みんなでファクトチェック マンガで描く“陰謀論と恋愛” 魚豊さんに聞く(後編)

24/05/24まで

Nらじ

放送日:2024/05/17

#インタビュー#マンガ・アニメ

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「偽情報社会の歩き方」について考える、「みんなでファクトチェック」のコーナー。前回に続き「陰謀論と恋愛」をテーマにした作品が話題の人気漫画家、魚豊(うおと)さんをスタジオにお迎えして、お話をうかがいます。(聞き手:足立義則デスク(ネットワーク報道部)、杉田淳ニュースデスク、柴田祐規子アナウンサー)

【出演者】
魚豊:魚豊さん(漫画家)

前編の記事はこちら

みんな「世界をよくしたいと思っている」はずなのに

足立:
陰謀論といいますと、例えば大きな地震が起きるたびに「これは人工地震で、大きな問題から目をそらすために引き起こされたものだ」などといった、物事の背景に何かの組織の謀略があるというような考え方ですが、でも杉田さん、私たちも記者ですから、物事を深読みすることや、背景に何かの力が働いているのではないかと考えること、それ自体は常にしてきたといえますよね。

杉田:
「スジ読み」をする、などといいますね。

足立:
今回は、そんなちょっと違った視点も入れながら、陰謀論という考え方に向き合いたいと思います。
魚豊さん、よろしくお願いいたします。

魚豊:
お願いします。

足立:
あらためて魚豊さんの話題作の「ようこそFACT(東京S区第二支部)へ」。工場で非正規雇用で働く主人公の19歳の青年「渡辺」と、大学生で社会の課題解決をするために投資家を目指す同い年の女性「飯山」さん、そして世界は闇の組織に操られていると主張する「先生」を名乗る謎の男性といった登場人物を軸に、陰謀論や社会の格差の問題などを恋愛コメディーも交えて描いた作品です。
魚豊さん、前回のお話の中で、この作品の題材を決めたきっかけに、アメリカの連邦議会議事堂襲撃事件があったと話されていましたね。

魚豊:
あそこまでショッキングな事が起きてしまったという、そのことにすごい衝撃がありましたね。あの映像を見て人間が集団になった時のエネルギー、その背後にある「Qアノン」ですとか、そういうものにはずっと興味があったんですけど、何かひとつの形になってしまったと思いましたね。

柴田:
もう理解を超えた不幸なことが、次から次へと起こってきたっていうこともあるのかもしれないですよね。想像もできないような自然災害が世界各地で起こるとか、ちょっと今までの常識と考えられないようなことが、次々に起こった時って、人々は不安になるでしょうし、そういうことと陰謀論の強さは結びつくんでしょうか。

魚豊:
そうですね、そういう何かカオスが起こった時にひとつの筋を見いだしてくれて、心を静めてくれるっていうようなところもあると思いますし、同時にやっぱり「正義を果たせる」っていうところもあると思います。
誰も陰謀論を信じている方っていうのは、「世界を悪くしたい」って思っている人はひとりもいない、みんな「世界をよくしたい」と思っている。そして「世界を悪くされている」って思っているというところが、無視できないところだと思いますね。

足立:
作品の中で「先生」を名乗る人物は、渡辺君に「世の中技術が進んで、今も物があふれかえっているじゃないか。それなのに、なぜこれほどまでに君の生活は貧しいのか。どう思う?」というふうに語りかけますよね。渡辺君も、「そういえばそうだな…」と、自分のせいだと思っていたけれどもそんな考え方もあるんだっていうふうに、そこから次第にひき込まれていくんだと思うんですけれど、先生の語りの説得力について、同じように感じる人もいると思います。

魚豊:
先生のセリフに関しては、結構半分ぐらい、完全なる正論という意識で描いていますね。本作ですごくテーマとなっているのは「能力主義」の問題で、「生まれじゃなくて能力によって人の価値が決まって、だから平等でしょ、チャンスはみんなにあったでしょ」っていうような世の中だと思うんですけど、だけどそれによってやっぱり言い訳ができなくなっている。だってがんばって勉強すればいい大学入って、いい大学入れればいいとこに就職できたはずでしょ、っていうようなロジックが生まれやすくなっちゃう。そういうものが平等というものの上にできているっていう問題は、本作ですごい意識したかったところですね。

大事なのは「否定から入らない」こと

足立:
作品の中で、主人公の渡辺くんが友達の飯山さんに「アポロ11号の月面着陸はうそなんだ」と主張したところ、飯山さんがひとつひとつそれは違う、そこは違うと事実関係を真偽検証して伝える、まさにファクトチェックだと思うんですけど、「君は間違ってるよ」とバーンと告げます。それに対して渡辺は、そんな全否定しなくてもとかえって反発してしまう。ここのところは、ファクトチェックの伝え方はどうあるべきかということが描かれている感じがしました。

