ことし1月、アメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズの「ことし行くべき52か所の旅行先」という特集記事で、盛岡市がロンドンに次いで2番目に紹介されました。なぜ、盛岡が選ばれたのか。盛岡放送局の小掛雄太アナウンサーが取材しました。(聞き手:打越裕樹キャスター、結野亜希キャスター)
YOUは何を求めて盛岡へ?!
――小掛さん。盛岡市がニューヨーク・タイムズで2番目に選ばれたときは、地元の反応はどうでしたか?
小掛:
みんな驚いたと同時に、これから外国人が盛岡に来てくれるのではと期待が高まっています。実際に盛岡駅の観光案内所を訪れた外国人旅行客は、ことしに入ってから5月末までで前年の24倍になりました。盛岡市内にある唯一の温泉地「つなぎ温泉」では問い合わせが増え、名前を「盛岡つなぎ温泉」に改めるなど、市内の観光施設は外国人旅行客の増加に合わせた対応が続いています。
――「盛岡」のネームバリューをいかそうとしているんですね。
小掛:
はい。まちなかで外国人観光客の姿が増えるなか、私は盛岡名物の“あの場所”を訪れてみました。
♪わんこそば店内「はい、どんどん。はい、じゃんじゃん」
小掛アナリポート
「盛岡市内にあるわんこそば屋に来ています。掛け声に合わせて給仕がリズムよく、そばをおわんに入れ続けています。なかにはシンガポールからいらしたお客さんもいます。どうですか?」
外国人旅行客
「わんこそばおいしい!」
わんこそば=「大冒険」?!
――にぎやかですね~。それにしても世界中の観光地の中から、なぜ今回、盛岡が選ばれたのでしょうか?
小掛:
「ことし行くべき52か所」は、ニューヨーク・タイムズの世界中にいる数百人の記者が推薦した候補地の中から、「旅する動機」などを焦点に社内で総合的に判断したということです。盛岡市を推した記者のひとり、アメリカ出身で日本に住んで23年のクレイグ・モドさんは、あえて盛岡を選んだ理由を次のように話しています。
クレイグ・モド記者
「盛岡の市民の優しさ、おいしさ、歴史と、町並みの作りとか、全体的に健全で魅力を感じてそれが良かった。目的があるというより、絶対おもしろい出会いもあるし、本当の観光は人とつなぐことだと思うし、おもしろい人と出会ってその人の地元やお勧めを聞くのが私は一番好きです。」
小掛:
モド記者が強く指摘するのは、外国人旅行客は日本を旅行する際に「おもしろい出会い」「地域とのつながり」を求めているということです。先ほど紹介したわんこそば店の主人・馬場暁彦さんは、日本人と外国人の旅行客には大きな違いがあると考えています。目的をもって来店する日本人に対して、外国人はわんこそばを全く知らずに来店する傾向にあるそうです。馬場さんは、外国人旅行客の言葉に学びがあったと振り返ります。
馬場暁彦さん
「とあるお客さんは、『まるで冒険のようだ』と表現したんです。言われてみれば確かに、一緒に伴走してパートナーシップを組んで、食事の初めから終わりまで一緒という部分はそのとおりで、わんこそばはそれが当たり前だと思っていたので、そういう表現をしてもらったことはちょっと、なるほどというか、逆に気づきをもらいました。」
――わんこそばを「冒険」に例える人もいたんですね。表現が、新鮮でユニークですね。
小掛:
はい。馬場さんによると、外国人の興味は、給仕のし方や掛け声にあわせて1杯1杯をクリアしていくプロセスにあるそうで、そのおもしろみを「冒険」と表現したのではないかと考えています。馬場さんは、外国人旅行客に対し、あえて特別な事はしないようにしていると言います。
馬場さん
「その土地の振る舞われているものを楽しんでほしいから、外国人だからといって英語で掛け声をかけるようなことはしていません。盛岡弁バリバリで外国人に給仕するお給仕もいますし、一緒を心掛けています。」
タタミ・ザコネ・カワノジ…
小掛:
モド記者が指摘するような、外国人が旅行先に求めることは「宿泊」にもあります。盛岡市にある創業58年の旅館は、年間1200人近い外国人旅行客をもてなしてきました。代表の熊谷大亮さんはある時、外国人旅行客からの要望やリクエストに驚いたと言います。
熊谷大亮さん
「一番最初に『畳の部屋』と言われるんですよね。いろいろな言葉を知っていて、『雑魚寝』とか『川の字』とか」
小掛:
外国人旅行客が求めたことは、それだけではありません。
熊谷さん
「浴衣をどこで買えばいいのかということをよく聞かれます。うちの旅館で着られて自国のお母さんとか妻にお土産で持っていきたいという方とか。岩手の人や住んでいる人はどこでどう買い物をするのかとか、どこに遊びにいくのかも聞かれます。」
小掛:
熊谷さんは、外国人旅行客が盛岡の文化を体験したくて来ていることに着目し、宿の方針を「家庭料理の提供」「畳の部屋」「地元の人との交流を大事にすること」としています。ここでは食事スペースに宿泊者以外の客も受け入れるようにして、地元の人との交流も増やしてしてきました。
熊谷さん
「外国人旅行客に『こびないこと』…普段の生活のなかに受け入れることはすごく大事ですよね。わざわざ欧米寄りにするとかアジア寄りにするとかそういうことをしないで、そのままの日本でそのまま受け入れて、食べている物をそのまま出して、日本人の良さや奥ゆかしさを大切にすることが大事だと思います。」
――ありのままがいいんですね。自治体側はニューヨーク・タイムズで選ばれたことについてどう捉えていますか?
小掛:
盛岡市観光課の藤谷 徹 課長は、長年取り組んできたまちづくりや地域の風土が評価されたことは誇りに思うと述べながら、次のように話します。
藤谷課長
「人の良さとか町並みの良さというのは(評価が)難しいんです。目に見えるような良さってこうですとか基準はこうですっていうのはないと思うので、盛岡はマッチしたけど、それ以外が合わなかったというのもあるし、その逆もあると思うんですよね。わかりにくいから奥も深くて、だからおもしろいということなんでしょうね。」
小掛:
今回の取材を通して、「今ある観光資源を地道に磨き上げていること」、そして「無理して外国人に合わせるようなことはせず、地元の文化の良さを押し出すこと」が、地方都市のインバウンド政策のヒントになる可能性を感じました。
盛岡放送局
小掛雄太アナウンサー
【放送】
2023/06/13 「NHKジャーナル」
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