子育てを巡って巻き起こる出来事について、おとうさん、おかあさん、そして人生の先輩たちが寄せてくださった声を聞きながら、Eテレ<すくすく子育て>でもおなじみ、東京大学名誉教授で日本保育学会会長の汐見稔幸さんにお話を伺います。(聞き手:村上里和アンカー)


身の丈に合った幸せを考える

――皆さんも、Eテレ<すくすく子育て>の汐見さんの顔を思い出してくださっているでしょうか。白いおひげがトレードマークの優しい笑顔、そして目がきょうも「八の字」で(笑)。早速ですが、汐見さんにメールが届いています。

兵庫県40代女性
<保育士として10年以上働いてから、息子を高齢出産しました。保育経験があることから息子1人育てるくらい簡単だと思っていましたが、始まるとあたふたと戸惑うことばかり。毎日がハプニングの連続です。汐見先生の著書を保育と子育てのバイブル本にしながら奮闘しています>

汐見さん: ありがとうございます。

――プロフィールをご紹介しておきましょう。
汐見稔幸先生は、1947年大阪府のお生まれです。東京大学名誉教授、日本保育学会会長で、2018年3月までは白梅学園大学の学長をお務めになっていました。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。ご自身は3人のお子さんのおとうさんでいらっしゃるということで、“イクメンの先駆け“と言われてらっしゃいます。
子育てはかなり参加されたんですか? あっ、「参加」という言い方はいけない。子育て、しっかりされましたか。

汐見さん: 僕は当然だと思ってやっていたんですけど、女性がやることはすべてやりました。だいたい半分半分でやったように思いますね。

――お子さんは大きくなられて。

汐見さん: もう孫が9人います。野球チームが作れますね(笑)。
70歳を超えると、孫と子どもは違うってことを実感します。こちらの体も動きませんし、やることなすことがかわいいなっていうのが孫ですねえ。

――さらに、保育者と親のための学び&交流誌の編集長、そして現在、21世紀型の身の丈に合った生き方を探るエコビレッジ「ぐうたら村」を山梨県の八ヶ岳の南麓に建設中ということで、ご著書もたくさんあります。汐見さんが村長を務めていらっしゃる「ぐうたら村」、これは一体どんなものなんですか。

汐見さん: 名前はわれわれの願望みたいなもので、今は忙しい人間ばっかりでやってるんですけれども。
実は、学校教育に比べて保育というのは、ちょっと一段低く見られるんです。「教育」といったら学校のほうが難しいという。だけど保育をやり始めたら、小学校以降の教育より、底が深いというか難しいことが分かってきたんです。学校というのは、ある意味、学力をしっかり身に付けて点数が上がれば評価されるじゃないか。だけど保育には、そんなもの、ないんですよ。人間全体を育てなきゃいけない。だけど人間として豊かに育っているかどうかなんて、どうやって判断するのか。難しいでしょう?
しかも、ひとりひとりの子どもに本当に幸せになってもらいたい、そういう力を身に付けてほしいとなると、「人間の幸せって一体何なんだろう」というところにいつも戻ってくるわけです。そういう意味で、人間を全体として考える。かつ人間の幸せに常に戻っていかなきゃいけない。それを考えているわれわれは、目の前のことだけでやっていたら、非常に底の浅い保育になっちゃうんですね。

それで私は、人間の身の丈に合った幸せって一体何なのか、今の幼児たちは、将来AI社会に出ていくわけですから、そういう社会の中での人間の生きがいや幸せって何なのか、そういうことをいつも原点に戻って考えるのをやってみたくなるよねっていうような場所に、保育者の研修施設を作らなきゃいけないんじゃないかと思ったんです。
目の前に富士山がある、後ろに八ヶ岳がある。南アルプスに囲まれたところで四季の営みを感じながら、満天の星なんかを見て、たき火を囲みながら子どものことや保育を語る。これはね、都会で語り合うのとはまた違うんです。
そういう中で、この子たちに何をしてやればいいのかなんて、答えは出ないんです。出ないんだけれども、考えることのおもしろさ、大事さ。そういうものを感じ取れるような場所を、今、作りつつあるんですね。
保育者だけじゃなくて、学校の教師も、子育てしている親御さんも、たくさんいらしてます。ハイハイするような小さな子どもも連れてきますから。僕ら、教えてもらって自然農園のようなこともやっていますけど、そういう畑をハイハイしながら口中土だらけにしている子どもを見ると、感動しますね。そういうふうなこともやっています。

「コロナ禍に育った子どもは大変だ」なんて言わせない

――新型コロナウイルスの気が抜けない状況で、保育の現場にいる皆さんも神経をすり減らしながら子どもと過ごす日々が続いていると思いますが、汐見さんへの相談というのも、あるのではないですか。

