非正規雇用で働く人たち アフターコロナの現状と課題

24/05/17まで

Nらじ

放送日:2024/05/10

#インタビュー#コロナウイルス#シゴト

放送を聴く
24/05/17まで

放送を聴く
24/05/17まで

誰もが暮らしやすい社会を実現するために知って欲しい「今」の動きについてお伝えする「みんなのニュース」。今回は、NHKの福祉番組「ハートネットTV」と連動して、「アフターコロナにおける非正規雇用の現状と課題」についてお伝えします。お話をうかがうのは、非正規雇用で働く人たちの現状に詳しい総合サポートユニオン共同代表の青木耕太郎さん。そして日本と世界の労働問題について研究してきた日本女子大学名誉教授の大沢真知子さんです。(聞き手:杉田 淳 ニュースデスク・柴田 祐規子キャスター)

【出演者】
青木:青木耕太郎さん(総合サポートユニオン共同代表)
大沢:大沢真知子さん(日本女子大学 名誉教授)

生活実態が悪化する非正規雇用で働く人たち 「不安しかない」

柴田:
非正規雇用で働く人たちが今どのような状況にあるのか、その実態を知るために声を募集したところ、現在までに約120件寄せられました。切実な声が届いています。ご紹介します。

大阪府 40代女性
2人の子どものひとり親になって10年以上経ちますが、ずっと非正規雇用で働いています。下の子どもがこの春高校を卒業し、行政からの手当てがすべてなくなりました。この先の進学が一番お金がかかるのと、自分自身の老後資金が足りるのか、不安しかありません。この物価高でも時給は大幅に上がらず、日々暮らすのが精一杯で、連休もどこへも行けません。自分自身の体力への不安と戦いつつ働いていますが、不安しかありません。

石川県 40代
難病持ちの非正規職です。いわゆる氷河期世代です。難病持ちになって正社員の仕事をやめて、社会復帰したけれど、そこからずっと非正規。20代の頃にも非正規の時期はあったけど、病気+年齢もあって、なかなかここから抜け出せません。まもなく任期満了という名の雇い止めがやってきて、次を探さなくてはならないけれど、不安しかない。人手不足と言われる世の中が、自分とはかけ離れて聞こえる。病気があるからこそ、理解があるところで長く働きたい。

柴田・杉田:
ありがとうございます。

柴田:
非正規雇用で働く人たちは今どのような状況にあるのか。ここからは、総合サポートユニオン共同代表の青木耕太郎さんにお話をうかがいます。よろしくお願いします。

青木:
よろしくお願いします。

杉田:
まずお伺いしたいのですが、“コロナが落ち着き、職には戻れているけれど生活は厳しい”、それが実態でしょうか。

青木:
そうですね。コロナ禍で非正規労働者の方は、かなり雇い止めに遭って職を失う方がとっても多かったのですけれども、そこから3~4年経った現在ですと、多くの人が一応再び仕事に復帰している、もう一回仕事に就いているという実感はあります。けれども、また転職した先も非正規の仕事という方がとても多くて、生活実態は一段と悪化しているという状況があると思っています。
例えばコロナ禍の休業や雇い止めでわずかにあった貯金を切り崩した人も多くて、そこに最近の物価高が打撃となって重なり、生活が立ち行かなくなっているという相談が寄せられています。ある人からは「切り詰めるところを全部切り詰めても、インフレによる光熱費や食費の値上がり分の5,000円、1万円がどうにも捻出できない」という相談も受けています。
近年、最低賃金が上がっていると思われるかもしれませんが、年に30円~40円というアップの水準ですので、インフレに賃上げが追いついていない、むしろ統計を見てもわかるように実質賃金は下がっているということで、ほんとうに生活が苦しくなっているというのが現状かと思っています。

非正規で働く人たちの賃上げは?

柴田:
ことしの春闘では、大企業を中心に大幅なベースアップを勝ち取ったという報道が相次ぎました。これは主に正規の従業員の待遇に関する動きだと思いますが、ことしの春闘で非正規の人への待遇はどう変わりましたか?

