性感染症の1つ、梅毒の感染者数が急増。去年、統計開始以来最多となりました。これらの性感染症や望まない妊娠から体を守るため、ユニークな性教育に力を入れている、滋賀出身の女性がいます。大津放送局の倉沢宏希アナウンサーが取材しました。
見て触れて理解につなげる
高校で講演する、清水美春さん
「なんで青年海外協力隊のエイズ対策隊員がそこの街に行ったかというと…」
倉沢: | (滋賀)県内の公立高校で行われた講演会の様子です。話をしているのは、県立高校の元教員・清水美春さん。およそ20年にわたり保健体育などを教えてきたほか、青年海外協力隊としてケニアでエイズ対策に取り組んできた経験もあります。清水さんの活動の名前は、「びわこんどーむくんプロジェクト」といいます。 |
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――「びわこんどーむくん」…ですか。
倉沢: | そうです。名前にもある「コンドーム」の理解促進を図ろうというもので、2年前から始めました。この日は、体育館に集まった200人以上の生徒の前で、これまでの活動などを紹介。性感染症の予防や避妊にコンドームが重要であることを訴えていました。清水さんの授業のコンセプトは、「習うより 触って慣れよう コンドーム」。生徒たちに直接コンドームを触ってもらうのが特徴です。 |
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清水美春さん
「よーい、スタート!」
倉沢: | これは2人1組となって行ったペアワークの様子です。ペアの相手の指にコンドームを装着させる、というものでした。ほかにも、友達と引っ張り合ったらどれくらい伸びるか、風船のように膨らませたらどのくらい膨らむのかなどを体験していました。講演会のあと、高校生たちに感想を聞きました。 |
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男の子
「周りはみんなワイワイやっていました。高校生のうちに詳しい性教育を受けることができて、よかったと思います」
女の子
「実物(のコンドーム)に触れたときにみんな楽しそうにできていたので、ちょっとずつ心が開けているのかなと思いました。パートナーとそういうことするときに、コンドームをつけないというのが愛だけではないよ。愛の反対は無責任だよっていう言葉が心に残りました」
倉沢: | 生徒たちは、最初は恥ずかしがっていたり戸惑ったりしていましたが、1時間以上にわたる清水さんの講演を通じて、コンドームの重要性を理解しているようでした。自分やパートナーを守るためにも、清水さんは、直接触るという体験をきっかけに考えてもらいたいと言います。 |
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清水美春さん
「たかがコンドーム。でもそのアイテムを、『エロい』というイメージで、それを知らずにそういう場面に遭遇したときにきちんと使えなければ、健康面だけではなくて、(性感染症の)キャリアにも関わってしまうというのが女性の場合は特にありますので、なるべく学習効果を高めるためにってところで、実物を見せて触らせるっていうところですね」
倉沢: | これまで1万人以上に出前授業を行ってきた清水さん。高校だけでなく中学校やPTAからも依頼が来ています。 |
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キャラクターで親しみやすく
――生徒たちに抵抗なくコンドームに触れてもらうため、清水さんは工夫もしているんですよね。
倉沢: | そうなんです。楽しく親しみながら知ってほしいと、清水さんは、あるキャラクターを生み出したんです。それが「びわこんどーむ」。琵琶湖の魚・ビワコオオナマズを、コンドームの形をしたキャラクターとして描きました。 |
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――パッケージの写真が手元にあるんですが、金色のひげを生やした青色のキャラクター。つぶらな目に大きな口を開けた姿がポップで愛らしいですね。それにパッケージの裏側には、パートナーと一緒に考えてほしい、性に関する大切なメッセージが印刷されています。
倉沢: | このキャラクターが描かれた10cm四方のパッケージの中には、本物のコンドームが「装着の自主練習用」として入っています。製作にあたっては、資金を集めるためにクラウドファンディングを実施。保健体育などの教材として広く活用してもらおうと、まずは1万個を作り、配り始めました。 |
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「相手を大切に」広がる共感
倉沢: | この「びわこんどーむ」、広がりを見せています。滋賀から遠く離れた北海道平取町の高校教師・貝出千春さん。「びわこんどーむ」を配ったうえで授業を進めたことで、性教育の授業がしやすくなり、生徒たちの反応もよかったといいます。 |
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貝出千春さん
「平取町の子どもたちには、いま大ブームが巻き起こっていますね。愛着を持って親しみやすい雰囲気で作られているのかなっていうことを子どもたち自身も感じていたようです。みんなに当事者意識を持ってもらうというところが、いま私の中でできつつあって、そこには清水さんの存在が大きかったし、『びわこんどーむ』があってよかったなあって思います」
倉沢: | さらにこの「びわこんどーむ」、商品として販売も始まりました。学生服などの販売を手掛ける地元企業の担当者が、清水さんのプロジェクトを知り、趣旨に共感。去年12月からインターネット販売を開始しました。学校教諭から授業用に欲しいと注文が入ったほか、今後は人通りの多い中心市街地の売店にも置いてもらおうと、交渉を進めているということです。清水さんは活動を通して、生徒たちに自分のことだけでなく「他者を大切にすること」を学んでほしいと考えています。 |
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清水美春さん
「コンドームという道具自体の使い方を知ったところで、『相手がいるものなんやなー』っていうのが生徒が触ることによって感じてくれるんですね。そういう相手のことを想像する力とかイメージである部分が、性教育だけでなくて、ほかのいろんなことにも波及していくってことが、伝えられたらいいなと思っています」
倉沢: | 多くの大人たちの思いがこもった「びわこんどーむ」は、北海道から沖縄まで、中学・高校など、およそ80校に届けられました。1万人の生徒に届けるという目標は達成されたものの、今後もその動きに注目していきたいです。 |
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大津放送局
倉沢宏希アナウンサー
【放送】
2023/02/28 NHKジャーナル 地域発 「コンドームの大切さ伝える! 元教員の挑戦(滋賀)」
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