皆既日食観察報告。太陽がいかに元気か、肉眼でもよーくわかった

ラジオ深夜便

放送日:2024/04/29

#天文・宇宙#サイエンス

4月初旬、北米大陸で皆既日食が観測されました。「ラジオ深夜便」の「ようこそ宇宙へ」でおなじみの縣秀彦さんも、その瞬間を“奇跡的に”観測できたそうです。日食のしくみや不思議、そして現地で起こったミラクルを、縣さんにうかがいます。(聞き手・坂田正已ディレクター)

【出演者】
縣:縣秀彦さん(国立天文台天文情報センター)

太陽がいかに元気か巨大コロナで思い知る

――今回のテーマは「皆既日食、その魅力に迫る」です。4月初旬に北米大陸で久しぶりの皆既日食がありましたが、縣さん、アメリカ・ダラスで観測されてきたのですよね。

縣:
はい。メキシコから、アメリカを南西から北東に縦断するようにテキサス州からメイン州までの一帯で、「晴れれば」ですけれども、部分日食を含めるとアメリカ合衆国の99%の人が楽しむことができるという、現地ではそういう意味で大変盛り上がっていました。

――晴れればということですけれど、お天気はどうだったんですか。

縣:
大変でしたねぇ。

――大変だったのですか?

縣:
はい。テキサス州のダラス郊外で観測したのですが、テキサス州はアメリカ合衆国の南のほうですよね。その中心となるダラスという町から東のほうに100kmほど行ったところ、グリーンビルという町のキャンプ場でした。日本から一緒に行った18名の皆さんと、朝、ダラスのホテルを出るときは日本の6月の梅雨の日のような曇天でした。1時間ぐらいかけてバスで移動する最中に霧雨や小雨も降ってきて、もう、テンションが下がる一方で(笑)。

雲のはるか向こうで太陽が次第に欠けていくのですけれども、天気だけじゃなくて皆さんの気持ちもどんよりとしてしまって。沖縄や長野、富山、兵庫など全国各地から、それまで日食を見に行ったことがあるけれど残念ながら天気が悪くて2回とも見られなかったという方、今回初めて見るという方……皆さん期待して行ったのですが、これはもう無理だな、と思っていたそのやさき、皆既中というのは太陽と月が完全に重なる状態になって空が暗くなるわけですが、その直前に、雲間から太陽が出ましてね。

――ほう!

縣:
もう本当に、皆既食の直前に晴れ間がやって来たのです。太陽の前にたまたま晴れ間があるという、奇跡のようなミラクルな体験をさせていただきました。

――縣さんは、皆既日食を見たいという日本の方を引率して行かれたわけですよね。

縣:
そうなのです。コーディネーターとしてですので本当にひやひやものでしたが、皆さん、ご覧になることができて、涙を流されたり、行きと帰りとでは顔色が全く違っていましたね。私たちは皆既を4分16秒見るために、条件の最もいい場所を目指して行ったのです。もともとテキサス州は天気が心配されていまして、案の定、多くのところで、残念ながら雲に阻まれてしまったということが他のツアーではあったようですから、私たちは本当に運がよかったんだなと思いますね。

――縣さんたちが皆既日食を見ることができたその場所は、たくさんの人が集まっていたのですか。

縣:
いえ、我々だけでした。アメリカでは2~3日前から各テレビ局が皆既日食のことで持ちきりで、それと同時に、どこが晴れるのだろうということをやるわけですよね。今回はメキシコのほうは少し薄雲が出ましたので、みんなテレビで天気予報を見て、ネットの情報も見て、アメリカで晴れるところを目指して移動したわけです。我々は、天気ばかりはしょうがないよねということで、予定した場所で焦らずじっと我慢をしていたら、幸運にも見ることができました。太陽と月と地球と自分自身が、この広い宇宙の中で一直線に並ぶわけですよ。今回は月と自分の間に分厚い雲がほぼ入っていたわけですけれども、本当に奇跡のように、その瞬間は雲がどいてくれたという幸運に恵まれました。

