「子どものいいところを見つけられると、子育てはうんと楽になる」という汐見稔幸さんがおすすめするのは、寝る前のちょこっと育児日記です。毎日ほんのちょっとの振り返りを習慣にすると、“事件”解決も、早くなる?(聞き手:村上里和アンカー)


子育て事件簿#05 寝転がり作戦

――奈良県20代女性
<3歳の息子の、寝転がり作戦に困っています。少しでも嫌なことがあると寝転がり、泣き出します。買い物帰りで両手がふさがっていると地獄です。何かいい解決方法はありますか>

汐見さん: 自分の言うことを通そうとして親を困らせるのに一番いいのは、寝っ転がってワーッと泣くことなんですね。子どもはよく知ってるなあって、僕なんか思うんです。
僕の家の子どももよくやりましたけど、「それは通用しないんだよ」っていうことを示すしかないんですね。だから僕は、これ買ってくれ、あれ買ってくれって言っても、ひょいっと抱き上げてお店を出ました。外でひとしきり泣くんですけれども、落ち着いてきたら「きょうは絶対買わないよ」ということ、これはいくらやってもダメなんだなっていうことを、分からせるしかないと僕は思ってました。
あるときはウワ~ッと泣いたら親が言うことを聞いてくれた、あるときはダメだって言われた、とかになったら、子どもは困っちゃうわけです。強くやれば勝てるなと思っちゃうわけ。だから「これだけはダメだ」っていうときには、厳しく叱るんじゃなくて、その場所から離して、それをやっても効果がないところに連れていって、しばらく待ってやるぐらいがいいと思いますね。

――両手がふさがっていると、だっこして連れていけないから困るのかな、と思ったりするんですけれども。

汐見さん: 荷物を置いて「ちょっとすいません」って言いながらひょいっとやって、とにかくそこから出さなきゃいけないんです。その場所にいると子どもは同じことをやろうとするので。これは通用しないんだなって悟らせることが一番です。

子育て事件簿#06 やめてって言ってるのに…

――福岡県30代女性
<4歳と1歳の男の子のママです。マンションに住んでいて、下の人に注意されたこともあり、おにいちゃんが走ったり物を落としたり電車で遊ぶときにひざをついたりする音に、結構激しく怒ってしまいます。「静かに!」「走らない! 歩こうね」「下の人に怒られるよ」「一緒に謝りに行こうか」「やめてって、言ってるでしょ。なんで分かんないの~」と大声を出してしまい、反省することがよくあります。「やめて」って言っているのにやめてくれないとき、子どもに響く言い方が知りたいです>

汐見さん: うちの娘の子どもとまったく同じ状況です。下の家からものすごく言われて……。どうしたかといいますとね。
とにかく外で思い切って走らせたりエネルギーを発散させて、部屋に入ったら、「下の部屋に音が聞こえたら怒られるね。ここでは静かにしようね。ちょっとやってみて。そうそう! できたねー」って、ここでは大きい音を出しちゃいけない、走っちゃいけないということが大事なんだっていうことを、分かってもらうわけです。
でも時々やっちゃいます。ごめんなさいって、やっぱりあやまりに行くんですけども。とにかく昼間は外で走らせて、「家の中では抜き足差し足だよ~」って、それを分かってもらうことが戦略なんじゃないでしょうか。そうすると弟も、そういうふうにするんだなって、少しずつ分かってくるっていうことがありましたね。

――何度も繰り返して伝えていく。時々は失敗して。

汐見さん: そうそう。そして、できたらとにかく、ほめてあげる。

――汐見先生あてに、ツイートもたくさんいただいています。保育士を長いことやっているという方からです。
<40代シングルマザーです。汐見先生の出されている書籍、ほとんど読んでいます。汐見先生のおかげで保育の深さを知ることができて、自信にもつながっています。きょうは最後までしっかり聞きます>

そして、先ほどお悩みを紹介した奈良県20代の女性の方からです。
<おたよりを選んでいただいてありがとうございます。ぶれない姿勢、場所を変えること、本人に、それは通用しないってことを分かってもらうことが大切なんですね。あすから実践してみようと思います>

こんなツイートもいただきました。
<大人の一貫性が大事。子どもは常に大人を試しますよね>

「いいとこ見つけた」日記を付けよう

――子育ては時間に追われてしまって、立ち止まって整理したりする時間がないというおとうさんやおかあさん、多いんじゃないでしょうか。

汐見さん: 僕も思い出して、その通りだと思うんだけれども、例えば僕は保育園に、子ども3人、13年間お世話になったんですけど、3人目のときに、連絡帳ってあるじゃないですか。あれを卒園までつけさせてもらったんです。あれは普通、0~2歳はやるけど、3歳、4歳にもなると子どもも多くなるし先生も忙しくなってやらないじゃないですか。でもやってくれたんです。
でね、ひたすら書くのは僕らなんですよ。先生はほとんど、「“み”を〇で囲んだサイン」。「みました」って書く時間もないから、そういう印を(笑)。
それでも、うれしかった。なぜかって言ったら、自分たちが連絡帳という「場」を与えられることによって、その日のことをちょっとずつ書いておけるわけです。今読んでみると、子どもに親が渡せるプレゼントみたいになっているわけね。

