赤ちゃんにも影響? 過度な日焼け対策の“落とし穴”

NHKジャーナル

放送日:2023/07/05

#医療・健康#カラダのハナシ

紫外線が強くなると対策が重要ですが、日光を遮断しすぎると、骨に悪影響を及ぼすことがあるようです。日焼け対策がもたらす思わぬ影響について、専門家にうかがいます。(聞き手・緒方英俊ニュースデスク、打越裕樹キャスター、結野亜希キャスター)

【出演者】
坂本:坂本優子さん(順天堂大学医学部附属練馬病院 小児・AYA(アヤ)世代ボーンヘルスケアセンター長)

乳幼児のO脚の背景にビタミンD不足

――整形外科の外来で、最近どんな相談が増えていますか。

坂本:
私は小児整形外科と骨粗しょう症を専門にしているので、外来には幅広い年代層の方がいらっしゃいますが、最近は乳幼児の脚の形、特にO脚を心配して受診する人が増えている印象です。赤ちゃんは、生まれたときはみんなO脚ですね。お母さんのおなかの中では、足を組んで膝下の骨が湾曲して小さくなっていると、入りやすいんです。1歳半くらいになって立って歩くころには、まっすぐになっているのが普通なんですけれど、中には目立つO脚の赤ちゃんがいらっしゃいます。

――成長するにしたがって、どうなるのですか。

坂本:
しっかりまっすぐになるといいのですが、O脚が残ってしまうと治らなくなるので、注意すべきですね。そのころO脚だったとしても、それは「生理的なことですよ」「正常なことですよ」「遅れて治りますよ」と、今までは言われていたんです。確かにそういう方が大多数ですけれども、O脚の背景にビタミンD不足があることが、われわれの研究でわかりました。O脚のない子は、12%がビタミンD不足だったのに対して、O脚の子を調べてみると、30%くらいがビタミンD不足だったんです。

――ビタミンDが不足すると、なぜ骨に影響が及んでくるのですか。

坂本:
皆さん、骨に必要なのはカルシウムと考えていらっしゃると思うんですけれど、カルシウムの吸収を助ける役割が、ビタミンDにはあります。ですからビタミンDが不足すると、カルシウムの吸収が悪くなって不足するんです。われわれはよく、骨を鉄筋コンクリートに例えるんですけれど、コンクリート、つまりカルシウムペーストが薄くてシャバシャバなものだと強度が弱くなる。そういう状態になってしまうので、骨が曲がってしまうんですね。ビタミンDやカルシウム不足の程度の高い状態が長く続くと、「くる病」という病態になったりすることも知られています。

紫外線対策をしすぎて不足することも

――そのビタミンDは、日光と関係があるんですよね。

坂本:
そうです。動物は、日光を浴びることで体内でビタミンDを作ることができて、人もそうなんですね。でも、食べなくてもビタミンDが作れるのに、今は紫外線を浴びない人が増えているので、ビタミンDが不足した人が多くなっているといわれています。コロナで外出を自粛したり、外遊びが減ったことも関係があると思っています。実際に私の研究でも、妊婦さんの中では90%がビタミンD不足というデータがあります。私たちの親世代くらいの、凍結してとってあった母乳に比べて、今の人たちの母乳はビタミンDがかなり不足していたという研究報告もあります。

――妊婦さんやお母さんのビタミンDが足りないことで、赤ちゃんに影響が出ているということでしょうか。

坂本:
そうですね。妊婦さんやママが日焼け止めを塗ったり、帽子や日傘でしっかり紫外線対策をする。もちろん、この時期はシミが怖いのもあると思うんですけれども、そうするとビタミンDが不足します。お母さんがビタミンD不足になって骨が……というだけでなく、胎盤を通して赤ちゃんにもビタミンDが届きますので、その影響で、赤ちゃんもビタミンDが不足して骨に栄養が行かなくて、生まれてからも治らないO脚になってしまうのかなと思っています。

成長期の骨づくりには日光が大事

――O脚だと、どんな影響があるのでしょうか。

坂本:
お母さん方は見た目を心配なさいますけれど、つま先が内側を向く「うちわ歩行」という状態になったり、つまずきやすいという話もよく聞きます。また、O脚が続くと足の内側に体重がかかり続けるので、内側が成長しにくくなって外側だけが伸びて、O脚が治りにくい状態になることもあります。

