絵本作家・荒井良二さん「うまれたての春ですよ」 前編 人も本も旅人気分で

22/05/05まで

ラジオ深夜便

放送日:2022/03/11

#インタビュー#絵本#コロナウイルス

絵本作家・荒井良二さんは、1956年山形県のお生まれで65歳。絵本・イラストレーション・小説の挿画・舞台美術・アニメーションなど、幅広い分野で活躍していらっしゃいます。2005年には、児童文学のノーベル賞といわれるアストリッド・リンドグレーン記念児童文学賞を日本人として初めて受賞。今年2022年には、国際アンデルセン賞画家賞の最終候補にノミネートされました。
東北出身の荒井さんは、これまでも震災を経験した人たちの心に寄り添う作品を発表してきましたが、3月、2年ぶりに1冊の絵本を出版しました。震災を経験した人々へ、そしてコロナ禍の長い冬を感じている人々へ、春を届ける絵本を作りたいという思いで取り組んだ作品です。荒井良二さんに伺いました。(聞き手・村上里和アンカー)


【出演者】
荒井:荒井良二さん(絵本作家)

玄関のドア一つで小さな旅

――荒井良二さんにスタジオにお越しいただきました。荒井さん、どうぞよろしくお願いします。

荒井: よろしくお願いします。お久しぶりです。

――お久しぶりでございます。きょうも身軽な旅人のような、風に吹かれてクルクルッとなった髪の毛にリュックサック、そして、やはりスニーカーでいらっしゃいますね。

荒井: ははは、そうです。

――荒井さんの周りには、外の風がついてきているような感じがします。

荒井: ははは。なんかよく、「又三郎みたいだね」みたいなこと言われますよ。そんなすてきな人ではないんだけどなあ。さっと来てさっと去っていくみたいな感じがあるみたいで。

――荒井さんの、旅人感覚を大事にした日常生活は、お変わりないですか。

荒井: 変わりないです。少し家にいる時間が長くなったぐらいで、基本的には制作する時間も変わりないし。ただ外に出る仕事がなくなったり延期したりとかはあったんですけど、絵を描くことに関しては何も変わりなく、ずーっと旅しながら描いてるなあっていう感覚、家にいながらね、それは変わらず持ってます。

僕としては、玄関のドア一つで、「よし、小さな旅に出るぞ」っていう感覚になるのがすごくうれしいですね。やっぱり実際に風に当たれば匂いもあるし、外に出て見る風景は全然違うんだなっていうのがわかりますよね。風景を体で感じてるんだなっていうのが、表に出るとすごくよくわかります。

――旅人の感覚って、コロナ禍の今だからこそ、すごく大事だなと思います。

荒井: うんうん、そうかもしんないね。やっぱり、想像力というものを駆使しないといけないなっていうのを再確認した気もするし、つまり家にいながらの旅の感覚というのは、想像力を使わないと楽しめないんだなっていうのに、気づかれた人も多いんじゃないのかなと思いますよね。

コロナ禍ならではの「芸術祭」

――それまで子どもたちと一緒にワークショップを行っていた荒井さんですが、それができなくなったということで、2020年に、自宅のポストに郵送するワークショップというのをなさったんですね。

荒井: そうそう。『POSTじゃあにぃ』っていう、本というか紙のアートキットを作ったんです。大々的にたくさん作ったわけではなくて1000部しか作ってないから、全国津々浦々とはいかないですけど、欲しいという方だけに届けるっていうものを作りました。

――自宅にいる子どもやその家族が、ワークショップができるいろんな仕掛けが入っていて、それが家に届くという。

荒井: そうそう。山形ビエンナーレをつくった連中が集まって、みんな子どもがいる家庭を持っているので、コロナの状況で「子どもたちはどうしてる?」みたいな感じから始まったんですけど、「じゃあ、自宅に届くっていうのはどう?」って。子どもたちは家にいる時間が長くて、郵便物、つまりポストを気にしてるっていうことが共通項としてあったので。

――そうなんですか。

荒井: そうそう。何だか知らないけど、退屈っていう理由もあるのかもしれませんが、ポストを見て「何か届いてないかなあ」とかいうのが同じだねえって。それからみんなで発想したんです、「じゃあ、届けるものを作ろうか」って。

――届いて、喜んで、そこからまた世界を広げて。

荒井: うん。僕ら本当に半分笑い話で、「郵便物を届ける芸術祭みたいなことをやろうか」って話だったんです。届いて、それでコミュニケーションがとれるようなことができないかっていう発想から生まれたんですけど。それで家の中のあるコーナーを、実際に美術館にしてもらったらどうだろうっていう発想だったんです。

――それもおもしろいですねえ。

荒井: そうそう。「ここ?」みたいな小さい壁の一面。その一部分だけが「私の展示」みたいなものができたらいいよねって。それで写真撮って送ってもらったりすると楽しいよねっていう、それが始まりだった気がします。

