みんな大好き! 『マツケンサンバⅡ』誕生の舞台裏

23/09/11まで

眠れない貴女へ

放送日:2023/09/03

#インタビュー#音楽

松平健さんの歌と踊りで大人気の『マツケンサンバⅡ』を作曲した宮川彬良さんに、依頼を受けたときの様子、歌詞をもらって自然にメロディーが思い浮かんだこと、特に条件が無い中で、舞台演出家からの注文はイントロの長さと最後に見得を切る2拍を入れることだけだったなど、興味深いお話を伺いました。

【出演者】
宮川:宮川彬良さん(ゲスト)
和田:和田明日香さん(ご案内)

宮川彬良さん

【宮川彬良さんのプロフィール】
1961年、東京生まれ。作曲家、舞台音楽家。劇団四季、東京ディズニーランドなど、ショーの音楽で作曲家デビュー。舞台音楽家として「身毒丸」「ミラクル」「ハムレット」など、数多くのミュージカル・舞台音楽を手がける。NHKでは、連続テレビ小説「ひよっこ」や木曜時代劇「ちかえもん」など多数の番組で音楽を担当したほか、「クインテット」「どれみふぁワンダーランド」「宮川彬良のショータイム」では自身も出演するなど幅広く活躍している。

まるで“ついでに”作曲を頼まれた『マツケンサンバⅡ』

和田明日香さん

和田:
今回は、近年SNSなどでも注目を集め人気が再燃している宮川さん作曲の『マツケンサンバⅡ』についてお話を伺います。皆さんの頭の中にもメロディーが流れてるんじゃないかなと思いますが、この曲はもともと松平健さんの舞台用の音楽として1994年に制作されました。まずは作曲を依頼された経緯、当時のお話から伺いました。

宮川:
作曲の経緯はもちろん人から頼まれたからなんですけど、松平健さんのショーの音楽を頼まれたんですよ。でそのときはね、日舞のショーなんですよ。でも使う音楽は洋楽だけど、こう日本舞踊的な動きに合うような曲を作ってくれっていう、そういう依頼で。まあこれは勉強にもなるし、たぶん得意だろうと思ったんでお引き受けして。

それでその打ち合わせをしに行ったんですよね。1曲目はこういうふうに出てきます、松平は宙乗りでこういうふうに出てきますと。2曲目はこれこれこういう、女性と一緒に2人で踊りますと。その後、群舞があって、その後ちょっと歌うコーナーがあってとか、そういう構成の順番に打ち合わせをしていって。
ひととおり終わったところで、「じゃあそれでトータルで1時間ですね」って言ったら、ひょっとみたら一番最後に、なんか申し訳なさそうな感じで『マツケンサンバ part2』って書いてあって。その紙、今でもありますけど(笑)。

「これは何ですか?」って言ったら、「あ、それでもし、宮川さんがこういうのもお嫌じゃなかったら、ちょっと付き合ってこれも作ってもらえませんかね」って言われたのね。そこで「どういうことなんですか?」って聞いたら、松平はとにかくファンサービスの精神がものすごく強くて、日舞のショーであろうが、その最後はサンバをみんなで踊るっていう、そういうちょっと特殊なことを考えていて。その曲、『マツケンサンバ』っていうのはもうあるんだけど、何となくまあ、いわゆるリニューアルしたい頃合いだっていうことだったんだと思うんですけどね。

要するに、松平健さんが歌う新曲も作ってくれってことじゃないですか、それって。だから「えー! そんなの僕が作っていいんですか?」っていうもんですよね。そのとき僕はショーの音楽を作る専門家だから、別にヒットメーカーでもなんでもないし。でもまあ、何となくどこかで、「これはすごくいい経験になるな」ってことと、なんか「みんながニコニコするような曲が作れるかどうかっていう腕試しになるな」と思って、引き受けたっていうことですね。

