「先生嫌いだった僕」が「尾木ママ」になるまで (前編)

21/04/06まで

ラジオ深夜便

放送日:2021/01/29

#子育て#家族#コミュニケーション#ココロのハナシ#短歌

ざっくりいうと

  • 暴力の連鎖を断ち切った父の教え。「言えば分かる。通じなければ言い方を工夫する」。愛のムチなんてあり得ない
  • 短歌・名言を引用した母の教え。意味が分からなくても、耳に残って徐々に心に効いてくる
  • 2021/01/29 ラジオ深夜便 ママ☆深夜便「ことばの贈りもの」尾木直樹さん(教育評論家)

NHKEテレ<ウワサの保護者会>でMCを務める「尾木ママ」こと教育評論家の尾木直樹さんは、1947年滋賀県生まれです。早稲田大学卒業後、中・高校で22年間教べんをとり、大学教員に転身。教育に関する専門家会議の委員を歴任し、現在は法政大学名誉教授、臨床教育研究所「虹」の所長を務めています。講演会やメディアでの際立つ個性を生む原動力となった、両親の教えや励ましについて伺います。

コロナ禍でおじいちゃん三昧

――新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない中、本格的に受験も行われています。何気ない日常がどんなに大切かを気付かされた1年でしたが、尾木さんにとってはいかがでしたか。

尾木さん: 僕にとってもほんとに激変しました。講演会も2月から9月ぐらいまでほとんどキャンセルになりまして、10月、11月ぐらいからだんだん復活したんですけれども、全部オンラインに切り替わりました。

僕、後援会では客席に入っていって、「かわいいわねえ」って子どもをなでたりおばあちゃんと握手したり、そういう動きのあるパフォーマンスが多かったんですよ。それができなくなってどうなっちゃうのかと思ってたんですけれども、最初はやりにくかったんですが、チャット機能とか使うと生の講演会よりもっとリアルになるんです。びっくりしました。
例えば僕、終わりの時間が迫ってくると早口になるんです。それで「ごめんなさい、早口になっちゃった」とか言うと、チャットで「大丈夫、ちょうどいいスピードだよー」とか「安心してー」とか、入るんですよ。

――聞いている人たちの心の声が、チャットで見えてくるんですね。

尾木さん: そうそう。一緒に作っているというリアル感が、立体的になりましたね。その場その場で工夫していけば、新しい境地に立てるんだなということをすごく思いました。

テレビも、一時的にほとんどリモートになりましたよね。東京のNHKに出て30分後には大阪のNHKに出たり、北海道だとか山口だとか佐賀だとか、自宅からですから生放送の情報番組にも立て続けに入っていける。日本全国津々浦々、回れてしまうの。
僕にとってありがたかったのは、うちは一応研究所を名乗っていますから、いろんな地域の修学旅行のやり方とか、授業をオンラインでやってるとかプリントだけでやってるとか、そういう生の情報を映像を通してつかむことができて、“情報センター”になれるの。それを生かして次の番組でおしゃべりしたり、皆さんに紹介したりできるんです。これは不思議な感覚でしたね。

――プライベートはどんなふうにお過ごしだったんでしょう。

尾木さん: 生まれて初めてじゃないかなと思うぐらい、家族との濃密な時間が確保できるようになりました。中でも、小学校3年生の女の子と5歳の男の子の“お孫ちゃん”が、2人同居してるんですけれども、この子たちとの時間が持てて、これはもう、発見だらけでした。
好きなおかずとか、行動パターンとか、何を考えている表情かなとか、みんな見えるようになってきたんです。わが子のときよりも分かるようになりましたよ。だって一緒なんだもん、ずっと。こういうときは「すねてるんだなあ」とか、「遠慮してるな」とか、「切れる寸前だ!」とか心が読めて、いわゆる教育の専門家としても深まったなあという感じがします。

――お子さんを育てるのとお孫さんと接するのとは違いますか。

尾木さん: 全くと言っていいぐらい違います。別物ですね。親のときは自分の生活に追われていて、「子どもの心になってみよう」とか「共感的な子育て」とか、僕もずいぶん本を書きましたけれども、余裕がないんです。

――尾木さんご自身も、そうだったんですか。

尾木さん: そうだったですよ。
親は責任がある。でも、おじいちゃん・おばあちゃんになると自分の子じゃないから、本当僕なんか、お孫ちゃんのおしめは替えたことないですもん。かわいがっていればいいんです。親子げんかが始まったらサッと逃げて自分の部屋にこもっていれば避けることができるし。無条件の愛情と言われますけれども、無償の愛を注ぐことができるんです。

――自分の子育てのときよりも、「子ども」という存在を純粋に見ることができる?