――受診の目安があれば教えてください。

坂本:
私のところに来るのは、1歳半くらいの方が多いです。そのころ、正常な脚との違いがはっきりしてくるからだと思いますね。受診の目安は、1歳~1歳半ぐらいの幼児の場合、あおむけに寝かせた状態で両足のくるぶしをぴったりつけて、膝をしっかり伸ばしてみてください。膝と膝の間に、指が横に何本入るかを見てください。隙間に3本入ってしまったら異常なO脚だと思いますので、受診していただければと思います。

――指3本が目安ですね。治すことはできるのですか。

坂本:
ビタミンD不足が長く続かなければ、自然に治ってくるものです。“不足する生活”というのを見直して改善すれば治りますので、その点はあまり心配なさらなくていいと思います。

――赤ちゃんや妊婦さんだけでなく、他の年代ではどうですか。

坂本:
私自身は、乳幼児から20代、30代の骨を強くすることをライフワークにしているのですが、今、懸念しているのは、13~18歳くらいの成長期の子どもたちの骨なんですね。ビタミンD不足は、赤ちゃんの場合はO脚といったことで外から見てわかるんですけれども、それ以降は、症状も全くないためにわからなくなります。でもその時期は骨の密度がどんどん増えて、一生分をこの時期に蓄えるんですね。骨は高齢になると減る一方になりますので、成長期にしっかり日光を浴びたり運動をしたりして、骨を強くすることが大事だと思っています。

1日にどれくらい浴びればいい?

――この時期は熱中症が気になりますが、具体的にどのくらいの紫外線を浴びればいいのでしょうか。

坂本:
適度な紫外線を浴びることで、手軽にビタミンDを補うことができます。参考にしていただきたいのが、地球環境研究センターのサイトです。「地球環境研究センター」「日光照射」のキーワードで検索していただくと、タイトルに「ビタミンD生成」とあるサイトが出てくると思います。このセンターは全国に紫外線のリアルタイム観測所があって、そこのデータを利用して、その時期、その日、どれくらいの時間日光を浴びれば、適切な量のビタミンDを体内で生成できるか、1日の必要量を作れるかを知ることができますので、そちらをご覧になっていただければと思います。

――目安はありますか。

坂本:
最近のような日差しの強い日中であれば、半袖半ズボンなら10分以下でいいと思います。手や顔だけなら、もう少し浴びていただければと思います。

食品やサプリメントで補うのもOK

――リスナーの方からの質問です。

Q1:
<愛知県 50代女性>
ビタミンDを作りやすくするために、日焼け止めを薄く塗るのも効果がありますか。

坂本:
今のUVカットクリームはかなりいいものなので、薄く塗ってもほとんどカットしてしまうんです。ですからまず効率よく日光を浴びていただいて、そのあとに塗るのがいいと思います。効率のよい浴び方というのは、例えばベランダで、体は日陰に、手や足だけをひなたに出すとか、日傘をさしている場合には、信号待ちしている間だけでも腕や足をひなたに出すとか。子どもの場合は、熱中症対策で帽子をかぶっていると思うんですけれど、半袖半ズボンで遊べば、日光を浴びられると思います。今の日中でしたら、10分ほど浴びたあとに、しっかり日焼け止めを塗っていただいてもいいのかなと思います。

――熱中症に気をつけながら、無理なく日を浴びるということですね。

Q2:
<大阪府 50代女性>
私は全身性エリテマトーデスで、日光過敏症があります。1年中、日焼け止めを塗って生活しています。日焼け止めを塗らずに、10分くらいなら外出してもかまわないでしょうか。

坂本:
日光を浴びられない人・浴びたくない人は、食品で補えますので、無理せずにそちらもお考えください。例えば、サケ・サンマ・イワシなど脂身の多い魚や、マイタケやシイタケなどきのこ類にも含まれています。ただ、日光を浴びないというふうにした場合にはかなり不足することが考えられますので、サプリメントを利用していただくのも1つかとは思います。

――無理やり日焼けしないほうがいいということですね。

坂本:
そうですね。過敏症がある方は、紫外線でかなり肌が荒れてお困りになっていると思うんです。食品やサプリメントを使うという方法もありますので、しっかり選択していただければいいということを、知っていただきたいなと思います。


【放送】
2023/07/05 「NHKジャーナル」

この記事をシェアする

※別ウィンドウで開きます