和田:
なかなか挑戦の感じで引き受けられたとのことでしたが、もうまさにどうしたってみんなニコニコしちゃうような曲になりましたよね。

自然に湧き上がってきたメロディー

和田:
当初は松平健さんのショーの音楽を作ってほしいという依頼でしたが、フィナーレに松平さんが歌って踊る『マツケンサンバⅡ』という曲も作ることになった宮川さん。どのように曲が出来上がったのでしょうか。

宮川:
「あ、これじゃあ、僕が思ったとおり作っていいんですか?」って言ったら、「そうだ」っていうことで。その、いまある『マツケンサンバ』とかも僕は聞かずに。ということは、自由にってことだよね、で、歌詞が来たら、まあそれが注文票になるわけだよね。僕がそれに合わせてメロディーを、浮かんだことをつらつらと書けばいいわけだから。

たいていは読んだらなんか浮かんでくるわけ。「あ、こうだな」って、歌としてはこんな感じだなっていうのが、パッとひらめくわけだよね。で、それをこうバッと、その歌詞の書いてある紙に五線を書きなぐって、そこにメモするわけですよ。ところが、いま見てもらった歌詞の紙にメモが1個もないのね、『マツケンサンバⅡ』に関しては。

それはどういうことかっていうと、なんとなくね、思い浮かんだらそのまま最後までずーっと歌えたんですよ、心の中で。♪叩けボ~ンゴ~、響けサ~ンバ~って。その後も、♪タララ~、熱い風に~ってここはそうだよな、で、♪オ~レ~、オ~レ~も全部歌えて。いいじゃんってなって。でも、大概そういう時って、もう頭に何を歌ったか忘れてるのね。だってそれ一巡りするだけで1分ぐらいかかってるわけだから。

ところが思い出せるんですよ。♪叩けボ~ンゴ~ だったよな。で、たいていそういう時は、次どうしたかが思い出せない。でも、全部思い出せるの。♪熱い風に~ あぁ、だったよな、♪オ~レ~、オ~レ~、そうだよねって。何回でも歌えたんですよ。面白いことってあるもんだなと思って。あとはもう落ち着いて譜面を書いてね。

で、できたところで、「なんかすごくいい曲できたから、これは早くプロデューサーに聞かせたいなー」と思って、自分で吹き込んで、「こういうの出来ました」って言ったら、そのプロデューサーからじゃなくて、舞台監督から返事が来たの。「これでええけど」、あ、その人、大阪の人だったんで。「これでええけど、ちょっとこの、♪マツケンサンバ! の前に見得を切る瞬間が欲しい」と言われて。「♪オ~レ~、オ~レ~ の後やな」と電話かかってきたのね。で、「ここで、♪ジャンジャン、マツケンサンバーっていうふうに、こうなんか2拍入れてくれへんか」と言われて。「え、じゃあメロディー変えるんですか?」って言ったら「いや変えんでそういうふうにならんか」って言うから、「ああ、なりますね」って言って。まあ、♪ジャンジャン、はちょっとあれだから、♪ジャカジャカジャンにして。そうやって作られたものなんですよ。

それではお聞きください。松平健で『マツケンサンバⅡ』。

♪ マツケンサンバⅡ / 松平健


和田:
もうぶっちぎりで楽しいですね。本当に曲を聴きながら、ひとりでずっと笑ってました。そっか、嫌なことあったら『マツケンサンバⅡ』聞けばよかったんだって。とてもすがすがしい気持ちです、いま(笑)。本当に楽しかったです。

もともと宮川さんの中にあったメロディーだったかのようにね、自然に生まれた曲というのもちょっと驚きでしたが。今回おかけしたフルバージョン、イントロがなんと1分6秒もあるんですね。これは普通の曲よりもだいぶ長いですが、どうしてそうなっているかというと、舞台のフィナーレでサンバの衣装で出てこなければいけないため、その着替えの時間が必要ということで、長いイントロにしてほしいという注文があったそうです。このイントロでもうね、心わしづかみ。楽しいですよね。まさに舞台ならではの作りの曲ということでした。

