涙が出るほど美しいオペラのアリアに感動して指揮者の道へ

23/09/18まで

眠れない貴女へ

放送日:2023/09/10

#インタビュー#音楽

アメリカと日本をベースに活躍している指揮者の原田慶太楼さんに、ミュージカルのピットミュージシャンになりたくてアメリカの高校に進学したこと、そこで音楽の本質に触れて指揮者に興味を持ったこと、その後尊敬する大指揮者に手紙を書いてアシスタントに呼んでもらったこと、さらには音楽祭で突然代役として難しいオペラを指揮することになって何が起きたかなど、興味深いお話を伺いました。

【出演者】
原田:原田慶太楼さん(ゲスト)
村山:村山由佳さん(ご案内)

原田慶太楼さん

【原田慶太楼さんのプロフィール】
1985年、東京都生まれ。アメリカの芸術高校でサックスを学び、その後、アメリカやロシアで指揮を学ぶ。21歳の時、モスクワ交響楽団を指揮してデビュー。以来、欧米アジア各地でオーケストラやオペラを指揮。現在は、東京交響楽団の正指揮者、アメリカのサバンナ・フィルハーモニックの音楽監督、芸術監督を務めている。

指揮者って魔法使い?

村山由佳さん

村山:
原田さんの高校時代のお話を伺いました。サックスを学ぶためにアメリカへ渡った原田さんですが、そこから指揮に興味を持つようになったのは、なぜだったのでしょうか。

原田:
ミュージカルの世界が大好きで、ミュージカルのピットミュージシャンになりたかったんですね。小さいころ、ブロードウェイに初めて行った時にピットオーケストラを見て、すごく少人数でこんなすばらしい音楽をやってるんだっていうのを目撃して、自分もこういう世界がいいなと思って。それで、ブロードウェイと言ったらアメリカじゃないですか。だからアメリカに行ったほうがチャンスがあるんじゃないのかな、と思って高校の時から行ったんですね。

そしたら、たまたま私の芸術高校の指揮者が、フレデリック・フェネルっていう指揮者で。彼は東京佼成ウインドオーケストラの名誉指揮者でもあり、それまでの人生で私、プロの指揮者のもとで音楽って作ったことがなかったんですね。学校の音楽の先生みたいなのが振ってて、音楽を作るというよりは、とりあえずみんなが一緒にいられる、1、2、3、4みたいな感じで誘導してくれる感じの音楽作りだったんですけど、初めてプロのフェネル先生のもとで音楽を作った時に、音楽は1、2、3、4じゃなくて音楽は生きている、メロディーには会話があってハーモニーには意味があって、音楽のスタート地点、ココからココに行くにはこういう理由があって、こういう道をたどっていくんだっていうのを、もちろんソロの演奏家として自分ではやっていたんだけれども、これを60人、70人、80人でやるっていう。1人の意見でみんながこうやって動くんだっていうのは初体験だったので、「こんな世界があるんだ! この指揮者という人間はすごい魔法使いだな!」って思ったんですね。それがきっかけで指揮にちょっと興味を持ち、フェネル先生のところに行って、ちょっと指揮者やってみたいんだけど、指揮者に興味があるんだけどって言って、「レッスンって取れますか?」って言って。そこからがスタートです。

村山:
この1、2、3、4っていうところから、そうじゃない、生きてる音楽へたどり着く感じって、目を開かれるというか、いま目が覚めたみたいな、そんなショックだったんじゃないかなって想像します。なんか世界にみるみる色が付いていくようなね。あるいは、何だろう、平たい地図にデコボコが出来て、山脈や何かが目に見えるようになっていくっていう、それぐらいのすごい世界が全然違って見えた瞬間だったんじゃないかな。そうして、そういうことのできる指揮者ってスゲエッ!! って思ったのがきっかけだったっていうことなんですね。

世界的指揮者に手紙でアピール!

村山:
指揮の勉強を始めた原田さんは、高校3年生の時、ランニングしながら聴いていたラジオ番組で、パヴァロッティとフレーニが歌うプッチーニの歌劇「ボエーム」に出会い、その音楽の美しさに一気に引き込まれたそうです。そこからオペラに夢中になり、オペラ指揮者を目指すようになりました。20代のころには、なんとかしてオペラを指揮したいという思いから、こんな大胆な行動にも出たそうです。

原田:
私が当時尊敬していた指揮者っていうのが、ニューヨーク・フィルの音楽監督だったロリン・マゼールだったのね。で、彼に手紙を書いて、どうしても彼のアシスタントをやりたいっていう気持ちを伝えて、自分の指揮のビデオとかサンプルを送って、そしたら返事が来て誘ってくれて。
彼がちょうどオペラフェスティバルをね、次の年の夏にやるっていうのはもちろん知ってたんですけど、そういうことが起きるって。でも、絶対オペラフェスティバルだとアシスタントが必要だろうなと思って、それでアプローチしたら、とてもラッキーで運よく興味持ってもらって。

