【ようこそ宇宙へ】太陽は元気ですか?

ラジオ深夜便

放送日:2023/07/24

#天文・宇宙#サイエンス

現在の太陽は、寿命100億年のおよそ半分、壮年期ともいえる安定した状態にあるそうです。地球にも大きく影響する太陽の“健康”について、縣秀彦さんにうかがいます。(聞き手・坂田正已ディレクター)

【出演者】
縣:縣秀彦さん(国立天文台天文情報センター)

太陽は何色ですか?

――今回のテーマは「太陽は元気ですか?」です。

縣:
突然ですが、坂田さん。クレヨンか絵の具を渡されて「太陽を描いてね」と頼まれたら、坂田さんは何色に太陽を塗られますか。

――太陽ですよね……赤、ですね。

縣:
太陽は赤いですか?

――そういうイメージが強いですよね。

縣:
太陽はまぶしすぎますから、直接目で見ることはできないし、見てはいけません。でも何となくわかると思いますが、赤くはないですよね。太陽は白い色をしていますね。しかしなぜか日本人は「太陽」と聞くと、坂田さん同様、赤く描く人が多いようです。

――外国人は違うのですか。

縣:
ええ。ここに太陽が入っている国旗をいろいろ持ってきてみたんですけれど、どうですか。

――いろいろありますが……白もあるし、黄色もあります。

縣:
赤い太陽を描いている国はごくわずかです。

――そうですね、少数派ですね。

縣:
でもそれを「間違いだ」と言うのは、言い過ぎかもしれません。なぜかというと、まぶしくて見えない太陽を、われわれでも直視できるタイミングというのがありますね。日の出とか日の入り、それから、かなり雲に覆われているときなどです。夕日や朝日は、黄色みがかっていたり、場合によっては赤みを帯びていることもありますが、これは太陽そのものの色が変化しているわけではありません。波長が長い赤い光は、夕方や朝方に地球の空気、大気とも言いますがそれを通過するので、朝焼けや夕焼けと同じように赤っぽく見えるんです。晴れた昼間であれば、波長の短い青い光が、地球の空気、大気中で「散乱」、あちこちに曲がっていくので、空全体が青く見えて青空になるわけです。つまり色が赤っぽく見える原因は、私たちの地球側にあったわけですね。

もし仮に夕日とか朝日ではなくて昼間の時間帯、高い空に昇っている太陽の色が白ではなく赤く見えたら、「太陽さん、お元気ですか?」と言いたくなる状況かと思うんですよね。

――と言いますと?

縣:
太陽そのものに何か異変が起こっている可能性があることになるからです。でも実はそんなことはなくて、今の話はまずないので、安心してください。

その色は変わりませんか?

太陽光球面。この画像は緑色のフィルターを付けて撮影。本来は白い太陽面が緑になっている。

縣:
でも、今から50億年ぐらい先になりますと、実際に太陽は昼間も赤っぽく見えるようになります。星の場合は、年をとると表面が赤い巨大な星、「赤色巨星」に変わっていってしまうのですね。つまり、お年寄りになった状態です。今の太陽は生まれて46億年、寿命が100億年のちょうど真ん中、壮年期の頃で安定していますので、太陽はいつも白くさんさんと輝いているということですね。

――太陽が赤色巨星になるのは、今からおよそ50億年後の予想ですよね。それまでの間、太陽の明るさや色は、ずっと変わらないのですか。

縣:
それはとてもいい質問です。現在の私たちの知っている知識や観測によって測定した範囲内で言いますと、今のところ、明るさも色もほぼ一定と言ってよいと思います。

――ほぼ一定、ですか。

縣:
はい。完全に一定ではない理由を、あとで3つほど詳しくお伝えしますが、その前に「なぜ一定なのか」を心配される方もいらっしゃると思いますので、お話しします。

今から46億年ほど前に、太陽と、その周りを回る地球をはじめとした太陽系の惑星たちが誕生しました。その直後、「原始太陽」といいますけれど、このときの輝きは不安定だったと考えられています。しかし今の状態、水素がヘリウムに変わるときにたくさんのエネルギーを放出する核融合反応が太陽のごく中心で始まってからは、常に同じメカニズムで、水素の核融合反応によって光や熱というエネルギーを出し続けていますから、そのエネルギー量は一定ということになります。燃料不足にならない状態が長く続いて、安定して輝いているということですね。

