【アフロ記者】残りの人生「約束したからには、約束を果たす」

23/10/21まで

ラジオ深夜便

放送日:2023/09/14

#アフロ記者#ライフスタイル

暮らしを豊かにする達人たちにお話を伺う「ライフスタイル 令和つれづれ草」。アフロヘアーがトレードマークの元新聞記者・稲垣えみ子さん。今回は4か月ぶりにポートランドへ行ったときのお話。2回目で得た、新たな収穫とは?(聞き手・村上里和アンカー)

【出演者】
稲垣:稲垣えみ子さん(元新聞記者)

口約束を有言実行! 再びポートランドへ

――きょうのお話は?

稲垣:
きょうは、ちょっと楽しいお話をしようと思います。4月にアメリカのポートランドから、「令和つれづれ草」初の海外生中継をしましたが、実は8月に、またポートランドに行きまして。

――「また行きたい」と、あのときもおっしゃっていましたが、本当に行かれたのですね。

稲垣:
4か月ぶりなので、まあまあすぐに。
しかも同じ家に泊まり、同じ近所のカフェに通い、同じスーパーに通い、同じ図書館に通うという、基本的にこの前と同じ自炊生活を。特にこれといった観光地にも行きませんでした。

――日本と同じ生活を、そのままポートランドでも。

稲垣:
海外に親戚がいる場合は、同じ場所に行くことはありますけど、そういうことでもないのに、なぜわざわざ同じ場所に行ったのかというと、前回、大家さんやカフェの店員の女の子と親しくなって、会話として「またぜひ来てね」「また行きます」みたいな会話ってするじゃないですか? そういうのって、うそとはいいませんけど、実際に本当に行くかというと、社交辞令で行かないことが9割ぐらいあるじゃないですか?

私、ふと思いまして、そういうのはやめたいなと。もうすぐ還暦ですし、これから人生の残り時間が着々と減っていくことを考えると、このまま同じペースでいくと果たさなかった山のような約束を抱えて死ぬことになるなと。いい成仏できなさそうな気がして、できる範囲で"約束したからには、約束を果たす"というのに切り替えたいなと思いました。なので、最新の口約束を果たしに行ったということです。

――最新の口約束から果たしにかかったということなんですね。

稲垣:
昔の口約束は、忘れてますからね(笑)。

――言ったときは「本当に行きたい」「もう一度会いたい」と思っているはずなのに、「いつかこのあと時間があるだろう」と思っていると、「いつか」が来ないですよね。

稲垣:
なかなか来ないですよね。ほかにやりたいことがあったりとか、いろんな優先順位の中で、振り落とされちゃうんですよね。

――それを果たしに行ったのですね。

稲垣:
ちょっとずつでも、そういうことを増やそうと思って行ったのですが、リスクもあって、口約束なので相手の本気の度合いもわからないじゃないですか? 「こいつ本当に来たよ」みたいな感じになってしまって、気持ち悪がられてしまうのではないかと。

――そんな不安を持っていらっしゃったのですね。

稲垣:
そういう心配をするタイプなんです。気が小さい。
あともうひとつは、これも結構深刻なリスクなんですけど、大好きになった場所って、2回目に行くと感激が薄れてしまうことってあると思うんですよ。1回目は、海外だと特に不安ですし、一生懸命いいところを探そうと思ってキョロキョロして、いいところが見つかると感動するというのがあると思うんです。2回目になると、いろんなことが当たり前になってしまって、新鮮味がなくなるのもありますし、期待値が高いぶん、逆に失望することもあるのではないかという心配をして、約束を果たすのも楽じゃないなと。

――稲垣さん、繊細!

稲垣:
結構くよくよするタイプなんです。それでも、いい成仏のために思い切って行ってみようと。自分がどうやって頑張るのかを見てみたいなと思って行ってきました。
結果は、まず第1の心配、「相手がどれだけ本気なのかわからない」に関しては、取り越し苦労ですごく喜んでくださって、良かったです。ここで失敗したらかなりダメージが大きいですし。

――4か月しかたってなかったから、相手の「また来てね」という本気度もずっと続いていたのですね。

稲垣:
それもあると思います。
大家さんも一家総出で出迎えてくださって。前に小学校1年生の男の子にピアノの音階をちょっとだけ教えたのですが、その子が私の顔を見るなり、「見て見て!」みたいな感じで「これ教えてもらったやつだよ」とか話してくれたりして、アメリカの子どもはしゃれたことをしますよね。

――ピアノでお出迎えしてくれたのですね(笑)。

稲垣:
やっぱりアメリカは、エンターテインメントの国だなと。
あとカフェも、お客さんも多いから「覚えているのかな?」と思いましたが、列に並んでいたら、私のことを発見してくれて、ぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでくれて。いつもカフェラテを頼むのですが、それもちゃんと覚えていてくれて、「きょうのラテは私が作るから!」みたいな感じで。「来てね」というのが、本気だったんだなと思って。

