いのちをつないでいくために~映画『帆花』

NHKジャーナル

放送日:2021/11/24

#インタビュー#医療・健康#カラダのハナシ#映画・ドラマ#家族

今回のジャーナル医療健康のテーマは「医療的ケア児」です。人工呼吸器をつけるなどして、医療の助けが必要な医療的ケア児は、全国に2万人以上いるといわれています。2022年1月、生後すぐに脳死に近い状態と宣言された医療的ケア児の帆花(ほのか)ちゃんと、家族の日常をつづったドキュメンタリー映画『帆花』が公開されます。この映画をきっかけに、医療的ケア児を抱える家族を支援するために必要なものについて考えます。(聞き手・岩本裕デスク、武田亮介キャスター、菅野真美恵キャスター)

【出演者】
理佐:西村理佐さん(帆花ちゃんの母親)

――これまで人工呼吸器をつけた患者の方々を取材してきたんですが、帆花ちゃんのように自宅で過ごす場合は、定期的にたんを取ったり呼吸器の管理をしたりするので、24時間ずっとみていなければならない、本当に大変ですよね。

理佐: そうですね。目が離せないというか、いつも緊張感がどこかにある感じですね。

――帆花ちゃんの場合は、栄養も自分でとることができないということですか?

理佐: 帆花の場合は「経管栄養」といいまして、口から胃まで専用のチューブを挿入して、そこから経管栄養専用の栄養剤を入れたり、帆花は乳酸菌飲料とかジュースも好きですし、あとはひな祭りとか、そういう行事にハマグリのお吸い物を飲ませたりとか、いろいろ楽しめるようにしています。

――乳酸菌飲料やジュースが好きなんですか。

理佐: はい、そうなんです(笑)。子どもですし、甘いですし、いいにおいがするので、本人は好きですね。

――いわゆる脳死に近い状態というふうに最初は言われていますけれども、根本的にはそういう反応などができたり、そういう感じなんですか。

理佐: 脳死に近いというふうに言われて、私も最初はどう受け止めていいか戸惑っていたんですけれども、ずっと帆花と一緒に自宅で暮らしていくうちに、本人のいろんな変化ですね、顔色が変わるとか表情が緩むとか息遣いが変わるとか、いろんな反応を見せてくれるようになっています。

よく言われるのが、「お母さんの思い込みじゃないか」とか、「お母さんの第六感」みたいな感じに言われることもあるんですけれども、もちろん母親っていうのは一番一緒にいる時間が長いですから、とにかくよく観察しているわけですよね。そうすると、それが機械によるものなのか体調によるものなのか、そういう可能性をまず第一に考えるんですけども、それが「そうじゃないな」っていう場面が重なると、「これは、ひょっとして帆花の意思の何かの表れなんじゃないかな」というようなことを繰り返して、「これは意思なのかもしれないね」というような感じですかね。

――映画の中で印象的だったのが、帆花ちゃんの脳波があるのかどうかが、やっぱり知りたくないというか、「お医者さんのところまで連れて行って測るということまではしたくない」とおっしゃっていましたけど、そのあたりはどうですか?

理佐: そうですね、映画の中の私っていうのは7~8年前の私なんですけど、あのときは、帆花が生まれて3歳から4歳くらいでしたから、とにかく脳波が平たんと宣告されたことをどう受け止めていいかわからない。

一方で、目の前の帆花っていうのは、いろんな医学的にはありえないかもしれないような反応がある、成長があるという、かい離の間で苦しんでいたんですけれども、その苦悩の中にあって、そこから逃げずにじっくり考えた時間を過ごしてきて、「目の前の帆花っていうものを受け止めればいいんだ」というふうに思うようになりまして、今はそんなに脳波がどうとかいうことは特に意識していないですし、脳というのも100%医学で解明されているわけではないですから、まあ、そういうふうに今は受け止めています。

――映画は、帆花ちゃんが小さい頃から小学校に入るまでですよね。今はもう14歳ですか。

理佐: はい、そうですね。

――ずいぶん成長なさいましたね。

理佐: そうですね。特別支援学校の小学部に入学したんですね、映画のあとに。今までは、たんを取ってくれるとか排尿のお手伝いをしてくれるとか、ケアを通しての人間関係しか築いてこなかった子が、何か自分の体のことをしてくれない人とも、なんていうんですかね、意思の疎通というと語弊があるかもしれないですけど、一緒に関わりながら何かをするという体験ができるようになったということは、本当にすばらしいことだなと受け止めています。

――先日、医療的ケア児やその家族を支援するための法律が施行されましたよね。この法律は国や自治体に必要な体制の整備というものを求めていまして、医療的ケア児や家族の相談に応じたり、情報の提供や支援を行ったりする、医療的ケア児支援センターの設置も進められているんですが、西村さんは利用したりしているんですか?

理佐: 帆花は使える制度が限られているので。今ある制度は利用できないけれども、何で埋めていくのかというような相談にはまだ至らないという感じです。

――帆花ちゃん、使える制度が少ないというのは、なぜなんですか?

理佐: 帆花の場合は特殊なケアが多いために、熟練した人がマンツーマンで常についていなければいけないので、どこかに通うとか入所させるというようなサービスが難しくなるんです。そうすると帆花のケアに熟練していただくということがまず第一になるんですけれども、その担い手が不足しているということもあります。

――やっぱり人材の育成というのがまだまだ……というところがあるんですかね。

理佐: そうですね。医療的ケア児といっても、例えば同じたんの吸引でも、いろいろお子さんによってコツがあったり、「こういうときに、この子は嫌がるよ」とか、個別性がすごくあるものなので、本人とコミュニケーションをとってやっていただくということが重要なので、本当にこれからたくさんの方に担っていただきたいなと思っています。やっぱり少ないニーズとかっていうのは、法が整備されたとしても、すくいあげられないということが起こりがちなので、本人のニーズをめげずに伝え続けなければいけないという苦労は、いつもありますね。

――理佐さん、この映画は、帆花ちゃんの日常を丹念に撮影したものですけれども、この映画を通して伝えたいことというのは、理佐さんの中におありですか?

理佐: そうですね、映画を通して伝えたいということは、「これだ」っていうことがないっていうのがポイントかなと思っていまして。ある家族の物語、帆花という命があって、家族がいて、暮らしがある……ただそれだけのことだと思っています。

私自身は、「決して命というのは平等ではない」と思っていて、私は健康に生まれましたけれども、今まで普通に生きてこられたこれまでの人生のほうにこそ、特権性があるなと感じています。そういった平等ではない命なんですけれども、その重みとか、その存在の価値に、重いも軽いもないと毎日感じています。そういった命の大切さとか、生きるとはなんだというような難しい問いを、頭の片隅において、大いに揺れながら映画をご覧いただければなと願っています。

――淡々とした家族の日常から、いろいろなものが感じ取れる映画だと思います。ぜひご覧ください。

※映画『帆花』は、2022年1月より「ポレポレ東中野」ほかで全国順次公開予定。


【放送】
2021/11/24 NHKジャーナル 医療健康 西村理佐さん(映画『帆花』出演、帆花ちゃんの母親)

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