【ようこそ宇宙へ】私たちはみな星くずから出来ている

ラジオ深夜便

放送日:2023/08/28

#天文・宇宙#サイエンス

私たちの体を構成しているさまざまな物質の起源は、いったいどこにあるのでしょう。元素たちの長い長い旅路について、縣秀彦さんにうかがいます。(聞き手・坂田正已ディレクター)

【出演者】
縣:縣秀彦さん(国立天文台天文情報センター)

重たい元素が多めの不思議な星

――今回のテーマは、「私たちはみな星くずから出来ている」ですね。

縣:
はい。私たちの体を構成しているさまざまな物質が、いつどこで出来たのかを探ってみたいと思います。いろいろな物質がありますけれども、私たちの体の元となっている物質には、水がかなり含まれていますよね。

――そうですね。たんぱく質とか脂質、ミネラル……。

縣:
骨だとカルシウムもありますね。こういった物質を細かく分けていくと、分子の状態をとるとか原子の状態をとるとか、いろいろ言いますが、元素と呼ばれるものにいくつか分類できます。まずは私たちの体を作っている元素について、考えてみたいと思います。
宇宙はこれまでいろいろな方法で観測してきまして、それで見えてきたことと、21世紀までに私たち人類が到達したさまざまな物理法則や化学反応、その知識、モデル、理論を使って現象を解明していく研究が盛んに行われていますが、これらによって、私たちの体を構成している多様な元素の起源が解明されつつあります。

――元素の起源、ですか。

縣:
はい。元素というと、皆さん、周期表を思い出されるのではないでしょうか。

――中学生のときでしょうか、勉強しましたね。

縣:
元素は、これ以上細かく分けることができない物質の種類です。なじみの深いものだと、私たちの体を作っている炭素とか酸素とか窒素とか、いろいろあります。周期表で軽いほうから見ていくと、水素とヘリウムが一番上にありますね。次の列にいくと、リチウム、ベリリウム、ホウ素、炭素、窒素、酸素……と続きます。宇宙に見つかっている元素は全部で83種類ありまして、一番重たいものは何か、ご存じですか。

――一番重たいものというと、ウラン?

縣:
はい。自然界、天然にある元素で一番重いのは、92番のウランですよね。とはいえ宇宙の中にある物質は、ダークマターとかダークエネルギーという、えたいの知れないものがほとんどで、われわれが物質として認識できるのはほんの4~5%にすぎないと言われています。そのわずかな物質、元素でいうと主に何があるのか、ご存じですか。

――水素、ですか。

縣:
そうですね、水素。それとヘリウムが、圧倒的に多いんです。観測からわかっている数字で言うと、質量に換算すると水素はだいたい全体の74%、ヘリウムが25%ぐらいですから、足すともう、残りは1%あるかないかですよね。ところが私たちの身の回りを見ると、空気の中には窒素が8割くらい、それと酸素があって、二酸化炭素がわずかですよね。二酸化炭素は炭素と酸素の化合物ですから、水素、ヘリウムとは違うものがずいぶんあります。地球というところは、宇宙の中ではなぜか重たい元素が多めの、不思議な場所になっているんですね。

水素、ヘリウムというのは、宇宙が出来た最初のビッグバンのころに作られました。宇宙の始まり、ビッグバンからだいたい3分後までに、宇宙の中で最も軽い元素である水素とヘリウムが作られたと考えられています。その後、何も起こっていなければ宇宙は水素とヘリウムだけで、私たちの体や地球のさまざまなものは誕生しなかったわけです。しかし不思議なことに、その何億年後なのかは非常に気になるところではありますが、だいたい3~4億年後に、星が生まれたんです。しかも星は次々にたくさん生まれて数えきれないほどの銀河や銀河の中の星になっているわけですけれど、今度はその星の中で、水素やヘリウムよりも重たい元素、天文学では「重元素」といいますが、それらが誕生します。鉄までが星の内部で生まれるのですが、これは後で詳しく説明しますね。