魚豊:
あそこは結構重要なシーンとして描いたんですけど、そもそも「何がファクトか」みたいな事を考えると、別に反論はできちゃうわけですよね。飯山さんが言っている事だって「間違っているかもしれない」というのは言えちゃうわけで。そして、それが間違っているという根拠も作れちゃう。ここはそういう難しさがあるシーンとして描いたっていうのはありますね。

足立:
新型コロナのときも、それ以外でもそうしたやり取りはあったなと思いました。

柴田:
議論がずっと平行線というか、ぶつかるんだけど解決しないっていうんですかね。

魚豊:
やっぱり信じたいほうを信じると思うので、それは科学を信じている人もそうだろうっていうところはありますね。
僕がすごく大事だなと思う姿勢は、ポパー(カール・ポパー:科学哲学者 1902-1994)の反証可能性。科学の定義でこれが正しいっていうんじゃなくて、これは間違ってるよって言われる事を引き受けること。そういう批判に開かれることが科学的な姿勢で大事なんだっていうことを言っていて。それはすごく学生時代に衝撃を受けました。だから「今は暫定的な真理である」という姿勢で物事を考えていくことは、すごく大事なんだろうと思いますね。

杉田:
目の前に陰謀論にはまってしまっている人がいた時にね、自分はどういう姿勢で向き合えばいいんだろうって思っちゃうんですけれども、何か魚豊さん、私にアドバイスはありますか。

魚豊:
それは僕もすごい考えて、本作の最終回のテーマにもなっていくんですけど、これは僕の意見っていうより、取材で聞いて、ああなるほどなと思ったことで、陰謀論者の方の言っていることをおもしろがることっていう。「なるほどそういう世界の見方があるんだね」って。しかもそれを本気で、「ああなるほど!」っておもしろがりつつ、でもこういうのもおもしろいんじゃね? と自分の見方みたいなのも入れていって。何かそういう事をしていくと、結局現実世界の方がおもしろいから、いろんなものの見方のある方がおもしろいことの量が増えるっていうシンプルなことを提示していくというような。身近に陰謀論者の方がもしいたら、それはすごい大切な姿勢だなと思いましたね。

杉田:
否定から入らないって事ですよね。

魚豊:
好奇心で入るというか。それはいいなと思いました。

考えていきたい「ポジティブなことば」

柴田:
きょうの聞き手の私たちは足立デスクも杉田デスクも私も50代で、魚豊さんに比べたらもう人生の後半ですけれども、魚豊さんはこれからの社会を生きていく世代ですよね。そういう世代にとって何が今、情報として必要なんでしょうか。

魚豊:
やっぱりポジティブなことばっていうのはすごく重要だと思って。僕、ことしで27歳ですけど、学生時代は震災があって、コロナがあってという時に、何かポジティブなことばを全然信じられないっていう、ポジティブなことばをものすごく「狩る」ような言論空間だったと思うんですね。肯定的なことを言うのがすごく難しいような。
でも本当に重要だと思うんですよ、ポジティブなことばっていうのは。それはほかのことばで言いかえられないものだと思うんですね、「愛」とか「絆」っていうのは。
そういうことばをうそくさくなく使っていく、どうすればうそくさくなく使えるんだろう、取り戻せるんだろうっていうのはすごく考えてることだし、今後すごい重要だなって思うところですね。

足立:
作品の登場人物はみなさん、世の中をよくしたいと思っている。きょうのお話を聞いていて感じたんですけれども、陰謀論というカテゴリーの主張をされている方々への向き合い方をアップデートしないといけないなということはとても感じました。本日は、どうもありがとうございました。

魚豊:
ありがとうございました。

リスナーのみなさんからのメッセージ

柴田:
漫画家の魚豊さんをゲストにお送りしました。
リスナーのみなさんからもメッセージをいただいています。

ニュースでちゃんと報道すべき事を報道しないからみんな疑心暗鬼になるんではないのかなと

足立:
ちゃんと報道しないといけない、その「ちゃんと」とは、細かい疑問や不安にこたえないといけないと思います。何がわかっていて、何がわかっていないかをちゃんと伝えていかないといけない、ということを心がけていきたいと思います。

柴田・杉田:
「みんなでファクトチェック」のコーナーでした。
ありがとうございました。

「みんなでファクトチェック」

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