太陽をはじめ、水素が核融合反応を起こして自ら光っている星を「恒星」といいます。恒星の場合はエネルギーの強さは明るさと関係しています。そして色は、その表面温度と関係しています。

――望遠鏡で捉えられる恒星、星々は、さまざまな色をしていますね。

縣:
そうですね。夜空を見上げますと、肉眼でも少しオレンジがかった色や赤っぽい色の星を見ることがありますよね。太陽以外の恒星ですと、春のおとめ座のスピカとか、冬のオリオン座の、足の位置にあるリゲルといった一等星は、少し青白い色に輝いて見えます。表面温度がとても高い星です。この時期、南の空にある夏の代表的な星座のさそり座ですと、サソリの心臓部分のアンタレスという星は赤っぽい。冬ですと、オリオン座のベテルギウスもそうです。赤っぽい星は、表面温度が低いということです。

私たちの太陽の表面温度は、だいたい6,000℃です。青白い星の表面温度は1万℃以上、赤っぽい星は3,000℃程度ですから、太陽は、その中間ですね。太陽は、近いと明るすぎて白にしか感じませんが、ずっと遠くから見れば、わずかにクリーム色っぽく見えるかもしれません。そして太陽は、重さが地球の33万倍、大きさは直径で言いますと、地球を横に109個、直列に並べたくらいですから、巨大です。かたい地面とかはないんです。ほとんどが水素でヘリウムが少し混じっているという、軽いガスの天体です。そして中心で核融合が起こってエネルギーが作られます。長い時間をかけて表面まで伝わったあと、光として表面から出てくるわけです。

この太陽から放出されるエネルギーのごくわずかが、1億5,000万kmも離れた地球に到達して、地球全体をあたためています。しかし太陽の光は、地球の大気に吸収されたり反射したりして、大気の状態や雲の量によって変わりますから一定ではありません。どれだけ受けとるかはバラバラですので、ここでは地球の大気の外に出て考えてみましょう。

地球の大気のすぐ外側にまで行き、太陽の光に対して直角な面、垂直な面の1㎡で、1秒間に太陽から受けているエネルギーの量を測ると、1,361ワットという量になります。

――私たちが耳にするワット数といえば、せいぜい100ワットぐらいですかね。

縣:
われわれの生活で100ワットの電球といえば、明るいなという感じですよね。1,361ワットというのは、エネルギーにして100ワットの電球13~14個分の光の量ですから、かなりのエネルギーが太陽から届いています。ただ、大気中に吸収されたり反射したり散乱したりしますから、直接来るわけではありません。太陽の光に対して垂直な1㎡に1秒間で受け取るエネルギーは、「太陽定数」と呼ばれているものです。

地球の場合はその断面、スイカのように真ん中で割った面に太陽の光が直角に当たることになりますから、これで計算しますと、1秒当たり、地球全体で受け取る太陽のエネルギー量は、約2×10の17乗ワット。2のあとに0が17個つくワットを、1秒で、ですよ。これは実は日本の国の年間の総発電量を、たった20秒でまかなえてしまうエネルギー量なんです。

――ほう! 途方もないエネルギー量ですよねぇ。再生可能エネルギーの1つに太陽光発電や太陽熱発電がありますが、この太陽エネルギーを利用して、電気を作ろうとする発電方法ですね。

縣:
そうですね。太陽のような自然のエネルギーの活用を、ドイツとかヨーロッパ諸国などでは非常に熱心に先進的に取り組んでいます。日本も本格的に検討して取り入れる時期のように感じますが、いかがでしょうか。自然の恵みですから、使わないともったいないです。私たちにとって、太陽というのは母なる存在であることを、改めて感じます。

11年周期の極大・極小の差は約0.1%

縣:
太陽の熱エネルギーが一定であれば安心ですが、これが変化しますと、ちょっと困ったことがいろいろ起こります。このことについて、話をしたいと思います。

――さきほど縣さんが、わざわざ“ほぼ”をつけた理由が、「主に3つあります」と言った、そのお話ですね。

黒点

縣:
そうです。今は「ほぼ一定」ですが、将来、ちょっと不安なことがないわけではないということです。まず1つ目。太陽は表面に、「黒点」という黒い点が現れることが知られていますね。およそ11年の周期で、その数が増えたり減ったりを繰り返しています。この11年が、太陽活動の周期そのものです。もちろんこれ以外にもいくつかの周期が知られていますが、なんと言ってもこの11年周期の影響が非常に大きいので、これについて考えてみます。

