ジャーナル医療健康、今回は感染が急速に広がっている「梅毒」についてです。去年の感染者数はおよそ1万3千人。今年に入ってからは、これまで最多だった去年を上回るペースになっています。梅毒の症状や治療法も含めて専門家に聞きます。(聞き手・緒方英俊デスク、打越裕樹キャスター、結野亜希キャスター)
【出演者】
川名:川名 敬(かわな・けい)さん(日本大学医学部主任教授・産婦人科医)
ジャーナル医療健康、今回は感染が急速に広がっている「梅毒」についてです。去年の感染者数はおよそ1万3千人。今年に入ってからは、これまで最多だった去年を上回るペースになっています。梅毒の症状や治療法も含めて専門家に聞きます。(聞き手・緒方英俊デスク、打越裕樹キャスター、結野亜希キャスター)
【出演者】
川名:川名 敬(かわな・けい)さん(日本大学医学部主任教授・産婦人科医)
――梅毒とは、そもそもどんな病気なんでしょうか?
川名:
梅毒は、性行為によって感染する性感染症で、「梅毒トレポネーマ」という細菌に感染して起こるものです。古くは江戸時代から花街などで流行していて、半世紀に一度くらい流行がくるということですが、その後、薬が開発されましたので、しばらくは流行していませんでした。2012年ごろまでは、年間800人ほどしかいなかった感染症なんですけども、この10年、2013年以降ですね、急に増え始めています。普通の生活の中で性行為や性的接触、キスでも感染する可能性がある感染症です。
――川名さんは実際に診察にあたっていらっしゃいますが、梅毒患者の増加を実感しますか?
川名:
そうですね。私は産婦人科ですが、この数年本当に増えてきていて、週に1人くらいは必ず病院に来られる感じです。特に女性の場合は20代、30代が7割以上を占めています。男性は少し違っていて、20代から50代後半までまんべんなくいると報告されています。
――どうして今、梅毒患者が増えているのでしょうか?
川名:
これは詳しく調べられたデータはないのですが、ひとつは世界的な流行が今あって、それと同時に、性風俗産業などでの感染拡大、インターネットやSNSなどで誰とでも出会える社会になっているので、医療が追いついていない状況かと思います。
これは世界的にも同じで、2008年くらいからヨーロッパを中心に梅毒が広がりはじめて、中国などでも流行っている状態です。2019年くらいにいったん梅毒はピークアウトして医療関係者は安心したのですが、そこにコロナが始まって、2020年以降にはまた増え始めていて、これは世界的にも、おそらく人流制限などで孤独な生活をしている中で、人との接触を求めた結果、より広がったということも考察されています。
――気になる症状ですが、どういうものでしょうか?
川名:
はい。これは大変大事なところでして、梅毒の特徴として、いったん症状が出てもすぐに消えてしまうことがあります。症状が出たり消えたりしながらだんだん進行していって、数年から数十年かけて最終的には神経や内臓にまで入っていってしまう病気です。
最初は感染してから数週間で、感染した場所、つまり性器に潰瘍ができたり、キスした唇などに口内炎のような感じのもの、しこりができたりするところから始まり、これは治療しなくてもいったん消えるんですけれども、そのあと1か月、2か月たつと、今度は全身に赤い発疹が現れてきます。これが、果物のヤマモモ(楊梅)の実と似ているから「梅毒」という名前になっています。あとは肛門などに、おできが出来たりします。
この段階で大体の方が気づき、治療を受けていくわけなんですが、そこでも放置してしまうと、いよいよ体中におでき、弾力のあるおできができたり、脳や心臓まで達することがあって、いわゆる精神症状とか、場合によっては命にかかわるような心疾患まで行ってしまうということで、非常に怖い病気です。
――なかなか厄介なんですけど、女性の場合は、特に注意だそうですね。
川名:
はい、そうですね。私たち産婦人科は特に切実なんですけども、今回の流行の特徴は、女性の患者が増えたというところで、20代くらいになっているんですが、そうすると当然その中には妊婦さんもいるわけです。妊娠中の女性が梅毒にかかってしまうと、血液の中に梅毒が流れてしまいますので、胎盤を通じて赤ちゃんにうつす母子感染が起き、これを「先天梅毒」という風に言います。胎児に梅毒が感染するわけです。
