背骨からくる、足腰の痛みやしびれ

NHKジャーナル

放送日:2023/05/31

#医療・健康#カラダのハナシ#エクササイズ

足の裏やふくらはぎ、太ももなどが痛んだりしびれたりするのは、背骨が原因かもしれません。その理由や予防法などを専門家に聞きます。

【出演者】
金岡:金岡恒治(かねおか・こうじ)さん (整形外科専門医、早稲田大学教授)

背骨の変形や神経圧迫が原因に

――足の痛みやしびれ、悩んでいる方が多いと思います。背骨が関係しているということですが、そもそも背骨はどういう状況になっているのですか。

金岡:
背骨は24個の骨が積み木のように重なった構造をしていて、骨と骨の間に軟骨、関節があるんですね。座っている姿勢でも、背骨は“立って”います。そういうふうに立っている状況で背骨にはいろんな負担が加わって、それが積もり積もって椎間板という軟骨が傷んでいって、背中にある椎間関節が変形していって、その過程で痛みが出てきます。変形した関節や出っ張った椎間板が神経を圧迫すると、足の痛みやしびれがでてきてしまいます。

――神経の圧迫ということですよね。具体的にはどんな病気が考えられるのでしょうか。

金岡:
足が痛くなったりしびれたりするのは、(原因が)背骨だけじゃなくて、脳梗塞とか閉塞性動脈硬化という血管の病気もあるんですけど、一番多いのは脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)、あるいは椎間板ヘルニア、そういう背骨の病気からくる足や腰の痛みが多いと思いますね。

――椎間板ヘルニアと脊柱管狭窄症、どういう関係になるんですか。

金岡:
椎間板ヘルニアは、椎間板が出っ張って神経を圧迫した状態。脊柱管狭窄症は、関節が変形して、それが神経を圧迫するものですが、脊柱管狭窄の原因の中に、椎間板の出っ張り、ヘルニアといってもいいんですけど、それも関係はしてきます。

チェックのしかたと治療法

――足のしびれの症状というのは、具体的にはどんな支障をきたすことになるんでしょうか。

金岡:
じっとしていると何も症状がないんですけど、多くの人は、歩いているうちにお尻から太もものうしろ、あるいは、すねの外側あたりに痛みやしびれが出てきます。ひどい人は、痛みのために歩き続けることができなくなって立ち止まってしまう。立ち止まって背中を丸めて休んでいると、痛みが治まって歩けるようになる。そういう症状が典型的で、それを間欠性破行(かんけつせいはこう)といいます。それが出ているようですと、脊柱管狭窄症の疑いが強いです。

――自分が脊柱管狭窄症なのかどうか、チェックする方法はありますか。

金岡:
間欠性破行は、歩いているときに足が痛くなってしびれてくる座骨神経痛の症状ですけど、そのようなものがあるときには、脊柱管狭窄症が一番疑われますね。

――そのままにしておくとどうなるんですか。

金岡:
神経の圧迫がひどくて神経の障害がすすんでしまうと、痛みだけではなくてまひ症状、つまり、自分で足を動かしたいけれど動かない、あるいは感覚が鈍くなってずっとしびれているような、神経が傷んでしまって起きるような症状が出てきます。さらにひどくなっていくと、脳からぼうこうや直腸につながっている神経も邪魔されて、尿を出したいけど出せないとか、排便がうまくいかなくなるとか、そのような症状が出る人もいます。

――その場合は病院にかかったほうがいいですよね。

金岡:
排尿・排便がうまくいかない状況になっている人は、すぐにでも病院に行っていただきたいと思います。

――どんな治療があるのでしょうか。

金岡:
狭くなったところを広げるためには、手術が必要になります。ぼうこうや直腸の障害がある人は手術になる確率が高いんですけど、そこまでひどい症状でなければ、手術をするかしないか、それはその人がその症状でどれだけ困っているかによりますね。例えば日常生活を過ごすのに、「100メートルしか歩けなければ生活できない」という人もいれば、「私は100メートルも歩かないから別に困らない」、つまり、じっとしていたら痛くならないんですね。ですから、困るか困らないかはその人それぞれなので、その人に合った治療を選ぶということです。薬や痛み止めの注射などで症状を紛らわすことも、治療としてはよく行われます。

