「鉄道の非常識」を打ち破れ ひたちなか海浜鉄道

21/06/12まで

Nらじ

放送日:2021/05/12

#インタビュー#ライフスタイル#鉄道#のりもの#茨城県

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鉄道事業は人口減少に加えてコロナ禍もあり、現在厳しい経営状況にあります。特に地方鉄道の状況は深刻で、令和元年度の経常収支は、全国95社のうちおよそ8割の事業者が赤字を計上しています。利便性を少しでも上げて住民の足となる鉄道を維持するには、どうすればいいのでしょうか。
きょうは、多くの鉄道会社が苦境に陥る中で業績を回復させ、ことしの1月に路線の延伸が決まって2024年開業に向けて動き出しているひたちなか海浜鉄道の取り組みを紹介します。これまでに富山県高岡市の鉄道万葉線の経営改善に取り組んだ実績もあり、2008年にひたちなか海浜鉄道株式会社の社長に就任した吉田千秋さんにお話を伺いました。


【出演者】
吉田:吉田千秋さん(ひたちなか海浜鉄道社長)

商売の基本に戻って鉄道会社を再建

――私はコロナ禍の前に茨城へよく遊びに行っていたので、ひたちなか海浜鉄道には「きれいな田園風景の中を走る鉄道」という印象があるんですが、全国には知らない方もいらっしゃいます。どんな鉄道か教えていただけますか。

吉田: JR常磐線の県都・水戸のもう1つ向こうにある駅の勝田から、かつては海水浴場でにぎわった阿字ヶ浦というところまで、距離にして14.3km、駅が10個しかない小さな鉄道です。
2008年に茨城交通さんが(経済的に)厳しくなりましたので、今はひたちなか市と茨城交通が半分ずつほど出資して鉄道を第三セクターの形でやっております。

――開業当初はなかなか経営も厳しかったそうですね。

吉田: 茨城交通さんは「もうダメだ!」というところまで来ていたものですから。当時は年間のお客さまが75万人ぐらいで始まったんです。
おかげさまでことし14年目に入るんですけども、平成30年の12年目にはお客さまが1.5倍の106万人にまで増えまして、そのときに黒字を計上しております。

――リスナーからのおたより。この方は、ひたちなか海浜鉄道の勝田駅から阿字ヶ浦駅までの動画を見たということで、「美しい田園地帯の中を通ったり海の近くを走ったりと、車窓から見える景色は本当にすばらしいですね」といただいています。
やや内陸から海のほうに向かって走る、どちらかというと、いわゆる地方の地域を走っている鉄道です。
地方の鉄道事業者というと、どこも厳しい状況が続いています。特に、こちらは廃線の危機にありました。そこからどうやって黒字化させたのか? 何か秘策はあったんでしょうか?

吉田: 「秘策」と言われると困っちゃうんですけども…普通の商売と一緒で、「鉄道を使いたい」というお客さまのニーズをまず探る。
地元の皆さんの話を聞いて、その要望に従ってダイヤを直したり、第三セクターなので自治体の方の協力があったので、市の方に声をかけて市全体にアンケートをかけたりして、住民の方が鉄道に対してどういう要望があるのかをしっかり聞いて、それを生かしたのが効いているんじゃないかと思います。

――お客さんのニーズに応えるのは普通の商売だと当たり前という気もしますが、そこを突き詰めていったということですか?

吉田: そうです。鉄道の仕事をずっとしていますと、「鉄道業界の常識が世間の非常識」なんて皮肉っぽく言う人もいるんですが、やっぱりそのあたりですね。
スーパーみたいに普通にお客さんに宣伝したり、ニーズを探って「これだったら売れるかな」ということをしてこなかったのが鉄道の業界だと痛感していたものですから。

利用者のニーズを掘り起こす

――そういったニーズを踏まえたうえでの”攻めの姿勢”が、いわゆる地方の鉄道が今置かれている状況からすると「ほかと違うぞ」という感じがするので、1つ1つ伺っていこうと思います。
2024年に路線の延伸が決まっている。各地の鉄道はどんどん縮小を余儀なくされているという中で、どうやって路線の延長が発想できて、可能だったんですか?

