ジャーナル医療健康、新型コロナの5類移行から1か月。感染者の状況や、見えてきた課題などを専門家に伺います。(聞き手:緒方英俊ニュースデスク、打越裕樹キャスター、結野亜希キャスター)
【出演者】
賀来:賀来満夫(かく・みつお)さん(東北医科薬科大学 特任教授/東京感染症対策センター 所長)
ジャーナル医療健康、新型コロナの5類移行から1か月。感染者の状況や、見えてきた課題などを専門家に伺います。(聞き手:緒方英俊ニュースデスク、打越裕樹キャスター、結野亜希キャスター)
【出演者】
賀来:賀来満夫(かく・みつお)さん(東北医科薬科大学 特任教授/東京感染症対策センター 所長)
――賀来さんには、5類移行の前から継続して出演していただき、その時々の状況についてお話を聞いてきました。5類に移行して1か月、感染者数は「定点把握」になりました。モニタリングの方法自体が変わったわけですが、コロナの感染者の傾向はどのように捉えられているんでしょうか?
賀来:
そうですね。少なくとも、5類に移行してから1か月たって、“コロナの感染者の傾向”、すなわち各都道府県での感染の動向は捉えられていると思います。これは、決まった定点医療機関でのデータですので、経時的な報告数の変化、つまり、前の週よりは増えたとか減ったとか、そのような比較はできていると思います。
――新型コロナの全国の定点把握の感染状況を見ますと、先月(5月)28日までの1週間では、1つの医療機関あたりの平均の患者数が3.63人でした。前の週の1.02倍となっています。やや増えたということですが、実は8週連続で患者は増えています。今の状況をどのように見ていますか?
賀来:
5類に移行してから現時点では、全国的にもじわりじわりと感染が拡大してきていると思います。東京都のデータなどで見てみますと、感染者数は多くなってきており、入院患者数も増加傾向が認められています。
熱などが出て感染したと思って病院に行っても、有料なので検査を受けない。あるいは、感染したと思っても、検査を受けないで自宅で休んでいる方も多くおられると思います。そのように実際に検査を行うことが少なくなってきているなかで、今後、医療のひっ迫などを早期にとらえていくための指標について、入院患者数や重症化している人の数に加え、発熱相談件数や救急搬送の状況、クラスターの発生状況なども含めて、総合的に判断していくことが必要となってきます。
――再び感染が拡大してきている理由はなんだと考えられますか?
賀来:
いろいろな原因が考えられます。
例えば、5類に移行して、さまざまな規制が緩和されています。そのことで、感染予防対策が以前に比べて十分に行われなくなってきたことが挙げられます。
それから、入国制限が緩和されました。多くの外国人旅行者、そして日本人旅行者の往来が多くなってきています。それに伴って、海外の変異ウイルスなどが入ってくる可能性が高まっていることも原因となっていると思います。
加えて、前回のワクチン接種から約半年がたちましたね。皆さんの持つ免疫の力が次第に弱くなってきていることも、要因として挙げられると思います。
――海外の変異ウイルスが入ってくる可能性も高まっているということですが、変異ウイルスについては新しいものが出ているのでしょうか?
