“小1の壁”をみんなで乗り越えていくために

Nらじ

放送日:2024/04/26

#インタビュー#子育て#シゴト

世の中の話題から、みんなで考えていきたいテーマを取り上げる「みんなのニュース」。今回は「小1の壁」についてです。「小1の壁」は、子どもが小学校に入学したタイミングに、子育てをしながら働いている人たちが子育てと仕事の両立が難しくなる、ということを指すことばです。この「小1の壁」にともなう親の働き方を考えます。自らも「小1の壁」に直面した当事者だという、ネットワーク報道部の石川由季記者とお伝えします。(聞き手:杉田 淳 ニュースデスク、柴田 祐規子アナウンサー)

【出演者】
石川:石川由季記者(ネットワーク報道部)
上原:上原達也さん(XTalent株式会社 代表取締役)

当事者が語る「小1の壁」

杉田:
石川さんにとっての「小1の壁」は、どういったことだったのですか?

石川:
私の場合は、去年子どもが小学1年生になったのですけれども、入学してすぐに学校や学童保育に行きたがらなくなってしまったのです。今までずっとフルタイムで働いてきましたが、このことをきっかけに時短勤務に切り替えざるを得ませんでした。周りでも、いわゆる不登校とまでは至らなくても学校や学童保育へ行きしぶっている、という子どもたちも少なくありませんでした。子どもたちにとっても、たとえば45分間いすに座って勉強するとか、1人で学校に行って帰ってくるとか、家に帰ったら宿題とか…。やはり小学生になるということは大きな環境の変化になりますよね。そのなかで不安定になるお子さんもいますから、私たち親の側も、いままでとは異なる関わり方や対応、ケアが必要になって、仕事と子育ての両立が難しくなってくる、という壁もあるということを、当事者として体験しました。

杉田:
行政の対策としますと、学童保育を充実させるなどがメインになると思うのですけれど、小1の“壁”というのはそれだけではない、ということですね。

石川:
子どもたちも小さなころと違って、少しずつ自分の意思をことばで私たちに伝えてくるようになってきますから、そことどう折り合いをつけるかというところで悩んでいる保護者の方も多いようです。

杉田:
でも、周りから「小学校に上がったのだから、もう手がかからなくなったでしょう」といったことは言われませんか?

石川:
そうですね。私自身も子どもが生まれる前は、漠然と子どもが小学生になったら子育ては少しは楽になって働きやすくなるのかな、というようなイメージを持っていましたし、周りからも去年のこのタイミングで「もう1年生になったのだから、だいぶ楽になったでしょう」とよく声をかけられました。ただ、小学校入学というタイミングで、むしろ子どもと向き合わなくてはいけない時間が長くなっている、というふうに個人的には感じていました。
そこで今回紹介したいのが、東京都内のNPO法人が去年、東京・埼玉・千葉・神奈川の1都3県に住む小学生を育てる1,000人の働く女性を対象に行ったウェブアンケートの結果です。この調査ではおよそ半数の女性が「小学校への入学にあたって、働き方の見直しを検討した」と回答しています。さらに、「子どもの入学で子育ての悩みや負担が増えた」という人も半数以上に上りました。また、「実際に入学前後に働き方を変えた」という人も379人いまして、このうち私のように「職場を変えずに時短勤務にした」という人も、27.4%いました。

杉田:
深刻ですね。でも、このアンケートの対象というのは女性ですよね。だから男性を対象にしていたら、どんな数字になっていたのだろう、と思ってしまいます。聞くのが怖い、というか…。実はこの放送にあたって私、家庭で「わが家は『小1の壁』ってあったんだっけ?」と聞いてしまったんですよね。

石川:
当時、それくらい仕事が忙しかった、ということなのかなとは思うのですけれども、やはりこの「小1の壁」を調べてみても、キーワードを検索しているのは女性のほうが多いですし、SNSで悩みや不安を投稿している方も、現状女性が多いという状況です。
子育てですとか働き方というのは、世代や性別が違うと同じ問題について考えていても、見方やとらえ方が違ってくるとこの取材を通して改めて感じています。ただ、今、壁に直面して仕事を辞めたり転職したりという人も一定数存在しているということを考えると、この「小1の壁」というのは、当事者の家族や学校だけの問題ではなくて、小さな子どもを育てる人が働く企業も、職場も、そういう人を部下や同僚に持つ人たちをはじめ、みんなの問題として考えていけたらな、というふうに思っています。

“子育て中の親が対象”の転職支援の現状

柴田:
そこで、今回は“ワーキングペアレンツ”=子育てをしながら働いている人たち向けの転職支援を行う企業の方と電話がつながっています。XTalent(クロスタレント)株式会社・代表取締役の上原達也さんです。よろしくお願いします。

上原:
よろしくお願いします。

杉田:
現在、さまざまな転職サイトがありますが、子育て中の親御さんを対象にした転職支援サービスを行っているということなんですが、やはり需要が多いということなのでしょうか?

上原:
たくさんの方からいま登録をいただいています。
簡単にサービスのことをお話しすると、子育て中の方、女性に限らず男性の登録も非常に増えてきています。育児と両立しながら仕事も好きで続けていきたいのだけれど、やはりお子さんとの時間だったり保育園の送り迎えなどだったり、ちゃんと行っていきたいと、そういった方からの登録をたくさんいただいていて、その転職支援をさせていただいています。登録がたくさんあるなかで、やはり「小1の壁」を迎えるにあたって働き方を見直したいとか、小1の壁とも向き合っていけるような働き方ができる職場を探したいとかという相談は日々いただいています。

杉田:
上原さん自身もこの「小1の壁」に直面されたということですね。

上原:
今、小学生が2人いるのですが、下の子が小学1年生になったところで、やっぱり「小1の壁」といいますか、学童保育に行きたくないなとか、いろいろなことがあります。いま、自分が在宅勤務だから対応できることというのもあるんですけれども、もう夫婦でどういうふうに対応するかっていうのを、試行錯誤しているところです。

杉田:
転職を希望される人にとって、今の働き方の中で何がネックになっていると感じていますか?