吉田: 本当に単純な考え方だったんです。
終点の阿字ヶ浦駅からほんの2kmぐらい先に、国営ひたち海浜公園という大きな公園があって、そこの年間のお客さんが200万(人)ですから、そこまで延ばす。
普通の商売だと「あそこに顧客がいるんだから、そこまで商売に行こう」というのが普通じゃないかと思っていたところに、地元の方々からも「あそこへ延ばせば鉄道のお客さんも増えたり、商売も、鉄道のお客さんが増えたぶんだけお金を落としてもらえるんじゃないか」みたいな話が出た。
鉄道の考え方と地元の皆さんの気持ちが一致したのが大きかったんじゃないかと思うんです。

――ただ、延伸するとなると当然お金もかかるでしょうし、第三セクターですからいろんなところの理解を得なきゃいけない。しかも、たくさんのお客さんが来ている公園があるといっても、これまで皆さんは車で行っていた公園ですよね。

吉田: 逆に言うと、車であってもニーズがあるのが見えた。あとは、車の渋滞が限界を超えてひどい。なおかつ、路線バスもかなり混んでいる。ということで、鉄道へのニーズがある。
鉄道としてもうかるのもあるんですけども、「少しでも渋滞を緩和してほしい」という声もあったり、鉄道をご利用のお客さまがかなりの確率で地元でごはんを食べたりお土産を買ったりしていただけるのがわかりましたので、地元の商工会議所あたりが「鉄道だけじゃなくて、街の活性化に効果があるぞ」と積極的に――鉄道会社以上に「やれ」「やれ」と頑張っているものですから、それも後押しになっています。

――ひたち海浜公園といいますと、5月には真っ青な花のネモフィラがきれいですし、秋になると真ん丸で赤いコキアがきれいで、観光客が大勢訪れます。でも、花の時期は2週間余りですよね。それで採算がとれるんですか?

吉田: その時期については心配は全然いらないんですけども、ほかの時期についても、ご存じない方が多いんですけども、海浜公園には1年中いろんな花がいっぱい咲いているんです。鉄道が延びたことで、「(今まで)気がつかなかったけど、行ってみよう」という人もいっぱいいるでしょうし、それが町の活性化につながると思います。
私は富山の出身なんですけれど、立山黒部アルペンルートは、極端な話、冬場はまったく動いていない。それでもちゃんと商売として成り立ちます。そこを考えると、季節的にお客さんの多少があっても、今の試算では十分もうかると思っているんです。

――短い時間でも十分に採算がとれる、お客さんがいらっしゃるんですね。
聞いたところによると、車だと渋滞をする。鉄道の利用と公園の入場などをセットにして、利便性もアピールしていらっしゃったと伺いました。

吉田: 鉄道だと、時間どおり行けるというのが強みです。あとは、鉄道の切符と海浜公園の入園券をセットにして鉄道の駅で売ります。
車でいらっしゃった方は、車をやっと降りたら今度は入園券を買うのに並ぶ…というのがあったんですけども、これも一切なし。ということで、ずいぶん効率的で鉄道はいいものだと思っていただけるのが今の状況ですね。

――「鉄道を使いたい」と思わせる戦略ですね。
しかも、これまで車社会がずっと私たちの社会で続いてきたわけですが、ひょっとするとこの先転換点が来るかもしれませんからね。

吉田: そうです。ちゃんとやれば、これから鉄道の時代が来ると私は信じているんです。

――こういったところに向けて、むしろチャンスになるかもしれない。

吉田: これから高齢化社会も進みますし、「車よりも鉄道」という時代が来ると思います。

臨機応変に柔軟な対応も

――まずは、路線を延長することを決めたというお話でした。もう1つは、列車の運転間隔を短くしたということです。
今までなかなか乗ってもらえないことになると、当然コストがかかってくるわけだから、昼間はなかなか列車を走らせることができないという地域の鉄道が多いわけです。そういう中で、運転間隔を短くする発想がすごいと思うんですけれど、これはどうしてなんですか?

吉田: アンケートなどで皆さんの声を聞くと、「これだけの間隔があったら乗りづらい」という声が多かったので、国の補助などをいただいて。
うちの場合は、40分おきの運行なんです。朝のラッシュ時や高校生の帰る時間については、工夫して20分置きで倍増させたところ、「20分間隔なら待ってもいいや」ということだったんだと思います。それが原因で、今は結構お客さんに使っていただいていますね。

――ただ、40分間隔を20分間隔にするのは、人件費も含めてかかりませんか?

吉田: あまり余裕のある会社じゃないものですから、内部で調整しました。
例えば駅の業務の時間を短くして、運転士さんに「この時間だけ自分でやって」ということをやって、そこで人を浮かす。車両の整備をしている人たちにも、「この時間だけ運転してよ」とやってもらったり。
なんとか経費を増やさずに運行本数を増やすという努力をしました。

――それ以外は、施設の整備を伴うようなことはなかったんですか?

