新型コロナの脳への感染 “ブレインフォグ”症状に着目した最新の研究

21/02/24まで

NHKジャーナル

放送日:2021/02/17

#医療・健康#カラダのハナシ#コロナウイルス

ざっくりいうと

  • アメリカの新型コロナウイルスの患者に、頭にもやがかかるなど脳に関わる症状が目立ってきた
  • 「新型コロナウイルスは脳に感染する」。日本人研究者を中心とするアメリカの研究チームが明らかに
  • 2021/02/17 NHKジャーナル 医療健康「新型コロナ最新研究・脳への感染」岩崎明子さん(エール大学医学部教授)

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ワクチンの接種が進むアメリカの研究チームが、新型コロナウイルスが脳に感染することを明らかにしました。中心になったのは、エール大学教授で免疫学がご専門の岩崎明子さん。新型コロナウイルスの新しい面を明らかにしたと注目されている研究について、うかがいます。

【出演者】
岩崎さん:岩崎明子さん(エール大学医学部教授)
岩本デスク:岩本裕ニュースデスク

“ブレインフォグ”という症状から脳に着目

岩本デスク: 岩崎さんの研究チームは、新型コロナウイルスが脳にも感染することを明らかにしたということですけれども、今回なぜ、脳に着目したんでしょうか。
岩崎さん: 新型コロナウイルスというのは、肺から入っていって肺を中心に標的にすると考えられていたんですけれども、たくさんのコロナの患者さんに脳に関わる症状が目立ってきました。例えば頭に“もや”がかかってぼーっとする症状、“ブレインフォグ”と呼ばれるような症状がたくさんの皆さんにありまして、もしかしたら脳に直接感染が起こっているんじゃないかと思って実験を始めました。
岩本デスク: “ブレインフォグ(脳の霧)”、もやもやっとした症状。これがけっこう多かったわけですね。
岩崎さん: そうなんです。80%くらいの患者さんに、もやがかかったような症状が出ているということが分かっています。
岩本デスク: そこで脳に着目して、実験を行った。どんな実験を行ったんでしょうか。
岩崎さん: 私たちは3つの研究を行いました。
1つ目は、新型コロナで亡くなった患者さんの脳の解剖実験です。3人の脳を見たんですけど、そのうちの1人の脳にコロナのウイルスに感染していることが分かりました。
2つ目はマウスの研究で、脳だけ、あるいは肺だけに新型コロナを感染させると、脳だけに感染させたマウスは急激に病気になって1週間以内に死んでしまうんですけれども、肺だけに感染させたマウスは死ななかったんです。
これらの結果で、やはり脳に感染した場合は、呼吸器感染以上に命に関わる危険性があるんじゃないかという可能性が浮き上がりました。
岩本デスク: そして、3つ目の実験に進んだということになるわけですか。
岩崎さん: はい。3つ目の実験は、脳の「オルガノイド」といいまして、脳に似た3次元の細胞培養を使った実験です。
岩本デスク: オルガノイドというのは、つまり脳に近いような形のモデルを作った、と。
岩崎さん: そうなんです。そのオルガノイドというものに新型コロナを感染させると、神経細胞に感染が起こってその周りの細胞が酸欠で死んだ、という結果が取れました。