で、彼のもとで勉強して。たぶんその時まで、それだけのスーパーハイレベルな指揮者のもとで過ごすことってなかったのね、私のキャリアの中で。で、ロリン・マゼールの家に私、住んでたんですよ、夏。それで一緒に住んでて、一緒にお仕事をしていくうちに、もうスーパートップレベルの指揮者っていうのはこういう生活をしながら、こういう音楽作りをしながら、こういう風に生きて、こういうものを食べて、こういう空気を吸ってるんだなっていうのをじかに感じた時に、もう本当に私、自分の人生のレベルアップをしないとダメなんだなっていうのは、すごく感じましたね。

村山:
すごい行動力ですね! でも、いま最後におっしゃってた“スーパートップレベルの指揮者”の生活っていうのは、要するに“スーパートップレベル”の生活なわけですよね、きっとね、世界でも。でも、そういう人が、本当にどうやってそこまで登り詰めたのかとか、ふだんどういう風に音楽と触れ合って、どういう瞬間にスコアを広げたり、音楽を聴いたり、音楽のことを考えたり、あるいは何もしてなかったりとかっていうのって、じかに見ないとわからないですもんね。そうして初めて自分自身の人生を、もっとこう、高い所へ引き上げなきゃって思われたということなんですね。

ピンチを乗り越えてわかったこと

村山:
ロリン・マゼールのもとでアシスタントをしたことをきっかけに、次の年には、世界的指揮者のジェームズ・レヴァインの招待を受けて、アメリカのタングルウッド音楽祭に参加した原田さん。原田さんは、初めて見たオペラの指揮者がレヴァインだったことから、彼と仕事ができることに大変感動したそうです。しかし、こんなアクシデントが起こります。

原田:
タングルウッドに行った時に、ちょうどその夏はオペラの練習をしてて、マエストロ、ジェームズ・レヴァインが病気になってしまったの。で、代役になったわけですよね。マエストロが振れないから、僕がオペラを振るって。その時までそんなにオペラを振ってなかったので、もちろんアシスタントとかはやってたけど、本番とか振ってなくて。たぶんオペラの中でも一番指揮者がめちゃくちゃ難しいオペラっていうのが、リヒャルト・シュトラウス作曲の『ナクソス島のアリアドネ』。それが演目だったから、それを本番、私が振らなきゃいけなくなって。まずね、まばたきしなかったね、3時間ぐらい。まばたきしなくて、すごい目が疲れたのを覚えてるのと、最強の人生のダイエットなんだなっていうのも覚えてるのと、すごい痩せたのも覚えてるし。

でも、人間やればできるんじゃん! とか思いながら、やっぱりそこがターニングポイントで。やっぱりオペラっていう世界ってすばらしいなっていうのは、すごくそのとき感じて。「絶対、これでいく」っていう風に私は思いましたね。だけど、「はい、あなたです! やりなさい!」っていう風に、崖から落とされるような感じのシチュエーションになった時に、私がすごく思ったのは、それまでにちゃんとした準備をしてきてよかったなと思ったの。どんなチャンスが来た時にでも対応できるような準備はもちろんしてた。で、そのチャンスっていつ本当に来るかわからない。みんなやっぱり、世の中ってフェアだと思ってて、どんな人でもチャンスはいずれ来ると思う、タイミングがみんな違うだけであって。で、その本当に私のキーポイントになったチャンスが、自分自身準備ができている場所であったから、精神的にも、あと音楽の感性も。だからそれがちゃんと成功して、すごい思い出の本番でもあるし、いい結果も出たし、だからそれでやっぱり、これちゃんと頑張って続けていかなきゃな、とは思いましたね。

番組からのメッセージ

  •  ♪ 日本の若い音楽家に向けてセルフブランディング、つまり「自分は何が好きなのか」を考えて自分自身の強みを見つけ、人生の計画を立て、その道のエキスパートになっていくことの大切さを伝えていきたい、という原田さん。アメリカではオーケストラを運営していくために、多いときは1日6回会食して、いろんな方にスポンサー協力を依頼することもあるそうですが、日本ではクラシックコンサートにひとりでも多く、気軽に来てもらえるように、さまざまなシーンで活動をしていきたいとおっしゃっていました。
  •  ♪ この番組は、らじる★らじるの聴き逃しでお楽しみいただけます!
    放送後1週間お聴きいただけますので、ぜひご利用ください。

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23/09/18まで

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  •  ♪ 番組では皆さんのおたよりをお待ちしています。
    9月のテーマは「ちょっとしたぜいたく」です。頑張っている自分へのごほうびにこんなちょっとしたぜいたくをしてみました、またはしてみたい! というエピソ-ドをリクエスト曲とともにお寄せください。

眠れない貴女へ

NHK-FM 毎週日曜 午後11時30分

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【放送】
2023/09/10 「眠れない貴女へ」

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