青木:
連合の春闘の統計などでは、非正規の賃上げ率が6%近くに達していると発表されて、報道もされています。それ自体はプラスに捉えるべき話なのですが、そもそも非正雇用で働く人の9割以上は労働組合に入っていないわけなんです。ですからいま言った話は、大手の一部の方の話というように認識せざるをえないと思っています。実際に私たち「非正規春闘」の委員会で非正規労働者を対象とした調査を行ったところ、5月1日から8日時点で「この春、賃金の引き上げがなされていない」と回答した人が7割にのぼったのです。

パートやアルバイトなども「非正規春闘」で賃上げ交渉を

青木:
そういう中で、私たちとしてはやっぱり労働組合がない方、職場に組合がない方も賃上げをできるような回路を作りたいということで、去年、日本で初めての取り組みだと思うのですが、非正規の方が春闘に参加できるようにと「非正規春闘実行委員会」というものを立ち上げました。この特徴としては、全国各地でパートやアルバイトなど非正規で働く方が、職場に労働組合がなかったとしても個人で労働組合に入ることができ、団体交渉であったりストライキであったりといった形で賃上げを求めていく。これを各地の労働組合、個人加盟できるユニオンが連携してやるという形です。ことしはさらに規模も広がって、約3万人の非正規労働者の方が参加して、小売業であったり飲食業であったり教育あるいは福祉介護など107社を相手に、賃上げ10%以上を求めて交渉しています。

杉田:
その成果はいかがでしたか?

青木:
やってみて、声を上げることの重要性をまず感じました。例えば都内の私立学校では非常勤講師全員の平均8%アップを実現したり、非正規の従業員が9,000人近くいるスーパーマーケットでアルバイトの方の賃上げ5%を勝ちとるとかですね。107社に要求を提出したと申し上げましたが、そのうち50数社で賃上げを実現しているということで、一定の成果もありました。ただやっぱり全体的に見ると3%から4%ぐらいの賃上げが多い印象ですし、中には「一切賃上げできません」という回答もありました。そういう状況を見ると、ことしの大企業・正社員中心の春闘は「歴史的な高水準」と言われていますが、それに比べると(非正規雇用の)賃上げの数字が低くてインフレ率に追いついていないと感じています。引き続き交渉を進めて、なんとか非正規労働者の賃上げを目指していきたいと思っております。

柴田:
ここまで総合サポートユニオン共同代表の青木耕太郎さんにお話を伺いました。

柴田・杉田:
青木さん、ありがとうございました。

青木:
こちらこそありがとうございました。

コロナ禍後 放置された非正規雇用の諸問題

柴田:
ここからは、非正規雇用の課題などについて、長年にわたり日本と世界の労働問題について研究してきた日本女子大学名誉教授の大沢真知子さんにうかがいます。よろしくお願いします。

大沢:
よろしくお願いします。

杉田:
大沢さん、物価高が続く中で非正規雇用で働く方々の厳しい生活実態の話がありましたが、どのように受け止めていらっしゃいますか?

大沢:
本当にそのとおりだと思います。今、非正規雇用で働く人は約2,100万人で、労働者全体の37%を占めるんですね。しかも、コロナ禍では解雇や雇い止めがあって、一時期非正規雇用の人数は減ったのですけれど、その後また増加に転じているんですね。今、仕事に復帰できているがゆえに、コロナ禍で見えた非正規労働者の「雇用が不安定であること」「待遇が十分でないこと」など、さまざまな問題が隠されて、うずもれてしまったじゃないかと、それを非常に危惧しています。そこをこれから社会全体で考えていく必要があると思います。

非正規の賃金が低く抑えられてきた理由

柴田:
非正規雇用で働く人たちの給与が正規で働く人たちに比べると低く抑えられてきたという現状がありますね。これはなぜなんでしょうか。

大沢:
だいたい非正規の年収は正社員の67%ですね。時給で見るともっともっと低いです。正社員だと年齢とともに賃金が上がっていきますが、非正社員の場合にはほとんど上がっていかないという状況があります。
その背後に、日本で伝統的に「正社員は男性で稼ぎ主」「女性は家計補助的に働く妻」という、そういったモデルが前提になって賃金が設定されてきている、それが変化していないということが一番大きいと思いますね。非正規で生活を維持していくっていうことを前提に経済モデルができてないということ、これを見直さないといけないと思います。

