漢方薬の最前線

NHKジャーナル

放送日:2021/12/15

#インタビュー#医療・健康#コロナウイルス

コロナ禍の生活が長引く中で今、漢方薬に注目が集まっています。漢方薬は、最近その効果が科学的にも明らかになってきていて、医療現場での導入も広がっているといいます。今夜は漢方薬の最前線をお伝えします。(聞き手・山崎淑行ニュースデスク、武田涼介キャスター、菅野真美恵キャスター)

【出演者】
今津:今津嘉宏さん(藤田医科大学客員講師/日本東洋医学会指導医)

――コロナ禍の生活、長引いていますが、そうした中で、今津さんのクリニックを訪れる患者さんが増えていると聞きましたが。

今津: はい。皆さん、たぶんコロナの前に比べると、一時的にコロナで受診を控えていた患者さんたちが、徐々に自分のことに、体調の変化について心配になってこられて、以前の20%くらいは増えているんじゃないかと思います。

――20%、かなり増えているようですが、具体的にどういう症状をお持ちでクリニックに来られるんですか?

今津: たぶん皆さんも経験されていることだと思いますが、ずっと家にいる時間が長くなってしまった。長くなってしまっただけじゃなくて、意外と健康について考える機会が増えた。そうすると、これまではなんとなく不調だったところを、なんかあれもおかしい、これもおかしいというように、全般的に漠然とした不安感みたいなものに皆さんがさいなまれているというか。ただその不安感というものが、精神的なものからきているのか、このコロナの生活によって起こっているのかが判断できない。そうしたことで来られている方が多いですね。

――なるほど。症状としては、頭痛とか腹痛とか、そういったものにも出るんですか?

今津: 具体的には、体調、胃腸の調子が悪いなど、いろんなことが出ますが、例えば生活のリズムが狂ってしまった。これまではずっと在宅だったのが、解除されたあとに通勤しなきゃいけなくなって、1日のリズムが変わったことによって起こるもの。あと、姿勢ですよね。前かがみの姿勢が多くなって、ずっと家で座っているために足腰が痛くなったり、整形外科的な腰の痛みなどもありますし、いろんなことを皆さんおっしゃっていますね。

――そういったものにも漢方薬は活用できるんですか?

今津: はい。実は、内科、外科、眼科って、それぞれの専門の先生たちがいらっしゃいますよね。でも漢方ですと、漢方の専門というのは、小さな子どもからお年寄りまで、がんの患者さんも、血圧の高い患者さんも、いろんな方をみせていただきます。自分はどこが悪いのかわからない、何科に行ったほうがいいのかわからない人にとっては、そういった意味では非常に受診しやすい診療科なんじゃないかと思いますね。

――漢方薬といいますと、自然由来のもので作られているというイメージがあるんですが、それでよろしいんでしょうか?

今津: 草花、草の根っことか葉っぱとか、そうしたものを使っているんですけども、そういった植物由来のものだけではなくて、動物由来のもの、あるいは鉱物、石ですね。そうしたものも原材料に使われているんです。

皆さんがよく飲む抗生物質ですとか痛み止めのように、1個の成分で作られている西洋薬とは違いまして、いくつかの薬草、あるいは鉱物なんかがブレンドされていますから、ちょっと感じが違うんです。イメージでいうとサプリメントに近いような、あんなイメージを受けられると思うんですが、私たち医師が処方する漢方薬は医療用の医薬品なものですから、入っている薬草の種類と割合が決められたもので、日本全国、北海道から九州、沖縄まで、どこで受けても同じブレンドをした性質の安全性の高いものが提供されているんですね。

――つまり、症状に合わせて的確なものを処方されるということですか?

今津: はい、その通りです。漢方薬のいいところは、いくつかのものがブレンドされていますから、例えば内科の先生が、ちょっとおなかが痛いときに、ある漢方薬、例えば「半夏瀉心湯」(はんげしゃしんとう)という薬を使ったとしてもですね、外科の先生も、おなかが痛いときに「半夏瀉心湯」を使うということにしていて、症状に対して使うことが非常に多いです。ここがいい点じゃないかと思います。

――私は、以前がんの取材をしていたときがあったんですが、手術を受けられた方は、放射線治療など、非常に体にダメージを受けますよね。そういった方も、漢方薬を使ってだいぶ楽になったようなことをちょっと聞いたことがあるんですが、そういった部分でも漢方薬は活用されているんですか?

