ドラマ「舟を編む」原作者 三浦しをんさんインタビュー

Nらじ

放送日:2024/04/16

#映画・ドラマ#文学#読書#著者インタビュー

直木賞をはじめ数々の文学賞を受賞している作家の三浦しをんさんのインタビューです。三浦さん原作のドラマ「舟を編む~私、辞書つくります~」(BSP4K 2024年2月18日~4月21日放送)言葉のもつ意味について、そして小説が映像化されることへの思いについて、三浦さんに伺いました。(聞き手:緒方英俊ニュースデスク、庭木櫻子キャスター)

【出演者】
三浦:三浦しをんさん

舟を編む~私、辞書つくります~

[BSP4K]
池田エライザ×野田洋次郎! 辞書作りにかける情熱を描いた大ベストセラー『舟を編む』を連続ドラマ化…

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毎週ドラマに感動している

庭木:
実際にお会いするともう、この体からこの手から物語が生まれるのかと感激しているんですけれども。

三浦:
いえいえ(笑)。

庭木:
国語辞書作りに奮闘する人たちを描いた小説『舟を編む』は、映画化・アニメ化・漫画化もされてきました。そして今回は初めてのドラマ化です。どのようにお感じになっていますか。

三浦:
ほんとうれしいですね。今までの映画やアニメや漫画もそうなんですけど、今回のドラマもすっごくおもしろい作品にしていただけたので、もう毎週本当に喜びながら拝見してました。

庭木:
ご自身も毎週ご覧になって。

三浦:
はい! もう(笑)。

緒方:
では、今回のドラマを少し説明させてください。原作とはちょっと異なって出版社の若手社員の女性を主人公に据えています。その主人公の役で池田エライザさん、そして辞書作りをする人たちの役で柴田恭兵さん、野田洋次郎さんなどが出演していると。ここで、あらすじをご紹介したいと思います。

(♪ドラマ音声とナレーションによるストーリー紹介をお聴きいただきました)

三浦:
もう今、この皆さんの声や劇中の音楽を聴いてるだけでも、もう私ウルウルしちゃうっていうか、感激、感動してしまうんですけど。役者さんたち皆さんの静かな熱演によって、辞書というものがどうやってどんな人たちの思いをのせて作られているのかっていうことが、自分にとっても身近なこと、感情と密接したこととして伝わってくるドラマだなというふうに思っています。

タイトルの意味と“言葉”への思い

庭木:
小説を読む前は『舟を編む』っていうタイトルでなぜ辞書の話なんだろうっていうところが…。タイトルの理由というのは、どういうところにあるんでしょう。

三浦:
そうですよね。いっぱいの言葉が大海原のようにこの世の中にはいっぱい広がっていて、そこを渡るための舟が辞書という意味を込めているんです。それで、その舟であるところの辞書っていうものを編集する。それで“編む”っていうタイトルにしたんですよね。

庭木:
言葉への思いというのは、三浦さんが小説『舟を編む』を書いたときにも強く意識されたものなんでしょうか。

三浦:
そうですね。自分の気持ちを誰かに届けるとか、自分の中で自分が感じていることをよく深めて自分自身で把握するためにはやっぱり言葉ってすごく大事。自分の中で言語化するってすごく大事なことだなと思ってるんですよね。それがあることによって、自分以外の誰かに対する共感だったり想像力だったりも生まれてくるんじゃないかなっていう気がするので。
なので、辞書を作るっていう人たちを登場人物にした小説を書くことを通して、言葉っていうものが人間にとってどんな働きをするものなのかっていうのを書きたいなと思っていましたし。

時代とともに言葉は変わる

三浦:
あと同時に、辞書をつくる人たちって本当に魅力的で、人目に触れないところで長い時間かけてコツコツといろんな言葉を収集してるんですよね。集めてる。で、言葉が少しずつ人に使われることによって自然と変化してくっていう、言葉っていうのは移ろいやすい生き物みたいなものなんだっていうことも常に観察していらっしゃるのが辞書を作る人たちなんですよ。そのおもしろさも伝えたいなというふうに思っていました。

緒方:
小説の段階から描かれていてドラマでもすごくクローズアップされましたけど、「恋愛」っていう言葉。男女の間のものだというふうにかつては書かれていたものが、それがだんだん変わってくるんじゃないかということもね。

三浦:
そうですね。もう現在では男女とか異性間のみに発生する感情だというふうには書いてない辞書も結構多いですね、恋愛について。なので、やっぱりそこは時代に応じて、あと現実に応じてちゃんと柔軟に変わっていってるのが辞書でもありますね。

電子化が進む今の辞書のありかた

緒方:
今回ですね。小説で書いた世界とドラマの世界っていうのがちょっと時代背景が変わってきてるっていうことがあると思うんですけど、それについてはどう思ってらっしゃいますか。

三浦:
ドラマでは、いま現在が舞台なんですけど、小説のほうはですね、年代を明確にしてないんですけど、結構前の設定なんですよね。それで小説が出てからもう10年以上たってるので、その間にどんどん電子書籍・電子辞書などがより普及していますので。じゃあ、そういう今の世の中で紙の辞書っていうのは何のためにあるのかっていうところも含めて、現在の辞書のありよう・どうあればいいのかということをちゃんと描いていただいたのが、本当ありがたいことだなというふうに感じますね。

緒方:
小説を書いたときって、ひょっとしたら紙って消えちゃうんじゃないかなっていう思いって抱いていたりしました?