吉田: うちは単線なので、上りと下りの列車は行ったり来たりするしかないんです。
途中の駅で上下の交換、行き違いをできる設備を作りました。上下の行き違いができるようになったから、40分置きしか走れなかったのが20分置きで走れるようになったというのはあります。

――先ほどのお話で「地域の利用者の方のニーズに応えた」ということですが、それ以外のニーズに応えるということで地域の高校生が乗られているという話がありました。

吉田: 例えば、那珂湊に海洋高校という海の勉強をする高校があるんです。特殊な学校なので全県下から、うちにとってのお客さんの生徒さんがいらっしゃるんです。すごく遠く、例えば常磐線じゃなくて東北本線の古河からも通いたいという人もいる。

――古河は結構遠いですよね。

吉田: 東北本線から2時間ぐらいかかるかもしれないですね。
ダイヤを調整して、高校とも話をして、朝一番の電車に乗ってくれば間に合うようにダイヤを変更しましたら、これが評判になりました。
茨城県の古河だけじゃなくて、千葉の船橋、宇都宮からも通ってくれるようになった。通学のお客さんが増えて海洋高校も元気になったということで、すごくいい効果になったと思っています。

――しかも、たくさん利用してくれる高校生に対しての定期の割引があると伺いました。

吉田: これは1年間120日ぶんですね。月10日ぶんの運賃をお支払いいただければ1年間丸々乗れますよ、という年間通学定期を作りました。お客さんの囲い込みとお客さんの増加で成功しています。

――会社としては、安定の財源の1つということですか。

吉田: 4月にいっぺんに買っていただくので、財源も安定します。
スーパーでやっているような「たくさん買っていただいたお客さんには安くするので、たくさん買ってね」ということも考えました。

――普通の商売と同じような発想がある。
先ほども朝の時間帯のお話がありましたが、JRの常磐線などとの接続時間についても、ニーズによって見直しをされたと伺いました。

吉田: 細かく、1分単位で見直しました。最終列車がずいぶん早かったので、2本ぐらい増やした。
今は23時という列車があるんですけども、これだと例えば上野から22時の特急で間に合う。通勤、それから地元で飲んでいるお客さんなどに使っていただくことも成功しています。

――こうして聞いていると、沿線にお住まいの方が羨ましくなってきます。

利用者の声に耳を傾ける。単純だけど大切なこと

――私も「日頃利用している鉄道あるいはバスは、もっと利用者のニーズに応えてほしい」といつも思っているんです。なかなかそういう声は届かないんですけれど、ひたちなか海浜鉄道はなぜここまで変えることができたんでしょうか?

吉田: 普通に商売で考えたら、お客さんのニーズに合わせる。例えば、時刻を5分変えるのはそんなに難しいことじゃないんです。そういうニーズを少しずつ取り入れたのが一番よかったんじゃないかと思うんです。

――その「お客さんのニーズ」というのは、利用者に聞いてもわからないですよね。利用していない人にも調査をしたのですか?

吉田: 市のほうで自治会を通して全般的に聞いていただいたので、使わない方の意見もよくわかりました。

――吉田さんは、先ほど「一般の常識は鉄道の非常識」とおっしゃいました。吉田さん自身は改革されたという意識はないかもしれませんけれど、私たちから見るとすごい改革だと思います。何を大切に経営されているんですか?

吉田: 一番大切なのは――自分たちの能力には限界があるので、いろんな人の意見をとりあえず全部聞いちゃうことをやっていると、鉄道業界では考えられないアイデアも出てきます。それを大事にして積み重ねた結果が今だと思っているんです。

――リスナーから「和歌山電鉄もいい例かな。ネコ駅長にかわいいラッピング電車。観光客を呼んでいるね」というつぶやきもありました。
吉田さんは、これまでも富山でも鉄道会社を存続させることで頑張ってこられました。今、各地の鉄道会社大変な状況にあります。どうやればいいんだろう? ヒントになることはどんなことでしょう?

吉田: 単純に、ほかの商売が普通にやっていることをやってみたらいいんじゃないのかな。お客さんの言うことを聞いてみたらいいんじゃないかな。これが正直な気持ちですね。

――まだまだアイデアはあるんですか?

吉田: 自分にはないけど周りから山のようにいろいろ来ますので、それを1歩1歩やっていきたいと思います。

――私たちの思いを届けるにはどうしたらいいですか?

吉田: 会社に電話していただければ、何でも聞きます。

――ほかの鉄道会社もそうなっていきますかね?

吉田: うちがうまくいったときにマネしていただければ最高ですね。

――ありがとうございました。きょうは、ひたちなか海浜鉄道の吉田千秋さんに伺いました。
鉄道でも、地域と連携していくことが重要になるんですね。それが地域の活性化、地域の笑顔につながっていく。会社だけの問題ではなくなっていると感じました。
何よりお客さんのニーズですね。


【放送】
2021/05/12 Nらじ 特集 「利用しやすいダイヤが生む 逆風に耐える鉄道づくり」

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