――はい、お願いします。

縣:
それよりも重たい元素は、星の一生が終わるころ、ある特殊な環境下や重たい星の最後の状態である超新星爆発、または中性子星どうしの合体などによって作られることがわかってきています。私たちの体を作っている炭素、窒素、酸素に限らず、ほとんどの元素、それは「水素を除いて」ということですけれど、最低1回は、天の川銀河の中のどこかの星の中にあったということになります。宇宙が誕生した後に、たぶん何回も何回も、繰り返し繰り返し、星の一生の過程をへてから、宇宙空間にまき散らされて長い長い旅をした後、46億年前には私たちの太陽系がある場所にたどり着き、太陽系の中の星々に取り込まれ、そのうちのあるものが地球という形で集まって、元素たちがその中に取り込まれたということになります。ですから元素のレベルで言いますと、私たちは「星の子どもたち」と言っていいかもしれません。

――太陽系へ、そして地球へ……。元素は、とてつもなく長い旅をしてきたことになりますね。

元素レベルでは46億年前に出来ていた

すばる望遠鏡ほか(マウナケア山頂)

縣:
ここから少し詳しく考えていきましょう。まずちょっと脇道にそれますけれど、ハワイ島のマウナケア山頂、4,200mのところに、世界を代表する大型望遠鏡たちが集まっています。24年前の1999年には、日本の技術の結晶として「すばる望遠鏡」も作られました。

――直径8.2mの主鏡を持つ望遠鏡ですね。

縣:
はい。巨大な鏡です。運用開始当時、この望遠鏡を使ってさまざまな天体を観測する機会をいただいたのですが、そのときに是非見てみたいなと思った天体の1つが、おうし座にあるM(メシエ)1、かに星雲でした。

かに星雲 M1

――それはどうしてですか。

縣:
僕が高校時代、直径10cmの小さな望遠鏡で、冬の夜空、オリオン座と戦っている雄牛の姿をした星座の星の並びの角の先に望遠鏡を向けて、かに星雲を直接見たことが思い出されるんです。本当に小さな、白い雲みたいなものがありました。これが実は1054年、日本では平安時代ですが、超新星爆発をした星の最後の姿なんです。星雲は小さくてコンパクトなんですが、星の中で生まれたさまざまな元素を宇宙にまき散らしているようすが、何年か後に見ると、それが大きく広がっていることがわかりました。

太陽の場合、超新星爆発はしないのですが、太陽よりも8倍以上重たい恒星というのが、数は少なくなりますがそれなりにありまして、こちらは超新星爆発を起こして一生を閉じることがわかっています。太陽はわりとよく見かける平均的なサイズの星です。それより小さなものもあって、小さなものほど長生きをしますね。太陽は100億歳くらい生きます。太陽の8倍以上重たいものは、超新星爆発をしてさらに20~30倍ぐらいまで重くなるとブラックホールになります。超新星爆発をした後は何も残らないわけです。

それよりも軽ければ、中性子星という星が残ります。私がかに星雲を是非見たかったのは、かに星雲というのはパルスを出しているんです。電波で発見されたんですけど、電波やX線、さまざまな波長の電磁波、パルスが1秒間に30回も出るというのは、ものすごく速いじゃないですか。それは普通の望遠鏡では全く見ることができないので、すばる望遠鏡でその姿を見たいなと思って、NHK のハイビジョンカメラで記録をして確認をしたのを思い出します。

環状星雲 M57

縣:
もう1つ、思い出深い天体は、こと座にある環状星雲、M57です。これはドーナツのようなリングのような状態、つまりリング星雲なんです。すばる望遠鏡は、普通はのぞくところがないんですけど、出来た当時は検査用にのぞくところがありまして、そこからアイピースをつけてのぞくという非常に幸運な経験をしました。暗い天体なので、普通は望遠鏡で拡大して見ても、星雲にしても星にしてもなかなか色がわからないんです。星雲はぼやっと白く雲のようにしか見えないんですけど、さすが、すばる望遠鏡。実際にのぞいてみると、人間の目の1万倍もの集光力があるので、ちゃんと目の中の色を感じる細胞が光を感知できたんです。

真ん中に星が2つ見えるんですけど、中心星が太陽の50億年後の姿だと思ってください。まだ白色矮星(はくしょくわいせい)になる前の状態で、赤色巨星という段階は過ぎています。それと、外側は赤い水素ガスです。星は水素がほとんどですから水素ガスがあって、中の緑色の部分は、たぶん酸素のガスではないかと思います。そういう姿を見ることができたんです。

