風水害 そのとき外国人は… (愛知)

NHKジャーナル

放送日:2023/08/08

#ローカル#愛知県#防災・減災#水害から命を守る

ものづくりが盛んで、全国で2番目に多くの外国人が暮らす愛知県。ことし6月上旬には、県内を記録的な大雨が襲いました。豊橋市では、地域に住む外国人の防災力向上に力を入れていますが、新たな課題も見えてきたといいます。名古屋放送局の澤田拓海アナウンサーが取材しました。

自国で未体験ゆえの戸惑い

澤田:
愛知県には多くの外国人が暮らしていて、自動車・機械をはじめとした地域のものづくりは、こうした外国人労働者によっても支えられています。なかでも豊橋市は、在留外国人が名古屋市に次いで県内で2番目に多く、2万人近くが暮らしています。この地域をことし6月はじめ、記録的な大雨が襲いました。線状降水帯が発生し、豊橋市はわずか1日で、平年の6月の雨量の2倍を超える大雨になりました。市内を流れる中小の河川も水があふれ、広く浸水。被害は外国人にも及びました。

――実際にどんな被害があったんですか。

澤田:
市内に暮らす外国人を取材しました。中国人の董海(とう・かい)さん。10年前から豊橋に住んでいます。仕事が終わって会社からの帰り道。深夜、車を運転中に冠水した道路に入って立往生しました。道すがら車が何台も止まっているのを見かけましたが、そのときは特に危機感を覚えることはなかったといいます。

董海さん
「危ないというか、あんまり頭にはなかったので。で、このぐらいの水位でなぜ止まるのって思ったんですよ。(先に進むうち、しだいに車両が水に浸かり始めて)落ちる? どうなる? 民家にぶつかるの? どうしたらいい? 自分どうしたらいい? でも、もうその時点で車が止まってしまって、ああ終わったなと思いました。」

澤田:
董海さんは、雨がほとんど降らない内モンゴルの出身。そのため大雨の危険性を理解しておらず、その場でパニックに陥ったといいます。結局、車の中で一夜を明かしました。外は水が濁流のように流れていたそうです。そのときの恐怖は、今でも忘れられないといいます。

董海さん
「ちょっとやっぱりトラウマというか、結構大雨降ってくると、ちょっとやっぱり怖いです。怖いというか、ビビるんですね。またそうなるかもしれないと思うと怖いです。」

澤田:
もう一人、ベトナム人の伊藤テンさんを取材しました。7年前から豊橋で暮らしています。大雨のとき自宅にいたテンさん。テレビや行政から伝わる大雨の情報を見聞きして、地域に暮らすベトナム人の身に危険が迫っていることを感じ、それらの情報を自ら母国語に翻訳して、SNSで発信を始めました。

伊藤テンさん
「内容はちゃんと翻訳して自分がアップしたんですけど…。」

澤田:
しばらくするとそのSNSを通じて、家の周りが浸水したり、車が壊れてしまったりするなど、被害を受けたベトナム人たちからの投稿を目にするようになりました。さらに、移動中の車が水に浸かって動けなくなったベトナム人技能実習生もいたという情報も耳にしたそうです。

――また車、ですか…。

澤田:
この実習生は、友人を助けに行こうと車を出したところ、自分自身が動けなくなってしまったそうです。いざというときに自分の命を守るためにはどうすればよいか、優先順位に迷う外国人の姿をこれまでもたくさん見てきたと、テンさんはいいます。

伊藤テンさん
「自分の国でそういう災害にあったことがないので、どのくらい危ないかもわからない。小さいころから日本に暮らす人たちは訓練を通じて勉強していて、ちょっとでも慣れているということがあると思いますが、ベトナムでは同じような災害が全然なかったので、理解してもらうのが大変なんです。」

外国人の防災力向上のために

――経験したことのない雨の降り方を目の前にして、どう行動したらよいか迷ってしまう外国人の気持ちはわかりますね。

澤田:
そうですね。実は豊橋市は、そんな外国人の防災力向上に力を入れようとしている矢先でした。コミュニティーの中で災害に対する危機感を共有し対策に役立ててもらおうと、2020年から「外国人防災リーダー」という制度を設けています。これは、災害の危険性を理解してもらい、地域に暮らす外国人に、率先して防災を呼びかけてもらうことが目的で、年に1~2回、育成研修を実施しています。講座では「避難所でどう行動するかを知ってもらうゲーム」や、「VR(仮想現実)を使った浸水の疑似体験」などを組み入れて、外国人にもわかりやすく伝わる内容にしています。ですが「防災リーダー」としてこれまでに登録された外国人は、35人にとどまっています。防災意識の共有や災害の際に自ら実践的に行動してもらうための人づくりには、まだまだ時間がかかりそうです。豊橋市防災危機管理課の星野好史さんです。

星野好史さん
「まずは日本の災害を外国人の方に理解していただいて、その災害に対する避難行動などをしっかり理解してもらって、さらにその内容を外国人の仲間に伝えてもらいたいと考えています。」

澤田:
6月の大雨の浸水被害を受けた地域は今、復旧が進んでいます。今回の大雨で外国人の経験を通して見えてきた防災上の課題。ベトナム人のテンさんも、ほかの外国人とともに、自主的に外国人が災害や生活に必要な情報を得ることができる専用ページを制作しようと考え始めています。詳細はこれからですが、行政に頼りきるのではなく、外国人のネットワークを通じて、自ら理解を広げていこうとしています。地域に暮らす誰もが災害を“自分事”として考える必要性があるなか、その成果が期待されます。

名古屋放送局
澤田拓海アナウンサー


【放送】
2023/08/08 「NHKジャーナル」

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