――今の状況で何か楽しみを見つけようというのは、いつも考えてらっしゃるんですか。

荒井: そうですね。でも子どもは、道具がなくても見立てるのが上手じゃないですか。だからほっといても別に遊べる人たちなんですよね。子どもって発明家ですからね、ある意味。

――何かきっかけが与えられると、どんどん想像が広がっていくことがありますね。

荒井: 自分たちでルールなんか決めるし、そういう能力、能力っていうか、環境に適応する遊びの天才というか、そういう人たちですよね。

自分が作った本も“旅人”

――荒井さんは2020年に、『こどもたちは まっている』 という本を出されて話題になりました。

荒井:
そうなんですよ。出たのが6月といっても、パンデミックとかそういう言葉が踊ってて、耳にしたり目にしたりする時期だったんですが、『こどもたちは まっている』っていうのは、何となく自宅待機しているような環境を含めて作ったのかなと思われがちで躊躇(ちゅうちょ)しましたけれども、全然そういう意味じゃなかったんです。

――絵本の企画は、もっと前からあったわけですものね。

荒井: そうです。でもどういうふうにとられても、1回表現したものはご自由につきあってもらってかまわないので、そこは別に何とも思わないようにしようと。

――その作品からおよそ2年、今回、新しい絵本が生まれました。『はっぴーなっつ』、ですか。

荒井: (タイトルが)ややこしいよね。『こどもたちは まっている』は、長新太というすばらしい絵本作家・絵本画家に捧げたというふうになっていますが、これも「捧げる」というと大げさなんですけど、スヌーピーの(作家の)、(チャールズ・ M・)シュルツに捧げるというかたちの本になりました。

――それでタイトルに「ピーナッツ」が入ってるんですね。

荒井: うん。ピーナッツは『ピーナッツ』で本家本元があるので、僕的なピーナッツへのリスペクトとして、どんなピーナッツかというとハッピーなピーナッツにしたいなと思って。ダジャレもダジャレなんですけど(笑)、ハッピーなピーナッツという意味合いでリスペクト本を作ったつもりです。

――私たちの目の前には、きょう本当に……

荒井: できたばかりの! ねえ。インクの匂いがプンとして。大好きなんですよ、最初の本って。

――びっくりしました。本当に印刷所の匂いがページをめくるとするんだなあと思って。

荒井: できあがりのパン、みたいな(笑)。

――できたての本なんですねえ。こうやって、できあがった本を初めて手に取ったときの気持ちって、どうですか。

荒井: なんかもう、自分の手を離れたものというふうに感じます、一番最初に本を開くときって。だから「よろしくお願いします。荒井良二と申します」みたいな感じで挨拶したりします。「はじめまして」じゃないですけど、「ああ、これから旅に出る人なんだなあ」っていう。これから本はいろんなところに運ばれて、旅に行く人なんだなあという感じで相対しますけどね。自分が作ったものだけど、どこかもう、よその人みたいな感覚がありますよ。

――これから旅をするんですね、全国へ、世界へ。

荒井: そうなんですよ。

――「旅人なんだ!」っていうのに気がつきました。

荒井: うん。旅支度がきちんとできてるなという感じがして、こっちもなんか、居ずまい正さないといけないなっていう感じになります。

ラジオみたいな、声の絵本

――『はっぴーなっつ』、リスナーの皆さんに、どんな絵本なのかお伝えしたいと思いますが。

荒井: どうしてシュルツさんに捧げると意識して作ったかというと、私が小学生の上級生のころだったか、家にあったんですよ。僕、3人きょうだいの末っ子で長男がちょっと離れているので、大人の雑誌や絵本がたくさんあったの。映画雑誌とかレコードもあって、全部お兄ちゃんのもので遊んでいた環境だったんです。その中に、チャーリー・ブラウンやスヌーピーが出てくる『ピーナッツ』という本があって、何だかわからないけどかっこよかったんです。たたずまいと、ペンで描かれた漫画が何か引っかかるものがあって、「これはただ者じゃないぞ!」っていう。そりゃそうだ(笑)。

そう思ったのが小学校の上級生のころだった気がしますけど、内容的には、どこで笑ったらいいのかわからない漫画で、さっぱりわかんなかったんです。でも何かかっこいいなと、それが。わかる人にはわかる、みたいな。ゲラゲラ笑う漫画じゃないんだっていうのがわかって、その「間」というかコマの使い方、それが妙に自分にマッチしたというか、そんな感じだったんでしょうね。すてきだとかかっこいいとか思うのは、内容よりも、間。コマとコマのあいだの白い空間で読み取るみたいな、そのやり方が、すごくかっこいいなと思ったんですよね。

文字も「本当に書いてんの?」っていうくらい上手で、「上手」って言い方、失礼ですよね(笑)。とにかくデザインされてて、絵と字がすごくマッチしてるんです。

――この英語の文字は、シュルツさんが書いてるんですか。

荒井: そうです。

――手書きなんですね。

荒井: シュルツさんは字を書くのも好きだったらしい。字も絵のうちだから、人に任せらんないんだよね、きっと。

いつかこういう、漫画じゃない、漫画を超えたところの何かを作れたらいいなっていうのが、ずーっとあったわけよ、何年も。それでたまたま機会があって、この本が生まれたんです。だからこれは漫画でもないし、絵本でもない、っていう言い方は変ですけど、その中間みたいな、漫画と絵本の中間みたいなものを作れないかなと思ってチャレンジしました。

