看護師の「日雇い派遣」解禁 何が目的? 課題は何?

21/05/04まで

Nらじ

放送日:2021/03/04

#インタビュー#ライフスタイル#医療・健康

ざっくりいうと

  • 介護施設などでの慢性的な人手不足を解消するために、看護師の派遣要件を緩和
  • ケアが途切れてしまう事態や看護師の経験不足にどう対処するかが課題
  • 2021/03/04 Nらじ Nらじ特集「看護師の日雇い派遣が介護施設などで解禁へ 課題は」小林美亜さん(千葉大学医学部付属病院特任教授)

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21/05/04まで

介護施設や障害者施設などから「看護師が足りない」という声を多く聞くことがあります。しかし、看護師の短期の派遣については、これまで原則禁止されてきました。この状況が変わりそうです。
厚生労働省は政令を改正し、介護施設や障害者施設などに関しては看護師の「日雇い派遣」をことし4月以降認めることとなりました。専門家からは、この日雇い派遣について、医療の質が低下する可能性を指摘する声も上がっています。
どんな課題があるのでしょうか。お話を伺ったのは、看護管理学がご専門で、介護施設などで働く看護師の実態調査にも取り組んでいらっしゃる小林美亜さんです。

介護・福祉の現場で働く看護師の現状

――介護施設などでは4月以降「看護師の日雇い派遣」が認められるんですけれど、こうした施設での看護師のニーズはどのくらいあるんですか。

小林さん: 現場の調査からは、「介護施設などから看護師が不足している」という回答が多く寄せられています。
厚生労働省が去年の3月に発表した最新のデータでも、介護サービス事業所では全体の45%近くから「不足している」という回答が見られているんです。

――なぜそうした施設で看護師さんが足りなくなってしまうんですか。

小林さん: 看護師としての働き方や、職場環境の影響があるのではないかと思います。
本来、利用者さんの生活に根ざしたケアを提供したいと思って、看護師は介護・福祉現場を選択するんです。ですけれど、たとえば施設で定められたマニュアルどおりに食事や入浴の時間や方法に沿って不自由なケア提供を余儀なくされると、働く場所としての魅力を感じられないのかもしれません。
また、介護施設で働く看護師の平均年齢は、病院よりも高いんです。そうなると、若い人にとっては同世代が少ない職場になりますので、相談相手ができにくく、孤独感を感じやすいのかもしれません。

――政令が改正されて、4月から介護施設などで「日雇い派遣」が可能となるということです。それによって人は集めやすくなるんでしょうか。

小林さん: 教育や研修の充実、あるいは派遣先との情報共有、求められる経験要件の要求などの条件にもよると思いますが、希望者は増えるのではないでしょうか。
現在、看護師の資格を持っていて看護職として働いていない「潜在看護師」が70万人ほどいます。一方、厚労省の調査ですけれど、看護師などの資格を持っている人の半数以上が、派遣として働くことに関して抵抗を持っていないと報告されているんです。

こういった介護施設では、実は従来も例外的に派遣は認められてきてはいたんです。ただ、4月以降は、この派遣で働く要件が緩和されるということで、「その要件であれば、働いてみたい」という方が出る可能性は大いにあるとは思います。

――これまで介護施設では看護師さんが派遣で働くことが可能だったということですが、従来の場合と今回とでは何がどう変わるんでしょうか。

小林さん: これまでは、派遣で働く看護師さんは、「週20時間以上、また年31日以上働かないといけない」という制約があったんです。
たとえば、子育て中の看護師さんが、「2月の間だけ、月~金曜日の週5日間、毎日3時間ずつなら働ける」と思って派遣で働きたいと思っても、合計で20日間、週15時間しか働けなかったんです。このため、派遣の看護師としては仕事ができなかったということがあります。

今度の解禁では、この労働時間や週の労働日数に関する制限が撤廃されますので、1日1~2時間でも働くことが可能になります。

継続したケアができなくなる懸念も

小林さん: 働く機会が増えて、人手不足が解消していいんじゃないかと思われるかもしれませんけれど、これが医療の質を低下させてしまう可能性もあると考えています。

――「日雇い派遣が医療の質の低下につながる」とは、どういうことですか。

小林さん: 分かりやすい例で説明させていただきたいと思います。
介護施設では、利用者さんのお薬の管理も看護師の重要な仕事になります。たとえば糖尿病を持つ患者・Aさんが、食後に血糖値を下げる薬を処方されていたとします。しかし、Aさんは物忘れがあって薬の自己管理が難しいので、看護師がサポートしていたとします。
その方の体調が悪くなって食事があまりとれていない場合、通常の量の血糖値を下げる薬を内服してしまうと低血糖発作を起こしてしまうんです。
常勤の看護師さんがAさんの体調の悪さや食欲に関する変化を把握していたら、その変化に気付いて医師に連絡して血糖値を下げる薬の量を調整すると思うんです。
しかし、その日だけ派遣された日雇い派遣の看護師は、その日に来たばかりですから、そういった変化に気付けないですよね。そうなると、事前の指示どおりに飲ませてしまって、結果的に低血糖発作を起こしてしまう。
人の出入りが激しくなって期間も短くなると、こういったことが起きる可能性が高くなります。

――ミスが起こらないように、医療の現場ではカルテのようなもので詳しく入所者さんの健康状態を看護師さん同士で共有するシステムがあるように思うんですが、それはうまくいかないんですか。

