内田也哉子 娘として母として考える家族のカタチ(後編)

21/08/09まで

ラジオ深夜便

放送日:2021/06/25

#子育て#家族#コミュニケーション#インタビュー#絵本

エッセイストの内田也哉子さんは、俳優の樹木希林さん、ミュージシャンの内田裕也さんの一人娘です。日本・アメリカ・スイス・フランスで学び19歳で俳優の本木雅弘さんと結婚。3人のお子さんを育てながらエッセイの執筆や翻訳、作詞、ナレーション、音楽活動など多方面で活躍されています。子どものころ絵本が身近にあったことで今に生かされていると語る内田さん。後編では、内田さんが翻訳をした絵本についてお伺いします。(聞き手・村上里和アンカー)

【出演者】
内田:内田也哉子さん(エッセイスト)

絵本はシンプルだからこそ世界が広がる

――絵本のお話も聞きたいと楽しみにしていました。
私の手元に『大切なこと』というアメリカの絵本作家マーガレット・ワイズ・ブラウンの絵本があるんですけど、これ大好きで…!! 「うちだややこ訳」というのにある日気づいて、「えっ、これってあの内田也哉子さん!?」とびっくりしました。日本では2001年に出版されていて、このとき也哉子さんは25歳というとても若い年齢で。この本のどんなところが、当時の也哉子さんに響いていたんですか?

内田: この絵本自体が既にその時点で、半世紀ぐらい経っていたのかな? アメリカではもう本当に定番中の定番で。

――1949年にアメリカで出版された本です。

内田: そうですね。だから日本で訳されてなかったことが不思議なんですけど、とてもシンプルなことを、もう一度気づかせてくれる。一つ一つの物事の大切なところってここだよねっていう、子どもに向けた絵本なんですけど、大人が読んでも忘れてたものにハッと気づかせてもらえます。例えば、谷川俊太郎さんや荒井良二さんと対談した機会に「この絵本、実は僕も大好きな絵本で、とられた~!」と言われて(笑)。大好きな作家さんお2人がそれぞれおっしゃってくださって、うれしかったんですね。だから運命的な絵本ですね。

――也哉子さんとこの世界を結び付けた絵本なんですね。也哉子さんは先ほど子どものころは、おもちゃはなかったけど絵本が身近にあったって、おっしゃっていましたね。

内田: 本当に唯一あった、子どものころからの私のオアシスですよね。だからそのことの濃さが大人になってからもずっと、この世界で遊ばせてもらえてるっていう。母は狙ってはいなかったんでしょうけど、結果、何もなかったということが、こういうふうに生かされた1つの例ですね(笑)。

――也哉子さんにとって子どものころ大好きだった絵本の記憶や絵本で過ごした時間というのは、今の也哉子さんのどんな部分を作っていますか?

内田: それは考えたことがなかった(笑)。あまりにも空気のように存在しているので。空気だからこそなくてはならないものだし、子どもたちが幼いころは毎日、自分が楽しいから読み聞かせをして、私が好きな1冊と子どもがそれぞれ1冊ずつ選んで、3冊みんなで読んで寝るというのが習慣でした。唯一そのひとときが、心の交流ができるというか、彼らが選んだ絵本から今の心模様がなんとなく見えてきますし、ただただ楽しくて読んでたんですけど、そんな部分もありましたね。

絵本は私にとっては詩みたいなもので、基本的には少ないことばの中で表現されるので、ことばとことばの間に、間がありますよね。そういう、すべてを説明し尽くされていないシンプルな世界観だからこそ、自分の中の心を投影したときに、世界が広がるっていう感覚があります。空想好きだったんですね、子どものころ。だから絵本の少ないことばと絵の醸し出す世界観の中で泳いでいる感じがして。大人になってからはどちらかというと、ある種哲学的な絵本もありますし、ことばあそびがとても音楽のように心地よいものもありますし。一口に絵本といってもいろんな関わり方があるんだな、深い世界だなって思いますね。

――也哉子さん自身は自分の文章、詩を生み出したり、翻訳されるときなどは、どんなことを大切に意識しているんですか?

内田: まず私はことばの響き、日本語に直す場合は日本語の響きをとても大切にしている気がしますね。そこから、彫刻みたいにそぎ落として、最後に輪郭ができていく…。どうやってるんでしょうね、そんなイメージですけど(笑)。
いっぱい盛りつけていくのはわりと簡単なんですけど、本当にそぎ落としていったときに残るものって、何なんだろうっていう興味がね。だから詩人と詩っていうものにとても憧れがあります。でもそれはやっぱり絵本も詩に通ずるところがあると思っているので、簡素化されたものの中に、いろんな人生の真理が詰まってるように思える瞬間があるっていう感じですね。