治療をしないと大体4割くらいは、胎児への感染が成立してしまうと言われていて、そうすると、死産や流産をしてしまうとか、生まれたとしても、精神発達遅延ですとか、骨の異常、難聴など、先天異常が赤ちゃんに残ってしまうんですね。
日本では妊娠の初期に梅毒の検査を、妊婦さんはみなさんしますから、そこで梅毒と診断された方はすぐに抗生物質の治療をするというシステムがあるんですけども、私たち産婦人科の学会で調べたところ、それでも14%は母子感染してしまっていたという事実が分かってきました。ですので、初期の検査で見つかったから治るという風には、母子感染の場合にはいかないということなんですね。
梅毒に感染してから1年以上経ってしまった場合に、いわゆる性行為での感染は減ってくるのですが、母子の感染は相変わらずあるということでして、妊娠の初期に見つかっても時すでに遅しということもあります。ですから、大事なのは、妊娠する前に怪しい症状があったら、パートナーも含めて梅毒の検査をすることです。
――梅毒の治療法や予防法を教えてください。
川名:
治療法につきましては、非常にいい薬、抗生物質のペニシリンがあります。本当によく風邪などに使われる薬ですが、このペニシリンが非常によく効くということで、4週間くらい内服すれば、ほぼ間違いなく完治、治ると言われています。最近では、4週間薬を飲むことができない方もいますので、1回の注射をお尻に筋肉注射するのですが、これだけで治るという薬も登場していますので、治療すれば治る病気なんですね。
一方、感染しないためには、コンドームを使ってしっかりと防御するということが一番有効ではあるのですが、コンドームをつければ全て防げるという訳ではありません。たまに、避妊のためピルを飲むことで何とかなると思われる方もいらっしゃいますが、ピルは性感染症の予防はできません。
あと、相手の方にしこりや体に赤いぶつぶつがあるような場合には、そういう行為は避けていただいて、検査するということも大事です。早期発見という意味では、血液検査をすることによってすぐに正確な診断がつきますので、ぜひお願いしたいということです。
特に梅毒とHIVの検査に関しましては、保健所で無料で匿名で受けることができるので、怖がらずに検査を受けにいかれるといいと思います。もしくは泌尿器科、産婦人科、内科、皮膚科などの医療機関でも検査できますので、気軽に来ていただければと思っています。
<千葉県 40代 男性>
「梅毒は病院に行かないで、自然に治る場合もあるのでしょうか?」
川名:
これは、絶対にないです。梅毒は、症状がいったん消えても、ずっと体に潜んで広がっていき、最後は神経や心臓までいきますので、絶対治療が必要です。
――いったん治ったように見えるというのは、怖いですね。
川名:
そうですね、そこが落とし穴です。
<Twitter>
「抗生物質と菌の耐性の問題は常に考えなければいけないと思いますが、ここまで梅毒が流行すると、後々ペニシリンが効かない菌による梅毒が発生する恐れはありますか?」
川名:
これは、ちゃんと研究所で調べられていて、日本で流行っている梅毒は幸い耐性が全くない、ペニシリンが効く梅毒の株だけですので、今のところは、そうした心配はしなくてもいいと考えています。
<神奈川県 40代 男性>
「20代のころ、お付き合いをはじめた女性と連れ立って、保健所に性感染症の血液検査に行きました。匿名だし恥ずかしいこともなく、ちょっと互いを思い合う儀式みたいで、うれしかったですよ。」
川名:
ほんと、そうですね。ブライダルチェックなどの呼び方もありますけど、特に妊娠など意識されている方は、気軽に検査できますので、そこのハードルを下げていただければと思います。
――感染がわかったら自分だけではなくて、パートナーと一緒に治療を進めた方がいいということですね。
川名:
はい。治療すればちゃんと治る病気ですから。
――川名さん、ありがとうございました。
【放送】
2023/06/21 「NHKジャーナル」
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