小林さん: それは重要な視点で、介護記録を通じて情報共有する仕組みはもちろんあります。ただ、病院のように治療や内服などに関する診療情報が詳細に記載されていないんです。
というのは、介護施設は自立を目指した「生活の場」ですので、医療機関と比べて医学的側面の情報や記録は詳細には残されていないんです。ですので、利用者さんの状態が悪化したときに、その要因に関わる情報をカルテから把握するのは難しいんですね。

今後は、日雇い派遣の看護師さんがきちんと利用者さんの医療ニーズに対応できるための適切な情報共有の仕組みの整備が求められると思います。

“経験不足”の看護師への対策も

――そうした情報共有の仕組みの整備ができれば、日雇い看護師の制度というのは、医療の質を下げることなく人手不足を解消できるということになるんでしょうか。

小林さん: いえ、まだ「看護師の教育」という重要な課題が残っていると思います。

――看護師さんは、医療の現場での必要なことについては専門の教育を受けているのではないでしょうか。

小林さん: 皆様そのように思われるかと思うんですけれど、すべての看護師があらゆる看護技術をできるわけではないんです。実際に介護福祉施設などの職員から、「派遣看護師が来たのはいいけれど、でも、施設で必要な呼吸器の管理や人工肛門のケアなどができなくて困った」と聞くこともあります。

基本的な看護技術は、もちろん看護師養成校で学びます。ですけれど、きちんと病院などで何年か働いて実践を積まないと習得はできないんです。病院でやったことがないと、急に「やって」と言われてもできません。
たとえば、ふだん人工呼吸器を取り扱う機会がない職場で働いている人が、派遣先で突然それを扱うのは難しいですね。介護施設では需要が高い「たんの吸引」なども、日常的に経験していないとちゃんとできないと思います。
また、介護施設では、病院では出会うことのない状態の方々のケアをしなくてはいけませんので、慣れていない看護師がそういった職場で働くために事前の教育や研修が求められると思います。

――「病院では出会うことのない状態の方々のケア」とは、どういうことですか。

小林さん: たとえば、介護施設の場合には、認知症や障害をもった方々のケアが求められます。認知症を例にとると、幻覚・妄想・興奮といった症状が出現することがありますので、意思疎通が難しかったり、ケア拒否が生じて対応が困難になることがあるんですね。
このような状況に慣れていないと、うまく対応できずに、ケアの負担感から次回の派遣依頼を断る場合も出てくると思いますし、介護現場に定着しなくなる可能性も出てくると思います。

意欲をもって働ける資格・環境へ

――リスナーの鳥取県の方から。

<私は老人ホームに勤務する生活相談員です。看護師の日雇いですが、入居者に対する対応が点の対応になると思います。施設での対応は、看護でも介護でも、点でなく線・面で対応する必要があると思います。先ほど先生がご指摘されたように、日々の変化に気付くことが大切だと思うんです。
それと、処遇面の問題もあると思います。よく人手不足という問題では、お給料を上げたほうがいいとか職場の現状を変えたほうがいい。>

――職場環境を改善することで、変わることはないですか。

小林さん: 労働環境を改善したり処遇をよくすることは、看護師の離職を防止するために非常に重要だとは思います。けれど、それだけではやはり不十分だと思うんですね。
最も重要なのは、看護師が働きたいと思えるような、やりがいを持って働くことのできる環境を作ることではないのかな、と考えています。

――やりがいを持って働けることができる環境とは、具体的にどういった状況ですか。

小林さん: たとえば、看護師が自身の能力や考えを生かして、もっと利用者さんに寄り添った形でケアすることのできる体制を整えることが重要だと思います。厚労省の調査でも、介護現場で働く看護師の実に7割以上がそれを望んでいるんです。
看護師たちがどうしてそう考えるかというと、現場で働く看護師だからこそ見える問題があります。
たとえば今、介護の現場では、たくさんの薬が処方されてしまって有害な副作用が現れる「ポリファーマシー」が問題になっているんです。それによって認知機能や精神症状などが悪化してしまって、日常生活が送れなくなってしまう高齢者の方々も中にはいます。
看護師ひとりひとりがその状態をきちんと評価して、処方されている薬剤が今本当に必要なのかどうかを精査できる力を身につけられれば、医師に処方の中止や変更を提案することもできますし、高齢者によりよい生活をもたらすこともできると思うんです。

欧米では、介護の現場でそういった能力や権限をもった、診療のできる「ナース・プラクティショナー」と呼ばれる看護師が活躍しているんです。
ナース・プラクティショナーは、自身の判断で薬剤を調整したり処方したりすることも可能になっていて、それが看護師にとってのやりがいにもなっています。また、医療費の抑制にもつながっていますし、高齢者にとってもメリットがある資格になっています。

――そうした知識を学ぶための研修といったことは行われていないんですか。

小林さん: 日本でも、「特定行為研修」という研修を受けた看護師は、事前に医師が作成した手順書をもとに医師の指示を待たずに個人の判断で高度な診療補助を行うことは可能です。
ただ、この研修も、単なる技術の習得に終始するのではなくて、高度な判断力や思考力を学べるようにしていかないといけないと思います。
今後はこういった制度をきちんともっと整備していって、看護師のやりがいを高めるという視点を大切にしていかなければいけないと思います。

――ラジオをお聞きのリスナーから。

<施設では薬はどうのんだかという管理とか病歴など細かく伝達していると思うんですけれど、それが看護師さんだけでなくて、ケアワーカーさんにも伝わるような仕組みという部分も。>

――施設もいろいろありますから、そういった部分も含めて考えていって、うまく回るような形になるといいですよね。

小林さん: そうですね。きちんとそういった情報共有ができる仕組みができるといいと思います。

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