DV 「暴力を受けているあなたは悪くない」 ②

21/02/21まで

ラジオ深夜便

放送日:2020/12/10

#インタビュー#家族#政治

ざっくりいうと

  • 追いかけられる恐怖と被害者保護制度の未整備で二重に苦しめられた避難生活
  • 「対等な関係であれば、暴力は生まれない」
  • 2020/12/10 ラジオ深夜便 人権インタビュー「あなたは悪くない」山崎菊乃さん(NPO法人代表理事)

子どもを連れて夫のDVから逃れた山崎菊乃さん。息をひそめていなければいけない生活に、DVを巡る法・制度の不完全さを痛感した山崎さんは、のちにDV被害者の保護制度の啓発活動に取り組むこととなります。そんな山崎さんは、自分を責めがちな被害者に「あなたは悪くない」と最も伝えたいのだそうです。(聞き手:札幌放送局 堀菜保子アナウンサー)

「追いかけてくる」という恐怖

――いわゆる避難施設で過ごしたのは、どのくらいですか。

山崎さん: とにかくおうちが決まらないと出られないので、アパートが決まるまでの間、3週間ぐらいごやっかいになっていました。
当時は携帯電話がなかったので、家電を引くにはNTTから電話の権利を買うんです。8万~9万円も払わなきゃいけない。生活保護を受けざるをえない私がすべてのお金をはたいてまず何をしたかというと、NTTと契約したんです。なぜかというと、何かあったら110番通報しようと思ったから。それぐらい怖かったです。
たとえ生活保護でも自分のお金として計画を立てて使えるし、子どもにも自分らしく接することができるようになって、幸せだった。ただ、(夫の)追跡がとても怖かったです。

――当時は1997年で、DV防止法などの制度も法もないときです。そのときの避難生活は?

山崎さん: シェルターから出て引っ越すと、「巡回連絡」といって、地域課のお巡りさんが新しく引っ越してきた家族のところに訪ねてきて、家族構成を聞いたりするんです。
そのときに私は、「実は、暴力を振るわれてシェルターというところに逃げて、今は子どもたちと息をひそめて暮らしているんです。夫が私の実家のある東京にも捜索願いを出していたし、いろんなところに捜索願いを出しているので、絶対に私たちの居所は教えないでください」とお願いしたんです。
そのお巡りさんは「わかりました」と言って帰っていった。
でも、その3日後に、東京の母から電話がかかってきた。
「今警察から電話があったけれど、『(山崎さんの)捜索願いが出されていて、居所がわかったので夫に知らせようとしたらたまたま留守でいなかったから、お母さんに電話をしました』という内容だったんだけど、あんた大丈夫なの?」という電話だったんです。
私はひっくり返るぐらいびっくりして手も足もガクガク震えて、交番に飛んでいったんですね。
「なんであれほどお願いしたのに、夫に教えようとしたんですか?」と言ったら、「いや、こういう制度なんだから、しょうがないんです」と言うんですよ。
めまいがするぐらいクラクラきて、「夫にバラされたら、また引っ越さなきゃいけない」と思いながら「スペース・おん」に「どうしよう?」と連絡をしたら、「スペース・おん」の代表が北海道警察に連絡をしてくれた。北海道警察から所轄に連絡を入れてくれて、なんとかニアミスで済んだ。ただ、「彼がいたらどうなっていたんだろう…」と思いましたけれど。
それが「法律がない」ということだったんです。「法律や制度がないと、私たちは殺されてしまうんだ」と思いました。だから法律がほしいと思いました。

「これは私だけの問題じゃない」 啓発活動へ

――それで、山崎さんはご自身の経験を話したり、声を上げたりするようになったのですか。

山崎さん: 私だけの問題じゃないと思っているし、私と同じ人はたくさんいる。私と同じ(境遇の)人たちの命を守るためにも、「これは個人の問題ではなくて、社会の問題なんだ」という視点で変えていく。

夫からずっと「お前なんか社会に出たってどうせ役に立たない」「体でも売るしかないだろう」とひどいことを言われていたのが、いざ実際に夫から離れたら、最初は生活保護を受けたりしていたけれど、自分で何でも解決していくことができる。いろんな人の力を借りながら、いろんなことがクリアできたんです。それが「私もできる」という自信につながったんです。
この経験を、現状を知らない政治や行政に携わる人などに聞いてもらってわかってほしい、と思ったんです。

――まだ法律がなく、夫から居場所を探されている状態で声を上げることに怖さはなかったですか。

山崎さん: 最初は怖かったです。DV防止法ができる直前ぐらいまでは、身を潜めて逃げ隠れして「いつになったらこの恐怖から逃れられるんだろう」と弁護士に相談したりするぐらいビクビクしていました。
でも、そのときは、「私は自分(1人で)で生きていける」という自信もついていたし、彼のことも怖いというより「来たら警察を呼んでやる」ぐらいの気持ちになっていました。「もう夫の支配下にはない」という気持ちになれたことが大きかったと思います。

――ご自身の経験を振り返って、暴力のもとに置かれることで人はどうなってしまうと思いましたか。

山崎さん: 私が逃げてしばらくの間は、「何食べたい?」「どんなテレビ見たい?」と言われても、自分で決められなかったんです。ずっと夫に合わせてきたし、自分がどんな色が好きだったのかもわからなくなっていた。暴力の下にいると、それぐらい人の感性が殺されてしまう。
(夫の暴力から逃れて)初めて自分らしさや好きなものがわかってきた。自分の人生を楽しみ始めた、というのかな。
暴力は人の人権や尊厳を踏みにじります。暴力によるコントロールは、(相手の)人権を踏みにじらないとコントロールできません。