汐見さん: 相談だけじゃなくて、そういうことを語り合う場に僕もよく出かけます。それから僕、「エデュカーレ」という保育者の現場目線にたった雑誌をみんなと作っていますが、その取材の中でもいろいろ出てきますね。
当初、やっぱり未曽有の体験だったわけです。本当に戸惑ったんですけれども、ある時期に自粛要請が出て、幼稚園や保育園に来る子どもの数が大きく減った時期がありました。そのときに、今まで体験したことのない……、例えば今まで20~30人連れていかなきゃいけなかったのが、きょうは4~5人だけだったとかあるわけです。
それから部屋も、きょうは5歳児が5人、4歳児3人、3歳児2人となったら、別々に分けて保育なんかできないじゃないですか。そうするともう、一緒にやる。専門的にいうと「異年齢保育」というんですが、3~5歳児が一緒に生活すると、上の子どもたちが知らないうちに下の子たちを世話している。下の子は上の子に憧れて、いろんなことをやっている。しかも数がすごく減ると、先生が指示しないでも自分たちで「先生、これ、やるんだよね」って、どんどんやってくれるんです。

そういうことを、この間、いっぱい発見したんです。私たち保育を頑張っているけれど、もう少し条件が良くなれば、もっと子どもたち、よく育つよねっていうことを、発見しつつあるプロセスにある。コロナでよかったとはとても言えないけれども、けがの功名かもしれません。コロナが何か新しいものを発見させてくれているというのは確実にあります。
親や保育士が不安になると、子どもの心は“コロナ不安”になっちゃうんです。だからなんとかそういうことを防いで、そして密になるのも防ぎながら、「こういう時期に育った子どもは大変だ」っていうことを絶対言わせないっていうか、そういうようなことを、みんなでワイワイ、議論しています。

子育て事件簿#01 ネジを飲み込む

――皆さんから、「子育ての事件簿」をテーマにいただいたお便りをご紹介してまいります。

大分県70代男性
<50年近く前のことです。子どもがちょっと目を離したすきに、厚さ1cmくらいの六角形のネジを飲み込んだことがありました。急いで病院に行ってレントゲンを撮ったところ、胃の中にはっきり六角形のネジが見えたのであわてたのですが、お医者さんはこう言いました。「口から入ったので2~3日すれば便と一緒に出てきますよ」。実際数日後には、きれいになって出てきました。でもその数日間は、ごはんがのどを通りませんでした>

汐見さん: 子どもはとにかく口に入れてしまいます。小さな子どもほど「あれはなんだ」っていう知識がありませんよね。それからそれがどういうものかを確かめたいという、ものすごい好奇心があります。小さな子どもにとって一番確かな判断器官は口なんです。手で触ってもそれが何か分かるわけではないので、食べるってこともしますが、まずは口に入れて確かめる。
ですからタバコだろうがクレヨンだろうが、口に入れられるものは小さな子どもの前には絶対に置かない。どこかに隠しておくというのは、子育ての前提みたいなものですね。

――ちょっと立ち上がるようになると「ここには届かないはずだったのに……」っていうところに手が届いたりして、危ないですよね。

汐見さん: しかもそれを上手に引っ張ってしまうんですよね。アタタタタッていう……(笑)。
親指と人さし指で輪っかを作ってみてください。それよりも小さなものは絶対にダメです。直径3.8cmより小さなものは絶対に小さな子どもの前には置かないようにって、よく言いますよね。

子育て事件簿#02 鼻の穴にビーズ

――栃木県50代女性
<長女が小学校低学年のころ、静かにテレビを見ていたはずが突然泣き出しました。何かと思ったら、鼻の穴にビーズを詰めたまま取れなくなってしまったのです。「これは救急? 内科ではないから外科?」と一瞬混乱しましたが、冷静になって反対側の鼻の穴をふさいで、「フンッ!して。お鼻、かんでごらん!」とやること数回。無事ビーズは出て大事には至りませんでした。しかし懲りない娘は、別の日に着せ替え人形の小さな靴を鼻に詰めたのでした(笑)>

汐見さん: なんで穴に……、ってね (笑)。
小さな子どもが、例えば水遊びが好きだとか、ふすまなんかに穴を開けたがるのは、小さければ小さいほど、人類がかつてやってきたことをたどっているからなんですよね。人類は水がないところでは生きていけないから、水のあるところを必死になって探したんです。だから、水っていうところがもう、大好きなんですね。おなかの中も“水”だったでしょ。それから、棒があるととにかくいろんなものを追い払う。だから僕ら、「穴、水、棒はちいさな子どもの三種の神器」っていうんです。

――「穴、水、棒」ですか!