――それは科学者冥利につきますね。

縣:
そうですね。太陽の質量の8倍以上の重たい恒星の場合は、超新星爆発をした後、中心に中性子星かブラックホールが残りますが、星が爆発するまでの間に、周期表で軽いほうからいって鉄までの元素は、星の内部、特に重たい星の内部で誕生することがわかっています。超新星爆発の際、またはその後に出来た中性子星どうしがたまたま近くにあって合体したときや、巨大なお年寄りの星、赤色巨星になったときなどに、ごく中心の外側部分で重たい元素を作る反応が進んだりします。いずれにしろ多くの元素が星の中心部分で誕生していて、その後の超新星爆発や中性子星どうしの合体という特別な現象の際に、さらに重たい元素が作られています。星が最後に超新星爆発をすると、かに星雲のようにガスがどんどん外に出て行きます。そこにはチリも含まれますけれども、それらのガスやチリは、また次の星の誕生の材料になるんです。

――再び集まるんですか。

縣:
そうなんです。今までの話をまとめてみると、私たちが住むこの宇宙というのは、138億年前にビッグバンで誕生しました。このときに作られた元素は、ほぼ水素とヘリウムです。それよりも重たい元素のリチウムやベリリウムなども、わずかですがこのときに出来たという研究結果が最近のシミュレーションや理論計算から出ていますが、ごく少量ですから、ざっくり言うなら、「水素とヘリウムがビッグバンによって出来た」と言っても、ほぼ問題ないわけです。

宇宙が誕生して3~4億年たつと星が生まれて、それが銀河になりました。ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による宇宙の果ての観測が今まさに進んでいますが、ホットな話題で論文もどんどん出ていますね。134億光年先の、まだ出来たばかりの初期の銀河も映し出されましたから、もっと早く星が生まれた可能性の検討も始まっています。今までは星が生まれたのは4億年後くらいからだろうと言われてきましたが、もっと早く星が出来た可能性があるんじゃないかと、今、少しざわついているところではあります。

いずれにせよ初期に出来て、それ以外は星の内部で、普通の太陽みたいな核融合反応、星の中心でエネルギーを作り出す、これは水素がヘリウムに変わる反応ですよね。太陽みたいな軽い星の場合には、炭素や窒素や酸素を作るぐらいでストップするんですけど、それで星としては輝きを止めることになるんですけど、重たい星は、さらにケイ素やマグネシウムなどを作っていって鉄までが作られます。星の中心の核融合の結果として作られるわけです。

ある条件下では、赤色巨星が巨大に膨らむ際にさらに重たい元素が非常にゆっくりと形成されていきます。一方、超新星爆発、中性子星どうしの合体といった特別にダイナミックな宇宙での現象の際には、鉄以上の重たい元素が、ウランまで作られていきます。金とか銀、プラチナといったものは、超新星爆発で誕生する量だけでは不十分なので、どういうことなのか、ずっと課題になっていました。最近では中性子星どうしが合体する現象が実際に観測されるようになって、理論的な予測と一致してその通りの現象の変化も見られるようになりました。金、銀、プラチナなどの重たい元素たちが、中性子星の合体によっても作られたことがわかってきたんです。

太陽系が出来た後、私たちの周りで元素が別の元素に変わるという現象は、巨大な太陽のごく中心で起こっている核融合、水素がヘリウムになる反応のみですから、元素の割合、種類は、変わっていないわけです。ということは、太陽系が出来た46億年前、太陽系の元となる原始太陽系円盤、これはガスやチリが集まってきて原始太陽の周りに円盤を作ったものですが、そのときすでに、今ここにある元素がそこにあったということになります。

――そういうことなんですよねぇ……。

縣:
ですから元素のレベルで考えると、私たちはまさに星の子どもたちである、と。46億年前に、同じ太陽系の中に生まれてきた。「生まれてきた」と言いますか、その材料として、われわれが出来てきた。元素レベルで、私たちは宇宙とつながっていると言っていいのではないでしょうか。

――ふだんなかなかそこまで思いはいたりませんけれども、ロマンのある話ですね。

アルマ望遠鏡で撮影した、若い星PDS 70の周囲の原始惑星系円盤(左)と、その周りをまわる惑星PDS 70cのクローズアップ画像(右)

そして元素はいかにして星くずに?

