みんなでファクトチェック 第5回 マンガで描く“陰謀論と恋愛” 魚豊さんに聞く(前編)

24/05/17まで

Nらじ

放送日:2024/05/10

#インタビュー#マンガ・アニメ

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「偽情報社会の歩き方」について考える「みんなでファクトチェック」のコーナー。ネットワーク報道部の足立義則デスクとお伝えします。今回は「陰謀論と恋愛」をテーマにした作品が話題の人気漫画家・魚豊(うおと)さんをスタジオにお迎えして「陰謀論」について考えます。(聞き手:足立義則 デスク(ネットワーク報道部)、杉田淳 ニュースデスク、柴田祐規子 アナウンサー)

【出演者】
魚豊:魚豊さん(漫画家)

米議事堂襲撃事件から受けたショック

足立:
このところ大きな地震が起きる度に、「これは人工地震で、大きな問題から目をそらすために引き起こされたものだ」といった投稿が、SNSに見られます。でも、こうした投稿に対して、「偽情報に注意しましょう」というだけでは、溝はなくならないのではないかという問題意識があり、きょうは、魚豊さんと一緒に「偽情報社会の歩き方」について考えたいと思います。魚豊さん、よろしくお願いいたします。

魚豊:
よろしくお願いします。漫画家の魚豊と申します。

足立:
魚豊さんは、前作の、地動説が異端だった時代にその証明に命を懸けた人々を描いた「チ。-地球の運動について-」が大変な話題になって、アニメ化も発表されています。
そして新作が、「ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ」という作品です。主人公は19歳の渡辺という青年で、食品加工工場で毎日働いていますが、自分の将来に希望を持てない生活を送っている。そうした中で、ある日気になる女性と出会い、これは恋かもしれないと思って、その女性をSNSでひぼう中傷している団体から救おうと、「FACT」というその団体にコンタクトを取る。そうしたところ「世界はある巨大な陰謀によって動かされている」と説明され、主人公・渡辺くんは、次第にその主張にひかれていく…というところが序盤のストーリーですね。

柴田:
渡辺君の気持ちがどう変化していくのかを読者が追いかけていくことによって、どうやって人が陰謀論というものにのめり込んでいくのかということがよく分かるんですけれども、ちょっと、今までのコミックにない独特な作りという気がしました。

足立:
魚豊さんは27歳でいらっしゃいますね。この作品を描かれた動機について教えていただけますか。

魚豊:
もともと陰謀論に対して漠然と興味があって、こういうものがあるんだなと思っていたんですけど、それがアメリカの連邦議会議事堂の襲撃につながって、それはすごいセンセーショナルだったので、これ以上の大きな事件が陰謀論にまつわって起きることはないだろうなと思ったんです。
でもさらにその先に戦争が起こって、その戦争についても陰謀論的な解釈をする意見が少なからず見られて、これは何だろう、戦争っていうものをすら陰謀論は飲み込んでしまうんだっていう、ああこれは今後、人類がずっとつきあっていくものなのかと思って。新たな思想の、ひとつの事件なんだと思って、漫画にしたいと思いましたね。

あらためて「陰謀論」とは

足立:
ここであらためて「陰謀論とは何か」について簡単にご説明したいと思います。陰謀論とは、世の中で起きたことについて事実とか一般的な考え方とは別に、何らかの計画によるものであると、何かの組織の謀略とか策謀によるものであるとする考え方のこととされています。
例えば作品の中で、主人公の渡辺君は、家の近くのコンビニエンスストアの店舗の位置を線でつなぐと数字の「6」の形になるから、これらの店舗は闇の組織に支配されているんだという考えにたどりついたりします。
また「クライシスアクター」という、災害や大事件などの映像に映った被害者のほとんどは俳優で、派手な事件をでっちあげて進行中の企てから目をそらすことが目的だ、という考え方も説明されるんですね。

杉田:
これまでは、何かちょっとおもしろい見方もあるよねっていうぐらいでおさまっていたのが、そうした意見の人たちがつながっていくことによって、何かひとつの力を持っていってしまうっていうんですかね。
そうすると、もうなにか引くに引けなくなっていくっていうか。そんな状況が、今起きてるのかなって思ったりもするんですが、いかがですか。

魚豊:
それはあると思います。さっきの陰謀論の説明の中で、一般的な事実や考え方とは違う計画によって、何かが世の中で起きているんだっていう事があったと思うんですけど、陰謀論において重要なのが、それが「われわれ」に起きているっていうところですね。「私」ではなく「われわれ」。
私たちの権利を阻害しているんだと、しかも、そのことの背景にはものすごい格差の拡大とかがあるわけですよね。確かに少数が多数よりすごく大きな利益を得ているっていう事実はあるので、必然的に出てきた考えでもあるというのは、ひとつの興味深さではあると思いますね。

「陰謀論と恋愛」 テーマ設定の理由は?

