柚木沙弥郎さん「100歳になるボクが伝えたいこと」後編

22/06/08まで

ラジオ深夜便

放送日:2022/04/14

#インタビュー#アート#ライフスタイル

大学時代に学徒動員、戦争の時代を生きてきた柚木沙弥郎(ゆのきさみろう)さん。自由な時代を生きる私たちへ伝えたいことは「何のために生きているのか」を考えること。今年100歳を迎えられる染色家・柚木沙弥郎さんからのバトンです。(聞き手・村上里和アンカー)

【出演者】
柚木:柚木沙弥郎さん(染色家)

人生最高の展覧会に感激!

――柚木さんは25歳で染色の道に入られて、まもなく75年。その柚木さんの人生を振り返るような展覧会が、去年の11月から今年の1月末まで、東京の立川市(「PLAY! MUSEUM」)で開かれました。企画展「柚木沙弥郎 life・LIFE」。最初の小文字のライフが「暮らし」を表していて、次の大文字のライフが「人生」を表している。柚木さんの暮らしと人生がテーマという展覧会で、3万人以上の方が訪れたということですね。

柚木: これはもう、大変なことだね。僕は今までいくつ展覧会をやったか分かりませんけど、今度の展覧会は最高でしたね。びっくりしたの。私の一生が、(展覧会を)ご覧になると分かる。(私のことを)全然知らない人でも面白いと思う。元気が出る。

柚木: 一つずつ、入り口から見ていくとね。こういう時代があった、ああいうこともやってた、ってことを思い出しながら、展示のきちんとした、整然とした道筋を通って。

柚木: 最後の部屋は「布の森」っていうんです。森のように、そこに新旧50点の布があるの。もうそれを見たときね、私は本当に感激しました。見に来た方もね、そこでほっとされて気持ち良さそうに楽しんでる。

柚木: こんなきれいなきれいな展覧会、ないの。ダーッと並べてあるだけじゃないんですよ。それはご覧にならないと分からない。

――拝見しました。すばらしかったです!

柚木: ありがとう。

専門技術と愛によるデザイン

――「布の森」の布1枚1枚は、柚木さんが型染めで作られた布で、それが高い天井からつり下げられていて、本当に森のように並んでいて。下には白い玉砂利が敷かれていて道ができていて。その道をたどりながら柚木さんの「布の森」を歩いていく……。

柚木: あれは、展覧会っていうよりも“元気を出す装置”みたいなもの。これはね、やっぱりプロデューサー、キュレーター、そういう方たちが、考えて考えて。

最後の日に私はあとから聞いた話だけど、ディレクター、キュレーター、プロデューサー、そういう人たちと、それからポスターのグラフィックデザイナー、それから照明ね。それから電気の工事をする人、それから運搬の労働者。そういう人たちも、みんな私の作品・ものを愛して。愛していなきゃ、そんなことできないですよ。

それをみんなね、ず~っとひとつながりの専門技術が集まって、ああいう結果が出るの。これはね、デザインの1つの例ですよ。もう1つデザインがそこにできた。その成功例。

――あの展覧会全体が、若いプロデューサー、キュレーター、デザイナーのみなさんと作り上げた1つのデザインであった、ということでしょうか。

柚木: そう。だから私の仕事自身はその中にあるんですよ。だけど、展覧会自身が、1つのデザインだと思うんだ。だから賞(「2021毎日デザイン賞」)はね、あの展覧会がもらうべきだと思うな。

100歳記念で絵本を復刊

――絵本の話を伺いたいと思います。「絵本も暮らしの中の道具」と柚木さんはおっしゃっています。72歳で初めて作られた絵本『魔法のことば』(柚木沙弥郎・絵/金関寿夫・訳 福音館書店)を、100歳になる年に復刊されたことをどう思っていらっしゃいますか。

柚木: それはおめでたいことだと思いますよ。(その絵本は当時)賞をもらったのね。外国から電話で僕のところに知らせてくれたの。びっくりしましたよ。

――賞の名前は「〈子どもの宇宙〉国際図書賞」。いきなり国際的な賞を受賞されて。

柚木: びっくり。

――絵本を作られたのは72歳のときですから、もう28年もたつんですね。

柚木: 人の人生の一番盛んなころですね。

――この絵本の編集を担当された松田素子さんがいくつかのテキストを柚木さんに提案して、その中から柚木さんが選ばれたのがこの文章だったとのこと。この文章のどんなところに魅かれたんでしょうか。