松平健さんが最後に決めた「オレ!」

和田:
そして曲が出来上がり、いざレコーディングとなったとき、松平健さんご本人から新たなアイデアが加わり『マツケンサンバⅡ』が完成しました。

宮川:
レコーディングの段階で松平健さんがあまりにもうまくお歌いになって。もう完璧に体入っちゃってます、みたいに。気に入りましたこの曲! っていうか、完璧にお歌いになって、もう「テイクワンOK!」みたいな状態で。で、それでそこであの、最後に「オレ!」って入れていいですかって言うから、どうぞお好きにって言ったら、♪ジャン、「オレ!」って。♪ジャンが終わってから「オレ!」って言ったんで、その手があるかと思ったんですけど。

歌詞に「オレオレ」って出てくるじゃないですか。あれはちょうどね、Jリーグが開幕したんですよ。Jリーグといえば「オ~レ~オレオレオレ~」じゃない? それで「オレオレ」って書いてあったのよ。それはもう、そのタイミングで見れば、「あ、これJリーグにあやかってるな」っていうのは、僕はすぐさま分かったのね。だけど松平さんはもうひとつ、その「オレ」は「オレといったらフラメンコでしょう」みたいに理解されたんだと思うんですよね。なんで「オレ!」を入れるのかなって一瞬思ったんだけど、とにかく最後に「オレ!」って、絶対これ言いたいということで。

でもね、音楽家が「オレ!」って入れるとすると、♪ジャンって最後の音の前に入れたくなるのね。これは感覚的に理解されるかわかんないけど、♪タータカタカタタッタータータッターでしょ。で、♪タータタータ、タンタンタン、オレ! ダン! っていうふうに、最後はダン! て自分の書いた音で終わりたいっていうのが、やっぱり作家の、なんかこだわりみたいのがあるのかな。その「オレ!」っていうのはなんかの音を呼ぶような音だっていうふうに解釈しているのね、僕はね。だから、「オレ!ジャン!」って終わると思って、「じゃあこういうことですか?」って言う間もなく、「じゃあやってみます」って松平さんが。そしたらその終わった後に、♪ジャージャジャージャ、ダンダンダンダダンダダンダン!オレ!

「あーこれか!」と。でもその方がずっとなんかフラメンコっぽいというか、男っぽいというか、何て言うのかな、腹が決まった感じじゃないですか。「オレ!」っていうのを残像として残すっていうのはすごいアイデアだなって。一瞬で心を奪われて、その前に違うプランを瞬時に立てていた自分が恥ずかしくなりましたね、すげえなと。やっぱり経験者違うなみたいな、エンターテイナーとしてさ、思いつきが違うわーと思ってすごくありがたかったですね。

番組からのメッセージ

  •  ♪ 舞台で披露されてから10年の時を経て『マツケンサンバⅡ』はCD化され、国民的大ヒット曲となるわけですが、狙ったわけではなく、ベートーベンなどのクラシックにも通じる定石の通りに作った、しかも舞台音楽からヒットが生まれたことが誇らしい、という宮川さん。名刺代わりの1曲が持てたのはうれしいけれども、これからも、演奏する方も聴く方もみんなで楽しめる曲を作っていきたいとおっしゃっていました。
  •  ♪ この番組は、らじる★らじるの聴き逃しでお楽しみいただけます!
    放送後1週間お聴きいただけますので、ぜひご利用ください。

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23/09/11まで

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  •  ♪ 番組では皆さんのおたよりをお待ちしています。
    9月のテーマは「ちょっとしたぜいたく」です。頑張っている自分へのごほうびにこんなちょっとしたぜいたくをしてみました、またはしてみたい! というエピソ-ドをリクエスト曲とともにお寄せください。

眠れない貴女へ

NHK-FM 毎週日曜 午後11時30分

おたよりはこちらから


【放送】
2023/09/03 「眠れない貴女へ」

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