近海直送! 見直される深海魚(鹿児島)

NHKジャーナル

放送日:2023/09/12

#ローカル#鹿児島県

鹿児島ではいま水産資源として「深海魚」が注目されています。鹿児島放送局の島田莉生(しまだ・りお)アナウンサーが取材しました。

新鮮でうまい! 鹿児島の新名物

島田:
遠洋漁業などでとれるマグロやタイ、アジの漁獲量が全国有数の鹿児島県。今、地域の新名物として押し出しているのが「深海魚」なんです。鹿児島市内の居酒屋を訪れると…。

♪鹿児島市内の居酒屋
店員「いらっしゃい!」

島田「今日は何がおすすめですか?」
店員「やっぱり“うんまか深海魚”です。いいの入ってるよ!」

――「うんまか深海魚」ですか。

島田:
そうなんです。「うんまか深海魚」は地元の方言を交えた合言葉で、地域を挙げて深海魚のブランド化を進めています。この日の居酒屋のおすすめは「スミクイウオの刺身」と「カゴシマニギスのから揚げ」でした。

――「スミクイウオ」と「カゴシマニギス」??

島田:
「スミクイウオ」は高級魚ノドグロの仲間。大きさは30センチほどまで成長し、大きな目が特徴です。水深100~1,000メートルに生息しています。アブラがのっていて、口に入れてすぐに溶けました。

島田:
「カゴシマニギス」は、15センチ前後の細長い体つき、見た目は「キス」に似ています。水深100~450メートルの砂地に生息する深海魚です。名前にもあるように鹿児島で多く見られるそうです。こちらの味は、さっぱりとした白身で、頭から尻尾までまるごといただきました、おいしかった。鹿児島の焼酎にぴったり。この日、店では7種類の深海魚を刺身、から揚げなどにして提供していました。深海魚は見た目がちょっと「グロテスク」、「気持ち悪い」…といったイメージがあるという方が多いと思いますが、実は食べてみるととてもおいしいものばかりなんです。

鹿児島と深海魚の深い関係

島田:
そもそも「深海魚」は、水深200メートル以下の光の届きにくい深いところに生息する魚介類のこと。鹿児島県は南西諸島を含む広い海域のほか、南に突き出す二つの半島に挟まれた鹿児島湾の中も水深の深い漁場があります。そこには多種多様な深海魚が生息していて網にかかる深海魚は決して珍しくありません。

――地元で深海魚はなじみが深い存在だったんですね。

島田:
そうなんです。そこで3年前に旗揚げしたのが「かごしま深海魚研究会」。地元の水産関係者やさきほど登場した居酒屋などの飲食店などで構成され、現在50の店舗が参加しています。発起人の鹿児島大学水産学部の大富潤教授は、深海魚が将来の鹿児島の水産業のけん引役になると期待しています。

大富潤さん
「将来の鹿児島の水産をどうにかしたいと考えたとき、目玉になる核になるものが必要だと思ったんです。鹿児島の海は深海魚の漁場だらけということに気が付いて、そこで深海魚でいこうというふうに考えたわけですよ。」

島田:
大富さんは、水産会社や飲食店に向けて、試食会などを通して深海魚のおいしさを伝えていきました。そうして底引き網漁などでとれた深海魚を、水産会社が買い取り、飲食店やスーパーに卸すという流通を開拓し実現。今では地元のスーパーの鮮魚売り場にもさまざまな種類の深海魚が並び、一般の消費者も手に入れることができます。そのほか、深海魚研究会ではイベントを開催するなど深海魚でいかに地域振興を図るか検討を進めてきました。

――鹿児島の食卓に、深海魚は徐々に浸透してきているんですね。でもなぜ、今まで活用されてこなかったんでしょうか?

