誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをして、誰も書かない本を書く!

23/10/02まで
眠れない貴女へ
放送日:2023/09/24
#インタビュー#読書#ワールド#ノンフィクション
世界の辺境地を訪れてその様子を執筆しているノンフィクション作家の高野秀行さんに、謎や未知のものに興味を持っていた子ども時代、探検部に所属していた大学時代のこと、異文化を知ることのおもしろさ、5000年前から変わらない湿地帯の生活を見て思うことなど、興味深いお話を伺いました。
【出演者】
高野:高野秀行さん(ゲスト)
村山:村山由佳さん(ご案内)
高野秀行さん
【高野秀行さんのプロフィール】
1966年、東京都生まれ。早稲田大学在学中から文筆活動を始め、「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをして、誰も書かない本を書く」をモットーに、世界の辺境地を訪れてその体験記を書く、ノンフィクション作家として活動。これまでに、「語学の天才まで1億光年」、「幻のアフリカ納豆を追え!」、最新作「イラク水滸伝」のほか、東京を舞台にしたエッセイや小説も発表している。
アフリカの謎の巨大生物を探しに行った大学時代
村山由佳さん
村山:
まずは、高野さんが世界の辺境地を訪れるようになったきっかけを伺いました。
高野:
子どものころから謎とか未知っていうのがすごい好きで、世界の秘境に行ってそういうものを探したいと思って、大学の時に探検部というサークルに入ったのがきっかけです。探検部にいた時は、アフリカのコンゴのジャングルにいると言われる「モケーレ・ムベンベ」なる謎の巨大生物、ネス湖のネッシーみたいなもんですけども、を探しに行きましたね。同じ探検部のメンバー10人ぐらいと一緒に、コンゴ政府と交渉して許可を取って、ジャングルの奥地に湖があるんですけれども、そこの湖まで行って1か月ずっと滞在してサバイバル生活みたいなのをしながら、その謎の生物がいないかっていうのを探してました。なかなか難しくてまだ見つかっていないですね。3回行きましたけどね。それで、その体験記を本に書くことになったんですね。出版社に頼まれて。それまで僕は文章を書いたことはなかったんですけれども、頼まれて書いてみたら意外と評判がよくて、自分でもすごくおもしろいなと思ったので、こういう人生いいなと思って、人の行かないような所に行ってその体験を本に書くっていうことをずっとやってきました。
村山:
まず、探検部ってほんとに行くんですね! 私の大学のころの探検部と言ったら、女の子しか探検してないだろうみたいなところだったので、こうしてほんとにコンゴ政府と交渉して1か月滞在して、それも3回行かれたというのはすごいなと思いました。なんかネッシーにしても、モケーレ・ムベンベにしても、見つからないかぎり存在する事の証明はできないけど、でもだからと言って、いないっていう事の証明にもならないわけですからね。いない事は証明できないですからね、なかなかね。それでも好奇心をずっと保ち続けるっていうのは、すごいなと思います。
辺境地を旅するおもしろさとは
村山:
高野さんがこれまでに訪れた国は、なんと61か国。日本にいる時は常に「何かおもしろそうな事はないか」とアンテナを張って、本や新聞、雑誌、インターネットなどを見ながら、次に訪れる場所を決めているそうです。そうして旅する辺境地のおもしろさとは、どんなところなのでしょうか。
高野:
圧倒的におもしろいですね。やっぱり異文化のおもしろさ、自分の常識っていうものが簡単にひっくり返されるんですよね。すると世界が広がりますよね。で、自分の世界が広がって、その全く違う環境で自分が対応しなければいけないですよね。例えば、言語にしてもそうだし、食べたことのないものを食べなきゃいけなかったりとか、すごい悪い過酷な環境で寝たり暮らしたりとかっていうこともしなきゃいけないですよね。すると自分の能力が拡張されたような感じになって、それがすごくおもしろいと思いました。
