新型コロナウイルス感染拡大の影響は、東京などの都市部だけではなく、地方の経済にも大きく影を落としています。「ウイズコロナ」の時代、地方の活性化をどう図っていけばいいのでしょうか。地域経済学が専門の、京都橘大学教授で、京都大学名誉教授の岡田知弘さんに伺います。

【出演者】
岡田さん:岡田知弘さん(京都橘大学教授、京都大学名誉教授)
岩本デスク:岩本裕ニュースデスク
武田キャスター:武田涼介キャスター
菅野キャスター:菅野真美恵キャスター


武田キャスター: 新型コロナウイルス感染拡大の影響は、今、地方経済にどのような影響を与えているのか。また、それを克服するために各地で新しい動きが出ているか。この2点について、教えてください。
岡田さん: 「Go To キャンペーン」が始まり、多くの規制が緩和される中で、先週末あたりでも、かなり日本人観光客が私の住んでいる京都でも増えてきました。他の観光地を見ても同様の傾向があって、一見、にぎやかになったように見えるんですが、平日になると、ほとんどお客さんが来なくなるという状態になっています。

統計的にみますと、倒産や廃業、失業者がだんだん増えてきている状況にあります。助成金や給付金など、いろいろな支援がありましたが、それによっても、もちこたえられない企業が増えてきているのではないかと思います。特に、事業主の都合によって離職している方の数を調べていきますと、4月から6月期で、昨年と比べると、約5割増えているんですね。これまで観光業や飲食業が大きな影響を被っていると言われていましたけれども、ここへきて製造業でどうやら雇用調整が始まっておりまして、群馬県、静岡県、石川県など製造業の強いところで、離職者数が増えている状況になっているんです。

そういう中で例えば京都ですと、インバウンド観光客が全く来なくなったということで、京野菜などを飲食店や旅館、ホテルで使う販路がなくなってしまったわけですね。そこで今度は、国内あるいは京都の中に市場を求めて、京野菜を使って、旅館の関係者の皆さんがお弁当とかテイクアウトの商品を共同でつくって、その商品を地域のタクシー会社に宅配をお願いするというような形で、できるだけ地元でお金が循環するような試みが始まってきているんです。
宿泊関係でも、地元の人にできるだけ宿泊してほしいという「マイクロツーリズム」などの試みが各地で展開されていまして、こういうものを、「地域内経済を循環させる取り組み」と私たちはいっているんですね。
菅野キャスター: 地域内経済を循環させる取り組みとは、これまでと比べて、どう違うのでしょうか。
岡田さん: これまでは、インバウンド観光客を誘致して消費を喚起する。あるいは企業を誘致してできるだけ地域に恩恵をもたらすというやり方がいいのではないか、と言われていたんです。しかし実際には、誘致した企業の収益の多くが本社のある東京など大都市に流れていってしまいまして地域の中に循環しない、という状況だったんですね。そうではなく、地域内に住む人々や企業が取り引きし合うことによって、地域の企業や産業をサポートし合ってお互いの経営や生活を維持する、このようなことが内部循環型経済の大きな特徴で、一種の地域通貨のような考え方を実践している動きと考えることができると思います。
岩本デスク: 兵庫県のケースでは、酒米の「山田錦」を食用米に切り替えるようなケースもあると聞きました。
岡田さん: これは「山田錦」を使っている灘の酒造メーカーですが、これまでは日本酒を輸出しようという動きが強かったんですね。今回、輸出市場を失ってしまうことになってしまって、来年度のお米づくりのためにどうするか、問題になっていたんです。そこで酒米を食用米に切り替える、つまり、酒米が持つ、普通の食べるためのお米と違って粘りけが少ないという特徴を生かして、リゾットやチャーハン向けという新しい食用米の市場を拡大していこうという取り組みを工夫しようとしている動きがあるんです。
岩本デスク: これまで外へ外へと目を向けていたのが、その地域の中で完結し、そこで地域住民がメリットを得ていこうという動きが出ているということですが、逆にコロナによって、地方に移住したいという関心が都会では高まっているということもありますよね。このあたりはどうなんですか。
岡田さん: 実際に国がやっている調査でも、コロナ禍の中でより安全な地域、東京以外の、過疎地も含めたところに移住したいという意識は全体的には高まってきているというデータはあります。けれども意識が変化したからといって、実際にその方が移住するとか、移動するとか、あるいは地域を選んで移住するということにはならないんですよね。
岩本デスク: でも今、テレワークができるようになって、どこにいても仕事ができるという感じはあるんですけれども、やはり移住というのは難しいんでしょうか。
岡田さん: 今回、テレワークがかなり広がったということで、移住が促進されるのではないかとか、あるいは逆に、そういう人達を誘致するためのサテライトオフィスをつくって人材誘致を進めていこうという政策を国もとっていますし、実際に自治体にもとり始めているところもあるんですけど、地方への移住というのは、仕事の面だけじゃないと思うんです。
コロナ以前から、そういう形でやってきた自治体はたくさんありまして、典型的なのは徳島県の神山町です。光ファイバーケーブルを早い時期に整備をして町おこしをしようということで、ベンチャー企業を誘致して地域に何社も進出しているわけですけど、ここは割と成功事例だといわれているんです。それは地域の住民と連携した町づくりを、移住してきた皆さんがやっているわけですが、実はそれでもこの町の人口は減っているんです。
岩本デスク: 人口は減っているんですか。なぜでしょうか。
岡田さん: 人口は増えないんですね。つまりこの地域でいいますと、リモートやオンラインが可能な仕事は、全体の仕事のごく一部なんです。農業、林業、工業、医療や福祉、それから地域の中、あるいは外と取り引きをしている物流などさまざまな産業があって始めて、地域の暮らしも成り立っていく。

あるいは誘致してやってきた企業で働く人たちも、どうしても学校とか病院、保育園とかが必要になってきますよね。そしてもうひとつ、交通手段の問題です。これらが揃っていなければ、いったん来たとしてもそこに定住し続けることはなかなか難しい。おそらく過疎地域も含めて、住み続けることができる環境にするには、農業所得をきちんと保証していくとか、あるいは、そこで食べていけるような賃金体系や生活条件を整えていくことをやらないと、なかなか厳しいのではないかと思うんです。
岩本デスク: たしかに「オンライン、オンライン」と言いますけれども、本当に地域のインフラがまとまって、きちんと立ち上げていかないと、進んではいかないということですね。

放送の内容に加えて、岡田先生は、地域内で循環していく経済を広げていくためには、各自治体が、「中小企業振興基本条例」を定めて、それを生かしていくことが重要だと指摘されています。
北海道帯広市では、この条例を活用して、自治体と地元信用金庫、企業、農家が連携して、米や小麦を加工販売して付加価値を増やしてきているそうです。例えば、小麦粉の製粉工場を共同でつくり、パン粉を含め、すべて十勝産の食材を使ったパンも売り出されています。それらを地域内・外に販売することで、売り上げが帯広・十勝に還流し、地域の農商工事業者に利益をもたらしているという、地域内経済がうまく循環している成功事例です。この「中小企業振興基本条例」を活用すれば、自治体の権限や財源を地元企業の振興のために計画的に使うことができるのではないかとおっしゃっていました。