今は、黒点がどんどん増えている時期です。今回の太陽活動の極大、もっとも黒点が多い時期は、2025年ごろだろうと予想されています。

――再来年ですね。

太陽の11年周期

縣:
来年か再来年が極大になるだろうと。つまり、順調に太陽活動が進んでいるということです。たまに11年でも極大が来なかったり、全体的に黒点の数が少ないのではと、心配されることもあるのです。肉眼で見えるような大きな黒点が現れることもありますから、普通は、それによって太陽のエネルギー量が変わるのではないかと思われると思うんです。つまり、極大期になると黒点が増えるので太陽のエネルギーが減るとか増えるとか、そういう意味合いですが、そういうことを想像されると思うのです。

でも今は大気の外側に人工衛星や太陽観測用の宇宙望遠鏡があって、太陽定数を正確に測定できます。太陽エネルギーが毎日とか毎時間、地球にどれだけ届いているかが、常にモニターされる時代になりました。11年周期で黒点の数が変化しているとはいえ、極大期と極小期で太陽からやって来るエネルギ-、太陽定数の差は、約0.1%しかないことがわかっています。つまり、太陽の明るさや太陽から出ているエネルギー量の変化は、極大・極小の間で、1000分の1程度しか揺らがないということです。1000分の1ということは、私たちの地球が急に温暖化するとか寒冷化するというレベルではないですね。ただ、太陽の活動と地球の平均気温の間には、関係があることがわかっています。11年の周期では1000分の1程度の幅しかないのですが、もう少し、長い周期で考えてみましょう。

数百年、数千年周期で地球にも影響あり

縣:
数百年とか数千年という長い期間を見てみますと、太陽は46億年という話をしましたから、太陽からするとそれでもまだ一瞬かもしれませんが、地球の気温に影響を与えたことがわかっています。例えば1650 ~1710年ごろ、日本では江戸時代、ほとんど黒点が出ない、異常に少ない時期がありました。「マウンダー極小期」とも呼ばれていますが、イギリスでは、ロンドンを流れるテムズ川が凍ってしまいました。テムズ川でスケートをしている絵が残っていますが、日本でもこの時期はたびたび冷害が起こり飢きんに見舞われています。この時期は11年周期の増減がなくて、60年ぐらいの間、ほとんど黒点がなくて、地球が異常に寒かったということです。

木の年輪を調べると、気候がよくて植物が育つと幅が広くなり、寒くて育たないと狭くなりますから、年輪の幅の変化は太陽の活動周期とよく似ているわけです。「マウンダー極小期」以外にも、1420年ごろから1530年ごろ、また1280年ごろから1340年ごろ、長く黒点が少ない時期があったことがわかっています。そしてその時期は、地球の平均気温が低かったことがわかっています。

何が言いたいかというと、「ほぼ」と言いましたけれど、11年周期ではそんなに大したことはないんです。でも数百年、数千年規模で見ますと、11年周期とは別に、太陽の活動がほとんど落ちて地球の気温が極めて低くなるということが、あり得るということです。

ただ、その原因は明確になっていません。諸説あります。地球がわずかに寒くなる、寒冷化する際には、太陽と地球の大気中で、何かメカニズムが働いている可能性が高いわけですが、その一方で、太陽定数が0.1%以上の変化をしている可能性もあるわけです。太陽そのものが出しているエネルギーがその期間減っていた可能性もありますが、これは調べようがありませんので、まだ諸説あり、原因の解決には至っていません。

宇宙天気予報でフレアも予測する時代

縣:
3つ目の不安定さですが、数分から数日間という極めて短いタイムスケールで考えると、今度は「フレア」という現象があります。

太陽観測衛星Solar Dynamics Observatoryによるフレア画像(NASA/SDO/Goddard)。

――フレアというのは、太陽面の爆発現象ですね。

縣:
そうです。フレアは、太陽の大気、コロナの中に蓄積された磁場のエネルギーが、急に解放されて起こるわけです。太陽の活動中に頻繁に起こっていまして、特に極大期になると数が増えますし、規模の大きなフレアも増えます。とはいえ、大きくなっても、先ほど言った0.1%内の揺らぎなわけです。ところが最近、フレアとは全く規模が異なる、「スーパーフレア」と呼ばれる強力なエネルギーの放出が起こる可能性があることがわかってきました。

――スーパーフレア、ですか!

