天津~東京~台北 ボーダレスに活動するバイリンガル落語家

23/08/28まで

眠れない貴女へ

放送日:2023/08/20

#インタビュー#落語#ワールド

中国・天津出身、台湾在住のはなし家・戴開成(だい・かいせい)さんに、小学校時代を過ごした日本に22歳の時に再び来ることになったきっかけと落語との出会い、そして中国の似たような伝統話芸を体験しているからこそ見える落語の魅力や習得方法など、興味深いお話を伺いました。

【出演者】
戴:戴開成さん(ゲスト)
村山:村山由佳さん(ご案内)

戴開成さん

【戴開成さんのプロフィール】
1977年、中国・天津生まれ。7歳の時に家族で来日。1987年、小学4年生で、祖父や親戚の住む台湾に一家で移住。高校卒業後2年間の兵役を経て、22歳の時、単身で東京に渡り日本語と建築デザインを学ぶ。専門学校卒業後は台湾に戻り、現在は台北を拠点に、日本語と中国語のバイリンガル落語家・開楽亭凡笑(かいらくてい・ぼんしょう)として台湾と日本を中心に公演を行うほか、通訳・翻訳・文化案内人として、日本と台湾を行き来しながら、さまざまな文化活動に従事している。

幼少期を過ごした日本に再び来た理由とは?

村山由佳さん

村山:
今回来日中の戴さんに、小学校の4年間を過ごした日本に22歳の時に単身で再来日された理由を伺いました。

戴:
親父が結構、進学志向というか、私の上の2代とも非常にインテリっていうか良い学校行ったりとかっていう。だから親父にとっては、「なんでうちにこんな子が生まれてくるんだ」みたいな。たぶん悩んだんでしょうね、相当。で、父は「今ならまだ遅くない、大学を受けなさい!」とか言うんですよ。無理ですよ。2年間兵隊に行ってですよ、そんな頭が良くなるわけがない。父は「自分の人生、なんだと心得る!」とか言うんですよ。「知らねえよ、そんなの。兵隊からもう2年間、ああいう窮屈な生活がやっと終わったんだから、食っちゃ寝食っちゃ寝させてくれよ。」って言ったら、

父「ダメだ! 塾に行け!」

戴「なんで塾に行くんですか?」

父「大学を受け直せ!」

戴「無理、無理ですよ…。」

もう申し込んであるからって、襟をつかまれて行ったんですけど、3日で逃げましてですね。

父「そこに直れ! 全く」

戴「またなんすか? なんすか?」

父「自分の人生、」

(戴「自分の人生わからないって…。まだまだ若いから。」)

父「若いときに努力しなければ、のちのち後悔するぞ!」

…みたいな。
これじゃらちが明かない。もうでも塾には行きたくない。
父が「何かしたいことはないか?」と言うので、ひらめいたんですね。
とにかくお前から逃げたい、とは言えない。

戴「実はずっとあの、悩み考えたこともありまして、それを申し上げてよろしいかどうか…。」

父「言ってみろ!」

戴「私、留学に…」と機嫌を伺いながら、「留学に行きたいと思ったりしてまして…。」

父「留学か! いずこへ参る?」

戴「もうその言い方やめてください。留学はですね、つまり、えーっと、やっぱり日本じゃないですかねぇ。」

父「ほう、日本。なぜ、日本だ?」

知らねえよ、ただオメエから逃げさえすればいいんだよって言っちゃぁ、怒られるからね。
もうどうにもならないから、

戴「はい、あの思い直せば、我々三代、日本とご縁が深く、祖父母は京都で、京大、同志社みたいなところに行きましたし、親父は早稲田で研究やってましたし、私はその金魚のフンみたいにガキの頃ついていきまして、日本語も今でも、ままならない。えー、これで日本とまた離れて、このご縁を台無しにするのは心が痛い。ですから、また日本にもう一度伺いまして、そこで日本語をものにしまして、専門のひとつでも見つけまして、それから世界に羽ばたいても遅くなかろうと存じまして…。いかがでしょう?」

父「よろしい! 行って参れ!」

戴「サヨウナラ~! サァーーーーー、ワァーーーイ!」

で、東京。「わぁ、この香りだ!(笑)」そういう感じでした。

村山:
落語風におもしろおかしく話してくれましたが、学者である厳格なお父様から逃れるようにして再び来日された戴さんは、最初の1年間は日本語を、あとの2年間は専門学校で、お父様の専門でもある建築を学んで、再び台湾に戻ります。

中国の話芸「相声」と日本の「落語」がつながった瞬間

村山:
建築の道には進まず、はなし家として活動を始めるきっかけはどんなことだったのでしょうか?
落語との出会いについて伺いました。

戴:
天津に生まれました。天津っていうのは江戸とか大阪みたいな大きな港町、東西南北からいろんな人が集まってくる。だから、大衆娯楽が非常に栄える。そんなところで、中国には相声(シャンション)っていうものがありまして、手相の相、で、声(と書く)。立ち落語とかみな言っているけれど、アイゴエっていうのが一番良いんじゃないかな。つまり、日本の場合は落語だったら1人で座ってやる。向こうはその同じ系列で、立ってやるんですけども、寄席というか、ちょっとした飯屋とか酒場に出てきてやるっていうのが、日常の中の風景にありましたから、非常になじみがある。

