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2020年11月11日(水)放送より

突発性難聴とは、それまで耳に問題のなかった人が、ある日突然に聴こえなくなったり聴こえづらくなったりする病気です。コロナ禍の今、突発性難聴の患者が増えるのではないかと懸念されています。

【出演者】
岩崎さん:岩崎聡さん(国際医療福祉大学 教授/三田病院 耳鼻咽喉科 医師)
森田デスク:森田智之ニュースデスク
武田キャスター:武田涼介キャスター
菅野キャスター:菅野真美恵キャスター


森田デスク: コロナ禍で突発性難聴の患者が増える懸念があるというのは、なぜなんでしょうか。
岩崎さん: 理由は2つ考えられます。
1つは、コロナ禍で人々のストレスが増しているということです。もともと突発性難聴は、ストレス過多な人がかかりやすいと言われているんです。
もう1つは、リモートワークによってイヤホンやヘッドホンを使う機会が増えていることです。突発性難聴に限らず、難聴の原因の1つとしてイヤホンなどによる耳への負担があります。「60・60セオリー」という考え方がありまして、音楽プレイヤーやパソコンなどの音量設定の60%以上で60分以上連続してイヤホンなどを使っていると難聴になるリスクが上がると言われています。60分ごとに、イヤホンを外して耳を休ませるなどの対策を取ることが必要です。
武田キャスター: ストレス蓄積とイヤホンの使用でリスクが上がっている可能性があるということで、コロナ禍の今、より注意が必要ですね。
岩崎さん: まだ外来患者さんが増えたというデータはありませんが、今後増えていくのではないかと心配しています。
武田キャスター: 突発性難聴になってしまった場合、どんな自覚症状があるのでしょうか。
岩崎さん: 基本的に片方だけの耳に症状が出ることが多いです。聴こえにくさ以外の症状もあるので、注意していただきたいと思います。
その1つとして、気圧差を受けたときのような耳がふさがった感じがする、いわゆる「耳閉感(じへいかん)」と呼ばれる症状があります。飛行機に乗ったときに耳がふさがった感じになって、つばを飲み込んだりあくびをすると収まるような症状があるかと思うのですが、これが気圧に関係なく起きてしまって、つばを飲み込むなどしても改善しないようでしたら、突発性難聴が疑われるわけです。

もう1つは、「耳鳴り」という症状です。キーンとかピー、ブーンとかいう音だったりします。これは、ある一定の周波数の音だけが聴こえなくなった結果として発生することもあり、この場合は難聴の自覚がないこともありますので、重要な症状となります。
耳鳴りには、生理的な耳鳴りと病的な耳鳴りがあります。1日に数回、数十秒程度の耳鳴りは生理的な耳鳴りで心配ありませんが、病的な耳鳴りは、消えることがない持続性のあるものです。1時間たっても耳鳴りが消えなければ突発性難聴も疑う必要があります。

聴こえにくくなるという症状に関しては、片耳だけ聴力が落ちますので、もう片方が聴こえているわけですので日常に支障がでないことが多いです。意外と聴力低下に気づきにくいことがあったり、放置してしまう方もいらっしゃいます。
菅野キャスター: 左と右の聴こえ方が違うということに、まずは気づくことが大切なのですね。そのためには、どうしたらいいでしょうか。
岩崎さん: おすすめするセルフチェック法としましては、片方の耳を手でふさぎまして、もう一方の耳元で手の指を使って音を出す、いわゆる「指パッチン」とか「フィンガースナップ」をすることです。
武田キャスター: 指パッチンというと、ポール牧さんがよくやっていましたよね。
岩崎さん: そうです。それをやっていただいて、左右で聴こえる音量に差がないかを確認していただくのが良い方法かもしれません。
菅野キャスター: 私、指パッチン、良い音が出ないんですけれども、そういう場合におすすめの方法はありますか。
岩崎さん: 左右の耳を交互に手でふさいでいただいて、左右でテレビやラジオの音が同じように聴こえるか、音量の差がないか、確認することも良いかもしれません。
森田デスク: 耳がふさがったような耳閉感、または持続性の耳鳴りや聴こえにくくなっていることに気づいたら、耳鼻科を受診すべきなんですよね。
岩崎さん: そうですね。しかも、できるだけ急いで受診していただきたいと思っています。突発性難聴にかかった場合、治るかどうか、後遺症が残るかどうかは、早期診断を受けて早期治療を始めるかどうかが大変重要になってきます。
突発性難聴はストレスなど何らかの原因で血流障害がおきて、耳の中にある「有毛細胞」と呼ばれる部分がダメージを受けることで発症します。有毛細胞は、音の振動をキャッチして、電気信号に変えて脳へ送る役割をしています。1度壊れますと再生できないので、壊れる前に治療を開始することが大切なんです。
症状を自覚してから、できたら翌日か翌々日には耳鼻科を受診してほしいです。治療開始まで1週間以上たってしまいますと、治らない可能性や症状が残ってしまう可能性がかなり上がってしまいます。
森田デスク: 治療はどんなことを行うのでしょうか。
岩崎さん: 難聴が軽い場合には、飲み薬による治療が一般的です。血流障害によって起こるダメージを抑える効果があるステロイド剤という薬を使うのが一般的で、この投薬治療は耳鼻科であれば大体どこでも行っていただける治療法です。
症状が重い場合には、1週間ほどの入院でステロイド剤の点滴投与をしたり、鼓膜の奥の「鼓室」に直接ステロイドを注入する、「鼓室内投与」という治療法を行う場合もあります。このような内服治療以外の治療は、専門的な医療機関の受診をおすすめします。
菅野キャスター: 突発性難聴かなと自分で思った場合、受診するのは専門的な医療機関が良いということですか。
岩崎さん: そうなんですが、実際そのような病院を受診するには、予約や待ち時間、時間がかかったりするので、受診が遅くなってしまうんですね。ですから、すぐにかかりやすい耳鼻科医に早くかかって、まずはそこで診断を優先するほうが良いかもしれません。そこで聴力検査を受けて、軽度の難聴であればすぐに投薬治療が受けられますし、もし重度であれば、点滴や鼓室内投与を受けられる病院を紹介してもらえば良いと思います。とにかく、「突発性難聴は早期診断・早期治療開始が大切」だと覚えてください。

その一方で、突発性難聴になったあと、治らなかった方、治療が効かなかった方もいらっしゃると思います。そのような場合でも、諦めないでほしいです。例えば、先ほど鼓室内投与という治療法を挙げましたが、ある程度経過がたってからでも効果が出るという臨床報告があります。また今後、「人工内耳」という治療法が先進医療として来年からスタートされていく可能性もありますので、常に新しい情報を得るようにしていただきたいと思います。

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2020年11月11日(水)放送より