今津: はい。今から10年前に厚生労働省で行われた研究の結果でも、実はがん拠点病院、あるいはがんセンター、がんを専門にやっている先生たちの90%以上が、がん診療に漢方薬の治療を取り入れられているんですね。

これは皆さんが受けられている、例えば外科的な、あるいは抗がん剤とか放射線のような体に負担をかけるような治療、これを私たちは“攻めの治療”というんですけど、この“攻めの治療”から体を助けてくれる、守ってくれる、補ってくれるものとして漢方が使われています。ですから外科的な手術、抗がん剤治療、化学療法、あるいは放射線治療、どの領域でも、漢方薬をうまく一緒に使う、併用することによって、患者さんの状態を助けてくれる、守ってくれる方法で使われています。

――その辺については、ある程度科学的な効果みたいなものも徐々に明らかになっているということですか?

今津: はい。この10年、漢方薬はどういう成分が入っていて、それがだいたいどのくらいで効いてくるのか、あるいはどういうふうにするとよりよく効くのかということがわかってきましたから、例えば、がんのガイドライン、がんの治療の中に、こういう治療法をやったほうがいいよという中にも、この漢方薬を取り入れると副作用が軽減できますよとか、あるいは術後の経過がよくなりますよというかたちで、組み合わせもだいたいわかってきていますので、うまく使われるといいと思いますね。

――例えばがん治療ですと、がんそのものを取るのは外科なり手術をするわけですけれども、漢方薬を使うと、その補完というか、体を穏やかに保ったり、そういったところにもうまく活用できるということなんですね。

今津: そうなんです。がん治療というのは、攻める治療。これを、助けてくれる、守る治療をしてあげなきゃいけない。この守る治療というのは漢方が一番得意とする分野で、これが、補う薬、補剤というんですけども、補う薬をよく使われるんですね。この中には皆さんよくご存じの「朝鮮人参」ですとか、いくつかの薬草が入っています。こういったものをうまく組み合わせて、漢方でがん診療をうまくいかすということをよくやっています。

――今、「補うための薬」という話がありましたけれども、漢方薬は長く服用するというイメージがあるんですけども、実際にはどうなんでしょうか?

今津: 漢方薬は即効性があるものも多いんです。例えば、山登りとかゴルフに行ったときに足がつって歩けなくなったりする、そうしたときに「芍薬甘草湯」(しゃくやくかんぞうとう)という薬がよく使われています。この薬は内服しますと、だいたい2~5分くらいで効いてくるんですね。このように、必ずしも漢方薬には長く飲まなくても効くものもありますよ。

――私、風邪のひきはじめによく「葛根湯」(かっこんとう)を飲みますが、早く効きますよね。

今津: そうですね。風邪に使われている漢方薬というのは、実は中に入っている成分が15~20分くらいで効く成分が入っていますから、これも非常に早いですね。

――でも私たちが治療の選択肢として漢方薬を使いたいなと思った場合、どうしたらいいんでしょうか?

今津: 実は最近は、ほとんどの医者たちが学生時代に漢方の勉強をしているんです。ただ40代以上の先生方というのは学生時代に勉強してないものですから、ちょっと苦手な先生方もいらっしゃるんですね。ですから、もし担当の先生がなかなかうまく漢方を使えないなというときは、日本東洋医学会という学会のHPに、北海道だったらこういう専門の先生がいますよとか、東京ならこういう先生がいますよということは載っていますので、こうしたものを使われるといいんじゃないでしょうか。

――その漢方は健康保険が適用されるということですよね。その費用について伺いたいんですけども、ドラッグストアなどで売っているものの中には、漢方薬、ちょっと高価なものっていうのもありますよね。

今津: 皆さんがドラッグストアなどで買われるのは一般用の医薬品で、いろんな会社からいろんな種類のものが出ています。ですからすごく高いものもあれば、手ごろな値段のものもあります。

医師の診察のもとに行われている漢方薬というのは医療用の医薬品で、保険診療で行われています。ですので皆さんの負担というのは、例えば「葛根湯」を例にとりますと、だいたい1日の値段が100円いかないくらい。1週間飲んでも3割負担で200~300円で、風邪の治療が漢方薬でできちゃうんですね。

ですから、時間的になかなかクリニックや診療所に行けないよっていう人たちにとっては、一般薬をまず試してみるのもいいでしょうけれども、もしいろんなことを考えれば、ちゃんとした診察のもとに、医師の診断をもとに使ったほうが、値段的にも安くできるんじゃないでしょうかね。

