新書大賞2021『人新世の「資本論」』著者、斎藤幸平さんに聞く

NHKジャーナル

放送日:2021/11/26

#インタビュー#読書

ことし「新書大賞」を受賞し、40万部を超えるベストセラーになっている『人新世の「資本論」』の著者で、大阪市立大学准教授の斎藤幸平さんにお話を伺います。(聞き手・岩本裕ニュースデスク)

【出演者】
斎藤:斎藤幸平さん(大阪市立大学准教授)

――この「人新世」は、ビルや道路や工場など、人間たちの活動の痕跡が地球の表面を覆い尽くしたという時代だという意味なんですよね。

斎藤: はい。これは地質学の概念で、私たちのいろいろな経済活動はあまりにも大きくなり過ぎて、言ってみれば今私たちがやっている経済活動の影響が、何千年何万年にわたって大きな影響を与えるような、これが特に気候変動という形で現れるようなことです。

――人新世には資本論的な考え方が必要だというのが著書の概要ということでいいんでしょうか。

斎藤: そうですね。やっぱりこれほどなぜ私たちの活動の影響力が大きくなったかっていうと、その背景には、資本主義がグローバル化を推し進めていって、どんどん自然も切り開きながら私たちの経済成長を追い求めてきたことが背景にあります。

――この資本主義というのは、どちらかというとすべて転嫁していって収奪する人たちが豊かになる、そういう世界だということになるわけですよね。

斎藤: はい。私たちの先進国での暮らしは豊かで便利でわれわれみんなその恩恵を受けているけれども、安い洋服、安い食べ物、そういったものがどこから来ているのか、誰が作っているのかに目を向けなおすと、その裏では深刻な地球環境の破壊や人権侵害のような問題を途上国で抱えているということになります。

――例えばエコバッグを使うとしても、そのエコバッグが次々新しいものが出てくる、そういう世界ではだめだということなんですよね。

斎藤: はい。私は「SDGsは大衆のアヘンである」と、ちょっと批判的に言っているんですけれども、もちろんエコバッグを持ってる人たちも何かいいことをしたい、そういう思いから何か小さなアクションを起こしていると思うんですけれども、そうした小さなアクションも、実はさらなる、場合によっては消費活動に取り込まれていて、リサイクルしてるからもう1つ新しいのを買っちゃおうとか、新しいかわいいエコバッグが出たらそれをまた買ってしまうと、結局どこかで資本主義のシステムに取り込まれていって、そのツケをどこか別の場所の人たちが払わなければいけない、あるいは未来の世代に、持続可能ではないような社会を残すことにつながっていってしまうリスクがあるということなんですね。

――岸田総理大臣が誕生して、資本主義の限界というのはやっぱりみんな徐々に認識するようになってきて、「新しい資本主義」というのを今お題目にあげているわけですけれども、これは成長と分配の好循環がどういうものか、まだ少し見えないところはあるんですが、これに関してはどういうふうに捉えてらっしゃいますか。

斎藤: そうですね。パンデミックで浮かび上がってきた問題から見えてくるのは、資本主義は今、2つの大きな危機を抱えていることなんですよね。1つは格差の問題。あまりにもお金持ちの人と、あまりにも貧しい人の格差が広がっている。そしてもう1つが、気候変動に代表される環境危機の問題。それをじゃあどうやって解決していこうというときに、どんどん経済成長をして大きくなったパイを、みんなで分配してみんなで豊かになっていこうという道は、それは一番よく思えるかもしれないけれども、実は環境の制約を考えたら、私たちはこれ以上さらにパイを大きくして、みんなでもっと旅行をしてみんなでもっと新しいものをたくさん買って、みんなでステーキやワインを飲もうみたいなふうになってしまっては、地球環境はもたないわけですね。

なので、岸田さんが掲げているような「新しい資本主義」というものを本当に追及しようとしても、果たしてこの2つの危機を同時に解決することができるかというと私は怪しいのではないかと思います。つまり今の世代の欲求を満たすためにますます地球環境のほうを犠牲にするというような、1個の危機を解決することでもう1個の危機がむしろますます深刻化してしまう、そういうリスクを強く懸念しています。