足立:
「ようこそFACTへ」の本の帯にもありますが、作品のテーマが「陰謀論と恋愛」という、意外な組み合わせと思いました。

魚豊:
最初、陰謀論の作品を書こうと思った時、とはいえ何をどう書けばいいんだろうっていうのが全然思いついてなかったんです。でも、雑誌「現代思想」2021年5月号に、石戸諭さんという方が書かれていたんですが、陰謀論者の方たちは「根本的な帰属の誤り」、簡単に言うと深読みしすぎちゃうみたいなことで、その深読みしすぎちゃうっていう思考スキーム自体は誰にでも起こることで、恋愛ではたぶん如実に起こるというか、誰もが経験したことある事なんじゃないかなと思って。恋愛っていう姿勢と陰謀論っていうものが、ものすごくつながったことで、これは何かひとつ描けるかもしれない、そして何か身近に描けるかもしれないっていうところで、ひとつの筋が見えたっていうのはありましたね。

柴田:
渡辺君が、出会った女性に好意を持っていくその過程の中で妄想がどんどん広がっていくっていうんですかね、その過程と陰謀論にのめり込んでいく過程っていうのが、もしかしたら重なるかもしれない。

魚豊:
そうですね、そういう視点を入れれば、陰謀論というものがものすごく遠いものというより、身近に感じて、それが何かひとつの興味深さとかおもしろさにつながるんじゃないかと思ったので、こういう構造になったっていう感じです。

足立:
主人公は19歳の渡辺君、非正規雇用で工場で働いていますが、なかなか「自分の人生が始まっているというふうに思えない」と感じているという、この主人公の設定にはどのような考えがあったんですか。

魚豊:
まず格差を描きたいっていうことがひとつのテーマとしてあって、その格差ということ自体は残念ながら事実としてあると思うんですけど、まず格差のあるキャラクターとして、主人公とその主人公が好きになる相手との社会的な立場に差を置いたっていうところがあります。

足立:
渡辺君に感情移入できる人は、結構、若者にいるんじゃないかと思ったんですけどね。

魚豊:
そうですね、僕も完全に渡辺君の要素があるので。やっぱり何か深読みするところとか、被害妄想のところとか。僕も漫画家としてデビューする前とか、今も思ったりしますけど何でこれが評価されないんだろうとか、何でこれが評価されるんだろうみたいなところに対して、ものすごく逆恨みする、被害妄想な気持ちがすごくあったので、そういう視野狭さくというか独善的な感じというのは、すごく描きやすかったですね。自分と近いので。

陰謀論を信じる人を嘲笑しない

足立:
陰謀論についていろいろと取材をされる中で、なにか以前と印象が変わったことはありますか?

魚豊:
例えば、陰謀論のデモに行っている方たちも、あまり陰謀論に詳しくない人たちが結構いるらしいんですね。あれ自体がコミュニティーというかサークルとして機能していて、デモ自体というより、その後の飲み会の方が重視されていたりするという事を聞いた時に、なるほどと…。
そういう、本当に人々の不安とか孤独みたいなものに寄り添う形として陰謀論というものが出てきて、それがすごい結束感、しかも正義というところに結び付くので、それはしかも人間の美しいところでもあるわけですね。社会を良くしたいっていう。

柴田:
同じ共感する仲間たちと手を取り合って、目に見えない巨悪に向かって、戦いを挑むっていう…。

魚豊:
陰謀論を信じる人の特徴は、社会的な格差とか、例えばお金をめっちゃ持っているとか持っていないとか、学歴がいい、よくないとかはあまり関係なくて、「不安である」っていう心の状態の方が関係しているというようなこと、それはすごい意識して描きましたね。

柴田:
でも決して渡辺君を、何かバカにしていない描き方っていうんですか。つまり、陰謀論にはまっていってしまう若者を上から描いていないっていうんですかね。

魚豊:
そうですね、それは一番本作を描く時に気をつけようと思ったところというか、陰謀論を信じる人たちを嘲笑するような漫画には絶対したくなくて。というのは僕も別に全然、できた人間じゃないし、しかも別に陰謀的なことを信じている事もあるだろうし、そして僕が信じていることも間違っている事がいっぱいあるだろうし。
ただ、上から描くということはないだろうなと意識をしていること、そのこと自体が、上からというか特権性ではあるので、そこは本当に申し訳ないと思いつつ、それでもできるかぎり「かわい気」みたいなものを描きたいなと思いました。それは、自分の中にいる渡辺君っていうキャラクターを描いてるから、そんなに露悪的にしたくないっていうのはものすごくありましたね。

柴田:
杉田さん、魚豊さんのお話を聞いていて、何かちょっと、魚豊さんの世代の人たちが捉える陰謀論っていうのが、何かそういう事かって。驚きません?

杉田:
そうですね、だから自分の中にある不安っていうものの、すぐ脇っていうか、そういうものとすごく結び付いているんだっていうようなお話が、ああそういう事かっていうふうに思いますよね。

足立:
次回も魚豊さんをゲストにお招きして、陰謀論や偽情報対策のあり方などについて考えていきたいと思います。

柴田:
魚豊さん、どうぞよろしくお願いします。

魚豊:
よろしくお願いします。

リスナーのみなさんからの声

柴田:
リスナーのみなさんからメッセージを頂いています。

陰謀論は響きはよくないけれど今の時代にマッチする言葉かもしれません。

陰謀論を恋愛感情に例えるのわかりやすい。

陰謀論に漫画で正面から向き合ったのには敬意を表したいと思います。この漫画から陰謀の怖さをみんなで知り合うことが大切ですね。

柴田・杉田:
ありがとうございました。

後編の記事はこちら

「みんなでファクトチェック」

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2024/05/10 「Nらじ」

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