柚木: とにかくあんまり教訓的な話は、僕は嫌だと思った。勝手に自由に考えられるような話だったら、絵が描けると思いましたね。よかったよ。

――なぜそう思われたのですか。

柚木: なぜって、直感的にそう思ったの。

どうにもならないことはあきらめる

――絵本『魔法のことば』は、「ずっと、ずっと大昔」という言葉から始まって、「人と動物がともに この世にすんでいたとき なりたいとおもえば 人が 動物になれたし 動物が 人にもなれた」。そして、みんなが同じ言葉をしゃべっていて、「ことばは、みな魔法のことばで、人の頭は、ふしぎな力をもっていた」。本当にいろんなとらえ方ができる、そんな世界が広がってますね。

柚木: なぜそうだったかってことは、そういう答えは出ないです。「なっていたからなったんだ」っていうことね。そういうときにあんまり疑問を続けても、どうにもならないことは、もうそういうもんだって思う、あきらめるっていうか……いい意味でね。それが人間(にとって)大事だと思うんですよ。

日本が地震の国だっていうけどね、今、地球がそういうところにきてる。怖いですね。しょうがないのよ。だから、どうにも人間が、いくら科学が発達しても、防ぐことができない天災が今後だってありうるってこと。そこまで込めて、我々生きてるわけでしょ。

だから自分が生きてる、この100年なら100年という時間の中に、富士山が噴火するとかいろいろなことが入ってるかもしれない。そういうときに出くわしてるわけです、その人生がね。だから運が悪ければ自分は死んじゃうかもしれない。

――地震もそうですし、コロナという状況もそうですし、今すごく窮屈な閉塞感を感じている人が多いと思うんですけど、この『魔法のことば』を読むと、解き放ってくれる世界があるなと感じます。

柚木: どうにもなんないことがあるんですよ。どうにもなんないことは、人間がいくら考えたってどうにもならないね。だから日本の中に生まれたってことは、これはどうにもならないことだね。だから悪い面も良い面も込めて、自分の人生がそこにあるんだから、その人生を楽しもう。楽しくないことがあるから、個人的には楽しみたい。それはどうしたらいいか……。自分で考えて、自分で発見するよりしかたがないんですよ。

――それは暮らしの中で発見できますか。

柚木: さっきの「達成感」ですよね。ふふっ。

心の自由を手放さない

――立川の展覧会(PLAY! MUSEUM企画展「柚木沙弥郎 life・LIFE」)の図録のインタビューで、「戦後70年以上がたって今私たちの毎日の暮らしには自由がある。その自由を手放してはいけないという覚悟を持ってほしい」という言葉がありました。「戦争が起こればそれがなくなります」と柚木さんはおっしゃっていて。今、ウクライナの状況を見て、その覚悟を持つ困難さを感じています。私たちはどんな気持ちでこの今の時代っていうのを生きていけばいいと、柚木さんは思われますか。

柚木: 何度も繰り返すけど、自分自身はとにかく自由である、ということ。

――自分自身は自由……心を自由にするということ?

柚木: そう。だから、外側は不自由なことはいろいろあると思うんですよ。今、水道の断水で水がない。そういう目にあっている人……例えばよ、その中でも、何か楽しいこと見つける。

難しいですよね。だけど、自分の中だけは、自由にしておきたい。僕は、文化なんてそういうもんだと思うんです。

軍隊が政府になったりすれば、一番先にそういうものから不自由にしてしまいますよ。絵なんか描いてる暇があったら、どうこうしろ、って。

僕らの時代、そうだもん。戦死した人の中にも、小説家になりたかった人もいるし、いろんな欲望があるでしょ。戦争になると、みんなそういうものがなくなってく。人間が生きてるかいがないやね。

楽しむために生きる覚悟

柚木: 人間が生きるってのは、偶然ですからね。生まれたくて生まれるわけじゃない。
だから、生まれた以上は考えなきゃね。何のために生きてんのか。

楽しむために生きてんの。
楽しむっていうのは、ただ道楽的に楽しむのとは違うんですよ。社会の中で生きるっていうのは。

――いろんな制約があったり、いろんな困難や思わぬことが起きたりする中でも、楽しむ心が大事なんですか。

柚木: 1日に何か1つでも楽しいことがあれば、その日は〇(マル)ですよ。

とにかくね、「今が一番若いときだ」っていうふうにとるのよ。過ぎ去った時間よりも、今。今、こうやってお話ししてるときが一番若い、一番いい状態だ、っていうふうに考える。

――なんだか元気が出てきますね。

柚木: そうよ!

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【放送】
2022/04/14 ラジオ深夜便 「100歳になるボクが伝えたいこと」柚木沙弥郎さん(染色家)


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