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21/02/16まで

不安やストレスに耐えきれず、酒量が前より増えているという方はいないでしょうか。アルコール依存症といえばかつて「禁酒」が唯一の治療法でしたが、近年は「減酒」も治療法に加わりました。
お酒をゼロにしなくてもよいという安心感から生活の質の改善も図れるといいますが、具体的にはどのように減酒を達成していくのでしょうか。飲み過ぎや依存症の患者の指導にあたっている、久里浜医療センター教育情報部長で精神科医の真栄里仁さんにお話を伺います。


コロナ禍でじわじわと広がるアルコール依存

――コロナウイルスが流行している中、ストレス・不安を解消するためお酒に頼る方は増えているんでしょうか?

真栄里さん: 日本全体においてお酒の消費量は、飲み会の自粛などもあって一時減ったことはあるんですけれど、最近ちょっとずつ元に戻っているようです。
私が経験している例で言いますと、コロナ禍の影響で、もともとお酒の好きな人だった人のお酒の量が増えて、いろんな問題が出てきたというケースが何件かあります。
ホテルに勤務していたAさんの場合。仕事を一生懸命やっていた方なんですけれど、残念ながらコロナの関係で3月に解雇されてしまった。やることがないため、毎日朝から晩まで焼酎を1日1リットルぐらい飲むようになってしまいました。
仕事を失ってやることがなくなり、空虚感と時間を埋めるために飲酒に走ってしまう方が多いですね。

――「お酒を断っていたのに、また始めてしまった」という方がどれぐらいいらっしゃるのか、データはあるんでしょうか。

真栄里さん: 日本にはお酒をやめるための患者さんの会が何種類かあります。その代表的な断酒会の調査ですと、お酒をやめるために断酒会に参加している方の中には「コロナ禍でお酒を飲みたくなった人」が12%いらっしゃいますし、「実際に飲んでしまった」という方も6%いると報告されております。

――お酒は楽しい状況の中で飲むと体にいいとは思うんですが、逆にストレスや不安を抱えてやけ酒のような形で飲むと、ずいぶん体に影響を与えるでしょう?

真栄里さん: そういうお酒はよくないですよね。おっしゃられたように、お酒は楽しく飲む、おいしいから飲むのが普通です。
ところが、飲み過ぎがどんどんひどくなると、今度はネガティブな気持ちを少しでも楽にするために飲むようになります。いわば「クスリ」みたいな飲み方に変わるわけですね。そうすると、ネガティブな気持ちがますますひどくなって、ますますお酒も進んでしまう。そういう悪循環に陥りがちになります。
うつや不安障害といった方の多くがお酒を飲み過ぎる、というのもよく知られています。

治療に結び付けるための「減酒治療」

――最近では「減酒治療」が始まっているということです。これまで唯一の治療法だった断酒とどう違うんでしょうか?

真栄里さん: 基本的に、お酒を飲むと止まらないアルコール依存症者の方には、断酒指導を行っていました。
断酒が一番理想的ではあるんですけれど、たとえば今まで1升飲んでいた人に「明日からゼロにしなさい」と言うのはハードルが高いですよね。多くの方が、治療に結び付く前に、そもそもお酒の飲み方を変えるのを諦めてしまうことが多かったわけです。

――「減酒治療」とは、「少しは飲んでも問題ない」ということなんですか?

真栄里さん: 重症の依存症の方には断酒が一番望ましいんですけれど、少し減らすことによって、まず「治療に結び付けやすい」というメリットがあります。ちょっと減るとそれだけ体の影響も軽くなって、死亡率も下がることが証明されています。
断酒を強制するのではなく、本人が納得できるのであれば「量を減らす」という目標のほうもアリ、というように最近は考え方が変わってきております。

目標についても、本人に決めてもらうようにしています。
たとえば、今まで1升飲んでいた人。厚生労働省の理想値からいうと本当は「1日1合まで」なんですけれど、そこまで下げなくてもいい。極端に言うと、本人が「1升を9合にする」と言うだけでもいい、と考えるようにしています。
逆に、本人があまりにも高い目標を掲げる場合には失敗する可能性が高いので、こちらから「ちょっと難しいんじゃないですか?」「もう少しマイルドにしたらどうですか?」とコメントすることもあります。
指導で重要なのは、本人に「できる」という気持ちを持たせることです。
過去の本人のいろんな成功体験を引き出す。たとえば禁煙に成功したこと、ダイエットに成功したこと。そういうことを引き出して、「そういうことができたあなただったら、お酒の量を減らすのもうまくいきますよ」と、やる気と「できる」という感覚を強調するようにしております。

減酒3つのコツ

――「お酒を飲んでもいい」と言われると、ついつい気を緩めてしまって元のもくあみに戻ってしまうんじゃないか…という気がします。

真栄里さん: 単に「減らしましょう」といわれると、ついつい飲み過ぎてしまうのが人間ですよね。そこで、ひと工夫が必要になってきます。ポイントは3つあると思っています。

1つは、本人がその気になったタイミングに介入することです。
たとえば、今この放送を聞いている皆さん。お酒をふだん意識していなくても、こういう放送を聞くことで何となく気になり始めているかもしれません。かつ12月ですので、例年ほどではないにしても、お酒を飲む機会はいつもより多い。
こういうタイミングが重要かと思います。こういうときに始めるんです。

2つ目は、目標設定です。
「目標は理想が高ければ高いほどいい」と思うかもしれませんけれど、むしろ逆です。理想的な量より、まずは達成できる目標。本人が「うまくいった」という自信が持てるような、低い目標がむしろいいです。成功してもらうと、次へもつながります。

3番目が、お酒の量や「どういうときに飲んだか」を記録することです。

この3つのポイントに気を遣えば、きっと減酒はうまくいきます。

――減酒治療の効果はどうでしょう?