三浦:
思ってましたね。ただ、紙の辞書のスペースが有限であるっていうのは実はよさでもあって。限られたスペースに言葉の解釈・意味・説明をキュッと詰め込まなきゃいけない。それによって、ある単語を説明する、その説明の仕方がどんどん洗練していってるっていうことがあるんですよね。なので、この技術だったり、これまでのいろんな試行錯誤がなくなっちゃったら、多分辞書っていうもの自体のよさが失われちゃうから、そのよさを失わないまま電子辞書も使えるっていう、そういうふうになるといいなとは思ってたんですよね。
ドラマでは本当、どちらかを否定するのではなくて、紙でも電子でも、そのよさみたいなものをドラマがちゃんと描いてくださったので本当よかったなと思いますね。

SNS時代の言葉の使いかた

緒方:
あともう1点、SNSっていうのについてもドラマのほうでは伝えていると思うんですけども。今のいろんな人が情報発信できる中で、何か感じられていることってありますか。

三浦:
多くの人が気軽に自分が考えてること感じたことを発信できるっていうのは本当にすばらしいことだと、それはすごくいいことだと思ってるんですけど、本来言いたかったことと違うように受け取られちゃったり誰かを傷つけちゃったりするっていうことも起こり得るのかなと思うので。
書く機会はいっぱいある、発信する機会はいっぱいあるんだけど、インプットする余裕がないから誤解がすごく生じやすいのかなっていう気がしますね。文章を読んで、どういうふうに、この言葉この表現はこれまで使われてきてるのかということを、ちゃんと自分の中に落とし込んでからじゃないとうまく使えないと思うんです。だから、書くばっかり発信するばっかりじゃなくて、例えば、ニュースを見るでも聞くでも、新聞読むでも、まあそれこそ小説漫画を読むでも何でもいいんですけど、そういう他の人がどうやって言葉を使ってるのかということをある程度ちゃんとインプットして、その言葉にどんなニュアンスがあってっていうことを、考えてから書いたり言ったりした方が絶対自分自身のためになるだろうなっていうふうにも思いますね。

緒方:
そこで、立ち返って辞書をちょっともう一回ひらいてみたりね。

三浦:
そうですね(笑)。自分がこう思ってた言葉は、この言葉は本当にその意味なんだろうかっていう、多くの人はその意味で使ってるんだろうかということを確認するために、辞書を引いてみるっていうのはいい手かもしれないですね。

映像化の際は必ずシナリオを読む

庭木:
三浦さんは、ご自身の小説が、さまざまな形に展開されることをどういうふうに考えていらっしゃいますか。

三浦:
そうですね。自分が書いた小説が、映画にしたいとかドラマにしたいとかって、作り手の方たちにどういうふうに解釈されて別の形の表現になるのかっていうのをすごく楽しみにしてるんですけど。
そうは言っても、どんな映画やドラマにしていただく場合にも、毎回必ず事前にシナリオは絶対読ませていただいています。やっぱり自分が小説で、できるだけ読者の方にこういうふうに伝わるといいなって願ってたラインから大幅に外れることはないように、その最初の段階はちょっと見張る(笑)。

緒方:
ちょっと見張る(笑)。

庭木:
いやあ、だって、子どものような何かそれぐらい愛情というか、こもってる思いがきっとありますよね。

三浦:
そうですね。なので、今回でいうとそのドラマがハイハイして歩きだしたぐらいのところまでは「どうかしらね」って見てるんですけど。そのハイハイしてる子をすごく大事にドラマを作ってくださる方たちが愛情かけてお世話してくださってるなっていうのがもうその時点で感じられたら、あとは安心してお任せっていう感じですかね。

ドラマオリジナル部分も楽しんでいる

緒方:
ひょっとしたら三浦さんの方が「あ、こんな視点もあるのか」って気付かされる事もあるかもしれない。

三浦:
今回のドラマ化に関しては本当にそうですね。現在の辞書作りがどうなってるかとかもすごくいっぱい取材して下さって。その上で、脚本家の蛭田直美さんが繊細でおもしろいオリジナルのエピソードをいっぱい交えて書いてくださったんですよね。そのことによって、いま現在にちゃんと合ったドラマが展開されるようになって。ほんとなんか「え! 今辞書作りってこうなってるんだ‼」って私も知らないことがいっぱいあったし、楽しかったですね。

庭木:
リスナーの皆さんへのメッセージをお伺いできればと思うんですが。

三浦:
この機にですね。辞書を、もしよかったら手に取っていただいて。いろんな辞書の個性の違いとかを味わっていただければなと思っています。皆さまが辞書と仲よくなるきっかけにこのドラマがきっとなると思うので、そのあたりもお楽しみいただければ幸いです。


【放送】
2024/04/16 「Nらじ」

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