皆既日食 2024年4月8日ダラスにて

――縣さんが現地でお撮りになった写真を見せていただいているんですけれども、全天がブラックで、その真ん中に月に隠された太陽があります。その外辺、外の縁がところどころピンク色っぽいのは、これがプロミネンスになるわけですか。

縣:
そうですね。こちらの写真のほうが見た感じに近いと思いますよ。

皆既日食 2024年4月8日ダラスにて

――おぉ! 確かに周りは雲だらけですけれど、はっきりと見えています、すばらしいです。

縣:
急激に暗くなりますと、コロナといいまして太陽の周りの大気が真珠色に、少し青っぽく白く、月の黒い部分から放射線状に四方八方に伸びて見えるのですが、このコロナが極めて大きくて明るかったのが、今回の1つの特徴なんです。

――かなり明るくて大きいですね。

縣:
そうですね。それと、坂田さんがご指摘されたようにプロミネンスの数も多くて、しかもとても明るかったんです。肉眼で4分16秒の間、太陽と月が重なっている様子を見ていますと、赤からピンクの色なんですけれども灯台のように非常に目立つ明るいプロミネンスが見えました。こんなにはっきり肉眼で見えたのは初めてで、極めて印象的な姿でしたね。極大期のコロナというのは本当に明るくて、薄雲を通しても見えるくらいとても立派で、太陽が本当に元気なんだなというのがわかる姿でした。

初めての観測以来、抱き続ける畏敬の念

――日食について、改めて説明していただけますか。

日食の原理図(国立天文台)

縣:
「日食」というのは、太陽と月が重なって起こる現象です。太陽の一部分だけが欠けているのを「部分日食」といいます。日本でもたまに部分日食が見られますから、ご覧になった方もいらっしゃると思います。太陽に対して月のほうが大きいと、太陽を全部隠しますから「皆既日食」になりますね。逆に月が若干小さいと、周りが金のリング状に見えますね。これを「金環日食」といいます。

月は地球の周りを回る衛星です。平均で地球から38万km離れたところを、地球の大きさに対して直径がその4分の1のサイズの月が回っています。それに対して、太陽は地球から1億5000万km離れたところにあります。地球が太陽の周りを回っているわけですから太陽のほうが大きくて、その直径は地球の約100倍あります。

それがなぜ同じ大きさで重なって見えるのかというと、本当にこれはどうしてこんな偶然が起こるのだろうと思うのですけど、月の大きさは地球の4分の1で太陽は地球の100倍ですから、月と太陽は400倍違うんです。400倍違うこの2つの天体が、地球からの距離がそれぞれ38万kmと1億5000万kmですから、こちらもたまたまほぼ400倍、離れていることになります。同じものを2倍遠いところに持っていくと大きさが2分の1と小さくなるように、たまたま今、この宇宙で、本当に奇跡のような時に我々は地球上にいるわけです。

と申しますのは、月は少しずつ地球から離れています。年間わずか数cmずつではありますが、月が離れるということは月が小さくなりますから、太陽を全部隠せる皆既日食というのは、遠い将来は残念ながら見ることができなくなります。全て金環日食になってしまうということですね。

――どうしても月が太陽より大きくならなくなってしまうんですね。

縣:
はい。日食はめったに体験できない貴重な天文現象ですけれど、坂田さんは2012年5月21日、日本からも見ることができた金環日食は覚えていらっしゃいますか。

金環日食 2012年5月21日 国立天文台

――覚えていますよ~。日食の際は直接太陽を見てはいけませんので、いわゆる日食メガネを使って見ました。見ていて、訳が分からないんですけれども結構ゾクゾクッとしましたよね。

縣:
日食メガネを使わないと太陽がまぶしすぎて目に危険なんですけど、皆既の瞬間になりますと、満月の晩くらいの明るさまでぐっと暗くなるので日食メガネを外して見たりして、そうすると特別な環境になるわけですよね。

