですか?
大竹: 実はきょうヘラジカを呼ぶ道具を持ってきています。
山本: 実演していただけるんですか? お願いします。
石丸: 紙を斜めに丸めて漏斗状、ラッパ状にしてあるんですね。
大竹: これはシラカバの木の皮を丸めて作ったメガホンですね。だいたい40センチぐらいの長さがあって、これでメスの鳴きまねを森で響かせます。

♪ブオ~ン……ブォ~ン……ブォ~ン……

山本: おお! これが恋の音なんですね!
大竹: これがメスの声でオスがじ~っと、森の奥で聞いているんですよね。
石丸: 大竹さんは実際にメスの声を聞いたことあります?
大竹: あります。いろんな声があって、もっと大きかったり、震わせたりとかいろんな声がありますけど、いろんな人から教わり、今くらいの音を3回響かせて15分待つ。耳を澄ませて聞いていると、オスは興奮してのどを鳴らすんですね。その声が聞こえたら「届いた」と。こっちに向かってくると思って準備をします。
山本: そういう知識って地元の人が教えてくれるんですか?
大竹: そうですね。研究者や、狩猟がうまい人が見通しの悪い森の中でヘラジカは音を使ってコミュニケーション取っているということを教えてくれて……。昔からの狩猟の技術なんですよね。
山本: そこまで教えてくれるほど現地の方と距離が近くなっているのはすごいですね。
大竹: 日本という遠い所からやってきて、「実は野生のオオカミを探しているんだ」と言っていろいろ話をしたり、「ほかに動物いないか?」と聞いたりしていると、みんなが自分のフィールドに連れてってくれますね。
山本: みなさんが心開いてくれたんですね。
大竹: 僕が熱意を持って「自然のことが知りたい」と言っていると、みんなが先生みたいになってくれて、すごくいろんな知識を授けてくれましたね。
山本: 写真の腕はめきめきと上達を?
大竹: どうなんですかね……(笑)。最初の10年間は右も左も分からなくて、やみくもに森の中に出かけて行っては待ちぼうけで撮れないことがあったんですけど、動物のことが分かってくるようになると、だんだん出会う確率も高くなってきて、シャッターを切る回数も増えたので、ちょっとずつうまくなっているといいな……と思います。

広大な森と湖をフィールドにたくさんの写真を撮り続けた大竹さん。まだ夢に見たオオカミの情景には出会っていないそうですが、これからもそのオオカミを想いながら、ノースウッズを撮り続けるそうですよ。

番組では、写真や番組へのメッセージ投稿お待ちしております。また、最新の放送回は「らじる★らじる」の聴き逃しサービスでお楽しみいただけます。ぜひ、ご利用ください。


【放送】
2021/12/18 <石丸謙二郎の山カフェ> 大竹英洋さん(写真家)

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