賀来:
「XBB」というグループなんですけど、変異株の中でも、アメリカを中心に感染が拡大したオミクロン株の「XBB」、そういった系統の占める割合が多くなり、東京ではすでに90%となっています。この変異株が重症化するかどうかはまだ不明ですが、感染力(伝播力)は強くなっていると考えられています。
――ちょっと心配な情報もあって、国内では新型コロナだけでなく、ほかの感染症も増えているんじゃないかと言われますね。
賀来:
そうですね。やはり、以前に比べて、感染対策が緩んできていることや海外との往来の増加などが関わっていると考えています。
インフルエンザは、冬ではないこの時期に、学校で集団感染が起きてきています。この3年間、ほとんど大きな流行がなくて、インフルエンザに対する免疫の力が低下していることが原因として挙げられます。それから、やはりマスクの着用や手洗いなどの基本的な感染対策への意識が緩んでいることも大きいと思います。
それから麻疹=はしかですね。麻疹は空気感染するため、マスクではまず防ぐことができません、また特効薬もありません。防ぐためには十分に免疫をつけることが必要なんですね。そのためには2回のワクチン接種が有効ですが、年齢によっては1回しかワクチン接種をしていなかったり、免疫が不十分な人もおられます。このところ国内で大きな流行はありませんでしたが、感染力が極めて強いため、海外との交流が盛んになることで、麻疹が今後急増するおそれもあります。十分注意していかなければと思います。
――まさに、どんな感染症が拡大するかわからない状況になっているんですね。コロナだけでなく、感染症に対応できる体制を今から整備を進めてほしいと思うんですけれども。
賀来:
日本に今度、アメリカのCDC(疾病対策センター)をモデルにした機関ができることになったんですね。感染症対策の司令塔の機能を持つ機関が新しく出来るという事で、非常に期待しています。
2025年の創設が予定されていますので、これから具体的なことが決められていきます。いろいろと見ていく必要がありますが、従来の縦割りではない、統合した機能を持った組織ができることを望んでいます。
いま、5類移行から1か月がたちました。これは単なる通過点にしかすぎません。これからも自治体からの感染状況や医療提供体制などについての正しい情報、的確な情報提供が必要となります。皆さんにも、新型コロナだけでなく、この機会にぜひとも、感染症を防ぐための正しい情報を知っていただきたいと思います。社会全体で連携・協力して感染をできるだけ防いでいくことがとても大切だと思いますし、警戒を緩めることなく、みんなで努力していくことが大切であると思います。
新型コロナウイルスのワクチン接種の案内が市から来なくなりました。5類に移行された現在は、どのように接種の申し込みが出来ますか?(千葉県 40代 女性)
賀来:
今回は65歳以上の方、持病を持つ方などを対象としたためであると思います。9月以降、全ての方が無料でワクチン接種を受けられるようになりますので、ぜひ受けていただきたいと思います。
これから大勢の人の集まるイベントに行きたいと思います。そういう時はどのような対策が良いのでしょうか? 常にマスクをするのがいいのか。暑い屋外ではマスクを外して、帰宅後の手洗い・うがいをすれば、予防できないですか?(静岡県 40代 男性)
賀来:
マスクの着用は自己判断となりました。ただ、体調がすぐれないときは、マスクを着用していただいたほうが良いかと思います。暑い屋外ではマスクを外していただいて結構です。ただ、閉め切った換気の悪い場所では、ぜひマスクをつけていただければと思います。また、帰宅後の手洗いもとても有効ですので、続けていただければと思います。
5類に移行して1か月がたちますが、最近子どもたちの免疫力が低下していて風邪が流行っていると聞きました。子どもたちが風邪にかからないようにするには、親としてどのような対応をしていったらいいのでしょうか?(広島県 40代 男性)
賀来:
ご心配ですよね、子どもさんたちの感染を防ぐことはなかなか難しいんですね。ですから、風邪をひいたときに十分に休んでいただく、無理をさせないということが一番大切です。もし、ひどくなったときは、すぐに医療機関を受診していただきたいと思います。
インフルエンザの流行は1年中続くのでしょうか? 年に1度のワクチン接種では対応できなくなるのでしょうか?(愛知県 50代 女性)
賀来:
実は、インフルエンザは赤道付近では1年中流行しているんですね。今後、インフルエンザは冬だけに流行するのではなく、他の時期にも流行する可能性も指摘されていますので、十分な注意が必要だと思います。
行動制限や入国制限が緩和され、人の往来が活発になっているのを日々肌で感じています。感染拡大や新たな変異ウイルスによって医療がひっ迫しないように、基本の感染対策の徹底をいま一度意識づけてほしいと思います。(東京都 60代 女性)
賀来:
そうですね。意識づける、感染対策をもう一度徹底しようというふうに思っていただきたいと思います。
【放送】
2023/06/07 「NHKジャーナル」
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