“人道の港・敦賀”を伝える高校生(福井)

NHKジャーナル

放送日:2023/06/20

#ローカル#福井県#世界情勢

6月20日は、国連が定める「世界難民の日」。世界各地の紛争や迫害などによって住まいを追われた人は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻などの影響もあり、ことし5月までの推定でこれまでで最も多いおよそ1億1000万人に上ると国連が明らかにしました。
難民についての理解を広げようという高校生たちの取り組みを、福井放送局の平塚柚希アナウンサーが取材しました。

難民らを迎え入れた港

平塚:
私が取材したのは、福井県立敦賀高校の『創生部』。3年前の2020年9月に誕生した、発足間もない部活動です。地元の良さを見つめなおして『地域創生』に貢献することを目指そうと活動しています。これまでに、∇地元のお店とコラボしてお菓子など食品の新商品開発に取り組んだり、∇知られざる地域の魅力をネットで発信したりしてきました。
そのなかで発足以来、大切に続けている活動があります。それは「人道の港」とよばれる、敦賀の歴史を伝えることです。

資料館「人道の港 敦賀ムゼウム」

――人道の港、ですか。

平塚:
はい。いまから100年ほど前、ロシア革命の騒乱のさなか家族を失った多くのポーランド孤児を、シベリア鉄道の終着点・ウラジオストクから国際航路でつながっていた、ここ敦賀で受け入れました。また、第二次世界大戦中にも、ナチス・ドイツの迫害を受けたユダヤ難民を受け入れた歴史もあり、敦賀は「人道の港」と呼ばれているのです。その港の近くにある資料館「敦賀ムゼウム」には、それらの功績を今に伝えるさまざまな資料が展示されています。創生部の部員たちは、ここで「人道の港・敦賀」の歴史を語り継ぐガイドを務めているのです。観光客に向けたガイドの一部をお聞きください。

部員によるガイドの様子
「第二次世界大戦勃発の1年後の、1940年の7月。当時、リトアニアのカウナスで日本領事館に勤めていらした、この杉原千畝さんはユダヤ難民を迫害から逃すためにビザを発行しました。これは日本政府から許可が出ていないにもかかわらず、人道を優先したという、とても勇気のある行動でした。このビザがなければ、さらに多くのユダヤ人が迫害のために命を失っていたことでしょう。このことから、このビザは『命のビザ』と呼ばれ、現代まで語り継がれているのです…。」

――杉原千畝さんは、日本の外交官ですよね。

平塚:
そうですね。「東洋のシンドラー」とも呼ばれた人です。ユダヤ人を救うため、自らの判断でビザを発給し、『命のビザ』として語り継がれているんです。

画像提供:人道の港 敦賀ムゼウム

“温かな心” 受け継ぐ決意

――創生部では、どうしてこの活動に力を入れるようになったんですか?

平塚:
それは、部が発足したころの社会背景が大きく関わっているといいます。活動の初期を知るメンバーのひとり、3年生の大原颯真さんは、次のように話します。

大原颯真さん
「新型コロナウイルスが日本ではやり始めた当初、ネットとか都市部でひぼう中傷とか起こっているのを見て、私たちの住む敦賀でも同じようなことが起こってほしくないと考えました。1920年代、1940年代、ポーランド孤児やユダヤ難民を受け入れたという、当時の敦賀市民の温かい心を伝えることができれば、その温かさを現代にもよみがえらせることができるのではないかと考えてはじめました。原点はやはりそこになります。」

部員のお2人と一緒に

平塚:
部が発足した2020年ごろは、新型コロナがきっかけの「不寛容さ」が社会問題になりました。感染した人へのひぼう中傷や、マスクの着用など個人のコロナ対策をめぐってさまざまなトラブルがありましたよね。部員たちは、トラブルをどうしたら防ぐことができるのか、自分たちの身の回りから見直そうと議論を重ねてきました。そこで改めて注目したのが、資料館「敦賀ムゼウム」の存在です。先人たちが大切にした、人への優しさや温かさこそ地域の宝だととらえ、その精神を受け継いだ活動を意識するようになりました。2021年9月から、毎月2回程度ガイドを担当してきました。

より深く迫り、伝え続ける

平塚:
こうした取り組みを受けて敦賀市は、創生部の部員たちを交流のあるポーランドに派遣することを決めました。来月の夏休みに12人が訪問し、アウシュビッツの強制収容所などを見学する予定です。ポーランドにはいま、ロシアによるウクライナ侵攻から逃れた難民が数多くいます。大原さんたちは、難民を受け入れて命をつないだ地元の歴史を伝えている自分たちの目で、今まさに世界が直面している難民問題をしっかりと見つめたいと考えています。

大原颯真さん
「難民を受け入れる、受け入れないっていうことの前に、相手の立場に立って、相手は今どういう状況に置かれていて、なぜそういうことが起きているのかというのを考えてみることが大切かなと思います。 そうすることで、戦争や社会問題に対して、自分の意見を持つことができるんじゃないかなと思います。」

平塚:
「人道の港・敦賀」の歴史を、今に、これからにつなげていく。実際に見て、心で感じたものを敦賀に持ち帰り、自分たちの言葉で伝え続けたいと考えています。ポーランドから帰った高校生たちが何を思い、どんな活動につなげていくのか、取材を続けていきたいと思います。

福井県立敦賀高校の『創生部』のみなさん

福井放送局
平塚柚希アナウンサー


【放送】
2023/06/20 「NHKジャーナル」

この記事をシェアする

※別ウィンドウで開きます