――力を取り戻せたのは大きいですね。

山崎さん: 大きい。
私はDV被害者の相談を受けているんですが、すばらしい能力を持った人がいっぱいいるんですよ。暴力下にあるから、自分を卑下してしまったり気持ちが潰れていて、体が動かない。「暴力から解放されれば、この人はどんなに輝くだろう」という人がたくさんいるんです。
「暴力から離れれば、あなたはあなたらしく輝くことできるよ」と伝えたいです。

DV防止制度の現状と展望

――2001年にDV防止法が成立しましたが、そのときの気持ちはどうでしたか。

山崎さん: うれしかったです。「やった」と思いました。「夫婦げんか」や「痴話げんか」だといわれていたのが、法律ができたことで(保護の対象として)社会的に認められたと思いました。
行政と警察の対応がすばらしく違ったんですよ。警察に「捜索願いは受理しないでください」と言ったら、捜索願いを受理しません。行政でも、DV被害者ということでシェルターに入った場合には、出身地の生活保護が受けられる。生活保護を受けたとしても、夫には扶養照会しない。システムが変わりました。

――DV防止法ができて、配偶者などの暴力に関する行政への相談件数も増えています。どのように捉えたらいいですか。

山崎さん: (相談件数が増えて)右肩上がりになっていることはつまり、DVが社会的に認知されてきたと思っているんです。
私のように暴力を受けていても暴力と感じなかった人が、法律ができて、ポスターなどいろいろな広報で啓発され、「もしかして私はDVを受けているのかもしれない」と気付くようになったんだと思うんです。

――避難してから13年後の2010年、自分を救ってくれた人権保護団体「女のスペース・おん」の代表になられますが、代表になったときはどんな気持ちでしたか。

山崎さん: 「よし頑張る」しかなかったですね。自分の当事者としての経験と、当事者としての経験に基づく実際の現場支援。そして、法律ができたところを自分で見た経験から、制度の改革と現場支援との両輪でやっていきたいと感じました。

――代表になってから10年ですが、DV被害の女性を取り巻く環境はどのように変化していますか。

山崎さん: やっとできたDV防止法ですが、被害者が仕事を辞めて逃げなきゃいけない、被害者が逃げ隠れしなきゃいけない、子どもが学校を転校しなきゃいけない…という被害者に対して不利益なことをせざるをえない、それで命を守らなきゃいけない法律です。
欠けているのは加害者対応であることは確かだと思うんです。加害者をなんとかしないといけない。
被害者が逃げ隠れするのではなく、加害者がちゃんと処罰され、被害者に近づかないように加害者を規制することが大切だと思います。

そこが決定的に今のDV防止法に欠けているところだと思います。「自分がやったことは暴力で犯罪なんだ」と加害者がきちんと認められるように、強制力を伴って気付きを教育させることが必要だと思うんです。
加害者は、自分が加害者だとは思っていない。私たちは加害者だと言っているけれど、自分では被害者だと思っている。「DVを偽られて、俺はDV加害者にされてしまった。おまけに子どもを連れ去られてしまった。自分は被害者だ」と言っているんです。
加害者は暴力だと思っていない。「妻が怒らせるからしょうがない」とか、しつけだと思っているので、加害者には加害者意識がないんです。
よほどの事情がないと、(妻は)子どもを連れて家を出ませんよ。「家庭を持って幸せにやっていこう」と思っていた女性が、経済的にも不安な中でも子どもを連れて逃げていくのは、よほどのことなんですよ。
それを理解できない。自分が何をしたのかがわからない。加害者プログラムは、その気付きのためには必要だと思います。そうじゃないと(教育プログラムがないと)、加害者は変わっていかない。

おびえて暮らす人たちに、支えとなることばを

――山崎さんは、被害を受けている人や逃げている人に対して、どんな存在になりたいと思われますか。

山崎さん: 「あなたは暴力から逃れれば、あなたらしく生きていけるよ。才能も発揮できるよ。自由になれるよ」ということを言いたいです。「あなたを守る法律も制度もあるし、一緒に考えていく支援者もいる」ということを伝えたいと思います。
暴力は犯罪です。あなたは悪くないですよ。(暴力を)振るわれている人が「自分が悪い」と思って自分を責めないでもいい、ということですし、つらさを持ち寄って力にしていきましょう、ということを言いたいです。

高校などでの講演では、子どもたちには、「対等な関係であれば、暴力は生まれない」という話をしています。
殴る蹴るじゃなくても、「束縛が厳しいな」「ちょっと嫌だな」と感じたら、もしかしたら暴力かもしれない。そういうときはちゃんと誰かに相談しよう。相談すれば、そこを突破口にいろんなところに道が開けていく。どんなことがあっても相談がまず大事だよ、ということは若い人たちに伝えたい。
暴力は、振るう側の問題であって、暴力ではない解決方法を探すのがよい人間関係を作っていく道なんだよ、ということを伝えています。

――「女のスペース・おん」の「痛みを力に」ということばは、山崎さんの人生と重なる気がします。その合言葉をどのように受けとめて、どのような決意でこれから活動していきたいと思われますか。

山崎さん: 痛みを抱えている人たちがその痛みを持ち寄って、「その痛みはどうして起こっているのか」「どうしたら解決できるのか」を考えると、大きな力になって社会を変えていけるんじゃないか、と思います。
暴力のない社会、支配する人と支配される人のいない社会。それが理想です。
「暴力を受けているあなたは悪くない」。まずそれが大事ですね。「暴力は振るう側の問題。だから相談しましょう」ということです。
あなたは独りじゃない。相談機関はいっぱいあるし、電話のハードルが高かったらSNSでもいい。とにかくどこかに相談してください、と言いたいです。

■DV 「暴力を受けているあなたは悪くない」 おわり


<DV 「暴力を受けているあなたは悪くない」 ①>

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