「現役ドラフト どうなるプロ野球」荒木大輔さんに聞く

Nらじ

放送日:2023/01/16

#インタビュー#スポーツ

プロ野球はこのオフシーズン、例年以上に選手の移籍が活発に行われています。おととしから去年にかけてのシーズンオフでは、国内移籍した選手は2人だけでした。しかしこのオフは、30人を超える選手がチームを移っています。先月(12月)、ソフトバンクにFA移籍した近藤健介選手が、日本の野手の史上最高年棒を更新しました。さらに、出場機会に恵まれない選手の移籍を活性化させる「現役ドラフト」が初めて開催されました。このオフ、大きく変化したプロ野球選手の国内移籍について、野球評論家の荒木大輔さんにうかがいます。(聞き手:眞下貴アナウンサー、黒崎瞳キャスター、中村幸司解説委員)

【出演者】
荒木:荒木大輔(あらき・だいすけ)さん (野球評論家)

「放出」から「ようこそ」へ。国内移籍が活発に

――このオフの活発な選手のトレードについて、荒木さんはどうご覧になっていますか。

荒木: かつてはトレードというと、少し暗いイメージがありました。なにか、球団から「放出」されるような感じがとてもあったのですが、最近のトレードはそうした暗いイメージはなくて、どちらかというとポジティブです。自分の球団に来てほしい、「ウェルカム、ようこそ」という感じで行われていると思います。だからすごく活性化して、僕自身は、非常に楽しみになるような、そんなトレードが多いなというように見ています。

リスナーからのツイート
ラジオネーム:菜の花咲いた さん
「荒木さんの現役時代と今とは、国内移籍についての考え方も変わってきているものなのでしょうか?」

――選手にとっても、ポジティブに球団を変わることができるということでしょうか。

荒木: そうですね。相手に求められて行くといったかたちなので、選手たちもそのチームに暗い気持ちで移籍するのではなく、「さあ、やってやるぞ」という前向きな気持ちになれる、そうしたトレードが行われているように感じます。

――このオフ、国内移籍が活発な背景には、どんなことがあるのでしょうか。

荒木: 一つは、アメリカのメジャーリーグが活発に行われていて、その流れが影響しているということもあるかもしれません。もう一つは、日本の各球団とも、いま若返りを図る時期のチームが多いので、監督であるとかGMであるとかが、なんとかチームを変えていきたいと活発に動いている感じがします。そうしたことが、トレードなどが多くなっていることにも影響しているのではないかと思います。

――新しい監督やGMへの交代も、チームの作り方とか選手の移籍に影響しますか。

荒木: ものすごく大きく影響すると思います。例えば自分がコーチをしていた時代ですが、相手チームの監督から、「いい選手なんだけれども、なかなか使う場面がない」とか、「選手の層の厚さなどのために、なかなかゲームに出してやれない」といったような話を耳にすることもありました。なんとか選手たちをうまく生かしてあげたいという考え方が、とても出てきたように感じます。

高額契約や移籍の連鎖。考え抜かれたプラン

――このオフ、注目を集めたのが、日本ハムからFA移籍した近藤健介選手です。5つの球団による争奪戦の末に、ソフトバンクと7年で総額50億円とされる大型契約を結びました。日本人の野手としては史上最高額ということですが。

荒木: 近藤選手とは、日本ハム時代にコーチと選手として同じチームでしたから、金額を聞いたときには、正直なところ「そんなに!」と驚きました。しかしそのような金額にしたのは、近藤選手本人の実力であり、それだけの選手だという評価だと思います。それぐらい、ソフトバンクが「うちに来てほしい」という気持ちがあって、この金額になったのだと思います。

――仮に1年当たりの年棒ということで考えれば、同じソフトバンクの柳田選手が6億2000万円ですから、それを上回ることになるわけで、それだけソフトバンクは近藤選手が欲しかったということなんですね。

荒木: ぜひとも近藤選手を獲得したかったし、また、いままで対戦していて、一番嫌なバッターだったんじゃないかと思います。僕も同じユニホームを着て戦いましたけれども、ものすごく頼りになるバッターです。と言いますのは、まず選球眼がいいんです。ボール球を振らないので出塁する確率が高いですし、バットコントロールもいいのでヒットも多く打てます。ですので、打順が上位にいると自らがチャンスメイクをしてくれますし、下位の打線で作ったチャンスは、ランナーを確実にホームに返す役割をしてくれます。相手からしたら、本当に顔も見たくない選手じゃないかと思います。ソフトバンクは、そうした思いもすごく強かったんじゃないかと思うんです。だから絶対に、よそのチームには渡さない、と。

――7年で50億円という大型契約は、選手のモチベーションに影響したりしませんか。

荒木: 近藤選手は、2016年に日本ハムで最後に優勝して以降、なかなか優勝できず、チームはずっと低迷してきました。ましてや、出身校も横浜高校という高校野球でも全国有数の強豪校なので、「優勝したい」という気持ちがものすごく強い選手なんです。おそらく彼の中では、金額が多い少ないというよりも、「優勝したいからソフトバンクに行きたいんだ」という思いのほうが強いのではないかと思うんです。そういうチームを選んだのではないかと思うんです。だから気の緩みなどというのは、一切ないと思います。