「世界中のお母さん、あなたがあなたでありがとう」

――きょうのお話の締めくくりに、也哉子さんに、ご自身の文章の朗読をお願いしています。2021年4月に出た絵本で『ママン-世界中の母の気持ち-』という絵本です。

『ママン-世界中の母のきもち-』
作:エレーヌ・デルフォルジュ 絵:カンタン・グレバン 訳:内田也哉子
パイ インターナショナル

内田: ベルギーの作家さんが作られた絵本です。最初におもしろいなと思ったのは、私自身が忘れてしまっていたのですが、「お母さん」という肩書があっても、みんな一人一人違う人間。当たり前なんだけども、お母さんってついた途端に、ちゃんとしたお母さんっていうイメージができてしまう。だけどこの絵本の中では、世界中のいろんな立場の女性が子どもを育てる、あるいは育てられないということも含めて、オブラートに包まずちょっと詩的に描かれているので、これは多分大人向けの絵本だと思います。すごくページ数も多いので抜粋して読んでみますね。

「子どもはおまえたちのものではなく
生命の源から生まれた存在。
彼らはおまえたちが迎えた閃光なのだ」

世代から世代へ
スー族の母たちはこのメッセージを受け継いできた。
でも私にとって、それはまったく新しいことだった。
やがて、あなたたちが私の息子でも、
私の娘でもないことに気づいたの。
あなたたちはそれぞれに、れっきとしたひとりの人間よ。
でも、もしあなたたちさえよければ、
私はずっと「あなたたちの」お母さんでいたいな。

内田: そして、あとがきを書いたので読んでみます。

 時折、ラッシュアワーの人混みを眺めていると、そこにいる老若男女すべての人が、それぞれの母親から生まれたという事実にしばし呆然としてしまいます。そして、当然のことですが、初めから「お母さん」である女性は誰ひとりいません。血のつながりがあろうと、なかろうと、この世に生まれてきた子どもと何かを共有し、心を通わせるところから母親は、はじめの一歩を踏み出します。きっと、子を育てる世の女性たちは、繰り返される日々の中で、転んだり、ぶつかったり、試行錯誤して、いつしか母になるのでしょう。

 私自身もそうですが、3人の子を持つ身としても、いまだに彼らの母としての自覚と自信が持てません。一体いつになれば、胸を張って「私は母親です」と言い切れる日が来るのでしょう……正直、半信半疑です。

 この絵本は、あらゆる立場や状況にいる世界中の女性たちが、その自ら抱く母親像への憧れや迷い、希望や苦悩をありのままに映し出しています。

「ママン」「お母さん」という言葉の響きに象徴される、どこか温かく強くしなやかな女性像と、現実に一人ひとりの女性が抱える子育てのもどかしさには多かれ少なかれギャップがあると思います。だからこそ、きっと、その折り合いをつけようと、母親として自問自答しながら前に進むのです。

 やがて、すべてのページをめくり終えると、体中の力が抜けていることに気がつきます。世界中の母親が、一人ひとり違っていて、そのどれもが「お母さん」なのだと。誰ひとりとして同じ人間がこの世に存在しないように、母親だってそれぞれの鮮やかな色彩があります。

 ときには、自分が人と違うことに不安を覚えるかもしれません。けれどもその違いこそが、世の中がおもしろくなる醍醐味ではないでしょうか。「母」という肩書きにふりまわされることなく、その前に、ひとりの人間だということを忘れず、「こうでなければ」よりも、「私はこうありたい」を見つける方が、ゆったりと深呼吸できる気がしてなりません。

 だからこそ、心の底から思うのです。
 「世界中のお母さん、あなたがあなたでありがとう」

 そして、もちろん、忘れてはならないその存在……
 「世界中のお父さん、あなたがあなたでありがとう」と。



内田也哉子

――どうもありがとうございました。本当にまさしく也哉子さんから、世界中のママ・パパへのメッセージですね。

内田: ありがとうございます。

――最後に也哉子さんが、まだまだこれから長い人生を歩んでいかれるときに、これから道しるべになるものはなんでしょうか?

内田: ここまでは、母や父から自分が育っていく中でたくさんのものを受け取ったり、教えてもらってここまで成長しました。そして今度は自分の家庭を築いて子どもたちからたくさんのことを学んで、栄養をたくさん蓄えてきた気がするんですね。
母がちょうど亡くなる前に教えてくれたんですけど、「もうそろそろあなたは、誰かのためになることを、そんな大勢の人じゃなくていいから、誰かの役に立てることは何なのかを見つけて、少しお返ししていけるといいね」って言ってくれて、本当にそのとおりだと思うので、どんなささやかなことでも、隣の人がうれしくなるようなとか、少し緊張してた心がほぐれるようなこととか、何ができるかわからないですけど、そんな目の向け方をしながら生きていけたら、もっともっと自分自身も、豊かになれるだろうなと思います。自分のことにばかりではなく、少しお裾分けができるように、「それは何なんだろう?」っていうのを考えながら、いろんな人に出会っていきたいなと思います。

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2021/06/25 ラジオ深夜便 「ママ深夜便☆ことばの贈りもの」 内田也哉子さん(エッセイスト)


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