汐見さん: 高いところに行きたがるとか他にもいろいろあるんですが、昔サルだった時期から全部そういうことをやっていて、それをまだ遺伝子の中に情報として持っているのでやりたがるんだけど、でも穴に入れたがるのはなんなんだろう……。鼻の穴に入れたがる子は意外と多いです。

――私も、長男がまだ2歳前だったかな、鼻の穴にばんそうこうを丸ごと詰めたのにずっと気が付かなくて。臭いにおいがしてびっくりして耳鼻科に連れて行ったら、先生がズズズズズッとばんそうこうを出したときにはゾゾッとしました。いろんなものを詰めちゃうんだなと思って。

汐見さん: そうですよねえ。だからそういうのは、子どもの指しゃぶりのようなものだと思ってりゃいいんですよね。それで自分を試しているのかも分かりませんし。鼻の穴に何か詰めたからといって、医者行けばなんていうことはないんですけどね。

――とにかく危ないものは手の届かないところに。これはほんと、鉄則です。

子育て事件簿#03 2歳のひとり旅

――埼玉県70代男性
<47歳になる長男が2歳のときでした。仕事中の私に妊娠中の妻から「長男が社宅から1人で出かけて行方不明だよーっ!」と慌てた声で電話がありました。私は「とにかく警察に電話したほうがいいよ」と告げて、上司に話をして社宅に帰りました。パトカーが長男の名前を呼びながら社宅の近辺を走ってくれましたが見つかりません。およそ1時間後、100mほど離れた県道沿いの農機具店から、「うちで遊んでるよ」との連絡をいただきホッとしましたが、通行の多い道をのこのこ歩いたのかと肝を冷やしました。警察と農機具店に何度もお礼を言いました>

汐見さん: 小さな子どもって、本当に好奇心のかたまりなんですよね。知らないところがあると、普通は怖いと思う。そういうタイプの子もいるんです。そういう子はあんまり勝手に行かないんですが、好奇心が旺盛であんまり怖いと思わないタイプの子どもはどんどん行ってしまうということはありますね。自分のお子さんを見ていて、この子はほっといたらどこでも行ってしまうという場合は、手を離さないとか、ちょっと注意してあげてほしいですね。

――周囲の人も子どもが1人で歩いていたら、今の時代はなかなか声をかけにくいんですけど……。

汐見さん: そうですよね。昔は「坊や、どこ行くの?」って、みんな言ってくれたんですよね。
子育てが本当にやりやすい社会というのは、地域のみんなが知ってるというような。昔には戻せないけれども、地域でお互い知ってるよねというような社会を、もう1回、必死になって作っていかないと。これは孤独に子育てしていることの1つの結果ですね。それが原因になっているんです。なるべくみんなが声をかけ合えるような社会を作りたいなと、本当に思います。

子育て事件簿#04 1歳にして2つの顔

――福島県40代男性
<子どもが2歳くらいのころ、私が頭痛で横になっていたら、私の頭にばんそうこうをペタペタ貼ってくれました。おかしかったですが、子どもの優しさがうれしかったです>

福岡県30代男性
<1歳になる子どもがいます。事件簿というほどではないのですが、わが子には、保育園と家では別の顔があるそうです。保育園では眠たくなったら自分でお布団に行って勝手に寝るそうですが、家では甘えてなかなか寝ません。いっぱい甘えてもらっていいので問題ではないのですが、1歳でもう別の顔があることに驚きです>

汐見さん: 皆さん、意外に思われるかもしれませんが、子どもはもう0歳で、大人の態度によって違う行動をすることを学んでいくんです。まだ1人で生きていけないでしょう。だから大人との関係をうまく作らなきゃいけないことは本能的に分かっているんです。
ちょっと怖いタイプのおとうさんが「ソファから飛び降りたらダメだ」って言ったら、飛び降りないんですよね。ところがママが、「まあ、いいじゃない」って下に座布団かなんかひいてくれて、「飛び降りてごらん」なんて言われて飛び降りたら「できた、できた~」なんて言ってくれる。するとおとうさんが「なにやってるんだ。危ない!」と、こうやるでしょう。そうすると、おとうさんの前ではやらなくなる。おかあさんがいるときにやる。要するに、これを「社会性」といってるわけです。それがものすごく激しい子もいれば、意外と人に関係なく同じ行動をする子もいるんです。
ですから1歳くらいから園と家で違う行動をするというのは、よくあることですね。園では緊張してるんです。おりこうさんなの。だからその分、家で甘えたがるんです。甘えさせてあげればいいんです。それはエネルギーを充実させることなんです。小さいときは、甘えさすのも甘やかすのも、あまり変わらないんですけどね。
昔は1歳や2歳で保育園に行って知らない人と一緒に暮らすなんて、なかったでしょ。やっぱり子どもはどこかで緊張しているんです。だからその分、家に帰ったらリラックスして、甘えたいっていうのが出てきますよね。保育園なんかに子どもを行かせている家庭では、子どもを存分に甘えさせてあげるのはとても大事なことですね。

<【ママ☆深夜便】子育て事件簿~子育てっていろいろあるよね~ ②>