――ドラッグストアなどで購入するときも、薬剤師さんなどがいれば、その辺のアドバイスをもらったほうがいいですかね。

今津: そうですね。薬剤師の先生方もちゃんと漢方の勉強をされていますから、この中でもあなたにとってはこの薬のほうがいいんじゃないでしょうかと、値段ではなくて、その人に合った症状の漢方薬を選んでくれますので、やはり専門の先生にちゃんとお話を聞いていただけるといいと思うんですね。

今津さんには番組のエンディングにもご出演いただき、リスナーの皆さんからのメッセージにお答えいただきました。その一部をご紹介します。

――香川県の60代の男性から、<漢方薬も副作用があると聞いていますが、副作用を少なくするために留意することを教えてください>という質問です。

今津: 漢方薬のだいたい70%以上に含まれている「甘草」(かんぞう)という薬草があります。これは、西洋医学の薬になっているグリチルリチン酸という、肝機能障害ですとか、じんましんなどに使う薬なんです。ただこの薬は漢方薬の7割に入っているわけで、この副作用が出ることが非常に多いんですね。脚がむくんだりして、そのうち血圧が上がってくるということもありますので、中に入っている薬草の種類をちょっと確認されるといいと思います。

風邪に使われる「葛根湯」の中には、「麻黄」(まおう)という成分が入っていますが、この「麻黄」は、1885年に日本の長井先生という方が、ここから気管支拡張剤の薬を作ったんですね。ですから漢方薬にはちゃんとそういう成分が入っていて、「麻黄」に入っているエフェドリンという成分は、実はぜんそくを治してくれるんですが、逆にこれを飲み過ぎると、動悸(どうき)がしたり血圧が上がったり、あるいは前立腺肥大の人ではおしっこが出にくくなったりなど、いろんなことがありますので、中身を一度チェックされるといいのではないでしょうか。

――東京都の60代の方からは、<「葛根湯」は日常の健康保持で服用しても問題ありませんか?>という質問をいただきました。

今津: まさにこの「葛根湯」の中にはエフェドリンの成分が入っていますし、「甘草」、グリチルリチン酸が入っていますから、この副作用が出ることがあります。ちょっと中身をよく見ていただいて、ご自分の体調やもっている病気とあわせて使われるといいのではないでしょうか。

――あくまでも医薬品ですので、サプリメントのように使うものではなくて、日常の健康保持では、服用しないほうがいいということですね。

次は、<漢方薬は、食前に服用するのが理想的だと聞いたことはありますが、これはどうしてですか?>という質問をいただきました。

今津: 漢方薬の飲み方には、食前あるいは食間というふうに書かれています。これは今まではどうしてかわからなかったのですが、実は私がこの10年間に、いろいろな先生と研究をやらせていただいたときにわかってきたことがあります。

胃袋の中に食べものが入っていますと、食べたものの食物繊維の中に漢方薬の成分が吸収されてしまうんです。ですから空腹時に飲むというのはどういう意味かといいますと、「おなかの中で、漢方薬と食べたものが混ざらないタイミングで飲んでね」という意味なんです。ですからそれを少し注意されるといいんじゃないでしょうか。

――次は、<食中でもいいんですか?>

今津: 食べているあいだは、おなかの中に食べものが入ってますよね。そうすると混ざっちゃいますから、やっぱり効果が弱くなっちゃいます。

――やっぱり食前のほうが理想的なんですね。

今津: もし食前で飲まれるんでしたら、5~10分前でいいので、少し前に飲まれるといいと思います。

――<漢方薬=“緩効”って思いこんでいました>というメッセージもいただきました。

今津: 漢方薬は即効性のあるものもありますし、ゆっくり体質改善、みたいなものもあります。体質改善の場合は、 腸内細菌叢(そう)を変えて体調を変えていくというかたちで、週単位で変えていきます。あるいは、もう少し長く体をメンテナンスする薬の場合は月単位で治していくというものもあって、いろんなタイプのものがありますから、ご自身の体調に合わせて薬を選んで、飲み方も変えていかれるといいと思います。

――最後に愛知県40代の男性から、<漢方薬は、高齢者でも服用していいんでしょうか?>というご質問です。

今津: 小さなお子さんからお年寄りまで、あるいは健康な方の中でも体調コントロールのため、それから病気の方、がんの方、その他の患者さんたちに使っていただいていいと思います。

――やっぱり専門家に選んでもらうこと、お医者さんですとか薬剤師の方に、しっかりお話を聞くことが大切ですよね。

今津: はい、そうですね。

【放送】
2021/12/15 NHKジャーナル ジャーナル医療健康 「漢方薬の最前線」 今津嘉宏さん(藤田医科大学客員講師/日本東洋医学会指導医)

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