尾木さん: できるんですよ。
僕、1月3日が誕生日で74歳になったんですけど、お孫ちゃんたちがおめでとうメッセージのお手紙をくれたんです。そしたら、「おじいちゃんは本当にいい人だね。優しいね」って。「いい人だね」と言われるような立場というのは、おじいちゃん・おばあちゃんにならないとできないと思いました。
やっぱり家族の生活というのは、同居してなくてもいいけど、おじいちゃん・おばあちゃんの存在は僕、大事だなと思いました。それは隣近所のおじいちゃん・おばあちゃんでもよくて、人間は、いろんな世代が交流して育っていったほうが楽だなと思いましたね。

感染防止しながらの受験。見事な若者たち

――コロナ禍の環境の中で、子どもたちのどんなところを一番心配していらっしゃいますか。

尾木さん: 家庭内のことで一番心配なのが、親子の関係が濃密になっていい側面もいっぱいあるんだけれども、それがひっくり返っちゃうと虐待の様子が出てきて、今、虐待件数がものすごく増えてしまった。夫婦間の虐待もおきていて、どう救済すればいいのかなっていうのをすごく思います。
最近のデータでも職を失った方が正規の方で8万人ですか。非正規の方とかパートの方、いろんな人を入れれば恐らく何十万人になるでしょう? 大問題です。仕事を失ったら、にこやかになんてできないです。特にシングルの家庭なんかそうですよね。イライラしてやり場のないストレスを抱えた親の顔を見ているだけで、子どもには負担なんです。歯車が狂ってしまったご家庭のメンタルのケアと経済的な支援を、しっかりやってほしいと思いますね。

――今回の緊急事態宣言では学校はそのまま開かれています。でも子どもたちの学びの場がどうなっていくのか、不安に思う親も多いですね。

尾木さん: 今月(1月)16、17日の大学入学共通テストは53万5000人が受験しましたが、僕はこれ、頑張ったなと思うんです。大きなトラブルもなく、見事な若者たちだなと。これは誇っていいと思うんです。クラスターが出てこなければいいなという不安はもちろんあるんですけれども、2月に入ると今度は二次試験が本格的になります。ここへの支援をどうするか。
ただ、「日程どおりいくよ」では済まない問題があるんじゃないかというので、むしろこういうピンチのときに、高校と大学の接続の問題をどうすればいいのかなどにも話を発展させるなど、そういうことが欲しいなと思うんです。

それと、小学生や中学生、かわいそうなの。今ものすごく詰め込みになっていて、地域間格差だとか公立と私立の格差だとか、ものすごい広がっています。ほったらかしの子は本当にほったらかしになっていますから、これはまずいんじゃないかと思っています。
先生方も大変なんですけど、おもしろいのがね、先生になる子がいなくなるんじゃないかと思っていたら逆で、志願者がものすごく増えているんです。今回の共通テストも志願は教育学部が多いんです。どうしてか、分かります?
教員は「どんなにAIが進んでもある職業」のトップにあがっていますし、コロナ禍の中でも職を失うことはないでしょう? むしろもっと必要とされる。だから、就職を考えて教員になる人が多いんです。いい人材がたくさん集まるといいんですけど。

暴力の連鎖を断ち切った父の教え

――尾木さんは昭和22(1947)年のお生まれで、お父さまは気象台の予報官、お母さまは元小学校の教員。お姉さんと弟さんがいて、3人きょうだいの真ん中で育たれました。ふるさとはどんなところでしょうか。

尾木さん: 信じてくれない人もいるんじゃないかと思うぐらい、おさるさんとかイノシシとかがいっぱい出て、クマが出たときには、腰に鈴を付けて集団で下校しようとかいうような山の中です。滋賀県の関ケ原のすぐそばにある伊吹山のふもとの伊吹村で生まれました。
電柱が建てられて村に電気がついたのが6歳のころだったかな。それまではランプだったの。電気がついてもランプが1つ残っていて、ランプはほやが真っ黒になるので僕の仕事はほや磨きでした。そんな生活だったんです。

――どんなお子さんでしたか。活発だったんでしょうか。

尾木さん: 本人は活発だったと思ってるんですよ。ターザンごっこやったり、アケビを取ったり、危険な遊びをしたり。白い粘土が出るところにみんなで秘密で行っていろんな造形物を作ったり、川に行けばアユとかアマゴとかイワナとか、清流にしかいないような魚を手づかみしたり引っ掛けたり。夏休みなんか毎日釣りでした。