村山:
普通に海外旅行してるだけでも、異文化の中で、自分が今まで信じてきた当たり前は全然当たり前じゃなかったんだっていう事を学んだりして、そういう意味では世界が広がるわけですけれど、高野さんのこの辺境地でのハードさといったら、やっぱり普通の海外旅行とは比べものにならないくらいのハードなわけで、日本にいて普通の生活の中でもそりゃあ能力試されて、だんだんだんだん成長していくって事はあるかもしれませんけど、こうして半ば強制的に自分の能力が拡張されたような感じになるっていうのは、日常にはなかなかない事ですね。
メソポタミア文明が誕生した地を訪れて
村山:
高野さんが近年訪れたなかで、特に思い出深かった辺境地を伺ったところ、中東イラクの巨大な湿地帯だそうです。東京都をはるかに上回る広さのその湿地帯は、メソポタミア文明が生まれた地域として知られる、チグリス川とユーフラテス川の合流付近にあるそうです。高野さんは新聞の記事をきっかけにして、その湿地帯に興味を持ち、足かけ6年にわたってそこを取材して、今年の7月、ようやく体験をまとめた本を出版しました。高野さんが取材の中で特に印象深かったのが、その湿地帯で、船で移動しながら暮らしている水の民だそうです。高野さんが驚いた彼らの生活とは、どんなものだったのでしょうか。
高野:
湿地帯なんで固い地面がそんなに無くて、アシがたくさん生えてるんですよね。アシってすごい竹みたいなんですよ。それをへし折って重ねていって、そこで何て言うのか、浮島を作るんですよね。その上にさらにアシの家を作って住んでいて、水が増えたり減ったりして住みにくくなると別のところに移動する。で、水牛がたくさんいて、それを放牧して暮らしているっていうとっても珍しい形態で。しかもそれは5000年前から同じように暮らしてるらしいんですよ。5000年前のシュメールの遺跡から出てきた石板のレリーフがあって、そこにそっくりな家が、アシで作られた家の絵が描かれてるんですね。おそらく同じように暮らしてたんだろうという、すごく不思議な感じしますね。
本当に文明が誕生した場所なんですよね。都市になって、人が集まって、発展していくんですけれども、そこに居たくない人だとか、そういう文明とか国家に属したくない人、それから戦争に負けた人、それから迫害された宗教的政治的なマイノリティの人たちが湿地帯の中に逃げ込んでくるんですね。で、文明とか国家の側とは別に、ずっと同じ生活をしている。で、時々交易、物を売り買いしたりとか、あと鉄の製品とかそういうものを手に入れたりとかしますけども、付かず離れず暮らしていて。かたや、ものすごい文明は発達して今の僕らの生活に至ってるわけですけれども、すぐそばにいた人たちは案外5000年前と変わらないような生活を維持しているっていう、これが本当の持続可能な生活なんだなっていう風に思うわけですね。
番組からのメッセージ
- ♪ 言語を学ぶコツは、マスターしようと思わずに必要最小限のことだけ覚えるようにすること、そうすれば、どこに行ってもコミュニケーションできるという高野さん。異文化の人たちと仲良くなるには、マニュアルに頼ることなく、たとえば食べたことがないものでも食べてみて、片言でも「あ~、おいしい」と言えば、みんな受け入れてくれるし仲良くしてくれるとおっしゃっていました。
- ♪ この番組は、らじる★らじるの聴き逃しでお楽しみいただけます!
放送後1週間お聴きいただけますので、ぜひご利用ください。
放送を聴く
23/10/02まで
- ♪ 番組では皆さんのおたよりをお待ちしています。
10月のテ-マは「習いごと」です。収穫の秋になりました。自分や家族の「習いごと」の経験談や、こんな習いごとをしてみたい!というエピソ-ドをリクエスト曲とともにお寄せください。
【放送】
2023/09/24 「眠れない貴女へ」