――今回のアメリカ・ダラス行き、縣さんはいつ以来の日食観測だったんですか。

縣:
金環日食は2019年の12月にマレーシアで見ました。皆既日食は2017年以来ですから、7年も前ですね。
私が最初に皆既日食を見に行ったのは、1991年の7月11日でした。若い頃ですけれど、ハワイからメキシコにかけて極めて長い間隠れるというとても良い条件の日食で話題になったんです。これを是非見たくて、ハワイ島のワイコロアという場所のゴルフ場に行きました。そのゴルフ場を埋め尽くすくらい、日本からもたくさんの方が観測に来ていらっしゃいましたが、皆既になる直前に、今回のダラスと正反対のことが起こったんです。朝、行く時は快晴で、雲1つなかったんですよ。それで1時間以上かけて、次第に欠けていきますよね。8割、9割まで欠けてくると、気温が下がってきますね。

――そうですね。

縣:
気温が下がってくると風が吹いて……雲ができる。そうですねぇ、木の葉っぱのような、本当にちっちゃな雲ですよ。ぽつんぽつんと現れて、そして皆既になる直前に……その雲に完全に覆い隠されて皆既が終わったという。

――あら~。

縣:
今回のダラスとは逆パターンなんですけどねぇ。

――そうだったんですかー。

縣:
ワイコロアのゴルフ場にいた人は見られなかったんですが、ちょっと離れますと、例えば宿泊地のヒロに残っていた人たちとか、ハワイ島ですからマウナケア山に登った人たちなどはもちろん見ることができました。ところがですね、私は見えなかったにもかかわらず、とてもとても感動・感激してしまいまして、その時、もう2度と日食を見に行かなくてもいいやって、宣言したぐらいなんです。とても満足しました。

――えっ、そういう宣言をして、満足してしまったんですか。

縣:
ええ。というのはですね……。コロナやダイヤモンドリングが見られると本当に感激するのは事実なんですけど、太陽が欠けていくに従って、次第に空が暗くなるわけです。すると、そこにいる鳥たちのさえずりも変わってきます。そして風が吹いてきて、気温が急激に下がっていき、太陽は見えなくても、雲に覆われていても、皆既の時は真夜中のように暗くなるんです。そして地平線の近くは、見渡す限り、360度、夕焼けの空なんですよ。この自然の驚異……驚くばかりの、本当にこう、なんて言うんでしょう。畏敬の念、英語だと「awe」という単語がありますけど、そういう心からの驚き、ひれ伏すような、そういう感情にとらわれましたね。

――でも縣さんはその後も何回も日食観測に行かれてたんですよね。

縣:
その後、国立天文台に就職してこういう仕事を始めたので、日食観測に出かける機会が何回かありました。天文台に入ってから最初に皆既を見たのは2006年3月で、トルコのアドラサンという場所でした。NHK高校講座の番組で使う素材を撮ろうと出かけたんですけれども、それを日本にライブ中継したんです。今では当たり前ですが当時生中継はまだ珍しくて、ちょうど和歌山大学で日本天文学会の年会をしている最中でしたので、そこに映像を届けたりしました。

縣:
2009年は「世界天文年」として世界中で天文にちなんだお祭りが開かれた年ですが、この年の7月22日には、日本のトカラ列島、それから中国の広い範囲、上海でも皆既になりました。残念ながら天気が悪かったんですけど、私たちは「おがさわら丸」という船に乗って硫黄島の沖まで行きまして、船長さんが頑張って晴れている場所を探してくれたので、皆既中のすばらしいコロナを堪能することができたんです。そして翌年、2010年の同じく7月。

――今度はどちらですか。

縣:
アルゼンチンのパタゴニア、南極大陸に近いカラファテというところでした。氷河で有名なところで、氷河の近くの雪山に登って、山の上から、地平線ぎりぎりの場所で日食が起こって皆既になったまま地平線に沈むという珍しい日食にチャレンジをして、これもすてきな光景を体験しました。

縣:
そして2017年には、アメリカで起こった1つ前の日食をテネシー州のナッシュビルというところで見ました。そして今回、2024年4月8日はアメリカ・テキサス州のダラス近郊で見ることができたわけです。

――日本時間で言いますと4月9日になりますね。

縣:
そうですね。結局、皆既日食を6回見る機会があって、運よく5回、見ることができましたが、太陽というのは表情がそれぞれ違っているんです。太陽の表面には黒点が現れますよね。あれはほぼ11年の周期で、もう少し長い周期性もありますが、一番よく知られているのが11年周期です。その太陽の活動周期に合わせて、コロナの形や大きさ、プロミネンスの赤い部分の数や目立ち方が違うんです。