杉田:
そこに、男性の非正規雇用で働く人たちも増えていますしね。

大沢:
そうです。あとはシングルマザーでお子さんを抱えていらっしゃるとか、いろいろな事情の方がいらっしゃるので、(子育てや介護など)ケアの問題もあって非正規を選択されている、その結果貧困と背中合わせになっている…。そういう人たちが4割弱はいる日本の社会の現状を、もっと重要な社会問題として私たち全員で考えていかなきゃならないと思っています。

“人材を安く使う企業体質”と“正社員の働き方”の見直しを

杉田:
なるほど。一方で円安のニュースもずっと続いていますね。若い人の中にはもういっそのこと海外で働こうというような動きもあると聞いたことがあります。

大沢:
はい。私の回りでもそういう話を聞いたりいたします。やはり日本にいるより海外で働いたほうが賃金も高いと。特に最低賃金と非正規の処遇って結び付いているのですが、日本は先進国の最低賃金の半分以下の賃金水準なんですね。そういった事情から、若者やいろんな方が海外に行って稼ぎたいというのは今トレンドになっているといってもおかしくないと思います。どうしてかというと、やっぱり日本の企業全体が「非正規が安い」ということで人件費を削減するために非正規比率を増やしてきたという、ここ20年~30年のトレンドですね。それでは日本が成長しないということで、安く労働者を使っていくような体質から日本が脱出しないと、この問題は解決できないかなと思っています。

杉田:
国の未来に大きく関わってくる問題だと思うんですけれども、これから必要になってくる対策はどういったことになりますか?

大沢:
ひとつはやはり「正社員の働き方」の問題も大きいと思います。非正規になりたいという場合には、やはりいろいろなケアの問題、個人的な問題で長時間働けない、しかし正社員になると長時間の労働を強いられてしまう、それならば非正規を選ぶしかないという人がいます。しかし重要なのは「正社員であっても適正な労働時間で働いて、個人の生活も重視できる」ような、そういう働き方ができてくれば、非正規の方々も働きやすくなります。そして今は非正規からなかなか正社員に異動できないのですが、ここをやっぱりどんどん正規に異動しながら優秀な人材をたくさん確保して、企業が生産性を上げていく、そういうことが重要になってくるかなと思います。そういう意味で正社員の働き方の見直しも重要になっていると考えています。

柴田:
ここまでは日本女子大学名誉教授の大沢真知子さんにお話を伺ってきました。

柴田・杉田:
ありがとうございました。

大沢:
ありがとうございました。

番組に寄せられたメッセージ

柴田:
みなさんからメッセージをいただいています。

大学の非常勤講師で生計を立てています。3年前、何の説明もなく1割以上時給が減りました。大学の助成金カットという事情のようですが私たちには関係ありません。1年契約なので不満も言えません。生活は苦しくなりました。

失われた30年の間、人件費削減で会社の業績を保つ社会が出来上がったのも問題だったんですね。失われた30年を脱出するためにも、非正規雇用の改革が必要だと思います。

非正規がみんなでストライキやったら日本の企業はほとんどつぶれる。

まあ団体交渉しない限りは賃上げの可能性は低いよなー。そうじゃなきゃ個人で経営者と交渉するか、経営者の温情にゆだねるしかないもの。

柴田・杉田:
みなさん、ありがとうございました。

柴田:
非正規雇用で働く人たちの現状や必要な支援について考えるため、みなさまの声を募集しています。Eテレの福祉番組「ハートネットTV」の番組ホームページの投稿ホームにお寄せください。6月の中旬には「ハートネットTV」で「非正規雇用」をテーマに番組をお伝えする予定です。

ハートネットTV

Eテレ
毎週月曜~水曜 午後8時ほか

詳しくはこちら


【放送】
2024/05/10 「Nらじ」

放送を聴く
24/05/17まで

放送を聴く
24/05/17まで

この記事をシェアする

※別ウィンドウで開きます