ですから、小さな手帳でもいいんですけど、寝る前にたった2、3行でいいんです、何か育児について、その日のことをちょっとだけでも書き留めておく。そういう振り返り。ほんの10秒、20秒でいいんです。
何を書くかって言ったら、その日の子どものことで「頭にきた」とか「ほんとに!」っていうことではなくて、「きょう1日で、あの子のおもしろかったところ、こういうところがよかったなってこと、何があったかな……」って思い出して、ちょこちょこっとひと言、書いておく。要するに、子どものいいところを見つけられると、子育てはうんと楽になるんです。

でもそれは、意識的に見ないと見えないです。例えば、もうさんざん叱ったっていうときがあるじゃない? なのに次の日ケロッとしてると、「効果ないのかな」って思うじゃないですか。でもそれを逆に見るわけ。あれだけ叱ったのに次の日ケロッとしているとは、「意外とたくましい」と。あんなに時間かかって「グズだなあ」って思うんだけども、「本当に丁寧だから将来は職人かな」とか、そういうふうに、良く見ていくわけです。そうすると子どもがすごく見えてくる。
と同時に、「子どもを良く見ている私は、うん、まあ、ちゃんとやってるじゃない」っていう気持ちにもなるのね。だから毎日じゃなくてもいいですよ。あとで振り返ったときに、「必死な中で私、よく書いたわね」っていうような育児日記を、できたらみなさんにおすすめしたいですね。

「過去は奥歯でかみ切れ」

――「ママ☆深夜便」には、このようなご意見も寄せられています。

東京都40代女性
<いつも<深夜便>を聴いていますが、「ママ☆深夜便」だけ苦手です。やっと日中の育児から解放された時間なのに、育児の話で苦しくなります。ワンオペで疲れているのかもしれません。違う時間にやってほしいです>

神奈川県50代女性
<5月の「ママ☆深夜便」は、3歳のときに母親に捨てられた私には、あまりにもつらく聴いていられませんでした。親に捨てられた子どもの心の傷は目に見えないので、誰も助けてはくれません。母の愛情を表現するということは、それがない者にとっては自慢話に聞こえます。親に捨てられた人も聴いていることを、最低限でもいいので認識していただきたいです>

汐見さん: 分かりますね。あの……、今話を聞いて、じーんときたんですけども。
何を思い出したかというと、北海道に「家庭学校」という教護院(児童自立支援施設)があって、14歳までに問題行動を起こした子どもたちが入ってくるところなんです。親に捨てられた、殺されかけたとかいろんなことがあって、そしてちょっと問題行動を起こして送られてくるんです。谷昌恒先生という校長先生だった方が、毎日子どもたちに語った言葉が本になっているんですが、その中に、今でも本当に私、なるほどなって思う言葉があります。
「自分が捨てられたとか親から迫害されたとかいうことを、今、恨んでも元に戻るわけじゃない」。親がいないとか、1人で育ててくれたその親がアル中だったとか、いろんな人がいるわけです。でもそれを、元に戻って変えることはできないんだと。
それぞれみんな重荷を背負ってきた。それについて、恨むということを、1回もう、やめよう。「過去は奥歯でかみ切れ」って、おっしゃるんですね。そして、「自分の良さを見直してみて、前を見て、励まし合いながら、助け合いながら生きていく。人間っていうのはどんなときでもやっぱり希望が必要なんだから、過去にこだわってしまうとその希望が見えなくなってしまう」ということを、生徒にずっと語っておられたんです。その谷先生の言葉を、思い出したんですね。

私の母は股関節を脱臼していて、ある年、股関節を全部取ってしまった身体障害者でした。ほとんど歩くことができなくて、私が小学生のときは毎晩悲鳴をあげて痛がっていたんです。子どもの私たちは、足を引っ張ってあげることしかできなかった。そういう母親が、愚痴をこぼすわけでもなく、一生懸命歯を食いしばって生きていたっていうことが、子どもである私たちにとっては一番の励ましだったんです。いつも前を向いていた。本当、つらかったと思います。しかも私生児なの、うちの母親は。たいへんだったと思うんだけれども。

ですからそういう気持ち、恨みたくなる気持ちっていうのは、分かります。でも、そうしたからといって何か見えてくるわけでもないので、谷さんの言葉をどう受け止めるか、それは自由ですけれども、過去を頑張って奥歯でかみ切るという言葉を、何か今、思い出しましたね。

<【ママ☆深夜便】子育て事件簿~子育てっていろいろあるよね~ ①>

<【ママ☆深夜便】子育て事件簿~子育てっていろいろあるよね~ ③>