実は新型コロナは、「ACE2」と呼ばれるたんぱく質でできた小さな突起とくっつくと、細胞に侵入して感染を起こすんです。このACE2は肺に多いと考えられていて、ほとんど肺にしか感染しないと考えられていたんですけれども、私たちの実験では、脳にも実はACE2の発現がありまして、脳に感染するときにはACE2を使ってウイルスが侵入して感染が起こる、という実験結果が取られたので、脳というのも感染の対象に値するものだということが分かりました。
岩本デスク: 新型コロナウイルスは、ACE2というたんぱく質をとにかく探して、そこから感染をしている。このACE2は、肺に多いから肺に感染しやすいと思っていた。そしてACE2は、これまで脳にはないと思われていたのに、今回、脳にもACE2があることを見つけ出した、ということですね。
岩崎さん: そうです。オルガノイドに新型コロナウイルスを感染させる段階で、ACE2をブロックする抗体も一緒に入れてやると感染が起こらなくなったんです。ということは、やはりACE2を介して、脳に感染が起こっているという証拠になりました。
岩本デスク: 脳に感染した新型コロナウイルスは、どうやってダメージを与えるんですか。
岩崎さん: 新型コロナウイルスは脳の神経細胞に感染を起こすんですけれども、感染した細胞自体は殺さずに、ウイルスを増やすために生かしているんですけれども、その周りの神経細胞というのが、酸素を奪い取られて酸欠のために急激に死んでいって、それでダメージを起こしているという結果が取れました。
岩本デスク: 新型コロナウイルスが脳に感染する。しかもマウスを使った実験では、肺に感染したよりも死ぬものが多かったというか、死んでしまった……。ちょっと怖いんですけれども、どう考えればいいんですか。
岩崎さん: わたしたちもその実験結果を見たときは、ちょっとびっくりしました。というのは、肺でダメージを起こして、そこから死にいたっていると考えていたんですけども、マウスの実験によると、脳のほうが感染したときに死ぬ率がすごく高くなったので、やはり脳というのは、感染したら危険な場所だということが分かりました。
岩本デスク: 脳にいくメカニズムというのは、まだ分かってないのですか。
岩崎さん: 脳にいくメカニズムはいろいろ考えられているんですけども、まず肺で増えたウイルスが、血管、血液の細胞に感染してそれが脳に達して、そこから感染が広がるという場合と、あとは、鼻から直接、脳に神経細胞を通して感染が起こってしまうかもしれないという、その2つの考えが、今あげられています。
岩本デスク: どちらにしても、非常に危ないのは、危ない、と。
岩崎さん: そうですね。脳に直接感染するとダメージが脳に直接いってしまいますので、それが危ないと思います。

脳はウイルスにとって“居心地のいい場所”

岩本デスク: 後遺症で脳梗塞などになるんじゃないか、というようなことも言われていますけれども、そのあたりも関係しているんでしょうか。
岩崎さん: そうですね。一度脳の細胞に感染が起こると、そこのダメージや酸欠などで脳梗塞になってしまったり、あと免疫の暴走とか自己免疫疾患の場合でも、脳にダメージが起こって脳梗塞になったり、とにかく脳にダメージが起こる。3つくらいの方法があると思います。
岩本デスク: 脳といいますと、免疫があまりない臓器だというふうに考えていたんですけども、そういうことなんですよね?
岩崎さん: そうなんです。脳の中というのは免疫の攻撃を受けなくてすむので、ウイルスにとっては“居心地のいい場所”で、他に多くのウイルス、例えばヘルペスだとか、水ぼうそうを起こしてしまう水痘ウイルスだとか、脳神経に感染を起こして一生そこに隠れて暮らしていますので、一度感染を起こすと長引く可能性も考えられます。
岩本デスク: 長引いてしまう……。つまり軽症であっても、もしかしたら脳にひそんでいる可能性もなくはないということですか。
岩崎さん: はい。今のところ、軽症の患者さんの脳というのは調べられていないんですけれども、一度感染すると長引く理由につながってしまうという可能性はあります。
岩本デスク: 脳に隠れていて、またさらに下におりてくるというようなことも考えられるということですか。
岩崎さん: 一度隠れたウイルスがまた出てきてダメージを与えるという証拠はまだ取れていないんですけど、可能性がないとも言えないです。
岩本デスク: 新型コロナウイルス、やっぱり非常に怖いなという人も多いと思いますけれども、さらにもっと怖いものが出てきたというふうに言えるわけですね。
岩崎さん: そうですね。軽症で完全に治ってしまう人もいるんですけれども、そうではなく長期間にわたって症状が出ている人もたくさんでてきていますので、予防がとても大切になってきます。
岩本デスク: やはりまずは感染しないこと。それを目指すしかないということですね。
岩崎さん: 軽傷でも長引く症状が出ている人は、けっこう健康な若い方でも多いんです。ですから、予防に特に重要なワクチンだとか、マスク・手洗い、そしてまた私たちの研究によりますと、湿度を40~60%に保つことがウイルスの広がりを防ぐ効果があるという結果が出ましたので、加湿も大切だと思います。
岩本デスク: 湿度も40~60%に保つ。それが重要なんですね。
岩崎さん: そうですね。
岩本デスク: 最新の研究、またこれからもいろいろと伝えていただければと思います。どうもありがとうございました。
岩崎さん: ありがとうございました。

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