島田:
それは、今までは「二束三文」でお金にならないものがほとんどだったからです。大隅半島の真ん中、垂水市の港町を取材しました。この近海では、江戸時代から伝統的に続けてきた底引き網を利用したエビ漁が盛んです。網を引き揚げると、エビ以外に様々な深海魚も一緒にかかります。しかし、見た目や知名度の低さなどから市場でも価格はつかず、以前は活用されていませんでした。今、深海魚が注目されていることについて、漁師の大瀬美幸さん(67)の話です。

大瀬美幸さん
「深海魚はお金にするような魚じゃなかったから、近所に配ったりとか自分で食べていました。それが、ちょっとでもお金になるとか、知らない人が買ってくれておいしかったとか言ってもらえればうれしいことですね。」

島田:
なかには、1㎏あたり以前は数円程度しか値がつかなかったものが、研究会のルートを通じて数百円程度の価格で取引されるものもあるそうなんです。かごしま深海魚研究会の大富さんは、この取り組みを進める背景のひとつに、地元の水産業を応援したい思いがあります。

大富潤さん
「自分の研究をする際に、漁業者の船に乗せていただくことが多かったんですね。その際に『昔はよかったんだけど今はもう駄目だよ。俺の代で終わりだ』とみなさんおっしゃるんですね。これはいけないな、と思って将来の漁業者のことを考えて取り組み始めました。」

島田:
鹿児島県でも漁業者の減少や高齢化に歯止めがかかりません。また、近年は海水温の上昇など海洋環境の変化や、燃料価格の高騰により、漁業を取り巻く経営環境は不安定です。深海魚研究会の取り組みは、鹿児島の漁業を次世代につなげようという地域の願いでもあるんです。

グロいけど…高校生も共感!

島田:
深海魚研究会の発足から3年。いま、地元の高校生も注目しています。南さつま市の鳳凰高校「サイエンスクラブ」です。「深海魚水深委員」というプロジェクトを立ち上げ、いま部員13人で、鹿児島に生息する深海魚に関する情報を自分たちで調べて、ネットで発信する活動に力を入れています。
例えば…∇先週は「深海魚でふりかけを作りました!」というタイトルで投稿しています。深海魚をベースに、ニンニクの芽やゴボウ、カリカリ梅などを使った佃煮風のご飯のお供を試作。オリジナルレシピの公開も視野に入れているそうです。∇さらに、8月下旬の投稿…タイトルは「深海魚紹介します」。深海魚に親しみを持ってもらおうと、自分たちで愛称を付けたということです。ノドグロの仲間で大きな目が特徴の「スミクイウオ」はウロコが取れやすく肌触りがつるつるしていることから「クロビジン」、全身真っ赤で背びれに刺さると痛いとげがある「アカカサゴ」という魚は、その圧倒的な存在感から「アカショウグン」と命名しました。

――深海魚への愛をちょっぴり感じますね。

島田:
そうですね、みなさん愛情を込めて活動しています。さらに活動を通して深海魚への認識が変わったといいます。「鳳凰高校サイエンスクラブ」の部員です。

高吉逞花さん
「深海魚というと結構グロいとか、気持ち悪いとか、食べられるものっていうイメージが全くなくって。実際に深海魚に触れて食べてみたらとってもおいしい魚がすごく多くて、プラスなイメージになりました。」
森美空さん
「深海魚に最初はあんまり興味がなかったので実際に深海魚を見たりとか触ったりとかしたときに、やっぱりほかの魚とあんまり変わらないし食べたときもおいしかったのでそういうところが面白いなって思います。」
東窪優希さん
「深海魚っていっても知名度的にも低いのかなって思うので、自分で積極的に深海魚を食べてみることもそうだし、 食べた結果を友達とか家族に知らせていって、イメージ改善ももっとしていきたいなと思います。」

島田:
深海魚研究会のみなさんは、「次世代の漁師を絶やしたくない」という理念のもとに集まっています。「うんまか深海魚」を食べることで、水産業支援、漁業関係者のモチベーションアップにつながると大富さんは話していました。この取り組みが全国に広がってほしいと思います。

鹿児島放送局
島田莉生アナウンサー


【放送】
2023/09/12 「NHKジャーナル」

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