――一方、高額で移籍してくる選手が新たにチームに加わる場合、いわゆる生え抜きの選手たちなどと、すぐにうまくやっていけるものなんでしょうか。

荒木: 最初は選手たちの中にも、自分たちはこんなに年棒を抑えられているのに、なんでアイツはこんなにもらってるんだと思う人間もいるかもしれません。しかし同じユニホームを着て勝利を目指し、練習や試合に入ると、そんな気持ちはなくなります。その選手のバッティングを見たりチームの中で果たしている役割を見たときに、みんな納得するんです。だからそういう心配はいりません。特に近藤選手のように、実力も強いリーダーシップもあって、若い選手や仲間たちをぐいぐい引っ張っていけるような選手は全く大丈夫です。

――去年、日本一になったオリックスですが、このオフは移籍の連鎖が起きています。主砲の吉田正尚選手がアメリカ大リーグのボストン・レッドソックスに。変わって、西武からFA権を行使した強打のキャッチャー、森知哉選手を、推定4年18億円で獲得。すると今度は、オリックスのキャッチャー、伏見寅威選手が、日本ハムにFA移籍することに。このような移籍のしかたもあるんですね。

荒木: 全体的に言えることですが、今回のオリックスの動きを見ても、しっかり準備ができているなという印象を受けます。まずは、吉田選手が抜ける。そこに、打てるキャッチャーの森選手が入ってくる。するとキャッチャーに一人余裕が生まれる。キャッチャーの伏見選手はFA権を持っていたので、今後出場機会が減るかもしれないという考えも持ちながら、やはり最後は故郷の北海道で野球をやりたいという思いもあったと思うんです。そこでFA権を行使する。するとしかし、伏見選手が日本ハムに行ってしまったので、今度はキャッチャーの選手層が少し手薄になってしまう。そこで今度は、石川亮選手というキャッチャーを日本ハムから引っ張ってきたわけです。この石川捕手は、オリックスの中嶋監督や福良GMが、日本ハム時代に彼を教育したこともあって、性格も力もすべて分かっているので、自分のチームに来てもらって助けてもらえればというような考えだったと思います。だから、とても綿密に計画が練られていたのが、今回の一連のトレードだったと思います。

「現役ドラフト」で選手が動く。ファンも注目

――荒木さんは、今回の移籍で特に注目している選手はいらっしゃいますか。

荒木: 今回始まった現役ドラフトで真っ先に気になったのが、DeNAから中日に移籍した細川成也外野手です。ファームの監督をしているときに彼とは相手チームで対戦しているのですが、ものすごく長打力があるんです。いま中日は、長打力のある選手が手薄ですので、彼は移籍することで、チャンスを多くもらってブレイクする可能性があると思います。

それと、僕が少し前まで所属していた日本ハムですが、西武から移籍することになった松岡洸希投手です。まだ実績はそれほどないのですが、サイドスローから150キロ近いまっすぐを投げるんです。投球フォームは、僕がヤクルトにいたときに抑え投手をやっていた、イム・チャンヨンにそっくりです。すぐにクローザーでとはいかないかもしれませんが、中継ぎでたくさんチャンスをもらうことができるんじゃないかと思います。

――その意味でも、現役ドラフトというのは、選手たちにとってチャンスを手にすることができる機会なんですね。

荒木: いままでチーム事情などもあってなかなかチャンスに恵まれなかった選手たちが、他のチームに行くと、そのチームの首脳陣たちはまっさらな目で選手を見て、いいところをどんどん引き出そうとしてくれます。マイナスのところには関心がありませんから。例えば先ほど名前を挙げた松岡投手ならば、彼はまっすぐが速いので、そこを一生懸命に見て、どうにかして生かしてやろうと、どんどん登板させてくれると思います。そうすると、戦力アップしたいチームにとってはもちろんですが、移籍した選手たちにとっても、とてもプラスになると思うんです。

――ちょっと心配なのは、かつてもそうでしたが、トレードによってお金のあるチームに選手が集まってしまい、チーム力に差が出てしまうというようなことは、今回の現役ドラフトなどによって起こることはないのでしょうか。

荒木: 可能性がないとは言い切れないですが、ただ、選手が動くことによって、ファンの方々からの注目度は上がります。それによるいい面が必ず出てくると思うんです。確かに巨大戦力が生まれる可能性はありますが、そこをなんとかたたくんだと、他のチームも工夫して切磋琢磨(せっさたくま)して向かっていきますから、さらなる変化が生まれて、プロ野球がおもしろくなっていくのではないかと思います。

――プロ野球選手会は、今後、FA権の取得期間の短縮、そして、FA移籍にともなう人的補償の廃止を求めていく方針ということです。荒木さんは、選手の移籍についてはどんなことを求めたいとお考えですか。

荒木: 僕は、人的補償が好きではありません。言葉自体も好きではありません。人でなにかを補償するという考え方は、できたらなくしてもらいたいと思っています。いまある決まりごとや制度は、これまで多くの皆さんが、考え、工夫してこられたルールです。これからもプロ野球がもっといい方向に向かっていくように、努力していけたらと思っています。

――ありがとうございました。


【放送】
2023/01/16 「Nらじ」 特集 「荒木大輔に聞く~現役ドラフトで どうなるプロ野球」 荒木大輔さん(野球評論家)

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