ウクライナ避難民・高校生への学習支援(佐賀)

23/06/13まで

NHKジャーナル

放送日:2023/06/06

#ローカル#佐賀県#世界情勢#学び

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ロシアによるウクライナ侵攻から1年3か月あまり。日本では2100人あまりが、戦禍を逃れ避難生活を送っています。ウクライナから佐賀に避難してきた高校生の現状と新たな支援の動きについて、佐賀放送局の竹野大輝アナウンサーが取材しました。(聞き手:打越裕樹キャスター、結野亜希キャスター)
※数字は放送時点のものです。

朝から晩まで…授業掛け持ち

竹野:
いま佐賀県内には、ウクライナからの避難民30人が暮らしていて、そのうち10人が18歳未満の子どもたちです。そのほとんどが、避難先の地域にある学校に通いながら生活しています。侵攻が長期化するなか、佐賀市内の高校に通うウクライナの生徒たちを取材しました。

♪チャイムの音
教員「では今度は経度について。レイキャビクは何時にsunriseするか…」
生徒「this time…ああ、わかった」

竹野:
県立佐賀西高校です。学校では、避難してきた家族の希望に沿って、「留学生」という形で2人の高校生を受け入れています。普段2人は、ほかの生徒と同じ教室で同じ制服を着て授業を受けているんです。そのひとり、イェリサヴェタ・レセチコさん(16歳)は、去年11月に母・妹とともに佐賀に避難してきました。高校に通いはじめたのは、ことし1月です。ほとんど日本語がわからないなかで、英語や身振り手振りでのやり取りを通じて、なんとかコミュニケーションをとろうとしています。学校生活について、レセチコさんです。

レセチコさん
「日本に来るのを決めた時はきつかったです。でも今は、学校に行くことが日に日に好きになっていますし、幸せも感じています」

竹野:
とはいえ、一番のハードルは言葉の壁、日本語です。自分から積極的に思いや考えを伝えることはまだ難しくて、会話にためらいを感じることも多いといいます。高校の授業を終えて、夕方、帰宅すると…。

♪タブレット端末と向き合うレセチコさん、ウクライナ語でのやり取りする様子

――ウクライナの人とオンラインで何かやり取りをしていますね?

竹野:
レセチコさん、今度は母国、ウクライナのオンライン授業を受けているんです。日本との時差はおよそ6時間ですが、日本の高校の放課後は、ちょうどウクライナの学校の時間にあたるんです。レセチコさんはタブレット端末に向かって、夜遅く、時には10時過ぎまで授業を受けているんです。

――2つの学校の授業を受けるのは大変ですね…

竹野:
本人も大変だと話していました。侵攻が長引き、先行きへの不透明感がぬぐえないなかで、避難する子どもたちの多くが、将来的に帰国するのか、日本にとどまるか選択を迫られます。レセチコさんは「ウクライナのオンライン授業にも出て、将来の選択肢を増やしたい」と考えたうえで、2つの授業を受けることを選択しました。

長期化に備え、将来見据え…

竹野:
そうしたなか佐賀県内では、避難してきた子どもたちが、地元で長く暮らしていくことを視野に入れた新たな取り組みが行われています。

――それはなんですか?

竹野:
ウクライナからの生徒を対象に設けられた「日本語の特別授業」です。その様子です。

♪日本語授業の様子
講師(今村さん) 「おはようございます! ほら日本の暑い夏がはじまった! 座って」

ウクライナの生徒「グレーのスーツを着ている人です」
講師「着ているWearingですね」「いま~ている、でどんな人かを説明しました」

竹野:
この高校での特別授業は、文部科学省が今年度から推奨しているものです。授業の一部を日本語の特別授業に差し替える形で、週3時間行っています。
この授業の講師を務めているのは、地域の人で日本語指導の資格を持つ今村妙美さんです。手作りの教材を使って指導にあたっています。できるだけ早く「生活の日本語、すぐ使えるフレーズ」が身に着くよう、例えば、日常会話を漫画で表現して、吹き出しに入る日本語を考えさせるなど、雑談も交えながら楽しめる授業を行っています。4月下旬に授業がはじまって、およそ1か月がたちました。今村さんは、指導や対話を通じて、レセチコさんたちが「佐賀に暮らす安心感」も感じていると受け止めています。

今村妙美さん
「最近学校で『おはよう』っていうと『おはようございます』って返ってきて、先生たちもすごくうれしいって話していました。あと、この間すごく蒸し暑い日に(ウクライナの生徒の)1人が『あーあつかー!』って話し出して、『それ、佐賀弁やん』って、そういう話になったんです。そういうやり取りを通じて、この子たちが佐賀の地に徐々になじんできてるなって感じています。そういう場所に佐賀がなれたのであれば、それは本当によかったなと思いますね」

竹野:
一方で、避難生活が続くレセチコさんたち生徒の心に寄り添う必要性も感じていて、ひと言ひと言に配慮した授業を心掛けています。

今村妙美さん
「私自身が想像できないところで日々すごく怖い思いをしてるだろうし、日によって彼女たちはすごく落ち着いて見えるんですけれども、感情が揺れ動いてしまうと、今やっと手に入れられた穏やかな生活がちょっと乱れてしまうんじゃないかなと思います」

竹野:
レセチコさんは、さらにレベルアップしようと、いま漢字の読み書きにも挑戦しています。練習用ノートを見せていただいたんですが、隙間がないほどびっしりと文字で埋まっていました。小学生レベルの漢字が中心ですが、周りと同じくらい理解したいと目を輝かせながら頑張っていました。

竹野:
レセチコさんは日本での生活がはじまって、半年あまりがたちました。今、日本での大学進学や長く住んでいくことも考えはじめています。

レセチコさん
「ここに残りたい。周りの人は優しいし、戦争が終わっても、ウクライナの生活は厳しいと思う。日本語をもっと話せるようになって、私は日本に残って、人生を楽しみたいです」

竹野:
取材した数か月の間でも、レセチコさんの表情が明るくなったのを感じました。一方で、ウクライナからの生徒全員が前向きに学校生活を送れているわけではありません。侵攻がいち早く終結することを願うとともに、避難する生徒たちを支える取り組みが広がってほしいと思います。

佐賀放送局
竹野大輝アナウンサー


【放送】
2023/06/06 「NHKジャーナル」

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