汐見稔幸さんがモットーにするのは「いい加減」。それは、「なんでも一生懸命やると心も発想もゆとりがなくなってしまうから」。“事件”解決を早めるためには、おしゃべりも大事だそうです。(聞き手:村上里和アンカー)


「いい加減」でいこう

――8月の「ママ☆深夜便」は「子どもと遊ぼう」をテーマにお送りしましたが、こんなお悩みも届いています。

東京都30代女性
<3歳10か月の男の子の母です。子どもと一緒に遊ぶことが苦手です。子どもと家にいるときはテンションも上がらず、いつもいつも「おかあさ~ん」と呼ばれてばかりで、家事も料理も中途半端になるのがつらいのです。「今だけだよ。今を大切に」と言われて、それはそれで分かるのですが、8か月の下の子もいるので、もう毎日精いっぱいです。ため息をついているのにも気付かれていると思います。相手ができないことが申し訳なく、息子が寝てから、心の中であやまる毎日です。「家事なんか手抜きをしていいよ」と友達に言われますが、それが嫌なのです。達成感が得られないことがストレスなので、何か達成したいです>

汐見さん: その気持ち、非常によく分かるんですが……。この方は、かなり能力の高い方だと僕は思ったんですね。しかも自分に対する目標も高くて、それを達成することが人生の生きがいになっている。
全部を追いかけて、かつ子育てもそれなりにやろうとしたら、アメリカなんかでは「スーパーウーマンシンドローム」といいまして、完全な女性になろうとして破たんしてしまう人が時々出てくるということで問題になっていたんです。そこまではいかないかもしれませんけど、なんでも今までと同じことを今までのようにやって、かつ子育てもちゃんとやろうとしたら、ひとりの人間のエネルギーとしたら無理になっちゃいますよね。

私自身も、大学の教員で、しかも東大で仕事していて、子育てというのはその時期しかないわけですから、女性と同じように全部一応やりたいということだったんですけれども、両立させるのはとっても難しかったですね。それでずっと悩んだわけです。つまり、「両立できないと悩むこと」に、ものすごいエネルギーを使ったわけです。
それでずっと考えて、例えば3歳3か月10日目のこの子の今っていうのは、“今”しかない。その今、子育ての手抜きをしてしまったら、多分自分も納得できないだろうし、この子にとってもよくないだろうということで、研究は50歳になってもできるだろうから、子育てを第一にして、できる範囲で研究を続けていくと割り切ることで、私の場合は自分を解放しましたね。
もちろん、ものすごい葛藤だったんですよ。それが原因で、あとでがんになったんじゃないかと思うぐらい、葛藤しました。だけども、やっぱりそこは上手に居直るしかない。

つまり、このおかあさん、家事も料理も何もかもちゃんとやりたいという中で、これだけはちゃんとやるけどあとはちょっと手を抜いてって、自分の気持ちとして収まらないかもしれないけれども、スーパーウーマンシンドロームになるのだけは避けようというふうにして、そのエネルギーで子どもに向かうことをしてあげたほうが、いいように思うんです。あとから取り返せばいいわけですから。

――完璧を求めてしまう気持ちも分かるんですが、ちょっとぐうたらにしておく、っていう場所を作ってもいいと?

汐見さん: そうです。僕がモットーにしているのは「いい加減」という言葉なんです。なんでも一生懸命にやるということは、かえって緊張してゆとりがなくなってしまうんですね、心に。発想もゆとりがなくなってしまいます。本当に自分がやりたいところにはものすごい力を注ぐけど、そうでないものは上手に手を抜いて、最後はつじつまを合わせる。「いい加減な生き方をしてください」っていうのは語弊があるけれども(笑)、すべてに100%を求めたらつぶれちゃいますよということを、自分の問題として考えるのがいいのかなって思います。

