その香り 困っている人がいるかも~化学物質過敏症~

23/08/16まで
NHKジャーナル
放送日:2023/08/09
#医療・健康#カラダのハナシ
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23/08/16まで
ジャーナル医療健康です。何気なく使っている衣類の柔軟剤、汗のにおいや部屋のにおいを消す消臭剤など、最近は香りがついている製品が増えています。一方で、身近にあるほんのわずかなにおいでも、頭痛やめまい、吐き気などの体調不良を起こすケースが問題になっています。こうした状況を受けて、消費者庁や厚生労働省などの5つの省庁は「その香り 困っている人もいます」と題した啓発ポスターを作成しました。消費者庁によると、柔軟剤のほか、消臭スプレーなど香りがするものを対象にしていて、香りで困っている人への呼びかけを行っているということです。対処法などについて、専門家に聞きます。(聞き手・山崎淑行ニュースデスク、結野亜希キャスター、打越裕樹キャスター)
【出演者】
坂部:坂部 貢(さかべ・こう)さん(千葉大学予防医学センター特任教授、環境医学がご専門)
香りで困る原因は? 化学物質過敏症とは
――においのついた製品類、すごく増えていると思うんですけども、こうした香りによる体調の不調や不良、いったい原因は何だと言われているんでしょうか?
坂部:
その原因のひとつ、理由の一つに、化学物質過敏症が考えられます。
――化学物質の過敏症ですね。
坂部:
最近ではですね、日常生活、生活環境中の化学物質に触れたときに、さまざまな症状があらわれるということがあるんですけど、症状として頭痛、目の刺激、不安や恐怖感といった神経症状がでたり、あるいは皮膚がピリピリするような違和感、こういうのを皮膚粘膜症状って言いますけれども、また自律神経の調節の異常など非常に多彩な症状が出てまいります。
――化学物質過敏症というとシックハウスもあったと思うんですが、実は私も香水ですとか柔軟剤、消臭スプレーなどのにおいで呼吸が苦しくなったりですとか、頭が痛くなったりするんですよね。逃げようがないエレベータ―に乗ったときは息を止めるのが習慣になっているんですけれども、においで困っている人、いろいろなケースがあるそうですね?
坂部:
そうですね。例えば、会社で近くの席の人がですね、非常に強い柔軟剤のにおいをさせていて、具合が悪くなって、その場所にいられなくなったというケースもありますし、また、電車に乗ったら、衣替えの時期なんかに多いんですけど、洋服の防虫剤のにおいとか、あるいは洗剤のにおいがして、そこで気分が悪くなってしまって、場合によっては次の駅で降りてしまったというケースもありますね。その後1日、調子が悪い状態が続いたということもよく聞かれます。
そういった症状がひとつのきっかけ、トリガーになってですね、化学物質過敏症を発症してしまう人もいるということになります。とても重症化してしまうと、家から出られなくなったり、学校に通われている方ですと、学校に行けなくなってしまうこともあります。
――化学物質といいますと、コロナ対策として、ラジオセンターでも除菌グッズを引き続き使っているんですが、においがしない除菌スプレーなどでも影響はあるんでしょうか?
坂部:
そうですね、においがしなくても、化学成分そのものに対して体が影響を受けるということがあって、つまりにおいがしないから安心というものでもないと理解したほうがいいと思います。
――十分な配慮が必要だなと思うんですが、なりやすい人など傾向はいかがですか?
坂部:
基本的には誰でもなる可能性があります。花粉症と同じで、誰でもなるということです。ただ、なる・ならないの個人差は非常にあるわけですけれども。花粉症でもご家族でお父さんは花粉症だけれども、お母さんは花粉症でない。同じ環境でもですね、発症する人としない人がいるので、個人差があると考えたほうがよろしいと思います。特にもともと何かのアレルギーを持っている方、例えば子どものアトピーですとかぜんそくだったとか、そうした人は非常にリスクが高いというふうに言えるかと思います。
どうすればいいの?
――症状がつらいという場合、何科を受診すればいいでしょうか?
坂部:
現実的には、化学物質過敏症に対応してくださる医師というのは非常に少ないと思いますけど、アレルギーのように採血をして抗体を調べたり、そういったものでもないのでですね、まずは自分の症状の、一番つらい症状を扱っている科に行って、その科の病気がないかどうかを診たほうがいいと思います。つまり、化学物質過敏症と思い込んで、重大な病気を見逃すことがたまにあるんですね、実は、認知症の始まりだったりとか、実際に極端にミネラル、例えば亜鉛とかビタミンB12なんかが欠乏していたりとか、また以前のケースでは、脳腫瘍の発見が遅れたという患者さんの経験もあります。まずは、その症状に合わせた科を受診することが重要かと思います。
――どうなんでしょう、治療は出来るんでしょうか?
