餅の窒息事故に注意! 応急処置は?

23/12/27まで

NHKジャーナル

放送日:2023/12/20

#医療・健康#カラダのハナシ#たべもの

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正月料理にお餅は欠かせませんが、高齢者が餅などをのどに詰まらせて亡くなる窒息事故がこの時期(12月~1月)増えています。国内では、1月1日に最も多いというデータもあるんです。今回は食べ物による窒息を防ぐポイントと応急処置について考えます。(聞き手:山崎淑行ニュースデスク、打越裕樹キャスター、結野亜希キャスター)

【出演者】
五十嵐:五十嵐 豊さん(日本医科大学付属病院 医師)

餅の窒息事故 正月に集中

――五十嵐さん、やはりこの年末年始、窒息事故で運ばれる方、多いんですよね。

五十嵐:
食事の事故は年間通して起こるんですけれども、とくに12月、1月、冬にとくに多くなります。日本で窒息で亡くなる方は年間およそ9,000人いらっしゃって、交通事故で亡くなる人の2倍以上です。そのほとんどが75歳以上の高齢者になります。

――やはり、お餅をつまらせて亡くなる方、とくに高齢者で正月の時期は多いということなんですね。

こんにゃく、タコ、里芋も注意!

五十嵐:
はい。正月三が日に窒息で亡くなる方は集中しています。そのほとんどが、やはり餅が原因で亡くなっています。餅はやはり大きくて、ねばねばしているので、のどにつまりやすいという特徴があります。
ただ、実は餅以外にも正月料理には窒息の原因になるものがさまざまあります。例えば、煮しめに入っているこんにゃく。つるっとしていて、つまりやすいです。真ん中に切り込みがあって、結び目がある手綱(たづな)こんにゃくなども注意です。里芋やくわい、栗きんとんなんかも水分が少なく、のどにくっつきやすいです。他には刺身のタコ。地域によっては、縁起物として食べられるところもありますが、かみ切りにくくてつまりやすいです。実は、すしの窒息も多いです。

――こうした食べ物による窒息ですが、どうしておこるのでしょうか。

五十嵐:
はい。高齢者の場合は、歯を失ったり、入れ歯などによって、よくかみ砕くことができなくなってきます。また、のどの筋肉や神経の反射機能が低下してくるので、気管に食べ物が入りそうになった時にせきをして出そうとする力が弱まります。さらに、食べ物はよくかんで唾液とまざることで飲み込みやすくなるんですが、加齢や服用している薬の副作用などで唾液が十分に分泌されなくなると、飲み込む力が衰えてきます。

予防は、小さく切る・あごをひいて食べる!

――こうした窒息を防ぐためには、どのような対策対応をするといいでしょうか?

五十嵐:
はい。高齢の方には、小さく切って飲み込みやすくするのがポイントです。だいたい板チョコの1かけら程度の大きさに餅やほかの食材なども切っていくと、仮に飲み込みを失敗しても致命傷にいたるケースは少ないというふうにもいわれています。また、姿勢に気をつけることも重要です。例えば上を向きながらつばを飲み込むと、飲み込みにくいです。なので、食べるときはあごをひくことが重要です。そのために、イスであれば深く腰をかけたりとか、介護ベッドなどで座って食べる場合には、背中にクッションなどを入れて、上半身をしっかりおこしてですね、あごが引ける状態にすることが重要です。

――そういった点、気をつけたいと思います。ただですね、もし窒息がおこった場合、周囲の人はどのように対処するといいのでしょうか?

窒息のサインを見逃さない!

五十嵐:
まず窒息は静かに起こるともいわれています。窒息のサインを見逃さないことが重要です。

――窒息のサインですか。

五十嵐:
はい。食事中に窒息すると、意識があるのに声が出せなかったり、急にうなだれたり、顔が真っ青になってしまいます。また、思わず、両手でのどのところをつかむような動作をします。こうしたことに気がついたら窒息が起こっていることを疑って、すぐに119番通報をして、救急車を呼んでほしいと思います。

水を飲むはNG、応急処置は「背部叩打法」と「腹部突き上げ法」

――窒息というと、つまり息が出来なくなっているので、出来るかぎりのことをして、救急車を待ちたいと思うんですが、救急車がくるまでの間ですね、どんな応急手当をすればいいですか?

五十嵐:
まず咳ができれば、出来るかぎり咳をさせて、詰まった食べ物を出させます。
このときに注意するのは、水は飲ませないことです。気管に食べ物が入っている場合には、うまく飲み込めず、さらに気管の奥に入ってしまう場合もあります。
咳ができないときや、咳をしても異物が出ない時、これは背中の肩甲骨と肩甲骨の間を手のひらの付け根で強くたたく「背部叩打法(はいぶこうだほう)」というものを行います。立っていても座っていてもいいので、窒息している人の後ろから、胸か下あごを支えて、うつむかせて、背中を勢いよくたたきます。

――肩甲骨と肩甲骨の間を強くたたくと。これでも出てこない場合にはどうすればいいんでしょうか?