――今はお子さんのことを見てあげて、料理や家事はまたきっと思いっきりできる時間が将来くると思います。自分をあまり、追い詰めないでくださいね。

子どもには、自分で自分を育てる力がある

――神奈川県30代女性
<私は自分と異なる子育て観を持った相手に対して、「そんなに早くから習いごとをさせないほうがいいのに」とか、「頭じゃなくて感覚を使う遊びをさせてあげればいいのに」などと思ってしまうことが苦しいです。親同士って“同業他社”だから、ポリシーは異なるのが当然。幼稚園も、任せると決めたんだから任せようと自分に言い聞かせるのですが、気になってしまいます。心がもやもやしたままつきあうので、どこへ行っても居心地が悪いのが悩みです>

汐見さん: 自分が今、育てている、その育て方に、まだ本当の意味で自信がないのかもしれませんね。違う育て方をしているのを見て、「違う」とは一応思うんだけれども、「私は私でちゃんと育てているはずよ」というところが不確かだと、そちらに引かれたくはないけれども、批判したり否定することによって、そういう感情を隠そうとしておられるんじゃないかなって思いました。

「違う」というのは当たり前で、Aという育て方をしなければうまく育たないとか、Bという育て方をしなければいけないとか、そんなのはないんです。親の性格もあるし、家庭の状況も違うし、子どもの性格も違うし。大体、「私はこう育てられてきた」ということをモデルにしてしか、子育てっていうのはやれないんです。だから、それぞれの家庭で違うやり方をするのは当たり前の話で。
ただ、「私は今はこれが一番いいと思う」とか、「いつの時代でも違うやり方をしてる人はいるのよね。でも私はこうやりたい」というようなことを、夫婦でもう1回よく語り合うとか、納得し直すというか。とにかく子育ては、どっちが正解ってないんですよ。

あのね、世の中に「正解」なんて、あるもんじゃないんですよ。例えば子どもの遊び。積み木で何か作るのに正解なんかないでしょ? 好きなものを作ればいいわけ。その過程がおもしろくて、工夫するといろんなことができるっていうことを発見できて、そのプロセスが充実していればいいんです。
「こうやらないと子どもはうまく育たない」っていうふうに皆さん思いがちなんですが、悪いけど、それは子どもをバカにしてますね。

――そうですか!

汐見さん: はい。子どもには、自分で自分を作る力があるんです。「うちのママ、こういうとき、すぐ怒るんだあ」とか、もうみんな分かってますよ。だからうまくすり抜けていくんです。
「僕はこう育てられたから、ここが苦手。だからここは自分でやります」って、思春期以降にみんな考えられるようになります。小さいときにちょっとやりすぎたなっていうとマイナスに思うかもしれませんけど、例えば、ものすごく丁寧にやったから子どもの自主性がうまく育たなかったとしても、その丁寧さの中で育ったものはちゃんと子どもの財産になっているわけです。「自分でやりたいことをやってこなかったから、これからは自分でやりたいことをやるんだあ」なんて言って、思春期になったら自分を作り変えていきますよ。
人間には自分で自分を育てる力があるんだっていうことに、もう少し確信を持たれたほうがいい。親が全部やろうとしたら、子どもには主体性がないってことになっちゃいます。

僕も、子どもはもう40代、30代ですけどもね、「間違ってたかな」と思うことはいくらでもあります。正解はないんですから。あとから僕が成長していけば、「あんなこと、やらなくてよかったな」とか、「もっとやってあげたらよかったな」なんてこと、いくらでも出て来ます。そうやって、死ぬまで悩み続けるのが子育てかもしれませんね。

――汐見さんもご自分の子育てで悩んだりするんですか!

汐見さん: 「こうしてあげたらよかったかな」とか、「構え過ぎてたかな」とか、「違う育て方をしたら違う人間になってたのかな」とか思いますけど、「これは子どもの中に生きてるな」とか、そういうことを考えるしかないですね。ちゃんと子どもは自分で自分を育てていることだけは確信します。

――先ほどの「育児日記」のお話にもありましたが、寝る前に1~2分でいいから、きょうあった子どものいいところを書き留めるっていうのを訓練してできるようになると、子育てに悩むおとうさん、おかあさんたちも、ちょっと楽になるかもしれないですね。そういう見方ができるようになることで、自分も変わってくるかなって感じます。

