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2020年7月29日(水)放送より

新型コロナウイルスの影響で外出もままならない今、「ぼうこう炎」や「前立腺炎」など、おしっこの通り道「尿路」の感染症も心配されています。その理由と予防法を、日本大学医学部泌尿器科教授、髙橋悟さんに伺います。

【出演者】
髙橋さん:髙橋悟さん(日本大学医学部泌尿器科 教授)
岩本デスク:岩本裕ニュースデスク
武田キャスター:武田涼介キャスター
菅野キャスター:菅野真美恵キャスター


岩本デスク: 新型コロナウイルスの影響で、自宅での生活を中心にした「新しい生活様式」が推奨されていますが、高橋さんは、具体的に何が「尿路感染症」を引き起こすと考えていらっしゃるのでしょうか。
髙橋さん: 尿路感染症はいくつかの原因でなりやすくなりますが、ひとつは、代謝の低下が考えられます。代謝の低下があると、体の中に入った細菌に抵抗して排除する、いわゆる免疫能力が落ちるといわれています。リモートワークなどであまり外出もせず長時間同じ姿勢でいること、またこの季節ですと、エアコンのきいた室内に長時間いると血行が悪くなります。特に骨盤の中の血行が悪くなると、ぼうこうや尿路で細菌が感染しやすくなります。
また「新しい生活様式」でストレスがかかると思いますが、ストレスそのものが免疫力を落とすことも分かっていますので、そうしたことが複合的に起こると考えられます。
岩本デスク: そうなると一度お医者さんに相談したほうがいいのでしょうか。
髙橋さん: そうなんです。懸念されるのは、例えば排尿したときの違和感や「ぼうこう炎かな?」と感じても、コロナ禍で受診するのを控えてしまうことです。悪化して初めてクリニックを受診するというケースもみられるようです。
武田キャスター: 尿路感染症にかかって悪化した場合、どのようになる可能性が高いですか。
髙橋さん: 尿路感染というのは、外から尿道に細菌が入って増殖して炎症を起こすものです。身近な尿路感染症ですと、女性の場合は、ぼうこう炎になります。男性の場合は、ぼうこうの手前の尿道のまわりに前立腺があり、この前立腺が炎症を起こす「前立腺炎」が考えられます。それらの症状を放っておくと細菌が腎臓にまで上がってしまって、「腎盂腎炎(じんうじんえん)」になる可能性が高くなります。
武田キャスター: 腎盂腎炎?
髙橋さん: 腎臓の中心に、おまんじゅうの中のあんこのようにあるのが「腎盂」です。腎臓がつくった尿が一度腎盂に貯められて、尿管を通ってぼうこうに運ばれていきます。
腎盂腎炎というのは、ぼうこうで繁殖した菌が、「逆行性」というのですが、上にあがって腎盂の中で炎症を起こして、腎臓全体が炎症を起こしてしまうんですね。
岩本デスク: それが悪化すると、もっと悪くなる可能性が高いんですね。
髙橋さん: まず、発熱します。腎臓は腰の両脇にあるので、こぶしでたたくと響くような痛みを感じることがあります。
重症になると、腎臓は非常に血流の多い臓器なので細菌が容易に入るんです。そうすると「敗血症」といって、血液が循環している臓器に細菌が入って、体中に回ってしまう状態になります。本当に悪い場合は、死に至ることもあります。そうならないためにも、「下部尿路」というのですが、下のほうにある尿路で炎症がとどまっている段階で、早期発見・早期対策をすることが大切です。
菅野キャスター: 自分自身でできる、早期発見につながるチェックポイントはあるのでしょうか。
髙橋さん: 項目を5点、あげてみます。これらの症状があると、女性の方はぼうこう炎、男性では前立腺炎の可能性が高いので、先生に相談する目安になると思います。チェックしてみてください。

① トイレに行く回数が急に増えた
きのうとかおとといぐらいから、「何か変だぞ?」という感じですね。
② 尿が白っぽく濁ったり、血が混じったりすることがある
炎症を起こして尿の中に白血球が出てくると濁ってきます。出血をともなえば少し赤くなります。
③ 下腹部に違和感がある
にぎりこぶし1個分ぐらいへその下、ぼうこうがある場所に、痛みはないけれど違和感がある場合です。
④ 排尿時や排尿のおわりに違和感がある
排尿時や排尿のおわりにかけて、「痛みがある、ヒリヒリする感じがある、違和感がある」ということです。
⑤ 残尿感がある
排尿後にまだ尿が出終わらないで残っているような感じがする、いわゆる残尿感です。

岩本デスク: 年を取ると尿が残っている感じがあるのですが、それはいかがでしょうか。
髙橋さん: 男性は、年齢とともに前立腺が大きくなる「前立腺肥大症」という病気が別にあります。そうすると特に感染や炎症が起こっていなくても残尿感はあります。また前立腺炎になった場合、今あげた5つの症状に加えて、発熱することが多いです。
岩本デスク: 残尿感があった場合は、そこまで、心配しなくていいんですね?
髙橋さん: 痛みがある場合は、注意してください。
岩本デスク: 「新しい生活様式」の中で尿路感染症にかからないために気をつけることは、どのようなことがありますか。
髙橋さん: 尿道に細菌が入らないようにするために、下着の中を清潔に保つことは当然です。女性の場合は、排便の後に後ろから前に拭くと尿道に細菌が入りやすいので、前から後ろに拭きましょう、というのがあります。
あとは、代謝や血行をよくするよう注意しましょう。水分は十分に、やや多めにとった方がいいと思います。ぼうこう炎になりやすいなど気になるときには、食事以外に1日およそ1リットル~1.5リットル程度、水分をとるのが目安と考えてください。こまめに飲むことによって、1日全体おしなべて、尿の量が多いという状態ですね。
岩本デスク: 一気に飲んでも、すぐに出てしまうわけですね。
髙橋さん: コンスタントにとることで、菌が入りにくくなるということにもなるんですね。
岩本デスク: あまり身体を動かさないことも問題ですよね。
髙橋さん: 長時間自宅にいたり、同じ姿勢をとってしまいがちなので、1~2時間に1回は気分転換にウォーキングしたりすることで、骨盤の中の血流をよくすることが大切だと思います。