縣:
しかしよく考えてみると、元素で出来ているのは私たち人間だけではないですよね。

――それはそうですね。

縣:
ウイルス、細菌、きのこ、植物も動物も、生きものは皆、ほぼ同じ元素、つまり炭素、酸素、窒素、水素……アミノ酸とかたんぱく質を中心にして同じですよね。さらに私たちの周りにある空気、窒素や酸素、二酸化炭素。または水、水素と酸素。石ころも机もラジオもパソコンも紙も、みんな元素で出来ていますから、自分たちだけじゃないんです。石も空気も海も川も山も、全てが星の子どもたち。地球にあるもののみならず、太陽系の中にあるものは全て仲間という気がしてきませんか。

――してきますねぇ。

縣:
そういう意味で、人間だけが特別ではないということも気にしていたいですよね。

――そうですね。でも、まだわかっていないこともありそうですね。

縣:
たくさんあります。特にここで注意しておきたいことは、元素がどうやって化合物になったか。ガスというのは、水素のガス、酸素のガス、窒素のガスのように気体でわかりやすいと思うんですけど、地球は固体ですよね。私たちの体も固体成分。つまりその元は、たぶんダストとかチリと呼ばれているものが出来てこないといけないし、それは言ってみればホコリみたいな小さなものですよね。それがどうやったら、地球とか月とか惑星、小惑星という天体のサイズにまで成長できるのか、これがまだよくわかっていないんです。

宇宙において元素がどうやってできるかは、未解明の部分もあって論争もありますけれども、大ざっぱにはだいぶわかるようになりました。ところが出来た元素が、かに星雲みたいに宇宙に飛ばされて、またそのガスや重たい元素、すでに固体になっているものがあるかもしれませんし、固体成分はたぶんあるんでしょうけれども、それがどうやって集まって星にまで成長するのか。サイズが全く違いますからね。「私たちはみな星くずで出来ている!」と言ったところで、「じゃあ、どうやって星くずになったの? その星くずが、どうやって惑星や地球や私たちの大きさまで成長したんですか?」ということは、わかっていないんです。

その意味で、チリのアタカマ高原にある「アルマ」という電波望遠鏡は、世界のいろいろな国が協力して運用している電波干渉計ですが、それによる原始惑星系円盤の研究は極めて重視されていますし、興味深い観測結果が次々と発表になっています。その観測結果を説明するようにさらに理論が深まり、または再構築されるという、興味深い時期に今はあります。

一方、太陽系の中で見ますと、「はやぶさ」や「はやぶさ2」のサンプルリターンですよね。他の天体から、地球上にはないなるべく古い原始的な物質を地球に持ち帰って、こういうふうな歴史で物質が変化、反応をして変わってきたということを解き明かしていく。これも大事な研究です。実際、小惑星リュウグウから持ち帰ってきた星くず、まさにそのかけらの中に、私たちの生命に必要なアミノ酸が20何種類か見つかっています。

はやぶさ2によって距離約20kmから撮影されたリュウグウ

――岡山大学などの研究チームが検出して、確か23種類だったでしょうか。アミノ酸は、私たちの体重の2割ぐらいをしめるたんぱく質を作る物質ですね。

縣:
私たちの体の6~7割は水ですから、からからに乾燥して干からびると、ほとんどたんぱく質ということになりますね。

――まだ小惑星リュウグウの試料の分析は続いていますものね。

縣:
はい。リュウグウの試料の分析から、星くずから私たちが出来ていく過程、ルーツがわかるかもしれませんね。日本のみならずさまざまな国が、太陽系の起源、太陽系の昔の様子を知ることによって、星くずからどうやって私たち生命が誕生したのか、大きな惑星ができるのかを調べたいと思っています。例えば2021年10月には、アメリカのNASAが「ルーシー」という小惑星探査機を打ち上げています。ルーシーは、木星の軌道上にある、太陽系の初期に作られたと思われている小惑星「トロヤ群」、これは”惑星形成の化石”と呼ばれていますが、それを探査する旅に出かけています。

――探査がどんな結果をもたらすのか、楽しみです。縣さん、ありがとうございました。

縣:
ありがとうございました。


【放送】
2023/08/28 「ラジオ深夜便」

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