エクササイズは、“猫のポーズ~正座”型

――どんな人がなりやすいのでしょうか。

金岡:
人間が二足歩行をずっと続けていると、だんだん骨が劣化して、誰でもがある程度年をとれば背骨の変形とか神経の圧迫は起きてくるんですね。けれども、無意識のうちに長年続けていたような、あまりよくない姿勢とか、よくない体の使い方、そういうような体の癖が負担をかけている可能性もあります。ある意味、脊柱管狭窄症は、「全身の生活習慣病」とも言えるかと思いますね。そうならないように、症状を楽にさせるような運動療法があります。

――そのエクササイズ、教えていただけますか。

金岡:
いろいろあるんですけれども、もし脊柱管狭窄症と診断されていて、それによって足の痛みやしびれが出てきた場合には、今からお話しするようなことをやってほしいですね。

脊柱管狭窄症のためのエクササイズ

  • 1)四つんばいになって、そのまま骨盤を後ろに傾けます。
  • 2)息を吸いながら、猫のように背中を丸めます。

金岡:
背中を丸めたときに、骨盤は後ろに傾いているんですけど、イメージ的には、お尻の穴が下に向くような状態ですね。

――猫のポーズで、お尻の穴が下に向くイメージをしながら、背中を丸めるということですね。

金岡:
はい。

  • 3)そのままゆっくりお尻をかかとに近づけて、正座をするような姿勢になります。

――そこから正座の状態になるわけですね。

金岡:
そのときに腰の反りが起きないように、背中をできるだけ丸めます。そうすると、脊柱管が少し広がっています。これを、2~3回を1セットとして、1日3セットくらいを目安に行っていただければと思います。

――これはずばり、「キャットポーズ」というんでしょうか。

金岡:
そうですね、キャットのポーズから正座にもっていく、というイメージですね。

インナーマッスルを意識して姿勢に注意

――番組の最後に、リスナーの皆さんからの質問にお答えいただきました。

Q1:
慢性の腰痛に悩んでいます。足のしびれもあります。整形外科で診てもらっても異常なし。レントゲン、CT、MRIなどの検査も受けました。ヘルニアでもないそうです。なんなんでしょうか?

金岡:
画像所見で何も異常がなくても、そういう症状が出ることは結構あって、原因としては、仙腸関節という骨盤に関節があるんですけど、そこからくる痛みとか、あるいは筋肉、筋膜からくる腰痛、そのようなことが結構あります。そちらのほうも疑ったほうがいいと思いますね。

Q2:
猫背を治す簡単な運動が知りたいです。なんで猫背になる人とならない人がいるのですか?

金岡:
骨盤が後ろに傾いていると、猫背になりやすい。ですので、時々、骨盤の傾きを前に傾けられるような筋肉を意識するといいでしょう。足のハムストリングス(太ももの後ろ)の筋肉が硬いと骨盤が前にいかなくなるので、ハムストリングスを伸ばすようなストレッチをするのもいいです。

――予防法に関する質問もたくさんいただきました。

Q3:
姿勢などの注意点がありましたが、定期的にやったほうがよいストレッチはありますか?

Q4:
背骨を守るためには座り方が大切ということを聞いたことがありますが、座り方も大切ですか?

金岡:
背骨をいい状態に保つためには、できるだけインナーマッスルをうまく使って、背骨に負担のかからない姿勢をキープする、そういう座り方が大事です。あと、骨盤の傾きをうまく整える。骨盤を後ろに傾けて背中を背もたれにつけたままの姿勢をしていると、椎間板にかなり負担がかかります。座り方ですね。時々、骨盤を前に立てて、背もたれから背中を離した姿勢に変える。こういうふうに時々変えて、できれば中間の姿勢をキープできるようにする。キープするためには、インナーマッスルが必要になってくるんですよね。

そういうような使い方をする、使い方ができるようになることで、日常生活を快適に過ごすためのパフォーマンスを高める。それを「ライフパフォーマンス」と呼んでいますけど、ライフパフォーマンスを高めるためにも、今、お話したようなインナーマッスルをうまく使って、背骨に負担がかからないような使い方をすることが大切だと思います。

――つい背もたれに背中をつけたまま、ずっと座ってしまうんですけど、時々離して、インナーマッスルを意識するということですね。

金岡:
そうですね。


【放送】
2023/05/31 「NHKジャーナル」

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