科学技術によるアクセシビリティの可能性 日本科学未来館

Nらじ

放送日:2024/04/26

#インタビュー#サイエンス#ロボット・AI

障がいがある人もない人も、若い人も高齢者も、それぞれの違いに関わらず誰もが楽しめるコンテンツを紹介する「みんなのエンタメ」。今回は東京・お台場にある「日本科学未来館」を紹介します。科学技術を使って、どんな人にとっても“アクセシビリティ(利便性)”が高い展示や施設にする取り組みや、未来の生活の質を向上させる技術の研究開発に力を入れています。日本科学未来館の副館長で研究推進室室長の高木啓伸さんにお話をうかがいます。(聞き手:杉田 淳 ニュースデスク・柴田 祐規子 アナウンサー)

【出演者】
高木:高木啓伸さん(日本科学未来館副館長・研究推進室室長)

アクセシビリティを高め 誰もが科学を体験し楽しめるように

日本科学未来館

柴田:
日本科学未来館は科学技術への理解を深めようと23年前にオープン。初代館長は初の日本人宇宙飛行士の毛利衛さん。現在は、全盲の研究者・浅川智恵子さんが2代目の館長をつとめ、高木さんは副館長をなさっているということです。

杉田:
私も実際に取材にでかけて、ひとつ先の未来を体験してきました。
未来館では“アクセシビリティ”=誰もが利用しやすい、ということに大変力を入れられているということですよね。

高木:
もともと科学館というのは図や映像などが対応しているので、視覚に障がいがある方にとってはなかなか楽しめない空間でもあったんです。そういったことが浅川館長の就任をきっかけとして、視覚に障がいがあっても、また高齢の方であっても、さまざまな方が科学を体験して楽しめるようにしたいということで、スタッフ一丸頑張っております。

柴田:
そうしたなかで特に注目されているのが「AIスーツケース」という移動支援ロボットということですけれど、どんなものなのでしょうか。

高木:
これは、スーツケースの形をした視覚障がい者のための“自立型ナビゲーションロボット”です。機内持ち込みサイズのスーツケースなんですが、その中にいろいろなセンサーであるとか、AI、コンピューターとかですね、あるいはモーターなどが入っていて、目的地を指定してハンドルを握るとその目的地まで障害物をよけながら安全に自動的に連れていってくれる、そんなロボットになっています。

移動支援ロボット「AIスーツケース」が館内をナビゲーション

杉田:
この「AIスーツケース」は、先週から来館者も試せるようになっています。そこで私も体験してきました。担当者の説明を受けつつ、人をよけながら目的地に向かっていく様子をお聴きください。

《杉田デスクの「AIスーツケース」体験リポート》

杉田:
これから「AIスーツケース」とともに、館内を歩いてみます。私はむかし運転免許の試験に何度も落ちているんですけれども、無事に目的地までたどりつけますでしょうか。行ってみます。ボタンを押します。さあ、動き出しますか。

スーツケースの音声:
『“プラネタリークライシス”に移動します。“プラネタリークライシス”は地球環境がテーマです』

杉田:
ああ、動き始めました。
ふだん歩くよりは、少しゆっくりめで…、でも順調に歩いています。
私は、スーツケースのハンドルを軽く握っているだけですね。

担当者:
ここで、私が、歩いている杉田さんの前に立ってみます。

杉田:
スーツケースが止まりました。

スーツケースの音声:
『前に人がいます』

担当者:
私がスーツケースの前に立って、邪魔をしていることを認識しました。

杉田:
そこでもう、賢く止まってくれました。
さあ、今度は何か微妙に「ウィンウィン」といっていますよ。

担当者:
いま、スーツケースがどんなふうに避けようかということを考えています。

杉田:
お! 右に微妙に向きを変えて…、人をよけて…。

スーツケースの音声:
『“プラネタリークライシス”に到着しました』

杉田:
目的地に到着しました。


高木:
いまですね、スーツケースと杉田さんの実況が入っていたのですが、スーツケースはいろいろなものを認識しながら避けていました。これはですね、実はスーツケースには被写体までの距離がわかる特殊なカメラが搭載されていて、人を認識すると、その人がロボットからどれぐらいの距離にいて、さらにその人がどの方向に向かってどれくらいのスピードで歩いているのかということを認識できるんです。ですので、周りの人たちすべての動きを把握して、止まったり動いたりというのをロボットがしているんです。
またもう1つ大事なセンサーがあって、“ライダー”というのですけれど、360度ぐるっとレーザー光線を発射して、周りの壁や障害物の立体的な形を常に認識しているんです。それによって、障害物をよけ、あるいは自分がどこにいるのかを認識しながら動いています。

杉田:
印象として、大変にスムーズな移動をするなという印象だったんですね。スーツケースのハンドルに手をかけているだけで、何か自然に連れていってもらえるような感じでした。私は、視覚障がいがあることでふだん感じていることは、たとえば「ここ、まっすぐ行けば大丈夫だから」と言われても、その「まっすぐ行く」というのがなかなか難しいんです。最初に10センチずれてしまっていたら、1キロ先まで行くとどれぐらいずれているんだろうかと。そうした状況にあるんですけれども、このスーツケースの動きはその微妙な誤差のようなものも、ものすごく敏感に作られているなという印象があったんですね。

高木:
たとえば、自分がどこにいるのかという位置を測定するのも、まさにいまおっしゃられた10cm以下の精度で常に計測しています。ですから「通路の真ん中を歩く」、「右側を移動する」ということを正確にできるようになっています。

「AIスーツケース」開発のきっかけは、浅川館長の実体験

柴田:
どうして“スーツケース”にしたのですか?