五十嵐:
そういう場合には、おなかを強く押す「腹部突き上げ法」というものを行います。ただし、これはおなかに赤ちゃんがいる妊婦さんや1歳未満の乳児には行ってはいけません。
まず、窒息している人を立たせて、体を起こしている状態にします。立たせられなければ、座った状態でもかまいません。後ろから手を回して、みぞおちに片方の手のこぶしを、親指側をおなかにむけるようにあてます。もう一方の手で、こぶしを包み込むようにして、出来る限り力強く押します。

――まず背中の肩甲骨と肩甲骨の間をたたいて、出なかったらおなかのみぞおちを押すということなんですね。五十嵐さん、それぞれ何回くらい行うといいのでしょうか?

五十嵐:
まず、背中を5回たたいて、それでも出てこなかったら、腹部のみぞおちを5回押してください。それを繰り返していきます。5分程度行っても異物が出てこなくて、また呼びかけに反応しなくなった場合には、あおむけに寝かせて胸骨圧迫、いわゆる心臓マッサージのことですが、これに切りかえます。手をかさねて、その手で、胸の真ん中、左右の乳頭の真ん中のところですけれども、胸骨の下の部分をしっかりと押し続けて下さい。これでつまったものがとれるという場合もあります。

――背中をたたいて、みぞおちを押す、5分でだめだったら心臓マッサージに切り替えるということなんですね。

五十嵐:
はい。

――最近は一人の世帯も増えています。一人でいるときに、窒息してしまった場合、どのようなことができるか教えて下さい。

五十嵐:
はい。なかなか難しいですが、とにかく咳をして出すということが重要です。救急車を呼べればよいのですが、詰まっていると声が出ないこともあります。対処法が限られているので、そうならないように食べるものを調理する際、大きさに気をつけるなど、とくに予防を心掛けてほしいと思います。

掃除機も試す価値あり

――なるほど。掃除機を口の中に入れて吸い出すみたいなことも有効だという話を聞いたことがあるんですけれども、このへんはいかがでしょうか?

五十嵐:
これは正しい方法として知られているわけではないんですけれども、他に方法がない場合には掃除機を使って助かったという報告も少なくはありません。試す価値はあると思います。ただ、電源を入れたまま口の中に入れてしまうと、舌をすってしまうことがあるので、口の中に入れてから電源を入れたほうが効果的だと思います。

――いずれにしても、応急手当っていうのは大事になってきますね。

五十嵐:
そうですね。我々のグループの調査では、のどにつまったときに救急車を呼ぶこと以外、応急手当をしなかったケースが半分近くありました。救急車が到着するまでの時間は平均9.4分と年々増加しています。詰まってから6分以上経過すると、たとえ命が助かっても、障害が残る場合が多いです。周囲の人が速やかに対処するのが重要だと思います。


<番組に寄せられた質問にお答えいただきました>

★愛知県60代女性
食べる前に水分を補給して、のどを潤したほうがいいですか?

五十嵐:
パンとかパサパサして飲み込みにくいものとか、あとは、お雑煮でも最初につゆを飲んで、のどを潤しておくと、少し予防になると思います。

――のどが詰まったところで水を飲むのはだめだけど、食べる前に水分のあるものをのどに通したほうがいいということですね。


窒息したときの応急処置は簡単にはできません。私は地域の防災訓練を体験しましたが、いきなりこんな生死を左右する場面に直面したら、たぶん何もできないと思いました。コロナ禍もあり、最近は訓練ができていなかったので、この次は参加したいです。

五十嵐:
これも消防署などで救命講習などを行っているので、そういったものを利用していると、とっさのときに体が動くことが出来るので、そういったことを利用するというのも、ひとつの手ではないかと思います。

――今日も五十嵐さんに背中の肩甲骨の間をたたくこと、おなかのみぞおちをたたくこと、自分でやってみようと思っても、一、二度、誰かとやったりするとだいぶ違いますよね。

五十嵐:
そうですね。

★東京都60代女性
赤ちゃんが窒息した場合、どのような応急処置が必要ですか?

五十嵐:
1歳未満の乳児では、片手で赤ちゃんを支え、膝の上にのっけるような形で体を支えて、手のひらであごをしっかりと支え、それで肩甲骨と肩甲骨の間を手のつけ根でしっかりとたたくと異物が出てくると思います。

★SNS
高齢になって嚥下(えんげ)力、飲み込む力が低下しても、好きなお餅を食べたい思いは無理に止められません。窒息の危険と隣り合わせだということを本人も家族も知っておきたいですね。

五十嵐:
やはり高齢の方ほど文化や風習を大事にされるので、餅を食べたいという気持ちはあると思います。スプーンなどで食べられる介護食としてのお餅もあるので、利用してみるのもいいかもしれません。


【放送】
2023/12/20 「NHKジャーナル」

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