上原:
大きくは「働く時間」と「働く場所」についてお話しくださることが多いです。まず「時間」については、さきほど時短勤務にされた、という話もありましたけれど、企業によっては子どもが小学校に上がるタイミングで時短勤務が使えなくなるということはやはりまだまだ多いんですね。

杉田:
なるほど。

上原:
法令では、子どもが3歳になるまでは時短勤務が使えるようにとされているので、3歳になった時点でもう使えなくなるとか、小学校にあがる6歳で時短勤務が使えなくなるという場合には学童保育の終わりの時間に対応できなくなってしまうとか。そうした保育園の時とは違って、いまの会社の働き方では子どもが学校に入学した場合に対応するのは難しくなってしまうため、リモートワークやフレックスタイムなどが導入されている会社などへの転職を考えるという方が、非常に多いですね。

柴田:
この問題を解決するためには、どんな方法があるのでしょうか?

上原:
企業側としてどう対処していくかということと、企業だけではなく家庭の側でできることもあるのではないかと思っています。
まず企業としては、毎日ではなくても可能な範囲で、たとえばテレワークが使えるとか、フレックスや時差出勤などにより帰宅の時間を調整できるとか、自宅にいる時間を少し延ばすことができるとか、そうしたワークスタイルの柔軟性はやはり必要になってくるのではないかと感じます。

柴田:
家庭では、どうでしょうか?

上原:
先ほど、男性の悩みはまだまだ少ないのではないかというお話がありましたが、夫婦での分担というところも重要だと思います。男性の方で、もうすぐ小学校1年生に上がるので自分も在宅勤務を使えるようにとか、家のことにきちんと対応できるような仕事のやり方をしていきたいとか、男性も企業の制度を使って、女性だけに負担が偏るのではなく、男女でしっかり分担していく、そういった対応ができるように個人が変わる。また企業の側も、対応できるようにこれまでの文化を変えていくことが必要になるのではないかと思います。

柴田:
ただ企業側は、働き手から「小1の壁なので」と言われたとしても、それに合わせてすぐ柔軟な働き方を用意するのは難しいということもありますよね。柔軟な働き方ができる会社とそうではない会社はどこに一番違いがあるのでしょうか。

上原:
これは決して、子育て世代だけを優遇してほしいとか配慮してほしいとかいうだけの話ではないと思うのです。働き方については、いろいろな人が今、さまざまな事情を抱えながら仕事をしています。たとえば働きながら不妊治療されている方とか、介護に取り組んでいらっしゃる方とかどんどん増えていくなかで、「毎日同じ時間に出勤して同じ時間までオフィスで働くことは当たり前だよね」という中だと、いろいろな方がそこから取り残されていくということが起きてくると思っています。ですから、長時間労働というものも見直さないといけないとか、たとえば、もっと仕事をデジタル化していくとか仕組みを見直すことで、いろいろな人でカバーしあえて、いろんな事情がある方が活躍していくことができる会社づくりをしていくことが、最終的に会社にとってもいいことがあるんじゃないかと思っています。

杉田:
幅広い意識改革が必要だということですよね。

上原:
そう思います。

柴田:
ここまで、XTalent株式会社・代表取締役の上原達也さんに電話でお話を伺いました。上原さん、お忙しい時間にありがとうございました。

上原:
ありがとうございました。

さまざまな立場で“みんなの働き方”を考える

柴田:
杉田さん、いまの上原さんのお話を聞いてどうでしょうか?

杉田:
やはり、望まないかたちで自分のキャリアが断ち切られてしまうということは本人も悔しいですけれども、社会にとっても損失だというような、そんな意識が必要なんじゃないかと感じました。

石川:
私も上原さんのお話を聞いて、まさにいま子育て中という人だけではなくて、介護をしながらとか、働く人自身が病気の治療をしながらとか、さまざまな事情がありながら働いている人が少なくないと改めて感じましたし、この問題を考えることは、子育て中の人もそうでない人もみんなの働き方を見直していくことにつながると感じました。今回、当事者の方の中にも、聴いてくださっている方がいらっしゃるかもしれないと思いますけれども、新年度のこの時期、本当につらくて大変だという方もいらっしゃると思います。逆に、このラジオで初めて「小1の壁」ということばを知ったという方もいらっしゃるかもしれないと思っています。引き続き私はこの問題を取材していきたいと思っていますので、ぜひ、さまざまな立場の方から意見を寄せていただいて一緒に考えていきたいと思っています。

寄せられたメッセージ・感想

柴田:
メッセージをいただいています。

私の知人も、子どもが小学校に行っている間だけパートで仕事をしています。本当はもう少し働きたいようですが、子どものことを考えると難しいと言っていました。

来年度、小学生になる子どもがいます。「自閉スペクトラム症」の診断がついていて、今、教育相談をしながら通常学級や支援学級等の選択肢について考えています。子どもと長くいられる時間を一時的に多く取ろうと思った時、会社への短時間勤務や長期休暇などの相談よりも退職を考え、まず落ち着いて登校ができるように見守れる環境を親も作りたいというのが、わが家の重要なポイントでした。

柴田:
おひとりおひとり、それぞれの事情に合わせて、やはり悩ましい、まさに“壁”と向き合ってこられているということですね。

柴田・杉田:
お声をお寄せくださって、どうもありがとうございました。


【放送】
2024/04/26 「Nらじ」

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