高木:
それ、よく聞かれる質問です。これは館長の浅川が思いついたものなのです。浅川は海外に出張で行くことも多いのですが、そのときに機内持ち込みサイズのスーツケースを前に持っていると、スーツケースって自分よりちょっと前を動かして移動しますよね。

柴田:
自分の体より前を、ですね、はい。

高木:
そうすると、壁があれば先にスーツケースがぶつかるし、もし何か危ない、たとえば段差などがあっても、スーツケースが先に落ちるわけですから、スーツケースを押していると安心して移動できるなということをそのとき思ったらしいんです。だったらいっそ、これにセンサーとAIとモーターを入れて「何番ゲートに行って」と言ったらそのゲートまで連れていってくれるようになれば、どれだけ便利だろうと思ったらしいんです。それがきっかけの1つです。
もう1つのすごく大事な理由があるのですけれど、スーツケースを持っていても、スーツケースを押して歩いていても、普通なんですよね、ぱっと見が。周りの人にとって。それは普通の風景なわけです。ですから、街の中に自然な風景として溶け込んで視覚障がいがある方々が移動できるような、そうしたデザインにしたいということで、みなさんに、周りの方々に受け入れてもらう、そういうためのデザインとして、スーツケースを選びました。

杉田:
実際に社会で使えるようにということを目的にされていると思うのですけれども、その上での課題はどんなことでしょうか?

高木:
さまざまな課題があります。私たちも、未来館にこういった“アクセシビリティ”技術を開発するためのラボ=研究室を作って、そこでさまざまな外部機関と協力しながら、日夜、研究開発を行っています。
ひとつ重要な技術的な課題が、周りにたくさんの人がいるような状況に関してです。周りにたくさんの人が移動していると、ロボットがどう移動していいのかわからなくなって止まってしまうようなシチュエーションや、立往生してしまうことがやっぱりあるんですよね。ですので、今回、先週から始めた定常運用で毎日館内で皆さんに使っていただいて、その時いろいろな人の動きが周りで行われるわけで、そのシチュエーションのデータというものを収集して、問題を分析をして、さらに向上させていくという活動をしています。

杉田:
なるほど。

高木:
そして、いま少し申し上げたのですけれど、周りの方々のやはり理解というのがすごく重要なんですよね。だから、技術的に向上するとともに、みなさんにこういうスーツケースが移動していてもそんなに怪しいものだと思わないで、自然に受け入れてもらうというようなことが重要です。

障がい者や高齢者は 先端技術を使いこなすトップバッター的な役割も

杉田:
この科学技術の進歩ということを考えると“多様性”とか“ユニバーサル”という視点というのは、実はイノベーションにつながっていくのではないかというふうに思うのですけれども、その点、高木さんはどのようにお考えですか。

高木:
AIやロボットの技術はいま急速に進歩しています。そうしたAIやロボットの技術が、障がいがある人たちや高齢の人たちが買い物をしたり、勉強をしたり、あるいは仕事をしたり、また科学館に行ったりといった日常生活の質、ひいては最終的に人生の質を高めてくれる大きな力になる可能性があると思うんです。つまり障がいがある人や高齢の人のユースケースというのは、そういった先端技術の先進的なユースケース、つまり使いこなすためのトップバッターになれる可能性があると思うのです。

杉田:
そうですね。

高木:
そういった科学技術を育てていくためには皆さんの力が本当に必要で、実際にこうした技術を体験して、そして自分の将来の生活だったり日常の生活にそういう技術があればどういう便利なことがあるか、どういう使いみちがあるのかを考えて、私たちに提案してほしいと。そういうことを繰り返していけば、新しい技術を自分たちの、私たちの生活の質を高めるために活用していけるのではないかなと。日本科学未来館はそういう場になりたいと思って、現在頑張っております。

みなさんからのメッセージ

柴田:
リスナーのみなさんから、メッセージをいただいています。

視覚障がい者は、情報障がい、移動障がいで日常生活を送るのに大変不便さを感じていますが、日本科学未来館の浅川館長が開発し実用化を進めているAIスーツケース、一日も早い実用化が待たれます。これが実現することによって、視覚障がい者の社会参加が広がるとともに、生きがいのある生活を送ることができる視覚障がい者が、すごく増えるのではないかと思います。首を長くして待っています。

杉田:
期待されていますね。

高木:
頑張ります。ぜひ「日本科学未来館」に来て、まずその一歩先の未来を体験していただければと思います。

柴田:
今回の「みんなエンタメ」は、日本科学未来館の副館長・高木啓伸さんとお伝えしてきました。

柴田・杉田:
ありがとうございました。

高木:
ありがとうございました。


【放送】
2024/04/26 「Nらじ」

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