――資本主義の限界を超えるには資本主義をどうにか変えていくというのは無理だというのが斎藤さんの主張なわけですよね。

斎藤: はい。もし経済成長を続けようとすることで持続可能な経済への移行というのが間に合わないのだとすれば、私たちは経済成長のある種の緊急ブレーキをかけなければいけないわけです。それはまさにパンデミックの中で、ロックダウンであったり時短営業のようなことをやったりしたときのように、気候変動対策としても緊急事態宣言というものを出して急ブレーキを踏む必要があればそうなってくると。ただし、経済成長を第1目標としないような社会というのはやはり資本主義と相性が非常に悪いわけです。資本を増やして経済成長していこうというシステムなんです。なので、私は「コミュニズム」っていう強いことばをあえて使っているんですけども。脱成長型のコミュニズムに移行していくのはどうだろうかという提案なんですね。

――コミュニズムというのは、いわゆる共産主義というふうに訳されていますよね。

斎藤: はい。共産主義と訳すと、たとえばソ連、スターリンや中国のイメージが湧いてあまり民主的でなく、人々が幸せではないような社会、暗いイメージがどうしてもあるので、私は「コミュニズム」という、ちょっとかたかなのことばを使っています。

もう1つ重要な理由があって、私が重視するのは「コモン」という概念なんですね。「共通の」という意味ですが、言ってみれば共通の財産をもうちょっとみんなで増やしていきませんかということです。これはみんなで歯ブラシを共有しようという話ではもちろんなくて、例えば公共交通機関であるとか医療であるとか教育であるとか、電気とか水とか誰しもが必要とするもの、これって今みんな商品になっていて、場合によっては何百万円のお金を払わなければ利用できなくなってしまっているわけですけれども、そういうものをできるだけ無償にしていってみんなで管理することってできるんじゃないか。そういう領域を増やしていけば、必ずしも経済成長に依存してパイを大きくしていくっていう道を追求しなくとも、みんなにある程度以上の生活を保障していくことは十分できるんじゃないかというのが「脱成長コミュニズム」の考え方になります。

――脱成長コミュニズムというような言い方をするとちょっと難しいような気もしますけれども、よくよく考えてみると、例えば私たちが子どものころって水は本当にただだったのが、資本主義がどんどん進んでいく中でお金を出すのが当たり前みたいなそういう形になっていった。それをもとに戻すっていうことですか。

斎藤: はい、そうですね。日本なんかは、まだ水道は守られていますけれども、ヨーロッパなんかでは水道がどんどん民営化されていく中で、水道の料金がどんどん高騰化してしまっています。そうしたことに対して、今欧州では公営化にして自治体であったり市民も参加しながら、水であったり電気であったり公共交通機関を管理していこうという機運が高まっています。そんなことができれば、かつての社会にある程度戻しつつその領域をもっともっと広げていこうと。そしてそれを社会でみんなに便利な安定した生活に使っていくことができれば、私は「コモン」に基づいた社会という意味で、「コモン型社会」みたいな意味でコミュニズムということばを使っているんですけれども、行き過ぎた市場経済、つまり、なんでもかんでも市場に任せていけばうまくいくという考え方を私たちはこのパンデミックを境に捨て去って、もう少し持続可能で誰もが安心して生活できるような社会への転換を迫っていくべきではないかということが、この本でも提案したことなんですね。

――ただ、資本主義を捨て去るというような考えをなかなか皆さん受け入れがたいというふうに思ったり、もしくは進んでいかないんじゃないかっていうような心配もあったりすると思うんですが、その辺いかがですか。

斎藤: そうですね。私たちは今はまだかつての経済成長の恩恵を受けてきたし、そのいい面をたくさん知っているからよけいにそう思うと思うんですね。だけどその経済成長の裏に、途上国なんかでは犠牲となってきた人たちがたくさんいた。そして今先進国にいても、経済成長が停滞しつつある中で、長時間労働、不安定雇用なんかが広まっている。そうした中で、これからもっと経済成長するために規制緩和をして民営化をしてもっとみんなに商品を消費してもらおうということで、ファストファッションやファストフードであったり、そういったものを増やしていくことが果たしてさらなる幸福につながるだろうか。むしろこれからの未来の世代のことであったりこれまで苦しんできた人たちのことを考えたりすれば、私たちはどこかで過剰な発展や過剰な生産や消費をブレーキをかけて規制をしていくことで、より持続可能な生活を追求していくことは必ずしも不幸にはつながらない、むしろ競争とかいろんなストレスから解放されて幸福になるような道にもなるんじゃないかなということをもう1回みんなで考え直したい、そういう提案なんですね。

――ありがとうございました。


【放送】
2021/11/26 NHKジャーナル 新書大賞『人新世の「資本論」』著者 斎藤幸平さんに聞く

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