復興のその先へ~若手みかん農家の挑戦(愛媛)

NHKジャーナル

放送日:2023/07/04

#ローカル#愛媛県#西日本豪雨

2018年7月に発生した「西日本豪雨」で大きな被害を受けた愛媛県。若手みかん農家の復興へ向けた取り組みについて、松山放送局の宮本真智アナウンサーが取材しました。

復旧進む…急斜面のみかん畑

――宮本さん、西日本豪雨から5年になりますが、みかん畑も大きな被害があったんですよね。

宮本:
かんきつの収穫量が全国2位を誇る愛媛県では、5年前の豪雨により、あちこちのみかん畑で土砂崩れが発生。農地や農業設備の被害額は450億円にのぼりました。というのも、みかん栽培に適した場所の多くは、最大傾斜50度とも言われる、人が立っているのもやっとの急斜面。おいしいミカン栽培と大雨による土砂災害のリスクは、表裏一体なんです。

豪雨の爪痕は、実は今も県内のいたるところに残っています。私は、今回特に被害が大きかった県南西部の宇和島市、みかん栽培が特にさかんな「玉津地区」を取材しました。この地区では1000か所以上で土砂崩れが発生し、みかん畑の2割ほどが流されました。

――農地の復旧は進んでいますか。

宮本:
徐々にですが、もとのように整地され新しい苗木を植え始めた畑もあります。さらに、復旧のためのプロジェクトも急ピッチで進められています。

♪(再編復旧工事の現場)ゴーーー

宮本:
大きな重機が山肌を削っています。災害に強く、作業効率のよい畑に作り直す、「再編復旧」と呼ばれるものです。国や県が中心となって、おととしから工事が始まりました。「再編復旧」は、山全体を削って一から畑を作り直す工事です。ただ、工事が終わっても、苗木を植えて育て始めてから実がなるまでには少なくともおよそ5年、市場に出荷できるようなみかんの収穫が十分にできるまでには10年近くかかるそうです。工事の対象となった畑は、数年間収益がゼロになってしまいます。

――被害を受けたみかん農家のなかには、苦しい状況が続いているところもあるのですね。

若手農家のプライドが結集

宮本:
そんななかで玉津地区には、豪雨をきっかけに地域の若手かんきつ農家が力を結集して設立した会社があります。社長の原田亮司さん(40)は、特産のみかんを絶やすまいと、被災した1週間後には、仲間と重機を持ち寄って農道の補修に取りかかりました。さらにはクラウドファンディングで資金を募り、それをもとに、スプリンクラーなどの農機具の修理も自分たちで行うなどしました。

宮本:
そしてその年の暮れに、仲間10人とともに会社を設立。その当時の思いをこのように振り返ります。

原田亮司さん

原田亮司さん
「最初こそ、復旧復興ということで、何かできることは…と思ってたんですけど、復旧復興というよりはもう、玉津自体を元気に残していくというのが、会社の大きな目標かなと思っています。」

宮本:
この地域に200軒ほどあるかんきつ農家のうち、4分の1は40代以下の後継者がいます。その若い力を1つにしようと、原田さんたち若手農家が立ち上がりました。

――地域全体を元気にしたい、若手農家のプライドを感じますね。具体的にはどんなことに取り組んでいるのですか。

宮本:
原田さんたちが取り組んでいるのは、繁忙期や高齢の農家の手伝いを行う「労働者の派遣」や、高齢農家が手放した畑を若手に紹介する「耕作放棄地の活用」など、地域の農家が抱える、お困りごとをサポートする事業です。なかでも今、力を入れているのが、地域の未来を見据えた「人材確保」。特に「移住の促進」で、 “農家研修生”を受け入れて育成しています。就農希望者を社員として登用し、高齢農家が手放した畑などを会社で管理し、研修生が栽培できる園地を確保したり、かんきつ栽培にかかる経費を会社でサポートできる態勢を整えるなど、いつ希望者が来ても安心してみかん栽培に臨んでもらえるように、環境整備を行っています。

その1人、4年前に東京でのサラリーマン生活から移住を決意した、佐々木隆史さん(41)。原田さんとともにお話を聞きました。

佐々木隆史さん

佐々木隆史さん
「1年目から自分ひとりである程度の管理を任せてもらえたので、仕事の内容であったり、どのぐらいの時間がかかるのかとかも、だいたい把握できたのはよかったのではないかなと思っています。」

原田亮司さん
「失敗もして、学んだしね…。」

佐々木隆史さん
「そうそう。独立する前に、ある程度いろいろな失敗もしてきたので、こうしないとよくない結果につながるんだなということが、あらかじめわかって。(そういった経験やサポートが充実していて)すごくうれしいことだったと思います。」

宮本:
原田さんは、会社で所有する畑を、佐々木さんに移住当初から管理してもらいました。みかん生産に必要な栽培技術や果実の取り扱い方などのノウハウを、2年間にわたり徹底的に仕込んできました。そして去年の夏、佐々木さんは、かんきつ農家として独立しました。地域に定住して就農してもらうことはそう簡単ではないものの、地域の未来を担うかんきつ生産者の育成に向けて、手探りで取り組みを続けています。

人も苗木も、未来につなぐ

宮本:
ほかにも、いつ来るかわからない災害や、高齢化による耕作放棄地の増加など、農家が直面する課題に備える取り組みも始めています。苗木の状態から市場に出荷できるみかんができるまでには、5年から10年の年月を要します。そこで、会社であらかじめ苗木を育てておいて、復旧、収益化までの時間を短縮しようと取り組んでいるのです。課題に直面してもゼロからのスタートにならないよう、今できる備えを進めています。

――未来のみかん産業を支える若手農家の力、心強いですね。

宮本:
原田さんはこのように話しています。

原田さんと宮本アナ

原田亮司さん
「佐々木くんみたいな移住者が来てくれるのもありがたいですし、自分たちの子ども世代が大人になったときに、1つの選択肢として家業のみかん農家を継ぐ選択が取れるような元気な地域で、そのときも残っていたらいいかなとは思っています。」

宮本:
原田さんをはじめ、豪雨をきっかけに地域への思いを強くした若者たちは、子や孫の代まで、「100年先まで元気な地域」を目指し、未来を見据えています。

松山放送局
宮本真智アナウンサー


【放送】
2023/07/04 「NHKジャーナル」

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