おもしろいのが、漫画って吹き出しがあるじゃないですか。吹き出しがあると、僕、すごく安心感があるんだよね。「この人は、こう言ってるんだな」っていう安心感。

――確かに、声になって聞こえてくるというか……。

荒井: そうそうそう。

――言葉として。

荒井: そうそう。読む文章じゃなくて、語ってくれている言葉。それが、吹き出しの最大の魅力。だから、ラジオみたいなもんじゃないですか。

――あっ、ほんとですね!

荒井: そうそう。

――語り、声という意味では、共通するものが。

荒井: そうそうそう。だから全部、主人公が語っている言葉なんですよね。いわゆる物語の地語りのようなスタイルはとっていないので、全部語りなんですよね。声なんです。

――中をちょっとだけ説明すると、コマ割りの白黒画面で展開するページがあって、そのあと、荒井さんの絵が色つきでバーンと広がるページもあり……。

荒井: 広がるんですが、そこの中にも吹き出しがあって、「これは漫画だよ」っていうサインがしてある。しかもこれは季節、春夏秋冬の1年間をつづったものになっています。

――春から始まっていますよね。

荒井: そうそう。まあ、この「子」、って言っても、この子が猫みたいな……

――そうなんです、女の子なんです。黄色いワンピースを着て、でも猫の耳があって尻尾もあります。

荒井: だからこの子は一体猫なのか人なのか。スヌーピーは犬なので、チャーリー・ブラウンとスヌーピーの猫版が一緒になったというかたちで、じゃあ僕は猫で、と。「なぜこんな格好してんの?」とか、あまりとがめることなく、「いろんな人、いるよね」っていうことも含めて、つきあってほしいなと思います。

――この女の子の語りを、皆さんに聞いてもらいましょう。

荒井: そうですね、では春バージョンを。春から始まるんですけどね。いいですか。

――はい。

荒井良二『はっぴーなっつ』

わたしの みみは ときどき とおくへ 
たびをするんだよ・・・・
ほんとだよ・・・・・
あさ はやくに ベッドのなかで
みみを すますの・・・・・
ただ・・・・ それだけ! 

さいしょに うれしそうな 
とりのこえが 
きこえてきてね・・・・
つぎに やさしい かぜの
おとが するわ・・・・
だんだん あかるくなる
そらのおとも 
きこえるみたい!

まだ さむいから だれかが てに 
いきを ふきかける フゥ フゥ っていう 
おとが してね・・・・
そして なにかを はいたつしてる 
おとが する・・・・・

わたしのみみは たびにでて
いろんな おとを 
とどけてくれる・・・・・

バスが はしりだす おとがして・・・・
きょう さいしょのボートが うごきだす・・・
さかなが ピョンと 
とびはねて
ミツバチが とんで
リスが きのぼりする おとがして・・・・

それから それから・・・・
もりのなかで なにかの
あたらしい め がでてね・・・・
きのうえで なにかのたまごが 
うごいてね・・・・
なんだか いまにも 
うまれそう・・・・・・!

のんびり 
のんびり・・・・
いそがしく・・・・

のんびり
のんびり・・・・ 
いそがしく・・・・

さんぽのいぬが あくびをしてね
ねこも やっぱり あくびを してね
みんな みんな 
あくびを・・・・
してる・・・・・
まどが あいて・・・・
カーテンが クスクス わらって・・・・・

たびを してきた わたしのみみは・・・
おはよう! 春ですよ!って
めを ひらかせてくれるわ!

うまれたての 春ですよ!って

――ありがとうございます!

荒井: ここまでが春バージョンで、めくるとすぐ夏バージョンに入っちゃうんですけど。お休みがなく、季節は続いているので(笑)。

――パッと開いた最後の「うまれたての 春ですよ!」というページは、見開きで。

荒井: そうですね。絵本的な展開ですけど。

――こぼれ落ちてます、光が! すてきです。ベッドの中にいても耳だけでも旅に行ける、っていうこの始まり方、「たびを してきた わたしのみみ」が、「めを ひらかせてくれる」、とっても新鮮でした。

荒井: うんうん。目覚めたときって、外の音が聞こえたりするじゃないですか。そういう感覚を取り入れたいなと思って。目覚めると、一番近い音から感知していくのかな、みたいな。部屋の中にいてまだカーテンも開けてないのに、「きょうは晴れてるかな。どんな空かな」とか思いをはせると、いろんな音がもっともっと聞こえてくるんじゃないかなということを、たぶん表現したかったんだと思います。

【放送】
2022/03/11 ラジオ深夜便 「明日へのことば」 荒井良二さん(絵本作家)


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