捨てればゴミ、生かせば新素材~繊維のまちからの報告(岡山)

NHKジャーナル

放送日:2023/05/30

#ローカル#岡山県#環境

倉敷のデニム・ジーンズをはじめ、繊維産業が盛んな岡山県。業界では、限りある資源をあますことなく使い切ろうという取り組みが広がりを見せています。岡山放送局の松本真季アナウンサーが取材しました。
※なお、この内容は5月30日、語呂合わせで「ごみゼロの日」にあわせて放送したものです。(聞き手:打越裕樹キャスター、結野亜希キャスター)

廃生地がステキに大変身

松本:
東京のスタジオに10年かけて開発した岡山生まれの新素材と、それを使った小物を送りました。

――手元にはカードケースがあります。薄いグリーンと白のマーブル状の模様が美しくて、革製品のようなしっかりとしたつくりです。松本さん、これが新素材なんですか。

松本:
はい。捨てられるはずだった布から生まれた新素材なんです。大理石のような色合いが特徴なんですが、染色やプリントをしているわけじゃないんです。ある特殊な技術を使って誕生しました。作られている工場に行ってきました。

♪ 染色加工工場、生地を巻き取る音「ゴーー」

松本:
開発したのは140年以上続く染色加工会社です。この会社の、岡山市内にある工場では、年間およそ1000万㎡、東京ドームおよそ210個分の面積にもなる生地を染色し国内外へ出荷しています。一方で工場の中には、「買取反(かいとりたん)」と書かれた生地が置かれた場所もあり、これらは出荷できない生地なんです。染めムラや傷があるものは廃棄されてしまいます。その量は、1日で幅1.6mの生地だと長さ500m~1kmにもなります。

――もちろん品質を保つ基準はあるとはいえ、もったいないですね……。

松本:
そこで開発したのが、廃棄される布を使った新素材だったんです。

――で、どうやって作っているんですか。

松本:
見た目からは、想像できないような作り方でした。

♪ プレス機の音「シュー」

松本:
こちらは専用のプレス機。廃棄された布と特注したサトウキビ由来の樹脂フィルムを400~600枚、ミルフィーユのように重ね合わせて熱を加えます。そして、プレス機で「ぎゅーっ」と圧力を加えて固めていくんです。最初は厚さが10cmくらいあったものが5cmほどになり、かたいブロック状のものができました。これを水平に薄ーくスライスしていくと、模様の美しいシート状の新素材に生まれ変わりました。布とも革ともつかない質感や唯一無二の模様にインテリア業界も注目しています。テーブルの天板や、壁の装飾、ランプシェードなどで採用されています。環境にやさしい素材という付加価値も加わり、ヨーロッパの高級アパレルブランドや世界的な自動車メーカーなどのデザイナーも新素材を取り入れたいと興味を示しています。新素材を開発した会社の代表取締役社長、姫井明さんです。

姫井明さん
「何か違うことをしなければ生き残れないという強い危機感もあったかと思います。何とかしてこの捨てられる布たちを生かしてあげようというマインド、これが強く、オリジナルな、他にはないものができたと思っております」

新開発デニムは環境にヨシ!?

松本:
岡山の繊維業界のプライドにかけた新たな挑戦はまだまだあります。国産ジーンズ発祥の地、倉敷で地元の環境保全に一役かっている取り組みをご紹介します。先ほどは廃棄される布をよみがえらせる動きでしたが、今度は全く違うものをデニムに取り入れようという動きです。東京のスタジオにデニム生地がありますよね?

――一般的なデニム生地と違って少し白っぽい色の糸が見えています。

松本:
その白い糸、何で作られていると思いますか?

――綿ではないということですよね?

松本:
岡山県の南部にある湖、児島湖に生えているイネ科の植物「ヨシ」を糸にして織り込んだ「ヨシデニム」です。ヨシは水質保全の役割を持つ一方、毎年刈り取らなければその効果を発揮しません。そのため、岡山県では毎年3万㎡、およそ34トン刈り取っています。その一部を繊維に加工して、ヨシデニムを開発しました。ヨシに目をつけた大塚小百合さんです。

大塚小百合さん
「ヨシから糸ができるんですよっていうことをお聞きして、ヨシってすごく頑張って環境にいい影響を与えてることがわかったんです。ヨシと私たちが取り組んでいるデニムがうまくつながれば、これはきっといいものになるに違いないと思って開発してきました」

松本:
ヨシデニムを使ったジーンズ製品は、この秋の商品化を目指しているということです。

他にも、捨てられるものを生かした製品があるんです。私は今、実はデニムジャケットを着てお伝えしているんですが……みなさんおなじみ、熱帯のフルーツゆかりのものからできているんです。製作した岸本裕樹さんの話です。

岸本裕樹さん
「バナナの繊維は茎から作るんですけど結構かたいんですよね。繊維のままだと肌触りがよくないので、どうやって解消できるのかというところを一番研究しました」

――「バナナ」って言ってましたよね? そんなバナナ!?

松本:
そうなんです。バナナ、といっても「茎の繊維」を使っています。バナナは、実を収穫すると、そのたびに伐採し焼却処分されています。その量は全世界で年間およそ10億トンともいわれ環境問題になっていたんです。そこで岸本さんは、3年前、持ち前のデニム製造の技術を生かして、バナナ繊維を採用した商品のラインナップを始めました。

――気になる着心地は?

松本:
軽くて、しなやかです。肌触りも柔らかくて快適です。

――廃棄されるものが救われ、新たなデニムに……すてきな循環が生まれていますね。

松本:
そうですね。「もったいない」から生まれた環境思いの商品開発。地元に根づいた産業だからこそできる取り組みがあるのではないかと、岡山の繊維産業を通して感じました。

岡山放送局
松本真季アナウンサー


【放送】
2023/05/30 「NHKジャーナル」

この記事をシェアする

※別ウィンドウで開きます