働き手不足を野球が救う?!(福岡)

23/08/01まで

NHKジャーナル

放送日:2023/07/25

#ローカル#福岡県#スポーツ

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北九州市に拠点を置く社会人野球チームが、ことし3月に結成されました。元プロ野球選手の伊東勤さんが総監督を務めます。チームに寄せられた地域の“期待”と取り組みを、北九州放送局の神戸和貴アナウンサーが取材しました。

北九州の新チームは“二刀流”?!

神戸:
北九州市に拠点を置く新たな社会人野球のチームが、ことし3月に発足しました。名前は「ARC九州」。総監督に、プロ野球・西武のキャッチャーとして活躍し、NHKの野球解説でおなじみの伊東勤さんが就任したことで、野球ファンの間でも話題になりました。発足会見で、伊東さんはこのように意気込みを語りました。

伊東勤さん
「しっかり結果を残すことが一番大事ですので、自分が今、持っているノウハウを、なんとか還元しようと思います。」

神戸:
伊東さんが総監督を務めるとあって、チームの本気度が伝わってくると思います。ARC九州には、野球の夢を追いかける23人の選手が所属しています。でも、ただのチームじゃないんです。選手たちは全員、スポンサー企業の“戦力”としての期待も背負っているんです。

――スポンサー企業の戦力と言いますと?

神戸:
ARC九州の設立の背景には、「地域の若い働き手の確保」という目的もあるんです。選手は、スポンサーになっている、地域の不動産会社・飲食店・運送業など異業種の6社の企業のいずれかと、正社員としての雇用契約を結ぶことが条件になっています。所属する選手は、日中それぞれのスポンサー企業の正社員として働き、仕事が終わったあとに、チームで集まって練習を行っているんです。

――野球チームに所属しながら、日中はチームを支援するそれぞれの企業で働く社員という、“二足のわらじ”、いや、“二刀流”ということですか。

神戸:
そうですね。北九州市の人口は、106万をピークに年々減少しており、現在はおよそ92万で、特に若い働き手が流出しています。ARC九州の発起人の1人、山本樹さん(29歳)は、地元の企業と情報交換をするなかで、若い人材の確保に課題を抱えていたことが、設立の背景にあると話します。

山本樹さん
「社員確保のために、どういうことをしたら、今の若い子たちが続けたいと思うだろうかという相談からだったんです。自分がもともと野球をしていましたので、そういったところを福利厚生としてできれば面白いんじゃないですかという、軽いお話から始まりました。」

神戸:
ちなみに山本さんは監督の立場で、総監督の伊東勤さんと連携をとってチームを率いています。

選手「社員ならではのゆとりとやりがい」

――「福利厚生」という話がありましたが、選手たちはどのようなモチベーションで集まってくるのでしょうか。

神戸:
社会人野球の企業チームは、長引く不況の影響で大企業でも廃部や休部が相次いでいます。球児・野球部員たちにとっては、学生野球を卒業後もプロ・アマを問わず夢を追い求めたいと思っても、受け皿となる場所が少ない状況にあります。そのなかでARC九州は、地域の複数の企業が財政面でバックアップしていたり、選手一人ひとりが正社員としての立場を守られたりしていることで、みなが安心して夢を追いかけられるメリットがあるわけです。日本野球連盟の担当者によりますと、社員の雇用を目的に異業種の企業が団結して発足した社会人野球チームは、全国的にも珍しいということです。

スポンサー企業の1つ、北九州市内を中心に9つの店舗を持つ不動産会社では、7人の選手を正社員として雇用しています。そのうちの1人、兵庫県出身で外野手の西尾悠樹選手(24歳)を取材しました。去年まで長野県の独立リーグでプレーしていました。今の生活は、当時に比べて心のゆとりが増えたと話します。

西尾悠樹選手
「独立リーグとはいっても、僕自身は、練習生という“給料ゼロ”の契約の期間が長かったので、今いただいている給料は、天と地ほどの差があるかなと思います。お金の心配が減ったのは、(自分のなかで)結構大きいかなと思います。」

神戸:
西尾選手は正社員としてはまだ1年目の新人で、日中は建物の管理や空き物件の取り扱いなどについて勉強中です。野球選手としての成長を目的に、都市対抗野球など大きな舞台で活躍したいと入団しましたが、将来的には今の会社の社員として働く道も、選択肢の1つと考え始めていると言います。

西尾悠樹選手
「働けるなら、続けさせてもらえるならば、続けるのもありなのかなと思います。僕なりに(仕事の)面白さを見つけながら、やりがいも感じながらやらせていただいている状況です。」

神戸:
西尾選手は、もともと不動産業への関心を持って入社したわけではありませんが、働くなかで自身のセカンドキャリアについても道が広がったようです。

――ほかの選手のみなさんの考えはどうでしょうか。

神戸:
選手によってさまざまです。伊東勤総監督のもとで鍛えてもらい、プロの夢をあきらめないという選手もいますし、野球をしながら社会人としての経験を積みたいという人もいます。ただ、選手たちにとっては安定した収入が得られること、そして地元企業にとっては元気な若い社員が集まるということで、両者にとって”ウインウイン”になっています。

企業「人材確保のためには社外活動の応援も」

神戸:
西尾さんら、選手7人が勤務する不動産会社の常務取締役・前田啓美さんは、彼らの夢を応援するなどして社外の活動にモチベーションを持ってもらうことは、これからの地方企業の人材確保には不可欠だと考えています。

前田啓美さん
「スポーツをしている間に、いろいろなスキルを身に付けて雇用もしたほうがどちらも良いかなと思って、その点で導入しました。選手の一人ひとりと、どんな人生を送りたいかという話をして、そこから逆算して、仕事と野球の時間をどんなふうに分配していくかという話もしています。いろいろな人の働き方に企業が合わせていかないと、人材が確保できないなと感じました。」

神戸:
企業にとっては、選手生活を続けたい若者の思いを尊重しつつ、会社の事業に魅力を感じてもらい、かけがえのない人材としてつなぎとめていくための方策が求められそうです。この取り組みが軌道に乗っていけば、地域スポーツの可能性を広げていくことにつながっていくのではないかという期待も感じました。

北九州放送局
神戸和貴アナウンサー


【放送】
2023/07/25 「NHKジャーナル」

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