頭にきたらペチャクチャしゃべろう

――ここまでの放送を聴いてメッセージをいただきました。

大分県50代女性
<ご自身のつらい過去を語ってくれた方がいらっしゃいましたが、語ってくれてありがとうございました。日頃、自分のつらい過去を語ることがなく、聞く機会もなかなかなく、「こんな人生もあるんだよ」と伝えることに意味があると思います。そのことを改めて受け止めて考える機会となりました。自分の子育てだったり親をみることだったり、夜中に考えることが増えました>

高知県40代女性
<年子のバタバタだった子育ては、今、小学校高学年になり、ちょっと落ち着いています。「ママ☆深夜便」、子育てがつらかった8年前にあったらなあと、昔を懐かしみながら聴いています。温かい言葉かけ、とてもすてきです>

汐見さん: あの……、日本人って前よりおしゃべりをしなくなったなって、ちょっと気になりますね。
憤懣(ふんまん)だとか悩みだとかネガティブな感情を出さないと、人間というのはいい知恵も出てこないし自分を解放できないんです。子育てがつらいと思ったらそれを語る場を持たなきゃいけないし、「頭にきた!」と思ったらそういうことを言わなきゃいけないんです。だからそれを、この「ママ☆深夜便」が半分やってくださってるなって、思ってるんですけどね。

――そういう場になったら本当にいいなと思うんです。「お便りを送って読まれて、それにまたいろんな声が寄せられると、それだけで何かちょっとすっきりした」って、言ってくださる方もいらっしゃいます。
<ラジオ深夜便>は、シニア世代のリスナーが多いので、人生の先輩たちからのメッセージもいただきます。

埼玉県60代女性
<子育て奮闘中のママさん、パパさん、おつかれさまです。最近、亡き夫の父親の在宅医療が始まりました。2か月たちますが、ときどきイラッとするときがあり、自分の心にトゲが生えることがままあります。そんなとき、ありがたいのは、数少ない友達からの何気ない手紙です。一筆一筆、その友達の字がいやしてくれます。友との手紙のやりとりもいいものですよ>

汐見さん: 人間、そんなに聖人じゃいられませんから、イラッとすることはありますよね。それを解消できないと生きるのがつらくなりますから、癒やしてくださるのが友達だっていうのは、本当にありがたいですよね。

――東京都70代女性
<72歳のバァバです。私の子育て時代は「良妻賢母であるべき」という無言の圧力で、育児の不満を夫に話すと、「いいなあ。代わりたい」と言われ、余計に悲しくなったしムッとしたものです。今、振り返ると、育児の不満も、「ひたむきだったから」と思うことで、「べき」はちょっとだけ視点をずらして深呼吸してスルーするのが一番。「モヤモヤ、イライラの時間がもったいないよ~」と言いたいです>

汐見さん: 日本はおとうさんの帰宅時間が遅すぎるっていうのは、あるんですかね……。子育て真っ最中のときに「俺は仕事、忙しいんだから」と言って、自分のつれあいの大変さを分かろうとしなかった人に、定年離婚が多いんですよね。
ドイツやフランス、僕の息子はしばらくドイツにいましたけど、ドイツだと4時半にはおとうさんが家に帰ってます。そこからは家庭の時間なんです。だからきょうはバーベキューやろうかとか当たり前に語り合えるし、一緒になんでもできるでしょ。そういうのが日本にはないから、そろそろ社会を変えなきゃいけないと思うんですよね。女性がやっぱり、ずっとつらい思いをしてきたと思いますよ。

――我慢してその時間を過ごして夫婦関係も悪くしてしまうんじゃなくて、社会を変えて、みんながハッピーで幸せに、と。

汐見さん: そう。このコロナをきっかけに、テレワークとかいろいろできるわけですから、元に戻すんじゃなくて、家庭の時間をもっとゆったりと、という社会に、少しずつ作り変えていきたいですよね。

<【ママ☆深夜便】子育て事件簿~子育てっていろいろあるよね~ ②>

<【ママ☆深夜便】子育て事件簿~子育てっていろいろあるよね~ ④>