で、東京にガキの頃来ます。お世話になった先生がいます。小学校1、2年生の担任。彼女が非常にかわいがってくれました。留学生だしね。で、落語会をやるっていうんで、連れて行ってくれたんですね。まだ小1とか小2とかだから、日本語、まして落語っていうのは、聴いても理解しようがなかったんです。わかんねぇなと思ってたんだけど、何かのしぐさがたぶん面白かったんでしょ。で、フフフと笑ってしまった。先生が「おや? わかるの?」って、でも「わからーん」っていう1シーン。

で、その後に台北に行ったときには、天津の親戚からカセットが送られてきて、その相声のいろんなストーリーを聞きながら、みんな飯を食ってた。

で、また東京に戻って来て、同じ先生にお世話になりまして、落語の師匠を呼びまして、そこで一席やってくれた。で、日本語もできるようになったから、楽しんで笑っていたら、先生がうれしそうな顔で、「あぁ開成くんも日本語うまくなったね」という。

で、また台北に戻ります。で、インターネットを見てたら、十代目金原亭馬生師匠の「親子酒」が出てくる。「え~我々の方では、良く酒の噂をいたします」とかって言うんですよね。「あ! こ、こ、これだ! これだ!」って、さっき言った天津からの記憶が、タタタタタ、ターーーーーーーーーーン!っていう。もう楽しくて、ウワーって聞いたら、友達が来るんですよ。

戴「座れよ!」

友「どうしたどうした?」

戴「見せたいものがある。」

友「何? 伝統芸?」

戴「伝統芸じゃねぇ、とにかく見るんだ。」

友「日本語わからねぇ。」

戴「同時通訳で言ってやるからさ。」

と、見てるからそばでウィスパーリングで「****」と。
すると、その人が「ホ! エ? フン、ホォ!」と笑ってくれたんですよ。
で最後、落ちまでトンといって、

友「やぁ、オメエ、これ表に出てやれよ。」

戴「いやぁ、そんなの駄目だよ。おもしろすぎてさ、シェアしただけだよ。」

友「あ、じゃあ、うちで来週ちょっと集いがあるけど、そこでやってくんねぇか?」

戴「マジで? いやだめだよ。こんな半分足らずの…。えー、そぉ? じゃ、やりましょうか!」

…と言って、人前で1年か2年やっているうちに、

友「これやっぱ銭とれるね。ちゃんと取った方がいいよ。」

戴「いやダメだよ、そんな、君たちがこうして聞いてくれるのはありがたいよ。でも、外でまさかできるような、そんな器量はありませんよ…ま、そうすか、やりましょう!」って始めたんですよね。

村山:
乗せられると乗っちゃう人なんですね。いや、でも、そういう性格だから、どんどんどんどん世界が広がっていったんじゃないのかなと思います。

師匠は出会うみなさんです。

村山:
その後、戴さんは、本や動画、カセットやCDなどで、落語の古典や、相声との違いなども研究されますが、耳で覚えるのが得意で、学び始めの頃は、3回聴けば覚えてしまうくらい習得が早かったのだそうです。そうして習得した落語を、日本語・中国語のバイリンガルで、台湾でのみならず、日本にも招待されて披露するようになり、最近では韓国でも公演を行ったそうです。
戴さんは、特定の師匠に弟子入りして落語を学んだことはないそうなのですが、台湾に居ながらどのようにはなし家になっていったのでしょう?

戴:
「師匠は誰ですか?」ってやっぱり聞かれるんですよ。決まって、確信を持って、「出会うみなさんです」って言ってますね。ちょっと軽く聞こえますけど、その通りなんですよ。出会う人たちからしぐさを見たりとか、ものまねをしたりとか、この人おもしれーなぁ、この人魅力的だなぁとかっていうところから。

たぶん、感情センターが空白なんですよ。だから、例えば映画を見るじゃないですか。映画館で。そうすると、まぁだいたいこう、ウケるところとか、キャラクターの濃い人とかがいるじゃないですか。そうすると映画館から出たら、もうその人になるんですよ。クセとかそのままに。で、ひどい時は2週間続くっていう。なんかね、知らないうちに吸収しちゃうっていう、ガードの薄い人間で。なので、それは落語を習得する、あるいは人の個性とか特徴をいただくっていう意味では、向いているのかもしれない。

番組からのメッセージ

  •  ♪ 中国、台湾、日本とさまざまな文化を経験しながら育った戴開成さん。落語を軸に通訳や翻訳、文化案内人、ガイド、さらには建築を学んだ経験を生かしての町づくりなど、いろんな面でボーダーレスであることが重要だと感じながら、活動の幅を広げていらっしゃるそうです。
  •  ♪ この番組は、らじる★らじるの聴き逃しでお楽しみいただけます!
    放送後1週間お聴きいただけますので、ぜひご利用ください。

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23/08/28まで

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  •  ♪ 番組では皆さんのおたよりをお待ちしています。
    8~9月のテーマは「ちょっとしたぜいたく」です。頑張っている自分へのごほうびにこんなちょっとしたぜいたくをしてみました、またはしてみたい! というエピソ-ドをリクエスト曲とともにお寄せください。

眠れない貴女へ

NHK-FM 毎週日曜 午後11時30分

おたよりはこちらから


【放送】
2023/08/20 「眠れない貴女へ」

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