縣:
はい。フレアというのは、特に太陽活動の極大期前後に頻発する想定内の活動ですが、近年になって、宇宙望遠鏡のケプラーが、太陽と似たような恒星で、フレアとは全く規模が違うスーパーフレアがしばしば起こる様子を明らかにしました。

――そんなに規模が違うんですか。

縣:
通常のフレアの、数万倍から100万倍にものぼります。さっきの「0.1%」や「1000分の1」を大きく逸脱して、巨大なエネルギーが地球にも到達することになります。

――太陽でスーパーフレアが観測されたことはないのですか。

縣:
少なくともわれわれ人類は、スーパーフレアを体験していません。スーパーフレアを体験していたら、人類は今ここにはいない可能性があります。かつての生命の絶滅の原因の1つがスーパーフレアではないかと提唱している研究者もいらっしゃいます。6,600万年前に、直径10㎞程度の隕石がユカタン半島周辺の海に落ちて恐竜が絶滅したというのは、かなり確からしいのですが、それぐらい確からしい証拠は何1つないので、かつて、いつ、スーパーフレアがどの程度の規模でどれだけの影響を与えてどれだけの生物が死滅したかということは、よくわかっていません。研究の途中だと思います。

――普通の規模のフレアでも、地球でいろいろと影響が起きたことがありましたね。

太陽観測衛星SDOが撮影した太陽画像

縣:
そうなんです。フレアが発生しますと、エネルギーが地球に到達しますよね。太陽の光というのは、8分19秒ほどで太陽の表面から地球に届くので、まず強いエックス線がやってきます。そうすると電波障害を引き起こします。通信がうまくいかない「デリンジャー現象」という困った現象です。そして数日後には、荷電粒子がやってきます。陽子とかヘリウム原子核とか、これを「太陽風」と呼びます。これがやって来ますと、地球の磁場を乱します。「磁気嵐」を発生させ、場合によっては停電が起こります。送電線が異常をきたして機能しなくなり、「電磁パルス」という言葉がありますけれど、そういう被害も発生する可能性があります。例えば1989年3月、カナダのケベック州では、フレアによる磁気嵐、太陽風の嵐によって、大きな停電が起こっています。

――あのときは世界中でニュースになりましたね。

縣:
これはどこででも起こるわけで、日本の場合は、東京都小金井市の情報通信研究機構(NICT)という研究所が太陽を24時間体制で監視して、「宇宙天気予報」を出しています。21世紀に入りますと、国際宇宙ステーション(ISS)には人が乗っていたりして、常に地球の大気圏外で人が活動しています。これは地球の大気のバリアの外側にいますので、フレアが発生したら避難する必要があります。ですからいつ太陽風が届くかを予測して、危険じゃない所に避難させます。

それから、いよいよ月へ行く「アルテミス計画」、その先には火星に行こうというのがありますが、とにかく宇宙空間に人がいれば、太陽の活動の影響をもろに受けます。地球・人は、磁場や大気、さまざまな層によって守られていますが、宇宙にはこれらがないので、「宇宙天気予報」が非常に重要になります。また宇宙空間には、通信用衛星に限らずいろいろな人工衛星がありますが、これらは普通のフレアによっても、損傷したり、一時的に機能がストップしたりします。ですから、地上にいるわれわれとしても、いつそういうことが起こるのかを知るために、宇宙天気予報が非常に重要な時代になっています。

――今のところ、予報の精度はどうですか。

縣:
非常に高いです。国際協力でやっていますので、JAXAや国立天文台の「ひので」衛星のデータ、アメリカのNASAの太陽観測衛星、宇宙望遠鏡、とにかく世界中の最新の観測装置で、まずフレアの発生が確認できます。太陽は自転しているので、そのフレアが地球の方向に飛んでくるかどうかは瞬時に計算できますし、どのぐらいの規模か、大きさもわかります。太陽風の粒子数や速度もわかって、「これぐらいの被害が想定できる」とアラームが鳴って、準備していくわけです。スーパーコンピューターや専用計算機、さらにはAIの技術によって、太陽活動の予測から、いつごろフレアが発生しそうかというところまで予測は進んでいるんです。

――フレアやスーパーフレアの予測だけではなくて、とれる対策をしっかり準備していくことも求められますね。縣さん、ありがとうございました。

縣:
ありがとうございました。


【放送】
2023/07/24 「ラジオ深夜便」

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