坂部:
決定的なこれを飲めば治るという特効薬で治すような病気ではないんですけど、症状がある人の対策としては、まず発生源対策ですね。つまり原因物質から離れる、遠ざかるということが一番です。
次にですね、代謝とか、解毒新陳代謝を活発にすることが大事なんですけども、多くの方が自律神経の調節が悪いので、自律神経を整えるようなですね、例えば運動して汗をかくとかですね、そういったこともとても必要になってきます。
また、栄養的に必須のミネラルやビタミンが足りていないこともあるので、それを補って、体の調節力、治癒力を高めるということが重要かなというふうに考えています。
最近の研究では?
――実は私も小児ぜんそくでアトピーだったりしたので、ちょっと気をつけないといけないなと思ったんですけど。しかも、コロナ禍の生活の中でだいぶ自律神経の失調がある方も増えたと聞いていますし。そもそもどうしてこの過敏症になってしまうのか、その辺のメカニズムは分かっているんですか?
坂部:
まず一つは、化学物質過敏症状を起こすいろんな病気の集団のカテゴリーというふうに考えたほうがいいと思うんですけど、メカニズムを含めてまだ全体像の医学的解明はいま、進行中です。
ただ、においに関しては脳科学的な研究がかなり進んでいまして、心地が良いにおい、嫌なにおいというのは誰でもあると思うんですけど、例えば嫌なにおいだと感じた場合は、脳の特定の場所ですね、前頭前野と呼ばれる非常に人間らしさを作っているところなんですけど、あるいは記憶の中枢である海馬(かいば)ですね、そういったところが、心地が良いにおいとは違って非常に過剰に反応することがわかってきています。つまり、怒りであるとか、不快感であるとかですね、そういったことを感じるところと同じような場所に強い影響が出ることが、最近だんだんわかってきています。
――なるほど。最近本当に、香りの製品が増えている。もちろんこれは好きな人も多いですが、それで困っている人もいるということを、少し気を配ってあげたいなと思いました。
リスナーのメッセージ・質問から
――放送中にたくさんのメッセージや質問をありがとうございました。一部エンドコーナーで紹介させていただきました。
<SNSメッセージ>
最近は、いろいろ品質を良く見せる香りが増えました。私の好きなコーヒー飲料も例外ではありません。できれば原材料がコーヒーだけのモノを飲みたいので、私は原材料表記を見て「無香料」のモノを選んでいます。
<SNSメッセージ>
この問題、だいぶ認知度上がってきてると思うけど、メーカーの対応はどうなってるんかな。
坂部:
無香料だから安心ということももちろんないので、十分気をつけないといけないんですけども、メーカーの方もよく見ると、例えば香りつきの製品であれば「香りの感じ方には人によっていろいろあるので、十分周りに配慮した使い方をしてください」というような表示はしてますので、テレビのコマーシャルでも出てきますけど、使う側が周りに配慮するという意味で、その部分は評価できるのかなというふうに思いますけども。
――その辺の製品の表示に目を通すことも大事ですね。こうした質問もあります。
<投稿フォーム 岩手県40代>
こんばんは。化学物質過敏症患者です。専門医が少なくて困っています。長距離移動はばく露するのでできません。地元の病院に問い合わせても「診れません!」と断られます。理解のない医療機関が多くて困っています。1日も早く解明してほしいです。
――なかなか切実な訴えですが、医療機関が限られるんですか?
坂部:
そうですね、化学物質過敏症を専門的に診てくださる先生というのは、先ほどもコメントしましたけども、非常に少なくてですね。少ないということは、対応できる医療機関がほとんど無いことになってしまうと思うんですけど、ひとつは、ご自身でいろいろ調べるということが大事なんですけど、患者さんの質問に答えているNPOとかそういったものもありますので、そういったところから情報をいただいて医療機関にアプローチすることが大事かなというふうに思います。
――神奈川県 50代女性の方です。
日常的に香りの強い柔軟剤を使った服を着たり、キツい香水をたっぷりつけたりしている本人が、ある日、突然、化学物質過敏症になってしまうことはありますか?
坂部:
はい、そういったケースもあります。この反復ばく露というのはですね、反復して受けるとある時から突然そういったもの対して強い反応が起きるというのがありますので、こういったケースは珍しくないと思います。
【放送】
2023/08/09 「NHKジャーナル」
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23/08/16まで