――どんなご両親でしたか。

尾木さん: 父親は理科系ですから、非常に頭が固くてものごとを論理的に理屈っぽく考えるタイプでした。だけどうちのおやじのいいところは、絶対に子どもをどなったりたたいたり、胸ぐらつかんだりしなかったことです。「直樹!」とか呼ぶことはありましたけれども、「バカ野郎!」とか「このぼんくらが!」とか、子どもは3人とも一度も言われたことがなかったですね。

これには理由があって、父親の父親、僕からみたおじいちゃんから、いつもたたかれたんですって。おじいちゃんも学校の教員だったんですけど、ボンボンたたいたって。それで子どもながらに、「口で言ってくれれば分かるのに、なんでこんなにたたくのか」と。「自分が子どもを持ったら絶対にたたかない」と、たたかれるたびに思ってたんですって。
「暴力行為は連鎖する」と言われますけれども、それを断ったんです、うちの父親は。子どもは3人とも、たたかれなくてもちゃんと普通に育ちました。だから僕は実体験で、「たたかなくても通じる」というのが分かっています。

父親は、1回言って分からないと「もう1回言うから座りなさい」とか言うんです。そんなふうにして火鉢の前に座らされたこと、いっぱい思い出しますけど、言っても通じなかったら、言い方を工夫するんですね。何か例をあげてみるとかして。だからやっぱり、すぐたたいちゃう先生とか、「愛のムチ」ってよく言われますけれども、そんなものじゃないですよ。表現が下手なだけ。言語能力に欠けてるんだと思います。
父は97歳で亡くなりましたけど、本当に一度もたたかなかったです。

――尾木さんはだから心から信じて、「たたかなくても子どもは分かる」と、おっしゃることができるんですね。

尾木さん: そうなんです。そしてありがたいことに脳科学が発達してきて、たたくとどんなに脳に悪い影響があるかも証明されるようになってきました。それに、去年の4月でしたか、親の体罰も禁止になりましたね。歴史的にはものすごく前進していると思います。

――でも、子どもをたたいたことがあるお父さん・お母さん、自分を責め過ぎること、ないですよね。

尾木さん: そう。たたいちゃうのは、世代間だけではなく社会的な連鎖もありますから、つい、そうなることもあると思うんです。だからそういうときは、「たたいちゃってごめんね」って、その場で謝る。あとからでもいいけれど、「寝ている姿を見て謝る」っていうのはほとんど意味がないですよ(笑)。それは自己満足。起きてるときに、ね。
謝るのはモラル教育にもなると思う。いけないことややり過ぎたときにすぐにおわびするのは、お友達関係でも生きてきます。すごく大事だと思います。

和歌で心をわしづかみ。母の教え

――お母さまのことばで、今の自分を作っているなと思うようなものはありますか。

尾木さん: 母親は学校の教員だったものですから、いろんな知識があったんです。歴史的な物語とか短歌とか、そういうのを引用しては言い聞かせようとしていましたね。
小学校5年生か6年生のとき、宿題はその日にやっちゃうのがくせになっていたんですけど、翌日が開校記念日で休みというときに「明日やるよ」とか言ったら、母親が「直樹くん、座んなさい」。「座んなさい」って言われたら、長いのよ(笑)。
何かなと思ったら、「明日ありと思う心の仇桜夜半(よわ)に嵐の吹かぬものかは」。意味が分かんなくておまじないかと思ったんですけども、「親鸞聖人という偉いお坊さんが、明日花見をしようと思っていたら夜のうちに嵐が吹いて花が全部落ちちゃうかもしれないよっていうので、今やれることは今やりましょうっていう教えなんだよ」って言ったんです。そんな偉いお坊さまが言ったのなら間違いないだろうと思って、だから僕、宿題を次に延ばすとかいうことはほとんどしなくなりました。

――お母さま、尾木少年の心を和歌でつかんだわけですね。

尾木さん: 僕が何か失敗したのを励ますときも、「大丈夫、大丈夫。直樹は大器晩成型だから」って。「タイキバンセイってなんだろう?」と思ってたんですけど。
交渉事をするときなんかも、「直樹、負けて勝ち取りだよ」って言うんですよね。「負けるが勝ち」じゃないんです。自分の要求を相手の立場を無視して押しつけるもんじゃないよ、相手の気持ちに共感することが大事だよ、と。そうすると相手が逆に寄ってきてくれたり、無理をきいてくれるっていうか、そういうことなんだなと思いましたね。
とにかくそういうことがすごく多かったから、いろんな場面で蘇ってきます。

真夜中の子育て応援団
ママ☆深夜便

毎月第4木曜日
[R1] 午後11時05分~翌午前5時00分
[FM] 午前1時05分~午前5時

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<後編>へ続く

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