真栄里さん: 重症度によっても違うと思うんですけれど、単なるお酒の飲み過ぎぐらいの人でしたら、目標を決めてお酒の記録をつけて、2回指導を行うだけでも、1年後に飲酒量が半分に減ったという報告もあります。

少しずつ「酒量を減らす」という成果を出す

――本人の「できた!」という達成感が大切だと強調されています。自己肯定感や達成感がなぜ治療効果につながるんですか?

真栄里さん: 人間、「できない」と思うものは、やる気がしないですよね。「できる」と思わせることが大事なんです。「できる」と思うことに関しては、人間は自然に行動が変わりますし、行動が変われば結果も伴います。結果が伴えば当然自信も強まる…という好循環になります。まずは自己肯定感を持たせることが一番重要です。

――完全に「お酒を飲んじゃいけない」という方法ではなくて、「お酒を少し減らせば、だいぶ死亡率も下がるよ」と。少し減らしただけで「すごいね」と言われると、お医者さんにも相談しに行きやすくなりますね。

真栄里さん: アルコール依存症のような重症の飲み過ぎの方にとって一番は断酒をすることなんですけれど、残念ながら、アルコール依存症の方はなかなか治療に結び付かないことでも有名な病気なんです。
たとえば、アルコール依存症の方は全国に107万人いるといわれているんです。この1年間で病院で依存症の治療を受けた方は、せいぜい5万人くらいだといわれています。

――「自分は依存症じゃない」と考えていらっしゃるのでしょうか。

真栄里さん: そういう方も多いです。あるいは、「危ないかな」と思っても、「断酒しかない」と言われると思って病院に行きたくない方が多いのではないかと考えています。

依存症の指標

――リスナーから<依存症の定義はあるんですか?>という質問です。

真栄里さん: 依存症に一番よく使われているのはWHO(世界保健機関)が作った診断基準。その6項目のうち3項目以上を満たした場合、依存症と診断しています。ただ、これは難しい。
一般の方向けには、次の2つのうちどちらかがあれば依存症だとお伝えしたいと思います。

1つは離脱症状、いわゆる「禁断症状」があることです。
お酒に依存するようになると、お酒が体から抜けると体が不調になります。たとえば手の震え、汗をかいたりイライラしたり、ひどい人になるとてんかんを起こすこともあります。
禁断症状が出るのは、その人がずっと酒浸りの生活を送っている証拠です。朝起きたときに、手が震えてないか、汗をかいてないか、チェックしていただきたいと思います。

2つ目は、お酒を飲みっぱなしになることです。
お酒は嗜好(しこう)品の1つですから、普通はある程度飲んだら飲めなくなってしまう。朝から晩までずっと飲みっぱなしなんて、できないですよね。ところが、依存症になるとお酒に満足できない体になってしまいますので、いくらでも飲んでしまう。いくら飲んでも満足できなくなってしまいます。

この2つのうちどちらかであったら、依存症である確率が非常に高い。注意していただきたいと思います。

――お酒に弱い人でも依存症になるんですか?

真栄里さん: 普通、お酒に弱い人はなりづらいですよね。日本人は遺伝的にお酒に弱い民族で、日本人の半分はお酒に弱い体質なんです。ところが、そういう人でも頑張って飲んでいるうちに大酒飲みになっちゃうこともあります。たとえば、不安感やうつを紛らわすために飲むのはその1つだと思います。

お酒は頼るものではない!

――お医者さんからよく「週に何回かは肝臓を休める休肝日を作りましょう」「1日に飲む量を減らしましょう」と指導されます。それは重々承知なんですが、なかなか実現できない。「減酒」で成功させるためには、どうすればいいですか?

真栄里さん: 先ほど挙げましたように、まず低い目標を決めて、記録していくことが大事だと思います。あとはタイミングが大事です。

目標設定でいいますと、休肝日はとてもいいと思います。
1回当たりの飲酒量を減らそうと思っても、人間の満足できる量はある程度決まっているから、1回当たりの量を減らすのは難しいんですよ。飲まない日を決めるほうが、むしろ成功しやすいですね。
休肝日を決めると死亡率も下がるという報告もありますので、休肝日はとてもおすすめの方法だと思います。

――リスナーから<飲酒開始時間を決めるという方法もあると思います>と。遅く飲み始めることでお酒の量が減ることはありますか?

真栄里さん: 眠る時間が決まっている場合、遅く飲み始めると飲む時間が減るわけですから、それも1つの方法だと思いますよ。

――飲み続けることを防ぐためには、「何時まではお酒は飲まない」と自分で決めることは大切かもしれませんね。

真栄里さん: 日中は飲んでほしくないですね。

――今、コロナ禍で仕事や自分たちの生活スタイルに不安を抱えている方が多いです。お酒に頼らないでそのストレスを飛ばす方法は、精神科医として何かいいアイデアありますか。

真栄里さん: 最後に難しい質問が来ましたね…。
ふだんから楽しい活動を増やすのが一番だと思います。お酒にかぎらず、何かに頼るのは本来健全な状態ではないので、自分がコントロールできて楽しい活動を増やすのが一番だと思います。

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