――ポートランドの皆さん、温かい。

稲垣:
親切だと思います。怪しい東洋人を気にかけてくださって。
スーパーのレジの方も、大きいスーパーなので交代はしますが、前もほとんど毎日行ってましたし、2回目も毎日行ったら、同じ人に会うんですよ。そうすると、そこはかとなく覚えてくださっていて、親しみのある感じで接してくださいます。ちょっと常連っぽい感じで扱ってくださるというか、親しみがだいぶ増した感じがありました。

――稲垣さんのアフロヘアと、ニコニコした表情でまた来たら、やっぱりうれしくなると思います。

稲垣:
でも私、英語もできないですし、まごまごした客なんですけど、そういうのをものともせず、げたを履かせて見てくださる方が多くて助かりました。

やっぱり人間は"言葉じゃない、態度"だなと。何回も行くというのは、そこが好きだということを伝える、一番誠実な方法だと思いました。心を開いてくださることは、態度によってだなと。英語ができないことは非常にコンプレックスですが、全然大丈夫。少なくともポートランドにおいては、という結論を得ましたね。

――2回目に行って、そういうことを知ることができて収穫でしたね。

稲垣:
2つ目の心配の「感激が薄れるのではないか」ですが、たしかにこの心配は、まあまあ当たってます。いろんなことがスムーズにいきますが、苦労がないぶん、もの足りない感じがあって。新しいこともしようと思って、自転車を大家さんから借りて中心部まで行ってみたりとか、バスにも乗ってみたり、いろいろやってみて楽しかったのですが、「私がやりたいことはこれじゃないな」と思って。人と関わりたいんですよね。

ですが、うまく歯車がかみ合わなかったことがありまして、2回目だから1回目よりスマートにやりたい気持ちや、かっこつけたいところがあって。例えば会話。会話と言っても挨拶ですが、アメリカの人って必ず「ハーワーユー?」って言います。私の世代、学校で習ったことで言えば、「ファイン センキュー」じゃないですか?

――習いましたよね(笑)。

稲垣:
どうも違う感じがして調べたら、「ハーワーユー?」は「ハロー」と同じ感じなんですよね。「『ファイン』はアメリカ人は誰も使わない」と書いてあって、せめて「グッド」とか、「プリティ グッド」などを言えと書いてあって、心の中で準備して言おうとしたら「ハーワーユー」じゃなくて、「ハーワーユードゥーイング」と言われて固まっちゃって。考えてみたら「ハーワーユー」と同じことですよね? 「ドゥーイング」って言われた瞬間、注文の品か何かと変なこと考えて、いきなり挨拶もそこそこに注文したりして。だからそういうのやめようと思って、相手が言ってることをちゃんと聞いて、「ファイン」でもいいからちゃんと答えようと思いました。自分がかっこつけようとすると、相手のいうことを聞かなくなっちゃうんですよね。

――「言うぞ言うぞ」の気持ちが前に出て。

稲垣:
から回りが多くて、「ファイン」と「サンキュー」でいいやと。そしたらかみ合ってきて、そのほうが全然よかったのです。かっこつけちゃダメだなと思いましたね。お金も払い方も、カードだとスマートに払えますが、「カードが使えなかったら」の恐怖もあって現金も使うのですが、アメリカは小銭の使い方が難しくて、小銭でまごまごしたくないために、お札で払って小銭だらけになってしまいまして。これも恥ずかしがっちゃいけないと思って、小銭の数え方も一生懸命家で勉強して、お店で小銭を並べて、「これでオッケー?」と聞いたら、「オッケー、パーフェクト!」と言ってくれて。だから、かっこつけてはいけないと学びまして、その教訓を胸に、新しい店も開拓しようと思って近所のビアバーに行き、一人飲みデビューもしました。

――うまくいきましたか?

稲垣:
アメリカはチップが難しいじゃないですか? 酒場のチップの払い方が全然わからないと思って。でも結局それも聞けばいいやと思って、お金を払うときに「チップはどうしたら?」と。チップって本当は、スマートに払わなきゃいけないですけど、直球で聞きました。そしたら「チップくれるの? ありがとう!」みたいな感じで丸く収まって。これで良かったんだなと思いましたね。

――いろいろな収穫があったようですね。

稲垣:
小さな収穫ですけど、ひと回り成長して帰って来られた旅行でございました。

――有言実行で2度目に行ったというお話を聞けて楽しかったです。

稲垣:
個人的には冒険として行ってよかったなと思いました。


【放送】
2023/09/14 「ラジオ深夜便」

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