今回はちょうど太陽の極大期に当たりましたので、太陽活動がとても活発でした。太陽の外側の大気にあるコロナも極めて明るくて、肉眼でもずいぶん外側まで、「ストリーマー」といいますけど筋状のコロナが太陽の直径の4~5倍くらいまで見えましたね。それから明るいプロミネンスが、まるで灯台のように明るく光り輝くすばらしい日食になりました。

日本で次に見られる皆既日食は11年後

――縣さんのお話をうかがっていますと、皆既日食はそれぞれ感激の度合いというか、違うんですね。

縣:
そうですね。一度皆既日食を見てしまうと病みつきになってしまいますね。皆既日食を見るために海外にも出かけるような“日食ハンター”とか“エクリプスハンター”と呼ばれる人が多いのもうなずけると思います。今はなかなか海外に行きにくい条件だと思うんですが、こういう時でも、私が知っているだけでも100人以上の方がメキシコやアメリカに皆既日食を見に出かけましたし、それはもちろん日本人だけではありません。アメリカではたぶん400万人が皆既帯に移動しただろうと言われています。人々の関心を呼ぶ、ある意味最大の天文ショー・天文現象と言ってもいいかもしれません。

――アメリカ・ダラスの話を中心にうかがってきましたけれども、日本で今度皆既日食が見られるのはいつごろになるんですか。

縣:
皆さん気になると思うんですけど、日本で皆既日食が見られるのは、2035年9月2日の午前中になります。

――11年後。

縣:
11年と4か月ちょっとになりますね。待ちきれないよという方もいらっしゃるかもしれませんが、あっという間かもしれません。皆既日食はどこからでも見られるわけではありませんから、今から準備されるといいと思います。2035年9月2日の場合は、北関東から北陸にかけての狭い帯の範囲になります。具体的には、茨城県、栃木県、千葉県の一部、埼玉県の北部、群馬県、長野県の北部、新潟県の南部、富山県、石川県の北部です。私が生まれた長野県の大町市も入りますから、立山とか山に登って見るなんていうのもいいかもしれませんね。

――近づいてくると、ツアーといいますか観測のイベントの案内もあるでしょうね。

縣:
そうですね。早めに準備されるといいと思います。

――皆既日食が起こる頻度は低そうですが、日食自体は世界中でずいぶん起こっているということですか。

縣:
地球全体で見ますと、毎年のように日食は起こっています。月食よりも数が多いくらいです。今までも皆さん、部分的な日食は何回か見た記憶があると思うんですけれども、皆既日食となりますと、2035年までの間に4回あります。2026年と2027年にもありまして、地球上のどこかで見られる訳ですけれどもなかなか行くのは大変ですよね。海の上で起こるとか、その場合は船に乗って見る方もいらっしゃってそれも楽しいと思いますけど、北極の周辺とか行きにくい場合もありますので、見たいという場合にはいろいろ調べて、観測に適した安全な場所に行かれるのがいいと思いますし、2035年の9月まで待つというのも、いいと思うんです。

金環日食ですと、日本では2030年6月1日に起こります。見られるのは、富良野、帯広を中心にした北海道の広い範囲です。両方ともよく晴れて、皆さんが楽しめることを願っています。

――日食については、国立天文台の暦計算室にある、日食各地予報で知ることができるそうですね。

縣:
はい。ぜひ国立天文台のホームページから情報を得ていただければと思います。

――縣さん、今回は皆既日食についてのお話をありがとうございました。

縣:
ありがとうございました。

2009年、日本で観測した中継映像をどうぞ

縣さんのお話にあった2009年7月22日に日本で観測された皆既日食は、当時NHKでも生中継されました。そのときの映像がNHKアーカイブスからご覧いただけます。

詳しくはこちら(「地球エコ2009 体感生中継!46年ぶりの皆既日食」)


【放送】
2024/04/29 「ラジオ深夜便」

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